女体化して女子大に飛ばされたら初恋の人に会えたけど、面倒な運動にも巻き込まれた。   作:斎藤 新未

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研究室を捜索

 研究室の前ではさきほどと変わらず、アキ、園子、カレンが眠っていた。

「おい、起きろ!爆破させられるぞ!早くここを逃げ出さないと!」

 身体をゆすっても起きないので、容赦なくアキの顔をビンタした。

 少し眉をしかめたアキに、もう一度ビンタをくらわす。

「アキさん、起きてください!学校が爆発します!アキさん!」

 アキはゆっくりとまぶたを持ちあげ、目の奥で周囲を見回す。そして目を見開いた。

「どうして」

「椿さんです。椿さんが、国家機密を持ち出しました」

「椿が…」

 アキはこの状況を理解しようと、眠っている園子とカレンに目を落とし、必死に考えようとしているようだった。

 そして慌てて研究室の扉を見る。

「鍵が開いてないじゃないか!どうやってここから国家機密を持ち出したんだよ」

 講義室Aから、もう一度爆音が聞こえる。

 その音で、園子が目を覚ましたようだった。カレンも、ゆっくりと目を開けようとしている。

「…どうしたの」

 しかしアキは園子の言葉を無視して、俺の胸倉をつかんだ。

「おい、お前ウソを言ってるな。椿が私たちを裏切るはずないし、研究室も開いてない!お前、私たちを逃がした後に、ここから国家機密を持ち出すつもりだな」

 アキの怒りをあおらないよう、ゆっくりと口を開く。

「椿さんも最後まで戦っていました。椿さんも、平和を訴えるために、最後の最後まで政府にあらがいました。でも、椿さんも自分の命を守らなければいけなかったんです」

「仮にだ、仮に、もし椿だとしても、どこから国家機密を持ち出したというんだ」

「講義室Bです」

「は?」

「講義室のBの金庫の中に、国家機密が入っていたんです」

「……」

 アキは全く理解できていないようだった。

「椿さんから聞いた話です。日本には2台のパソコンがあり、その中に国家機密が入っていたんです。その1台が、講義室Bの金庫の中に」

「パソコン…?あんな小さな金庫の中に、国家機密が入るわけないだろう。資料は膨大な量に及ぶし、場合によっては武器のサンプルだって保管しているはずなんだ」

 

 パソコンを知らない人間に、データがどうのこうのと説明しても、さらに混乱するだけだろう。

 俺はしばらく考えこみ、そして言った。

「とにかく、国家機密は椿さんが持ちだし、この研究室に国家機密が眠っていないことは確かでした」

 アキは、大きく顔をゆがめ、なんとかその事実をつっぱねようとする。

「じゃあ、ここには何が入っているというんだ。こんなに頑丈に鍵を締めて」

「それは俺もわかりません。でも、聞こえますか、爆発の音。そしてこの煙の臭い」

 アキも、園子も、カレンも、皆講義室Aに目を向ける。

 遠くに見える講義室Aからは、もくもくと煙が立ち込め、天井を伝ってこちらにも煙が迫ってこようとしていた。

「あれは…」

 カレンの不安気な声に、俺が答える。

「国家機密が持ちだされたから、この大学内に残されたありとあらゆる証拠を、あいつらが消そうとしているんですよ。報道陣はもう、この大学内に生存者はいないと伝えています。学生たちが所持していた爆発物が誤爆して全員死亡したって。これはどういうことかわかりますか?」

 

 そしてまた、講義室Aから爆音が上がった。

 園子はまじまじとその様子を見つめ、カレンは短い悲鳴を上げ身体を丸めた。

 アキは、ただ茫然と俺の顔を見つめている。

「だから、早く脱出するんです、アキさん!」

 アキは何か言いたげに口を開いたが、俺がそれを遮断する。

「ある程度爆弾を投げ込み炎が消えたら、そのうち武装した奴らが突入してくるでしょう。どこに隠れていたって、もう逃げられません。1階では警察が待ち構えているかもしれないので、このエレベーターから逃げましょう。たしか、1階で止まっていたはずだ。ケーブルを伝って下りれば、1階におりられます。待ち構えているとしてもきっと階段の前で、エレベーターの前の警備はゆるいはず」

「ダメだ」

 なんとかアキに喋るすきを与えないようまくしたてたが、今度はアキに遮られた。

「どうして」

「絶対にここには国家機密が保管されている。見てみろ、Aにしか攻撃をしていないだろう。研究室に傷をつけないためだ。だから、ここにいれば爆破されることはない。園子、今のうちに鍵を」

 パソコンという物を知らないアキにとって、俺が言っていることは全く信用ならないことだった。絶対に、この中に国家機密が残されている。そう信じて疑わない。

 園子は少し迷っていたようだが、信頼するアキの言うことを聞かないわけにはいかない。

「わかった」

 そううなづくと、また頑丈な南京錠の突破にとりかかった。

 

 カレンは、不安そうに講義室Aを見ている。

 Aからはさきほどよりも激しく煙が立ち上り、火が燃え盛っているのが見えた。

 南京錠にピンを突っ込む園子の手は、小刻みに震えている。

「開きませんよね」

 俺の言葉に、園子がビクッと身体を震わせた。

「どいてください」

 園子が俺を振り返る。

 俺は、マツリから託されたダイナマイトを握りしめていた。

 もうこうなったら、この扉をこじ開けて、中を見てアキを納得させるしかない。

 そして俺も、この中に何があるのかは少し気になっていた。

 

「何をする気」

「扉をふっとばすんです」

 園子は、自分ではもう南京錠を開けることはできないとわかっていたのだろう。

 俺が手にしているダイナマイトを見ると、扉から離れた。

「園子」

 アキの声に、園子が言う。

「たぶん、ダイナマイトの方が確実」

 アキは園子の話なら聞くようだった。

 アキも園子にならい扉から離れる。

 カレンもそれを見て、俺の後ろに回り込んだ。

「いきますよ」

 俺たちは床にはいつくばるようにして、扉を見つめる。

 ポケットに入っていたライターで図太いろうそくのようなダイナマイトに火をつけ、扉の前に転がした。

「伏せて!」

 俺の声に、全員が顔を伏せる。

 すさまじい爆音とともに、爆風が俺たちを襲った。

 爆風は扉の破片を容赦なく俺たちに叩きつけ、そしてしばらくしておさまった。

 恐る恐る扉を見つめると、扉はほとんど吹き飛んだようだった。

 かろうじて残っているドア枠と、まだつながっている南京錠のチェーンがゆらゆらと揺れている。

 

 俺たちは急いでドアにかけよる。

 表面のドアは吹き飛んだようだが、その奥に、分厚い鉄板のようないかにも重たそうなドアがあることがわかった。

 俺は、ポケットから拳銃を取り出して、やっと繋がっている程度のチェーンめがけて発砲した。

 発砲の反動で狙いがずれ、弾は鉄扉にするどく食い込み、火薬のにおいがした。

 俺はまたすぐに狙いを定める。

 拳銃を握って肩に力をこめ、反動に備えた。

 今度はうまくいったようで、チェーンは、キンっと金属音をあげ周囲に飛び散る。

 安堵しながらも、なぜか指にしっくりと馴染む拳銃に戸惑っていた。

 もしかしたらトーコは拳銃をいじったことが何度もあるのではないだろうか。

 

 気づくと、アキたちが訝しげに俺を見ている。慌てて俺はポケットに拳銃をしまう。

「これはさっき椿にもらったんだ。ずっと持っていたわけじゃないから、勘違いしないで」

 俺の弁明に、皆はそれほど興味がないように目をそらした。

 

 ドア枠だけ残っている扉を、ゆっくりと開ける。

 そして、鉄の扉の全容を目の当たりにした。

「園子、これは開けられるか」

「……」

 園子は、言葉を飲み込む。

 ドアノブの上には、シルバーのボタンで、0~9までの数字が並んでいたのだ。

「これは…」

 何桁の、どの数字を入れればいいのかは全くわからない。

 しかし園子はその数字を覗きこみ、言った。

「使われている数字は、1と4と9」

「なぜわかる」

 アキの問いかけに、園子は数字を凝視し続けて言う。

「だいぶ使いこまれているからね。黒い文字が若干はがれている部分がある」

 園子は頭がキレる上、カンもかなりするどい。

 アキの隣でいつも神経を研ぎ澄ましているだけある。

 

「どうする、とりあえず押してみるか?」

「うん」

 園子は、その場にかがみこむ。

 よく見たところでわからないとは思うが、じっと数字を覗きこんだ。

「わかった」

「え、何がわかったんですか」

 思わず声を出していた。

「数字の黒い色がすれる角度で、指の動きがわかる」

 この人は、どこまで研ぎ澄まされた人なんだろう。

 昨日までは、アキの隣でじっとしているだけで何もできない金魚のフンのようなものだと思っていた。

 でも、実際は園子の知識をもってアキを動かしていたのではないかという気すらしてきた。

 

 園子は、ゆっくりと数字に手を伸ばす。

 押した数字は、1、9、4だった。

 しかし、ドアはうんともすんとも言わない。

 試しにドアノブを回してみるが、やはり開かなかった。

「そんな。これしかないはずなのに」

「順番を入れ替えてみろよ」

 園子はアキに言われた通り、今度は順番をかえ、4、1、9、と押してみる。

 しかしドアはビクともしなかった。

 そのとき、今度は講義室Bから爆音が聞こえた。

「今度はBか」

 研究室にまだ国家機密が保管されていると思っているアキは冷静だが、冷静に待っている場合ではない。

 そしてついに、Cにも爆弾が投げ込まれた。

 すぐそばで爆発音が上がり、強烈な爆風が俺たちの身体を吹き飛ばした。

 俺たちは壁にたたきつけられ、その場に崩れおちる。

 

「アキさん、もうダメです。もう逃げましょう」

「そうですアキさん、一緒に逃げましょう」

 俺とカレンがアキを説得するが、アキは聞かなかった。

「大丈夫だ。絶対に大丈夫だ。ここは安全だ」

「だから、安全じゃないんですって!」

 もう、いつここに爆弾が飛んでくるかもわからなかった。

 早いところ逃げないと死ぬ。

「カレン、俺たちだけでも逃げよう」

「でも」

「いいから」

 俺はアキと園子を置き、カレンの手を引っ張った。

「好きに逃げればいい」

 アキは、自分の考えを信じてやまなかった。

 

 俺たちは、研究室のすぐ前にあるエレベーターを見上げる。

 電気は付いていない。

「この扉をこじあけて、下に行くよ。できる?」

 カレンは、強くうなづく。

 しかしドアに手をかけたその時、エレベーターの電気がついた。

 エレベーターは1という数字をうつしだし、そして次は2を示す。

「ちょっと、これ」

 カレンの手を引き、一歩後ずさった。

 アキたちも俺たちの様子に気づいたようで、こちらを見ている。

「どうした」

「エレベーターで、誰かがここに来るようです」

「警察か…?」

「かもしれないですね」

 エレベーターの数字が3を示す。

「逃げよう」

「逃げるって、どこへ」

 周りを見渡すが、研究室の奥は行き止まり、Cは煙をあげ始め、Bから先はもう煙で何も見えなくなっていた。

 エレベーターの数字が4を示す。

 俺たちはもうなすすべなく、その場に立ちつくすしかなかった。

 チンっ。

 音と同時に、エレベーターの扉が開き、俺たちは身構える。

 銃を構えた機動隊がそこには乗り込んでいるのだろう。

 そう思った。


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