女体化して女子大に飛ばされたら初恋の人に会えたけど、面倒な運動にも巻き込まれた。 作:斎藤 新未
全身の痛みで、目が覚めた。
目を開けると、額を撃ち抜かれたアイリの青ざめた顔が飛び込んできて、思わず飛び起きた。
室内はまだ薄暗く、夜は明けていないようだ。
周りを見回すと、隣にはカレンとマツリが後ろ手に縛られ疲れ切った顔で座っていた。
その逆隣にはアイリの遺体が寝かされ、それにすがりつくようにロッカが横たわっている。
「アイリはもしかしたら渋谷より代官山が好きかもしれないな。すごくキレイな町なんだよ。明日、一緒にいこうか」
ロッカはアイリの顔を見つめながら、ほほ笑みさえ浮かべ、ブツブツとつぶやき続けている。
ここは、講義室Aだろうか。
室内前方の壁際に寝かせられており、アキ、園子たちは教壇の周りで何やらこれからの作戦をたてているようだった。
今までどこかに隠れていたのか、椿と、ぶるぶる震えながら俺を殴った千鶴もいた。
「よかった、無事で」
マツリが小声で話しかけてくる。
「だいぶ身体がガタガタだけど」
「トーコはかなり園子さんにやられてたから」
「やっぱり」
手足を見ると、数え切れないほどのアザがびっしりと刻まれている。
「ハルは」
俺の問いには、マツリも、カレンも黙り込んでしまう。
答えを聞きたくなくて、矢継ぎ早に次の質問をした。
「みんなは?無事な人は、他にもいるんでしょ?誰か脱出できた?」
しかし、この質問にもマツリとカレンはうつむいてしまう。
まさか、ここまで最悪な事態が起きてしまうとは、予想もしていなかった。
唐突に、ニトロが爆発した瞬間のあの光景を思い出す。
間違いなく講義室C内は目もあてられぬ状態になっているのは避けようのない事実だった。
アキが、俺が目を覚ましたことに気づき、こちらに近寄ってくる。
「おはよう」
俺は無言でアキを睨み返す。
こいつはよくもこんな涼しい顔をしていられたもんだ。
ロッカをリンチに合わせ、仲間同士を対立させ、そしてハルを撃った。
ハルが言った通り、戦争反対をうたいながら、本当は誰よりも戦争が好きなのかもしれない。
争いによって血が流れることが、こいつの大好物なのではないだろうか。
「もう一度聞く。橋野井が言っていた、国家の犬について教えてほしい。あいつらが奪い返したい国家機密は、やはりあの研究室にあるということで間違いないのか?」
そんなこと聞かれたって、俺は知らない。
「知らない」
ハッキリと言った。
「じゃあ、質問をかえる。何が目的で、ダリア連合軍に入った?」
この質問には、俺も答えられる気がした。
「戦争反対を訴えたくて」
俺の答えに、アキが苦笑する。
でも、俺は間違っていないと思う。
ハルは「トーコがこの大勢の仲間たちを集めた」と言っていた。
俺は、トーコは、戦争反対を訴えるためのデモをもっと大勢でできるよう、ハルやカレンなどのたくさんの仲間たちを集めたのだ。
ダリア連合軍をつぶすために加盟したというのなら、もっと早くから仲間たちを増やして、裏切るための計画をたてていることだろう。
「他に目的があるんだろう?」
アキのすごみが効いた質問にも、
「ありません」
としっかりと目を見て答えることができた。
「らちがあかん」
アキが首を横にふった瞬間、突然カレンがうしろ手にしばられたまま土下座した。
「アキさん、申し訳ありませんでした」
「どうしたんだよ、カレン」
「私は、トーコに言われるまま裏切りの手を貸してしまいました」
言葉を失った。
突然、何を言い出すのだ。
「でも、トーコは本当に他には仲間はいません。全部、自分でやろうとしたことなんです。私は、止めましたが、ほとんど脅されているようなもので。こうするしかありませんでした。申し訳ありません。お願いですから、もう一度ダリア連合軍に入れてください。お願いします!」
額を床にこすりつけるほどの勢いである。
マツリも、カレンの寝返りには困惑しているようだった。
しばらく無言でカレンを見つめていたアキだったが、
「ダリア連合軍に戻ってどうするんだ」
と言う。
カレンが
「もう一度、平和を訴えたいんです。アキさんと」
とアキを真っすぐ見つめる。
カレン、何を言っているんだ。
さっきまではずっとトーコを信じてきたじゃないか。
確かに、今のトーコはカレンの知っているトーコじゃないけど、それでも、そんな裏切り方あるか?
アキが黙り込んだその時、突然ロッカがけたたましい声で笑いだした。
俺たちも、園子や椿たちも一斉にロッカに注目する。
「アイリ、そんな歌うたの?よく知ってるよねそんな歌。それ、私が中学生の頃の歌だよ。アイリはまだ小学生だったのに、よくこんな歌うたえるね。上手いよ。アイリ、上手い~」
ロッカの目は、目の前のアイリの遺体ではなく、どこか遠くを見ているようだ。
「気味が悪いな」
アキはそう吐き捨てるように言うと、カレンの体を触る。
ポケットなどに武器が入っていないか、ボディチェックを行っているらしかった。
武器などがないことがわかると、アキはカレンを縛っていた紐をほどき、カレンを自由にした。
解放されたカレンは、もう俺たちのことを見ることはなく、教壇の方へと戻っていくアキのうしろについて、真っすぐ歩いて行った。
思わずマツリと顔を見合わせたが、何と言ったらいいかわからなかった。
顔は確実に、ひきつっていたと思う。
カレンの後ろ姿を見て、ようやく理解した。
俺は、カレンに見捨てられたのだ。
俺はたぶん、アキか、もしくは警察に殺されるだろう。
その場に倒れ込むように寝そべる。身体が痛くて痛くて仕方ない。
もしかしたら、骨折くらいはしているんじゃないだろうか。
寝そべって目を閉じると、涙が一筋伝っていった。
ああ、帰りたい。花田透に。
安本のうざい話を聞きながら、家に帰って、マンガを読むんだ。
親とも少しだけ会話をして、温かいお風呂に入って、温かい布団で眠る。
そしてまた大学に行って、おもしろくもない講義を聞いて…
想像すればするほどに、そんなどうでもいいような日々が愛おしくてしかたなかった。
俺はもう一生、ここから、そしてトーコから出られないのだろうか。