水銀inアマッカス   作:そるのい

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決戦―爪牙の意地―

「おお、身が震える。魂が叫ぶ。これが歓喜か、これが恐怖か!」

 

「至高の天はここにあり!」

 

 先手を切ったのはハイドリヒ。己の爪牙である聖槍十三騎士団黒円卓の全員を召喚した。

 それに対してメルクリウスは静かに両手を広げた。

 

「さぁ、開幕といこう」

 

『Ira furor brevis est.(怒りは短い狂気である)』

 

『Sequere naturam.(自然に従え)』

 

 無数の星々がメルクリウスの前に集う。掌大にまで凝縮されたそれらは次の瞬間には爆発し、宇宙規模の大熱波を発生させる。

 

「させるかよっ!」

 

「させんよっ!」

 

 真っ先に反応した蓮とラインハルトに向けて、メルクリウスは

更なる術式を使用する。

 

「汝らには別の歓迎が待っているよ。私を倒したいのであれば、これぐらいは耐えてくれたまえよ」

 

『Ab ovo usque ad mala.(始まりから終わりまで)』

 

『Omnia fert aetas.(時はすべてを運び去る)』

 

 発動したのは素粒子間時間跳躍・因果律崩壊(エレメンタリーパーティクル・タイムパラドックス)――自身と世界を素粒子化し、多元宇宙ごと過去の時間軸へ跳躍、それによる現在と過去の抑止力を利用して対象を消滅させる業――メルクリウスの切り札の一つ。

「がっ!」

 

「ぐぅっ!」

 

 その一撃は、消滅こそしないものの二人の神格に多大なダメージを与える。重傷とは言わないが、一時的にその動きを封じられる。

 そして依然として大熱波は残ったまま、二人の神格は動けない。――ならば必然、迎撃にあたるは獣の爪牙たち。

 

『Echter als er schwur keiner Eide;treuer als er hielt keiner Vertr・ge;(彼ほど真実に誓いを守った者はなく 彼ほど誠実に契約を守った者もなく)』

 

『lautrer als er liebte kein andrer:(彼ほど純粋に人を愛した者はいない)』

 

『und doch, alle Eide, alle Vertr・ge, die treueste Liebe trog keiner wie er(だが彼ほど総ての誓いと総ての契約総ての愛を裏切った者もまたいない)』

 

『Wi・t inr, wie das ward?(汝ら それが理解できるか)』

 

『Das Feuer, das mich verbrennt, rein'ge vom Fluche den Ring!(我を焦がすこの炎が 総ての穢れと総ての不浄を祓い清める)』

『Ihr in der Flut l・set auf, und lauter bewahrt das lichte Gold,das euch zum Unheil geraubt.(祓いを及ぼし穢れを流し熔かし解放して尊きものへ 至高の黄金として輝かせよう)』

 

『Denn der G・tter Ende d・mmert nun auf.So - werf' ich den Brand in Walhalls prangende Burg.(すでに神々の黄昏は始まったゆえに 我はこの荘厳なるヴァルハラを燃やし尽くす者となる)』

 

『創造―Briah―』

 

『Muspellzheimr L・vateinn(焦熱世界・激痛の剣)』

 

 エレオノーレの背後から全力の火球が放たれる。ラインハルトの軍勢変生によって強化されたそれは熱波に正面から拮抗する。

 

「これに正面から拮抗するか。……素晴らしい。――では、これはどうかな?」

 

『Sic itur ad astra.(このようにして星に行く)』

 

『Dura lex sed lex.(厳しい法であるが、それでも法である)』

 

 エレオノーレに対して放たれるは銀河面吸収帯の大激突。その衝撃波はエレオノーレにとっては必殺となるだろう。

 エレオノーレは火球の維持に全力を注いでいるため、衝撃に対処できない。

 

『『創造―Briah―』』

 

 ――だが、それを傍観するほど獣の爪牙は甘くはない。

 

『Donner Totentanz――Walk・re(雷速剣舞・戦姫変生)』

 

『Niflheimr Fenriswolf(死世界・凶獣変生)』

 

 自らの肉体を雷と化したベアトリスが文字通りの雷速で駆け、エレオノーレを抱えて後ろに下がる。

 彼女の後ろを追従していたシュライバーが前に出る。彼の創造は“どんな速度や行動であろうと必ず誰よりも速く動くことができる”というもの。その能力で雷速を越えた彼は周囲に衝撃波を撒き散らし、銀河面吸収帯を半壊させる。

 

『Tod! Sterben Einz'ge Gnade!(死よ 死の幕引きこそ唯一の救い)』

 

『Die schreckliche Wunde, das Gift, ersterbe, das es zernagt, erstarre das Herz!Hier bin ich, die off'ne Wunde hier!(この 毒に穢れ 蝕まれた心臓が動きを止め 忌まわしき 毒も 傷も 跡形もなく消え去るように この開いた傷口 癒えぬ病巣を見るがいい)』

 

『Das mich vergiftet, hier fliesst mein Blut: Heraus die Waffe! Taucht eure Schwerte. tief, tief bis ans Heft!(滴り落ちる血の雫を 全身に巡る呪詛の毒を 武器を執れ 剣を突き刺せ 深く 深く 柄まで通れと)』

 

『Auf! lhr Helden:Totet den Sunder mit seiner Qual, von selbst dann leuchtet euch wohl der Gral!(さあ 騎士達よ 罪人に その苦悩もろとも止めを刺せば 至高の光はおのずから その上に照り輝いて降りるだろう)』

 

『創造―Briah―』

 

『Mi・gar・r V・lsunga Saga(人世界・終焉変生)』

 

 半壊して出来た隙間に身を捩じ込みながらマキナが振りかぶるのは機械と化した右腕。それが迫り来る大熱波と銀河面吸収帯を打撃する。

 

 唯一無二の死によって、己としての生を終えたいマキナの渇望によって生まれた創造は“幕引きの一撃”――誕生して一秒でも時間を経ていたものならば、物質・非物質を問わず、例え概念であろうともあらゆるものの歴史に強制的に幕を引く――求道型創造の極致。

 打撃された熱波は打ち消され、銀河面吸収帯は打撃点から崩壊していく。

 

「――諸君らは実に素晴らしい。獣の爪牙たらんものはそうでなければならない。諸君らの輝きを私にもっと見せてくれたまえよ!」

 

『Deum colit qui novit.(神を知る者は、神を敬う)』

 

『Aurea mediocritas.(黄金の中庸)』

 

 発生したのはグランドクロス。ただし、通常と違い平行宇宙とその内部の天体の配列を操作することで産み出された極大規模のグランドクロス。そこから発せられる膨大なエネルギーは、神格の肉体でさえ内部沸騰させ、粉砕するほどの威力を持つ。

 迫り来るそれに向けてラインハルトは聖約・運命の神槍を放つ動作を見せる。

 

「お待ち下さい、総統閣下。あれの対処は私に任せて頂けないでしょうか」

 

 が、横からそんな声が掛かる。

「――よかろう。さぁ、闇の中で見つけ出した卿の渇望を見せつけてやるがよい」

 

 そうラインハルトが告げると同時に、彼らを守るようにワイヤーが張り巡らされる。

 

「感謝します、総統閣下」

 

 ワイヤーの中心にいる痩躯の男は手や足を少し震わせながらも、堂々とその場に立っていた。

 

『Death, be not proud,(死よ驕ることはありません)』

 

『though some have called thee mighty and dreadful,for thou art not so;(貴方を力強く恐ろしいと言う者もいますが決してそうではないのです)』

 

 そう、敗北する恐怖に比べれば死の恐怖など些細なものです。

 

『From rest and sleep, which but thy pictures be,Much pleasure, then from thee much more must flow,(貴方の似姿たる休息と安眠からは より大きな喜びが生まれ出でるでしょう)』

 

 私は一度敗死し、それによって自分の渇望に気付くことが出来ました。

 

 

『And soonest our best men with thee do go,Rest of their bones, and soul's delivery.(最も優れたものが死に急ぐのは 骨に安らぎを与え、魂を開放させるためです)』

 

 そして、この身は既に死を知らぬグラズヘイムの住人。

 

『Thou'rt slave to Fate, chance, kings, and desperate men,And dost with poison, war, and sickness dwell,(貴方は運命や偶然、王侯や絶望した人間の奴隷 貴方は牢獄、戦争、疫病の隣にあるもの)』

 

 死はもはや私に影響をもたらせない。

 

『And poppy, or charms can make us sleep as well,And better than thy stroke ; why swell'st thou then?(ケシの実や呪文も私たちを眠りへ導きます それは貴方よりも強き一撃 故に、貴方は何故驕るのです?)』

 

 私が恐れるのはただ一つ。

 

『One short sleep past, we wake eternally,And Death shall be no more ; Death, thou shalt die.(束の間の眠りの後、我々は永遠を謳歌するでしょう そこにはもはや死などありません 死よ、貴方こそが死ぬのです)』

 

 ――己の敗北だけなのだから

 

『創造――Briah――』

 

『Ariadn Gleipnir(拒絶迷宮・恐怖の巣)』

 

 周囲に張り巡らされたワイヤーの密度が上昇する。そのワイヤーにグランドクロスのエネルギーが衝突すると、その熱量が霧散していく。

 シュピーネの渇望は覇道型の『己の敗北を許さない』というものである。その創造は“ワイヤーに触れた攻撃のエネルギーを霧散させる”というものである。

 敵味方を問わず攻撃を無効化させてしまう、攻撃だと認識していないものには発動しないとデメリットは多いものの、単純な干渉力だけなら覇道型創造の中でも上位にあたる。

 その上でハイドリヒ卿の軍勢変上により強化された創造は、グランドクロスの熱量を七割がた霧散させることに成功した。三割残った熱量はハイドリヒ卿が振るった聖槍によって吹き飛ばされた。

 

「実に素晴らしい。何もないスワスチカの中で自分の渇望を認識し、試練も無いこの短期間で創造まで漕ぎ着ける。あぁ、それもまた私の望んだ未知なる輝きだ」

 

 メルクリウスは自分の持つ技の中でも五指に入る技を破られても焦りを見せることなくシュピーネを称賛した。

 

「はぁ、貴方に誉められても全く嬉しくありませんね」

 

 シュピーネは少し震えながらも、毅然とした態度でメルクリウスの称賛を受け流した。

 

 

 ――序盤の駆け引きはメルクリウスが劣勢となって終了した。

 

 ――勝負は中盤戦に突nyザザッ……




……あれ、誰このシュピーネ殿。どうしてこうなった?

すでに中編は完成してるので、今日の24時に投稿します
―追記―
短編小説から連載小説に変更しました

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