読者の皆様に感謝です。
本日はもろオリジナルというか原作設定があやふやな所を勝手に補完しています
「キリツグ!」
「なんだいアイリ?」
「本当に……いいの?」
「ああ、かまわないさ。どうせ僕はこのアインツベルンを潰すためにここにいるんだ。今更アハト爺の機嫌をとる気はない--イリヤは普通の子として育てよう。君も一緒に生きるんだ」
冬のドイツは寒い。
その中でも深い深い森の中、人が入れば戻ってこれぬと言われるような場所に立つ場違いな城
中世ヨーロッパ建築の粋を尽くした豪華絢爛それは1000年に渡りとある一族の住処として機能していた。
その中の一室。
真っ赤な炎が燃え盛る暖房でその温度を保つ部屋の中でこれまた場違いな服装--よれよれのスーツ--を纏った衛星宮切嗣と、それとは反対に白く純白に金のラインという気品に溢れる部屋着を来たアイリスフィール・フォン・アインツベルンはお互いに最後の決意を確かめ合っていた。
その間に置かれた揺りかごには2人の娘であるイリヤスフィールがすやすやと寝息を立てている。
「手筈通りだ。君がイリヤの聖杯の機能を封印すると同時に僕がこの触媒を用いてアーサー王を召喚する--タイミングは合わせなきゃダメだ。アハト爺はこの城全体に感知を張り巡らせている。数分と保たずに戦闘用ホムンクルスも出てくるだろうし何としてもその前に蹴りをつける。いいね?」
その言葉に一瞬表情が強張ったもののアイリスフィールは首を縦に振る。
自らを作り出した想像主と闘おうと言うのがどれだけ恐ろしいことか、切嗣にはわかる範囲を超えていた。
「それじゃあやろうか--告げる--誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者--天秤の守り手よ!!」
そこら中からあがる叫びと炎
そこから少し離れた場所で切嗣は待っていた。自らをアーサー王と告げた少女の帰還を
「きた!」
「マスター!最上階の老人は討ちました。急いで撤退を!」
「よくやったセイバー!アイリ、イリヤは?」
「大丈夫!もう乗せてるわ!」
「分かった!」
切嗣はアイリスフィールへのプレゼントという名目で城に持ち込んだメルセデス・ベンツ300SLのアクセルを全力で踏み込む。
そのウィンドミラーからは燃え盛るアインツベルン城が確認できた。
これがアインツベルンの終わり。
「マスター」
「なんだいセイバー?」
「あなたは、勝ち残れば私の望みを叶えてくれますか?」
「--ああ、約束しよう」
そして最初についた嘘。
ある意味彼女の戦いは最初から終わっていたのだ。
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「やあぼうや、生きてて何よりだ--首尾はどうだい?」
「上々さ。出なけりゃ僕らは生きちゃいない」
数千km離れた海の向こう、生まれ故郷の日本、首都東京の国際空港で大きなトランクを2つ持ち切嗣達を待っていたのはナタリア・カミンスキー、魔術師殺しと恐れられる切嗣の師であり母である。
銀色の髪に黒の重厚な皮ジャケット、そして透き通るような青い瞳はこういった人混みではよく目立つ。
「そうかい--あれがアインツベルンのホムンクルスと坊やのサーヴァントか。随分とイメージが違うね」
「正直僕もびっくりしたさ」
ナタリアは切嗣の肩越しに始めてみる外の世界にはしゃぎあっちこっち歩き回っているアイリスフィールとそれに振り回されるようについていくセイバーを捉えて驚いたようにそう言った。
それに関しては切嗣も全面同意である。
「まあ細かい話は後だ--例のものは?」
「ああ、用意してあるよ。全く、この人形を用意するのにどれだけかかったことか あの人形師、とんだ腹黒だ」
「これが--」
「今は皮ばかりだけど本人の精神と魂の移植が完了すれば人としてのカタチを取り戻す。間違いなく最高の器さ」
その中身を見て切嗣は驚嘆の声を上げる。
これがあるならば、例え聖杯を降臨させようとも妻の命を救うことができる、と。
「ナタリア、これは?」
そしてもう一個のトランクに目が行く。
ナタリアに頼んだのはこれだけのはずなのだが……
「これかい?ぼうやが来るまでに色々調べたんだけどちょっとばかり手違いがあってね。間桐ゾオルケンは人じゃない奴を殺すためには宿主ごと葬らないといけないんだ。」
「宿主……?まさか--!」
「後はぼうや次第だ。さて、私はそろそろ行くよ。他のマスターが日本にこれないように色々と妨害しにいく、なんて面倒な仕事があるからね」
「……ありがとう、ナタリア」
「グウウ……!貴様!アインツベルンの犬が主人を食ったというわけか!」
「主人?違うな化け物。あんなやつは僕にとってはターゲットでしかない」
冬木、間桐邸、深夜2時の免れざる来訪者はそこに巣くう怪物に銃口を突き付ける。
冷たい風の吹く屋上にもう下がるスペースはなく下凡そ9mに地面が広がっている。
間桐臓硯は文字通り際まで追い詰められていた
「ええい!雁夜はなにをやっておる!」
老人はしがわれ声で騒ぐ。
彼の息子--あくまで戸籍上はの話だが--サーヴァントの召喚に今日召喚したばかりだ。
その隙をつかれたのは間違いないが、一体その本人は何をしているのか?
「呼んだか?臓硯」
「ようやくきたか雁夜!--待て。なぜそやつらと一緒におる?」
「それについては僕が説明してやろう」
その声が届いたように屋上の扉が開き、今回間桐のマスターとして参戦する手筈の間桐雁夜がその姿を表す。
しかし彼に闘う意思は全くなく、あまつさえ降参だと手をあげる始末だ。
その後ろからはアイリスフィールとセイバーも続く
「間桐雁夜の望みは間桐桜の解放だ。僕にはそれを叶える手段がある。要するにお前に組みする理由はどこにもない」
「カッカッカ!あれを解放する?無理な話じゃ、あれは既に調整が加えられておる。もう元には戻れまい!」
悪魔が笑う。
しかし切嗣はなおほくそ笑んだ。
「ああ、彼女の身体はもう戻れないだろうな。だが--新しい器があるとしたらどうだ?」
「--!まさか!?」
切嗣の言葉に臓硯に残っていた余裕が完全に消える。
「ありえぬ!人形を用意するだけならともかく魂の移植などそう簡単に行えるわけがないわ!」
「忘れたか臓硯?僕の妻はアインツベルン最高のホムンクルスだ。その道において彼女以上の存在はいないだろう」
錯乱する臓硯に切嗣はこれで詰めだと言わんばかりにその事実を告げる。
切嗣が動くときは全てが整った時のみ、そこに隙など有り得ない。
「殺せ雁夜!そやつらの言葉は妄想にすぎん!」
臓硯は目の前の息子に命じる。
しかし雁夜は冷たく笑うのみで動く気配はなかった
「それは無理な話だ臓硯。今のお前の態度をみて確信したよ。お前は殺せるし桜ちゃんは助かるとな。それにな、もう桜ちゃんの身体はもう安らかに眠っている。俺はこの人達につくしかないんだ。加えてバーサーカーを抑え込むのに使ったから令呪は後2つ。もう無駄打ちはできない」
「なんじゃと!?まさかワシの本体が既に掴まれていたとでもいうのか!?」
「その通り、と言うわけで残りの令呪の使い道はきまってる。一つはこの契約が完了したら報酬としてバーサーカーを自害させる。そしてもう一つは--」
「やれ!バーサーカー!!この怪物を、この悪夢を……ここで終わらせろ!!」
500年の執念、それを諦めきれない断末魔が響いた。
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「マスター……」
「分かっている。このやり方は君の流儀には沿わないと言うんだろう?」
「はい」
「だがあの化け物を見ただろう?あれをのさばらせるのが君の騎士道だというのかい?」
「それは……そうなのですが……」
「もしもし。舞夜か?--分かった。もう数分とかからないからそのまま待機していてくれ」
セイバーとの話を打ち切り切嗣は車を運転しながらその時代まだあまり流通していなかった携帯を手に取る。
そうして切るころにはもう一段深くアクセルを踏み込んでいた。
「どうしたのキリツグ?」
「舞夜がやってくれた。 家に家族がいないことを確認して遠坂邸を爆破した。 奴は無駄な魔力を使うのを嫌がってぎりぎりまでサーヴァントを呼び出すタイミングを遅らせていると聞いたから大丈夫だと思うが……気は抜くな」
「time alter--ダブルアクセル!」
「なに!?」
倍速となった切嗣は炎の横をかいくぐり遠坂時臣の懐まで迫る、そこでナイフを取り出しその腸を切り裂かんと突き出したが、とっさに反応した時臣が膝と肘でそのナイフを挟みそれどころかへし折った。
「ちっ」
そのまま下がり距離をとる。
その体には固有時制御のフィードバックがきていたが2倍程度のそれなら耐えられると切嗣は表情にそれが表れないよう歯を食いしばる。
「衛宮か……魔術師としての誇りもなにもない奴だとは思っていたがまさかこんな卑劣な手段をとるとはな」
「生憎僕は守るべき誇りなんてない身でね」
今にも崩落寸前の屋敷から出た中庭。
木々に火が燃え移り始め灼熱地獄となっているそこで衛宮切嗣と遠坂時臣は向かい合っていた。
「……それにしてもだ。どうやってここに仕掛けてあるトラップを正面から切り抜けた?あれは人の手には余るレベルだと自負していたのだが」
それでもなお涼しげな振る舞いを崩さない時臣は切嗣に問いかけた。
屋敷に仕掛けてある数は質、量ともに膨大だ。仮に突破できたとしてもこんな風に無傷でいられるわけがないだろう?と
そんな顔をする時臣に切嗣は挑発を込めて皮肉っぽく返す
「簡単な話だ。人でないものを用いればいい。君の自慢のトラップの相手は伝説のアーサー王がしているよ」
「貴様--!」
時臣の顔が怒りに満ちる。
「聖杯の力を借りながらその開始の合図すら待たないとは……衛宮切嗣、貴様はこの私が必ずここで殺す」
「いい面構えになったじゃないか遠坂、なら全力でこい。お前の大嫌いな文明の利器でお前を殺してやる」
そう言いながら切嗣は改造したトンプソン・コンテンダーに何時もとは違うところから取り出した30-06スプリングフィールド弾をセットする。
そしてその銃口を何の細工をする事もなく数十m先の時臣に突きつけた。
「そんな鉛弾で……!ふざけるのも大概にするがいい!!」
今までとは桁違いの炎の壁。
それをみて切嗣は勝利を確信した
「さらばだ。遠坂時臣」
空気を切り裂くような鋭い発射音からすこし遅れて時臣の身体から鮮血が迸る。
起源弾、切嗣を魔術師殺したらしめていた切り札は38弾目にして38人目の魔術師の命をあっさりと刈り取る。
「くそ……」
しかしまだ息はあった。
最期を確認しに近付いた切嗣を時臣は怨めしげに睨みつけた。
「この雪辱は……必ず凛が……」
「娘まで巻き込もうとは……ほんとに見下げ果てるよ。お前のような魔術師は」
「マスター!--どちらへ?」
「アイリを頼む、セイバー。僕は1人の少女をこの闘いから救い出しにいってくる」
「これが……」
「大聖杯……だと。こんなもので願うが叶うはずがない!」
全てがすんだら柳洞寺に行け、階段を途中で逸れれば隠された洞窟がありそこが根源だ。
ナタリアの言葉に従った切嗣とセイバーが見たのはまだサーヴァントが1体しかくべられていないため小さいが確かに禍々しい気を放つ孔、だった
「しかし世界は約束した!私が聖杯を手に入れればブリテンの滅びの運命すら変えられる力を得られるのだと!」
セイバーが混乱気味に叫ぶ。
彼女はそのためだけに闘ってきたというのは切嗣も聞いていた。
しかし……その願いを聞くことは出来ないといよいよ告げるときがきた。
「だが実際はどうだ、セイバー?例えあと何騎サーヴァントをくべようがこの底無しの悪意が増えるだけだ。君の願いは叶うわけがない。いや……君の願いがそんなに汚いものなら分からないがね」
「そんなことは……」
分かっている。セイバーの願いがそんなものでないことは切嗣は重々承知していた。どこまでも彼女は善人なのだ。
それでも敢えて心をへし折りにかかった。
ここで全てを終わらせるために
「でも……私は……」
どうしたらいいのだとセイバーが苦悶の表情で下を向く。
彼女が苦しんでいるのはよくわかった。
しかし例え彼女が壊れようとやり遂げないといけない、切嗣はここにきて機械に戻る決意を決めた。
「分かった。出来ることなら君にも納得してほしかったが仕方ない--令呪を持って奉る」
「待ってくれマスター!少し考える時間を!」
セイバーがすがりつく。その姿は王ではなく、必死に願いをこう1人の少女のものだった。
それでも止まるわけにはいかない
「セイバー、聖剣を持ってその呪いの塊を……破壊しろ」
「い、いやだ!撤回してくれ!私は……このまま何も見極められなかったらこれからどうしたらいいのか!」
涙ながらに訴える。
しかし覚悟を決めた切嗣は少なくとも表面上は揺らがなかった。
「頼む!動くな身体!私は……私は!」
聖剣から光が溢れ出す。
「やめろぉぉぉ!!」
「すまない……セイバー」
「マス……ター」
こうして第四次聖杯戦争は未然に防がれ、聖剣の余波で洞窟も崩壊。
冬木から聖杯は消え失せた。
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「これが10年前の話だ。僕は君の信じていたものを全て壊した上で送り返したんだ。ただ負けるより断然性質が悪い」
「そんなことが……」
私は背もたれにもたれかかった。
そこで全てを信じられなくなった私のことを思うと力が抜けてしまったのだ。
「すまない、セイバー」
キリツグが頭をさげる。
少なくとも私がどうこういえることではないが、同時に彼が10年背負ってきた十字架を外せるのも私しかいないと分かっていた。
「いや、いいのですキリツグ。その私も聖杯が汚れていたのならそれによって叶えられる願いは望まないでしょうから」
--気休めもいいところですね
嘘ではない。しかし真実ではない。
祖国を救う願いも、人を呪う杯を赦せないのも、どちらも本当だ。
しかしどんな決断をするかはその場にならなければわからないだろうから。
「話は変わりますが……イリヤスフィールは聖杯としての機能を持っているのですね?実は先日その封印が融けました。なんとか撃退し彼女を取り戻しましたが……」
キリツグとアイリスフィールの表情が変わる。
遂にその時がきてしまったか、そんな顔だった。
「それは私に任せて。 イリヤのことは私が一番分かるから……それに封印した聖杯としての機能にも人格がついちゃったのは私のミスでもあると思うし」
一度大きく息をつくとアイリスフィールがそう宣言する。
いつもの柔らかなそれとは違う決意の籠もった顔だった
「お願いしますアイリスフィール。彼女の精神はすでに限界だ、母である貴女以外には無理だ。そしてシロウ……彼は一体?」
「シロウはね、孤児院から僕が引き取ったんだ。何でも部屋に入ると時々おもちゃが増えている不気味な子がいるって聞いてね。そして見た時には目を疑ったよ。彼はむちゃくちゃな方法で毎回1から別に回路を作り、消えない投影品を作り出していたんだ」
キリツグの言葉に背筋から凍り付くような錯覚を覚えた。
「まさか--!?」
「そうだ、この時点で常識外れが3つある」
--それは有り得ない
私の言いたいことを読み取ったのかキリツグが真剣なまま指を3つたてる。
「まず何で士郎が魔術を使えるのか、正確には分からないけど調べてみたら元から魔術回路27本は定着していたみたいだから魔術師の家系だったことは充分考えられる」
1つ折る
「後の2つは正直見当もつかない。消えない投影なんて有り得ない。 それは歪なんだ、等価交換ではなく一方的に持ってきているということだから……魔術ではない何かとしか言えない」
「それに魔術回路の件も同様だ。最初から魔術回路自体は備わっているのに関わらず毎回死の危険を犯してまで新しい魔術回路を作るなんて正気じゃない。いや、そもそも先天的に授かった魔術回路は増えないはず。なのにそれをしていたんだ、彼は。当時10才の士郎はそのむちゃくちゃの代償として中身をボロボロにしても顔色一つ変えずにこなしていたんだ」
後の2本は折るというか諦めてしまってしまった。
そこで私は嫌な予感を伝える。
「キリツグ……信じたくないのですが先程投影品で部屋が埋め尽くされていた、と言いましたね?話通りならその投影品の数だけシロウの魔術回路は増えているということになるのですが……」
それを聞くとキリツグは、残念ながらそうだ、と言うと
「部屋にあったのはぬいぐるみやら剣のおもちゃやら種類は様々だったけれど計46あった。その前に捨てられたものもあっただろうし士郎は最低でも27+46--73の魔術回路を持っていることになる。最低でね。これはもう人の常識を超えている」
目の前が真っ暗になりそうなほどの衝撃が走った。
「バカな……なら今の士郎は」
「引き取るときに記憶を消した。このままだと士郎はまともな人間じゃいられなくなると思ってね。さっきも言ったけど中身はボロボロで放っておいたら確実に死んでた。 君が呼ばれたのはその際に君の鞘を回復に埋め込んだのもあるだろう」
「アヴァロン……」
「そうだ。勿論君がいないから速効性はないけどね。士郎を今まで生き長らえさせていたのは間違いなく鞘だ」
この時点で私の混乱は極まっていた。
聖杯がない以上、封印された人格という問題こそあるがただ大量の魔力を持つことができるだけ、というイリヤスフィールよりも士郎の方が遥かに深刻ではないか!
「出来ることなら普通の人間として生きてほしかったけど……こうなったら仕方ないか」
そう言うとキリツグは席を立ちコートを羽織る
「どちらへ?」
「士郎とは僕が話すよ。男同士の話は外のほうがやりやすいしね」
どうもです!
取りあえずこれで物語の導入部は終わりかな?っていうところでほっとしているfaker00です。
ここから物語が楽しくできるんじゃないかと作者も楽しみです。
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