「ジュリアン?」
「あ、ごめんおねーちゃん。つい……」
「いえ、貴女が気圧されるのも分かる。あの者の威圧感は――」
隣にいるベアトリスがまるで赤子に見える程だ。
目前に立つ敵を見据える。敵は2人、うち1人は剣を交えた事もあるベアトリス。強敵ではあるが……今優先すべきはこちらではないだろう。
反射的に、恐らく自分でも気づかぬうちに一歩引いてしまったクロに対して1歩前へ踏み出し視線を隣に立つ男へと移す。
見たところ年は恐らく士郎や凛と同程度か。着ている服にも見覚えがある。だが――発せられるオーラが明らかに違う。
「本人そのものかは分からないがサーヴァントと同等の殺気……」
何をしているわけでもないのに彼の周りだけ空気がまるで恐れをなしたかのごとく震えているのは錯覚ではないだろう。
もう考えるまでもない、掛け値なしの強敵。
サーヴァント、人間、そんなものは関係ない。
「下がってろベアトリス。少し話がしてみたい」
「はい! ジュリアンさまあ!」
「――」
それにしてもベアトリス過去の遭遇時との豹変ぶりはどうかと思うが、まあリンの猫かぶり時と素の違いのようなものだろうと一人納得する。
「おねーちゃん」
「……少し待っていてください。万が一奇襲などがあった時にクロが控えていてくれないと困る」
――まあそんなことはないだろうが
そんな最後の言葉は口に出さずに前へと歩く。
ただの勘と言われてしまえばそれまでなのだが、同じように前へ出ているジュリアンという男が現状小細工を仕掛けてはいないというのは確信の域に達している。
「――」
果たしてその判断は正解だった。ジュリアンの目の前まで歩いて止まる。
その距離はもう一歩踏み込めば剣の鋒が喉をかき切れるほどにまで近づいている。しかしそこまで進んでも私自身何か異常を感じることはない。強いて言うなら息が詰まるほど張り詰めて緊張感を増していく空気ぐらいである。
「……っ、気に食わねーな。セイバー」
「何がです」
同じ様に歩いてきたジュリアンもまたその距離を計っていた様にピタリと止まると私の全身を一瞥し――憎たらしげな舌打ちと共に表情を歪めた。そして紡がれた言葉はその表情そのままのものだった。
「言葉のとおりだ」
大袈裟に両手を上げ天を仰ぐ、そして掛けていた眼鏡を外すとその目つきがより一層厳しくなる。
「剣の英霊、セイバー。聖杯戦争において最優にして最良のサーヴァント。ま、所謂当たりサーヴァントってやつだ」
「――」
それを否定はすまい。セイバーというクラスはアーチャー、ランサーと並び三大騎士クラスと呼ばれる。そしてセイバーはその中でも英霊としてのステータスの足切りラインが高く、その土俵に登ることがいちばんむずかしいとされる。
もちろんサーヴァントとしての真価はステータスだけでは測れないが、少なくともセイバーでどこの輩とも知れない英霊が呼び出されることはまずない……と、かつてリンに聞いたことがある。
呼び出すマスターとしての心理としてはセイバーは当たりであり、私も引きたかったとかなんとか言っていたのは今でもよく覚えている。
その言葉に乗っ取ればジュリアンの言葉は間違いではない。
「だがよ、いくら優秀っつってもそれはあくまでそのルールの範囲内でって話だ。聖杯がなけりゃそもそもお前たちはここに存在することだって出来やしない」
「……? それが一体なんだと」
「気に食わねえ」
「は――?」
「気に食わねえ。お前らはただの駒だ。その駒風情がこっちの計画を邪魔するなんざ……あっていいはずがねえ」
「……っ!?」
半歩右足を後ろに反らし右手を剣の柄に伸ばす。いや、伸ばさせられたというべきか。
私を睨むジュリアンの眼光が眼鏡の下でまた更に一段と鋭くなる。
「うちの親父殿は寛容だ。乱入、アドリブ、アクシデント、それで自分の劇が上手くいくならってスタンスだな。だが……俺は違う。そんな異物が混じった時点でそれは腐っていく。全てが統一され完璧に為されてこその神話は初めて完成する。つーわけで……」
「お前はここで消えろ。他の奴らとは違う。想定外のイレギュラー」
「……! クラスカード!!」
―――――
「だめ……! いくらセイバーさんでもジュリアンとやりあうのは!」
届かないと分かっていて、それでも思わず叫んだ。叫ばずにはいられなかった。手を伸ばせば届きそうにも見えるが、その手が届くことは絶対にない。
戦場から隔絶された塔の最上階。突然にして頭の中へと流れ込んできた――だいたい何処からのものなのか察しは付いたが――映し出される様々な光景を、各所で繰り広げされる自らの為の戦いを、無力にも眺めることしか彼女には出来ないのだ。
それがよく分かっていてもなお、この場に移されてからほとんど無気力と言って良い状態だった彼女は皮肉にも初めて生気を取り戻していた。
出来ることならば、奇跡が起きてその声が彼女達に届く事を信じて。
美遊は、放棄したはずの感情を祈りとともに思い出した。
「美遊おねーちゃん元気になった!?」
「……! エリカ……」
隣で無邪気に笑うエリカの存在に気付く。彼女はいつの間にか美遊の膝の上に頭を載せて気持ち良さそうに丸まっていた。
恐らくこの無垢な少女のことを自分は、意図的ではないにしても今まで無視し続けていたはずだ。それは受ける側からすればあまり気持ちの良いものではない。少なくともエリカくらいの年齢の通常の子供であれば、へそを曲げるか癇癪を起こすのが普通だろう。
しかし、眼下にうつるのはそんなことを全く感じさせない人懐っこい笑み。
「教えて! ダリウスは一体どこ!? 私にこれを見せてるのはあの人なんでしょ!」
「わ、わからないよ……パパは用事があるってどっか行っちゃったし……いたっ!」
「あ……」
か細い声に美遊は我に帰った。
いつの間にか自分の両手はエリカの震える小さな肩に食い込んでいる。今にもその肌をつきやぶらんばかりに力の入っていた手を美遊はさっと背筋に寒いものが落ちるのを感じながら急いて離す。
自分に絶望しか与えないエインズワースの一員であることには違いない彼女にこんなことを思うのはどうかと思うが……エリカ自身に罪はないのだ。
「ご、ごめんね。エリカ……」
「うきゅう……大丈夫だよおねーちゃん。美遊おねーちゃんはちゃんと謝ってくれたもん。ごめんなさいした人は許してあげなきゃダメだってパパも言ってた!」
見え見えの強がり。しかしそれを指摘することなど誰にできようか。
痛みをこらえているのか顔を真っ赤に上気させ、その大きな目の縁に大きな涙粒を浮かべながらもせいいっぱいの笑顔を浮かべるエリカに美遊は何も言うことはできなかった。
「私は……」
美遊は無力さに唇を噛みしめる。
結局のところ、自分はカゴの中の鳥なのだ。一度はそのカゴを叩き壊してくれた人がいた。しかしその人はその為に犠牲となった。
そしてまた、今度は自分の友達がまた同じことを繰り返そうとしているというのに、自分にはそれを見ていることしかできないのだと。
エリカの頭を一撫ですると、ボロボロに壊れた無残な姿で椅子にもたれ掛かる人形に目を転じる。
そこにほんの数分前まで親友の抜け殻の幻影を見ながら。
「イリヤ……お願い……」
その言葉がどこに宛てられたものなのか、美遊自身にも分からなかった。
―――――――
「どこへ行くつもりだ? わざわざ城の内部まで入っていくとは……まさか一人で敵の本丸を叩こうなどと殊勝なことを考えているわけではあるまい?」
「いやだなー、なんで僕がそんなことしなきゃいけないんですか。はっきり言ってしまうと勝ち目もないのに。そこらへんはノータッチですよ」
実際のところがどうなのかは別として、少なくとも表面上の内部構造は自分が知っている中世のヨーロッパ型建築とそう大差ないらしい。
コツコツと響く石段特有の足音を刻みながらロードは辺りを眺めた。
明かりは両壁にぽつりぽつりとある松明の炎のみである。
如何にも何か罠でもありそうなものなので、最初は彼自身警戒を解くことはできなかったのだが、前を行くギルがなんの躊躇もせずまるでスキップでもするかのように進んでいくのを見る限り問題ないのだろうといつの間にか自然と歩みを進めていた。
「ついでにいうと僕の目的は1つだけ、僕の財を取り返すだけです。そして貴方達の言う本丸はそれとは無関係だ……まあ広義的に解釈して、皆さんの敵になって得られる得が0なのに対して、味方につくなら1あるかなってぐらいの話でして。だから別に警戒する必要はないです」
「ふむ……となると今お前が向かっているのはアンジェリカのもと、という事か? むしろそれ以外には思いつかないのだが」
英雄王ギルガメッシュの宝具、ゲートオブバビロン。この世すべての武具の原典を収めたと言われる蔵そのものを宝具に昇華したまさに規格外。その威力は10年以上の時が経とうとも当然のようにロードの脳裏に刻みこまれていた。
それであるがためにこの答えはロードにとっては明らかなものであり、確認程度のつもりでの問いかけだったのだが前を行くギルはこちらを振り向くことなくフルフルと首を振った。
「いいえ、違います。やつは僕の財の9割を持ってる。
言ったでしょう? 皆さんの味方になるなら1くらいは得があると。とりあえずその得をとりに行くまでです」
「得だと……?」
「ええ、本来なら気に食わないし、どちらかと言えば歓迎しない存在だけど戦力としては確かです。たほんとのことを言うと貴方が着いてきてくれて助かった。よくよく考えると僕一人だと話すら聞いてもらえなかった可能性もありますから」
「……なるほど、そういうことか」
少しばかり苦くなったギルの言葉にロードの中で合点が言った。
今の言葉から予想される人物は一人しかいない。なぜその居場所を掴んでいるのかどうかは別として、確かに得ではありそうだと。
「そこで僕と貴方達の仕事の共有は終わりです。イリヤちゃんやセイバーさんの事は気に入ってるんで敵対はしない。けど積極的に味方をする気もない。それだけはお忘れないように」
「充分だ――そろそろか?」
「そうですね」
今まで細長い道が一本に続くばかりで、先の見えない暗闇だったのがうっすらと光が差し込み始める。
そしてたどり着いて上を見上げてみれば吹き抜けが何処までも続く円形のスペースで、そこが何処か塔の中だということを嫌でも意識させた。
「北の塔、ですね。さてさて、これがあたりだといいんですけど」
「当たり外れがあるのか?」
「はい。律儀な事に欧米の由緒正しき屋敷を象ったこの城は東西南北に魔術的強度が段違いの塔がある。正確に言うと中央にもあるんですけどまあそれはおいておいて良いでしょう。あのお兄さん達レベルの人を完全に隔離しておくならこのどれか……まあ要するに4分の1ってことです」
「……」
あまり景気の良い話ではない。
ロードは静かに舌打ちした。こちらの共通認識としてあるのは、正面衝突で勝つのは難しいということである。
無論、今自身が望む相手がいるのならの限りではないが、あまり時間がかかり過ぎてしまえばもうその時には全て手遅れという可能性も否定できないのだ。
「ま、とりあえず運試しということでさっさと開けてみましょうか」
「おい、いくらなんでもけいそ――」
「あら……?」
そしてそんなロードの焦りを嘲笑うかのように状況は悪化することになった。
眼前には大きな扉、他には先ほど通ってきた道以外には何もない。さもすれば、ギルがとった行動自体に間違いはない。結局は同じだったかもしれない。
だが……それでももう少しやりようがあったんじゃないかとロードは顔をしかめざるをえなかった。
ギルが扉に手を掛けた、特に何も警戒することなく無遠慮に。そしてその瞬間この塔全体に反響する大きな叫び声が……
「ちっ……! 悪趣味な警報音だな!」
「これ警報なんですかね?」
「たわけ! 笑っている暇などない! さっさとその扉ふっ飛ばしてでも……」
「的確な判断で……けどちょっと遅かったか」
「……! 上か!!」
上から何かが降ってくる。その気配を察知するとロードは瞬時に脚部に強化を掛け後ろへと飛び退く。
間髪おかずに走る衝撃音。モクモクと上がる黒煙はそれそのものが発しているものなのか。対象は目に捉えることができない。
「落ちた時に何か舞い上がった、とかいうならいくらか気が楽なのだがな」
「そうですね。けど残念ながらそれはないでしょう。この石畳から舞い上がるものなんてせいぜい砕けた破片くらいなもんです。まあ……あんなふうに煙が辺り一面広がるなんてことはまず」
「黒化サーヴァントか」
「出来損ないの出来損ない、って感じですけど。弱ったなー、それでも今の僕じゃ良い勝負かもしれませんよ」
そう言うわりには緊張感の欠片もないギルを横に目を凝らす。
次第に薄くなりつつある黒煙は魔術によるものだろう。下手に手は出せない。相手がどのようなものなのかも全く分からないのだから。
そして――
「――――■■■!!」
「な――」
「下がって!」
なんの前触れもなくその闇を貫いて突進してくる影に反応が遅れる。迫る黒影、動かない体。そんなロードよりも一瞬早く動き出していたギルが鎖をそのなにかに強引に軌道を変更し引き離す。
コンマ数秒の先制攻撃。
それが終わってようやくロードはその全容を捉えることができた。
「こいつは……」
「戦国武将、ってやつですかね。どうもモブくさいですけど。座に至れないぐらいのご当地の英雄ってところを強引に当てはめたってところでしょうか」
馬に乗り槍をもち、全身を見慣れない鎧で包むその姿はテレビゲームの中でのみ見たことがあるものだ。
たしかこれは数百年ほど前の日本の戦士特有の武具だったはずだ――今は馬もろともがんじがらめにされているために見る影もないのだが。
「ま、いっか。僕の原典から面白く流転したような業物とかなら見てみようと思いましたけど、そんな良いものでもなさそうですし」
興味なさげにギルがグッと手を握る。
一気に引き絞られた鎖は馬の脚、侍の鎧、どちらもまるでチーズかなにかのように軽々と握りつぶす。
こうして目の前に現れた敵は断末魔を上げる暇すらなく一瞬にしてこの世から消え去った。
「……何が良い勝負かも、だ?」
「いやだなー、何事も緊張感が大事じゃないですかー」
アハハ、なんて笑い声をあげるギルにロードは心底辟易していた。
確かに今彼の助けがなければ危なかったのは確かなのだが、それはまた別の話だ。
「まあいい……それもこれも全部計算済みとでも言うのならばこれで終わりなのだろう」
「いえいえ、本題はむしろこっちで――どうぞ」
「これは……」
そっぽを向いて扉へ向かおうとしたロードの手にギルが何かを滑り込ませる。慣れない感覚にロードが目を向けると、その手には1枚のカードが収まっていた。
「クラスカード……私が持ったところでなんの意味もないと思うが……?」
「いーや、そう決めつけるのは早計というものです。確かにイリヤちゃんの持ってるカレイドステッキのように特殊な礼装がない以上同じ使用法は無理でしょう。けど確かに、こんな出来損ないでも座に干渉することは出来るんです。
道さえ分かっていれば、自ずと求めるものに辿り着けるんじゃないでしょうか?」
「おい、それは一体どういう」
「さーて、じゃあ僕はこれで。後は潰しあいをゆっくりと眺めて何処かのタイミングで取り替えさせてもらうだけです」
いつの間に、そんなことを言う間すらない。
ギルの声は黒化サーヴァントが現れるに際して突き破った塔の上から響き、そして一方的に気配とともに消え去った。
「Fu✗✗……これで何か不足の事態でもあったら必ず殺してやる」
愚痴りながらも扉に手を掛ける。そして意外なことにあっさりと開いたその向こうに見えた光景に再び頭を痛めることになった。
「「あんたは?」」
「……時計塔でもこんな不可思議な光景は見たことが無いな。同一人間が2人、それも正確に言えばどちらも私の知っているその人間ではないとは」
「サーヴァント・セイバー、そして美遊・エーデルフェルトの知人だ。それ以上に説明が必要ならこれから考えるが」
二人のエミヤシロウは立ち上がり、それを見るとロードは元来た道へと向き直る。
その手の中で、ギルに手渡されたクラスカードが一瞬光輝いた。
そこに記されていたのは「RIDER」の5文字だった。
すいません。こんなに遅くなるなんて思わなかったよちくしょー。
そして後書きとか書く前に投稿したんで急いで書きますよとにかく。
とりあえずなんとか復活。あれですね、学生生活の終わりは思ったよりも忙しい(白目)
じゃあこりずにFGOのお話を
4章でほんと一気に話進んで驚くばかり。そしてやっぱこのストーリー面白いですわ。とりあえずモーさんかわいい。
そして今回は皆さんにも使えそうなFGO都市伝説第二弾、ということでやってきたんでその報告を……題して、遠坂凛式午前二時召喚は本当に意味があるのか!?
もしかしたら知らない人もいるかもなので解説すると、クソと名高いFGOのガチャ。多数の爆死者を生み出し(作者も43連爆死を経験)たこのガチャですが、どうやら時間によって変わるらしい、との噂が。それが午前二時に引くといける、所謂遠坂凛スタイル。今回はこれを検証。
計20連、お正月のあれを一気に投入。狙うはもちろんモーさん!午前2時に目をこすりながら頑張る。結果は……
キャスニキ……ま、まあサバだし
カリヤーン……☆4は順調やね
牛若、……これあかん流れか
ヘクトール……もうサバ出ないだろこれ
モーさん……え、ええ!?ほんとに来やがった!!まじか、モーさんまじかー!!!!
結論、午前2時理論。有能
まさかほんとにモーさん来るとは思わないよね。
結局20連して
☆5サバ1
☆5礼装2
☆4サバ1(フランちゃん)
☆4礼装7
とまさかのSR以上が過半数を占める結果に。皆さんも眠いのこらえて2時まで待つ価値あるかも……?
こんな感じです!今回は良い検証(少なくとも自分には)でした!
また何かやろうと思うのでこれやってほしいとか噂とかでも受け付けます!
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