「なーんかイライラするわね……なにこれ、認めたくないけど同族嫌悪ってやつ?」
「あわわわ……こっちの凛さんは大人だと思ってたけどやっぱり凛さんは凛さんだ……!」
「イリヤ様、生きていたければ口を閉じるのが賢明かと」
遠坂凛は憤っていた。
これほどまでに怒りが渦巻いているのはいつぶりだろうか……少なくとも近いうちの記憶には、ない。
ならいつだろうか? 時計塔に留学していた頃か? いやいや、ルヴィアにイライラさせられたり、極東の日本人というだけで見下してくる名家の連中をいつか必ず殺してやると思った事は何度でもあるがここまで怒りを覚えたことはないだろう。
となると更に遡って――ああ、あった。
凛は1人納得した。あれは確か、聖杯戦争の時のことだ。
自分の最愛の妹が10年間クソ爺の嬲り者にされていると知った時。その時の激情に近いものを感じる。
要するに、今自分は人生の中で最も怒った時と同質の怒りを抱いているのだと。
「あのね、遠坂家の当主たるものが他人の傀儡になるなんてどれだけふざけた事か分かってるの……?」
自分でも驚くほど冷たい声が出ているのを凛は自覚した。
しかしそれと同時に仕方のないことだろうとも思った。
これは遠坂凛という魔術師、そして人間としてのプライドの問題なのだから。
「――」
対象は答えない。
そしてそれは彼女の触れてはいけない何かを確実に踏抜き、そして飛び越えた。
「なっさけないったらありゃしない……! イリヤ! こっち来なさい!!」
「はいぃ!!」
ビクッ!と青い魔法少女コスチュームに身を包んだイリヤが弾かれたように背筋を伸ばすと、1秒たりとも時間を無駄に出来ないと言わんばかりに俊敏な動作で凛の隣へと飛んで来る。
その姿は傍から見ればかなり無防備だったはずなのだが、それに対して敵が手出しをしなかったのは凛から発せられる異様な威圧感によるものなのか。
「……うちの士郎が見たら涙流して"イリヤはそんな格好しちゃだめだ! なにか不満とかあるなら俺がどうにかしてやるから!" って説得しそうなその格好は――それもそうなのね?」
「う、うん。サファイア」
「お初にお目にかかります凛様。私、ゼルレッチ卿製造ステッキ型魔術礼装、サファイアと申します。もう察しがついておられるかもしれませんが、ルビーは私の姉にあたります」
「サファイア……ああ、そういえばお父様のあのステッキに対する記述にそんなのがあったような……ルビーに対する唯一の抑止力とかなんとか。もう私の家から他に移されてたみたいだけど」
「はい、それ自体は平行世界の私であり、姉さんかと思われますが基本的な認識としてはそれでよろしいかと」
「なるほどね」
スッとイリヤの手の中から飛び出した青いステッキ――サファイア――の挨拶に凛は心の中で安堵した。
なにせ今まで知っていたのはあの愉快型礼装だけなのだ。姿形は一緒であれどサファイアがまともな思考パターンをしていそうだというのは十分な安心材料である。
「オーケー。多分あなたの方がイリヤより冷静だろうから現状確認任せるわ。サファイア、あいつらは貴女達の世界の私、そしてルヴィアってことで良いのよね?」
ガーン、とイリヤが肩を落とすのは目に入っているが、凛はそれを見てみぬふり、無視である。
実際問題 精神、肉体年齢ともにお子様であるイリヤよりもサファイアの方が頼れそうなのは見るまでもないのだから。
「はい。ですが恐らく簡単な置換魔術で魂が別の何処かに放り出されているのか自我はありません。しかしながら単純なスペックにおいて変わりないので魔術師としては最大級の脅威かと」
「年は?」
「両者ともに17です」
「得意魔術は……宝石魔術よね。そりゃ」
「はい。大質量をコントロールし切るルヴィア様、一撃のクオリティと戦術に長ける凛様、加えてそこからの近接格闘もかなり」
――きっちり寸分たがわず、ね
ある程度想像通りの答えに凛はため息をつく。これは確実に強敵だと。
認めたくはないが……ルヴィアと自分自身が感情を抜きにすれば戦闘面で組んだ場合相性が良いのは経験上分かっている。
そして今、目の前の二人に感情は存在しない。
これで弱いはずがない。
「確かそっちの世界は聖杯戦争がなくて私はもう時計塔に留学してたんだっけ? いつから?」
「恐らく2年程前かと」
「じゃあ魔術の腕に関してはちょっとだけ上方修正して想定しとかないとまずいか……あー、頭痛くなってきたわこれ。せめてクロを置いて行ってもらうべきだったかな」
凛は後半心にもない軽口を叩き舌打ちする。
それどころか実際のところ彼女の内心はその逆を考えていたのだが。
「凛様……」
「ん、なにサファイア?」
「クロ様やセイバー様から聞いておられるかも知れませんが、私達の世界には凛様達の世界にはないクラスカードという概念があります。そして彼女達は――」
「凛さん!」
「はっ――!!」
今まで完全に蚊帳の外だったイリヤの甲高い声に反応して飛び退く。
強化の魔術も間に合わないので強引に身体能力に任せた横っ飛び。凛とて魔術師ではあるが人間だ。素の筋力は通常の成人女性……に比べれば遥かに高いものの人の域を超えるものではない。
そんな状態で行う緊急回避などたかが知れており、必然の結果としてそこに振り下ろされた"なにか"が頭を庇った彼女の腕を掠め鮮血が散った。
「ぐっ――!」
「凛さん!」
「これぐらい心配無用よ! それよりも――」
――こんな魔術、私もルヴィアも知らないはず
一瞬でも凛の焦らせたものがあるとすればそれだろう。回避する寸前、彼女は確かに見た。
一歩で距離を詰め飛び込んできた"自分"が何かをポケットから取り出すとそこから真っ黒な、まるで影のような剣が現れ、こちらのいた場所を切り裂いたのを。
それが何か魔術的なものであることは想像に難く無いのだが、問題はその心当たりがどこにもないことである。
彼女の攻撃パターンを一番知っているのは他でもない自分自身であるはずなのに。
「あれがそのクラスカードってやつね」
今度はきっちりと身体全体を強化し後ろへ飛び、ついでに牽制としてガンドを数発目くらましに地面に放つ。
白煙が黙々と上がるなか、その上を飛び越えてきたイリヤ、というよりもサファイアに凛は問い掛ける。
「はい。原理は不明ですがあのカードは英霊の座に干渉し、該当するクラスの宝具の力を引き出す事が出来ます。イリヤ様や美遊様は例外として英霊の力そのものを引っ張ってくることが出来るのですが……まあ今はおいておきます」
「ふーん……けどそれにしちゃ随分と雑ね」
「お気づきですか?」
「まあね。これでも私は聖杯戦争を経験してる。すなわち、宝具ってやつがどんだけ化け物じみてるかもよく分かってる。
けど今のは形こそ何かの宝具の体をなしていたけど威力も神秘も酷いもんよ。あんなものは英雄のシンボルたる宝具なんて呼べやしない」
サファイアの説明を聞くうちに凛の中に一瞬芽生えた焦りに近い感情も消えていた。
凛にとって衝撃であったのはあくまでその攻撃が知らないものであったから、であり決して威力だ質だのはその考慮には入っていない。
そのネタのヒントがあり整理がつくのなら、そう驚くようなことでもなかった。
「正解です。凛様の見立て通りあれは宝具の劣化品の更に劣化品。名を借りただけの別物です。敵にとっても精度の高いクラスカードは貴重な戦力。そう幾つもあるものではないでしょう」
「そう、じゃあ突然あの二人がセイバーの宝具みたいなのを持ち出してくる、なんてことはないと考えて良いのかしら?」
「その可能性はないかと」
「――」
一番に聞いておかなければならない事がらに満足のいく答えを聞いて凛は頭の中で現状、それもここのみならずあくまで全体を見据えたそれを整理し、今後の展開をシュミレートする。
「はあ……仕方ない、か。せめてギルがこっちにいたらまだやりようもあったかもしれないのに」
そうして、結論に辿り着いた。
それも彼女に似合うとびっきり男前な結論に。
「どうしよ凛さん……」
「そうねー……とりあえず貴女達、ここは私に任せてセイバー達追っかけて。向こうの方にいるはずだなら」
「凛さん!?」
「危険です! いかに未来の凛様と言えどあの二人を同時に相手取るのは……!」
それが想定外の言葉だったのか、イリヤとサファイアが同時に驚きの声を上げる。
しかし凛の決意は変わらなかった。
「あのね、あんまり私のことをなめないでよね。いくら相手が私とルヴィアだからって見習い魔術師に遅れをとる気はないわ。
それにね、どちらかというと戦力が必要なのはセイバーの方なのよ。多分あっちにダリウスも、そして私達の世界の士郎をやったやつもいるはず。こんなやつら相手にかけてる時間は本来ないの。それに加えてこっちの最大戦力を失ったらその瞬間に詰み、それくらい分かるでしょ?」
「――」
「けど……!」
「分かりました」
「サファイア!?」
何をどうイジったのか、イリヤはサファイアから手を離せずそのまま引き摺られるように凛から離れていく。
なかなか強引なやり方だが今はそれが正解だろうと凛は思った。
引っ張られながらも心配そうにこちらを見るイリヤの顔を見るに、あのままではグズグズと長引くことは目に見えていただろうから。
「凛様。ご武運を」
「そっちこそ、多分あっちの方が厳しいと思うからイリヤをお願いね」
「承知しました」
「ちょっ!? サファイア、ま――」
それ以上イリヤの最後の抵抗は凛の耳に聞こえなかった。
有無を言わさずにサファイアはイリヤを伴い空中へ舞い、そして消えていった。
「全く――イリヤってのは極端じゃなきゃ気がすまない存在なのかしらね」
それを確認してから呟く。
脳裏に浮かんだのは、今目の前からいなくなったイリヤではない、冬の少女の姿だった。
「ま、こっちのほうが可愛げがあるぶんましかもしれないけど――集中しなきゃ」
白煙が薄れていく。相手はこちらを警戒しているのか迂闊に手を出してこないが、この煙が消失するのが開戦のサインになるのは目に見えていた。
それに合わせてポケットから宝石を数個取り出し手の中で転がす。
「行くわよ――!」
タイミングを見計らい――右足で地面を撃ち抜かんばかりに踏み込む。
斜め45度、まるで砲弾になったかのような錯覚を覚えるほどの勢いで飛び出す。
「ま、そう上手くはいかないか」
――これでどちらも裏取らせてくれれば楽だったんだけど
眼下に捉えた敵を見てぼやく。先陣をきるつもりだったのか一歩前に踏み出していたルヴィアは完全に前を向いている。恐らくその視界に自分の姿はないと凛は判断した。しかし――
「――無銘、槍」
真っ黒な槍を構えた自分と目があった。
「やるじゃない、けどね――」
狙いすまし投擲された黒槍、それに合わせて宝石をひとつ弾く。
「弾け――!!」
轟音が響いた。正面衝突した宝石と槍のぶつかり合いは五分と五分、どちらもチリと消えた。
だがその瞬間にこそ空白の刹那が生まれる。
「いける!」
更に宝石を2つ足裏に。これは先程とは全く別のものだ。展開することでそこに魔力で編まれた足場を出現させる――そしてそれを思い切り蹴飛ばした。
「遅い」
「――!!」
振り返る自分、しかしその懐にもう凛は飛び込んでいた。
驚愕の表情が浮かぶ。だがそんなもので躊躇するほど甘ちゃんであるつもりは彼女にはなかった。
「さっさと目ぇ覚ましなさいよ! この未熟者ぉ!!」
渾身の、右ストレート。
――――――
「良かったの? おねーちゃん?」
「……リンなら大丈夫です。彼女以上に信用出来る魔術師を私は知らない。彼女が判断してだめなら、それはもう本当にダメなのでしょう」
会うのがいくら久しぶりであろうとリンの考え方は変わらない。彼女は勝算のない戦いに挑むほど愚かではないのだけは分かっているつもりだ。
「ふーん、買ってるのね、リンのこと」
「――? ええ。そのつもりですが」
隣を走るクロが何故か不機嫌そうな理由は分からなかったが。
「クロ、確認しておきますが今回優先されるのは美遊、イリヤ、そしてシロウの救出です。もちろん戦わざるを得ないのなら戦いますが、そこを間違えないように」
「分かってる。腹がたつのは間違いないけど今の戦力じゃあっちには及ばない。それくらい自覚はあるわよ」
だが冷静さを失っていないのならまあ良しとしよう。
これ以上話をして拗らせるのも良くないと前を向く。
「おねえちゃん――!」
「――そうですね」
その足が止まるのは以外にも早かった。
目の前を塞ぐ二人組が目に入る。そのうちの一人は私も知っていた。
「ベアトリス――!、それに――」
「ジュリアン――」
「クロ?」
そう呼んだクロの声には、僅かに怯えのような感情が見えた気がした。
どうもです!
凛ちゃんが2人、凛ちゃんが向かい合う……爆発しそうです。
ええ、訳がわからないよ。
と言う訳でFGO速報
悲 報 作者の石172個。藻屑と消える。
なんでだぁぁ!!! 43連ガチャで沖田出ないのはともかく何でSRすら一人もこんのじゃああ!!現金換算だと諭吉さんいったろこれ!!
眼鏡ライダーさんとかクロアイリさんとかザビ子とかイリヤちゃん(プリヤみたいな方)来たけど礼装ばっかや!!
こっちはなあ、ここでウキウキで沖田とったぜ!!って報告するためにわざわざ毎回スクショして気合い入れてたんだよー!!
ダメならダメでも沖田さんはダメだったけどジャンヌきたよ!とか我らが主人公セイバーさんきたよ!!とかやりたかったのに……くそう……
大人しくイベントやってます……皆さんもガチャには気をつけて……
それではまた…評価、感想、お気に入り登録、そしてガチャ報告するじゃんじゃんお待ちしております……