Fate/kaleid saber   作:faker00

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50話突破、そして今回の話が第1話と繋がってたり……


第9話 覚悟

「はあ? 私達が悪?」

 

 リンが怪訝そうな声をあげた。

 

「冗談よしなさいよねギル、私達や士郎の平行世界を超える拉致に今回のイリヤスフィール誘拐、それにあの娘の友達も連れてかれてるんでしょう? 

 どこの紛争地域のテロリストよ。それに対してただ元の状況を取り戻して帰りたいだけの私達、どっちが悪かだなんて考えるまでもないと思うけど」

 

 そのままこれまでに引き起こされた事態を指折り数えるリン、そのうちにだんだんと苛立ちが募ってきたのか口調も次第に荒くなり、目つきも嫌な方に鋭くなっていく。

 

 しかしその圧力をもろに受けているはずのギルも慣れたものでどこ吹く風と言った体で彼女を流し見る。

 

「違うね。全く持って分かってない。まあ分かるはずがないし、それ自体は仕方のないことなんですけど──お、ちょうどいいや」

 

 どう説明すべきかというふうに思案していたギルが何かに気付き腕を上げて微笑んだ。

 

 合わせて上を見上げる。空は見るだけで気持ちを陰鬱にさせるような曇天……だったのだが、ぽつりぽつりと白い雪が舞い降り始めていた。

 

「雪か……日本は面白いよね。季節の節目がはっきりとしていて四季なんてものがある。当たり前に思ってるかもしれないけど、これってなかなか珍しくてね。

 世界の多くは乾期と雨期の2つだけとか、季節として区切るには微妙な変化だとか、そんなところが多いんだ。ね、セイバーさん?」

 

「わ、私ですか?」

 

 一体何を思って話題を振ってきたのか。

 

 一瞬ギルを凝視するが相変わらずその真意は全く掴めない。となると、とりあえず答えるしかないのだろう。

 最も私に答えられるのはブリテンのそれだけなのだが。

 

「まあそうですね……ブリテンもそれなりに季節の変化はありましたがここまでバランス良くというかキリがよくという感じではなかった。半分くらい冬のようなものでしたから……で、それがなにか?」

 

「私もそれくらいは分かるわよ。ここ数年はロンドンと日本を何度も行き来してたわけだし」

 

 隣のリンも意図を把握しきれなかったのか渋い顔になる。私も同感だ。

 

「ええ、意外にこれが重要……皆さん知ってますか? この世界での今日の日付けは8月18日、夏真っ盛りなんだそうです」

 

「は……?」

 

 そんなことは有り得ないだろう。頭の中で分かりきった事実を反芻する。

 

 今まで私はここ以外に2つの冬木を訪れている。ここと時系列を同じにするであろう冬木と、そして10年前のその冬木だ。

 例えどんな異常気象が起こったところで真夏に雪が降るような土地ではないのは経験上分かっている。

 

「ち、ちょっと待ちなさいよ……! じゃあなに? あんたはこの世界の季節が不自然にねじ曲がってるっていうの? そんな無茶苦茶それこそ魔法が起きたか、もしくは星そのもの……が……」

 

 ギルが何を言わんとしていることの先に辿り着いたのか、リンはまさか……と言葉に詰まる。

 それを見て彼は満足そうに頷いた。

 

「うん、ここまで言えば分かるよね。季節はある意味星の理だ。常に日は朝に登り。夜には月が光るように……それに比べれば多少のズレは確かにある、けれどそれと同じような理屈で回るのが季節なんだ。

 皆さんがどこまで知っているのか、クロちゃんがどこまで話したのか僕は知らない。ただ僕が言えるのは、世界を救うというエインズワースの言ってることは誇張でもなければ自惚れでもない。この星は、確実に死にゆく運命を辿っているってことさ」

 

 

 

 

 ──今から数年前、突如として冬木に起きた巨大な爆発。市の中心部、半径数kmに渡るクレーターを作ったそれが何なのかは誰も知る由もない。天災なのか、人為的なものなのか、それともそれ以外の何かなのか、とにかくそこからこの星全体が狂ってしまった。

 引き起こされたのは地軸のズレ、角度にすればほんの数度と言ったところだが、そもそもこの地球に命が存在する事自体が奇跡的なバランスによるところが大きく、その土台を支える星の異常は容易く命を吹き飛ばす。

 その変化の前においては人の常識などあってないようなものだ。そして訪れた終わらない冬、平均気温は世界的に毎年猛烈なペースで落下し続け、今や世界の半分は人の住むことの出来ない極寒の土地へと変化した。

 その残り半分もどれだけ持つかは分かったものではない。ただ言えることは、地球が死の星になるのはそう遠い話ではないということ。

 

 

 

「で、少なくともエインズワースはその運命から逃れようとしてる。これは間違いなくこの世界における正義でしょう?

 ま、美遊ちゃんや贋作者さんはそれを成し遂げる為の尊い犠牲ってわけだ。数億と数人、どっちが重いかは聞くまでもないと思うけど……だから貴方達は悪なんです。

 考えてもみてください、世界が滅びるのを止める手段があるのにそれを異邦人が攫おうとする、この世界の住人からすれば悪夢も良い所だ」

 

「──じゃあなに? あんたはその大義名分の為に士郎達を見捨てろって言いたいわけ? 私達と敵対すると」

 

 ギルの演説に近い話が終わり、張り詰めた沈黙が流れる。

 

 そしてそんな空気を切り裂くようにリンがゆっくりと右腕を挙げていつになく冷たい声でそう問いかける。

 彼女の手には複数の宝石がにぎられていた。

 

「いえいえ、そんなつもりはさらさら無いですよ。ぶっちゃけ僕としたらこの世界がどうなろうが美遊ちゃん達がどうなろうが基本的には興味ないですし──ああ、けど気に入らないものならありますよ。それはどっちにも言えることですけど」

 

「ふーん、じゃあどういうつもりよ」

 

「別に、ただどんな決断をするにしても何も知らずに下すそれは見るに値しない。僕はただ事実を伝えておきたかっただけですよ」

 

 その言葉は恐らく真実なのだろう。脱力しきったその立ち姿に演技の類は全くと言っていいほど感じられない。そもそもかなり分かりにくいタイプの人物であるのは間違いないのだが。

 

 

「で、どうしますか? 行くというのならとりあえず今言ったことは覚悟して背負ってもらう必要があるわけですけ」

 

「愚問ね」

 

「あら?」

 

 どこか愉しむように言葉を続けようとしたギルだったが、あっさりと言葉の腰を折られる。

 腕を降ろした彼女は迷いなど微塵も感じさせなかった。

 

「私は引かないわ、絶対に。だいたいね、世界を救うっていう大義名分を否定する気はないけどその為に何かを諦めるっていう考え方が気に食わないの」

 

「……意外ですね。貴女がそんな理想論を唱えるなんて。もう少し現実主義者かと思ってましたよ」

 

 本当に意外そうにギルがリンを見る。

 その視線を受けるリンは腕組みをしながら、そうね、と1つため息をついた。

 

「確かに数年前までの私なら間違いなく同意したでしょうね──けどね、今の私は知ってしまったの」

 

「何がですか?」

 

「例えどんなに状況が絶望的だろうと1つの思いを貫き通す1人……いえ、2人のバカな男のことをよ。そいつらは正反対のようで実はとっても似ててね、どちらも笑っちゃうほどのお人好しで、人のことばっかり考えてて、それでいて子供で変な所で頑固で、そして──何かを決めたら例え自分の命が消えるとわかっていても絶対に最後まで諦めなかった」

 

「リン、それは──」

 

 それが、誰の事なのかは分かっている。もちろん2人共だ。もっとも1人は剣を交えた結果薄々そうだろうと思っていた、という程度なのだが。

 

「ええ。その一人はアーチャーよ。全く……最後の最後で詰めが甘いんだからあいつも。最後まで正体明かさずに消える腹づもりだったんでしょうけど、あんな声で、あんな風に呼ばれたら目も醒めちゃうってもんよ」

 

 どこか懐かしい記憶を辿るように目を細める、がそれはほんの一瞬。すぐにいつもの鋭い目つきに戻った。

 

「まああれよ、バカが移ったってとこかしらね。断言するけどあいつは今も諦めてない。桜の元に帰るまではどんな障害があろうと絶対に止まったりしない。

 なら私は桜の姉として、そして……あー、これはちょっと嫌なんだけど義姉として、私も降りるわけにはいかないのよ」

 

 リンが胸を張る。それを見てどこか誇らしく、それでいて胸の隙間に一筋の風が吹き抜けたような寂しさを感じたのはどうしてなのだろうか。私には分からない。

 

「バカが移ったという点においては私も似たような物だろうな」

 

「先生?」

 

 ロードが照れを隠すように長い髪の後ろをかきながら前へ進み出る。

 

「世界を救うか。何故この目的に反発しようなんて気になるのか自分でも分からないが……あの人の言うところの王道ではない、って所なのだろうな。私は他人の事情など知ったことではない。そこに辿り着くまで自分の心の命ずるままに征くまでだ。それがどんな彼方でもな」

 

「……聖杯戦争を生き抜くと人間ぶっ飛ぶものですねー。二人とも今確実にこの世界敵に回しましたよ。ま、そんなものどうでもいいって思えるぐらいの度量が無きゃとっくの昔に死んでるんでしょうけど──じゃあセイバーさんはどうですか? 貴女は一応"落伍者"だと思いますし……それに貴女の望みからしたら彼等の願いを打ち砕くなんてできないんじゃないかなあ」

 

「──」

 

 冷たい視線が私を射貫く。落伍者、と言うのは当然聖杯戦争のことだ。そして望みというのも……当然彼なら知っているだろう。

 

「それは……」

 

 簡単には答えられない。滅びゆく、と言うよりも滅んだ祖国の救済を望んだのが私という存在だ、そしてエインズワースの願いは今正に避けられぬ滅びの道を歩む世界の救済。

 その気持ちは、分からない訳がない。 

 加えて彼等の世界はまだ終わっていないのだ。ブリテンとは違う、ならそれを止める権利が私のどこにあるというのか。

 

「私は──」

 

 喉が渇く。そうだ、答えようとしたのだ。私には彼らの願いを壊す資格はないのだと。

 だがどうしてだ? その言葉はどこか奥でひっかかってしまい出てこない。

 

 

 

 

 

「シロウ……」

 

 目を瞑る。するとその正体はあっさりと姿を表した。

 今にも壊れてしまいそう──それとももう壊れているのか──にボロボロなその姿。瞳には何も写らず深い虚無が拡がるのみ。

 こんな彼を見るのは随分と久しぶりの事だ。あれから幾度となく戦ったし、この世界にやってきてから出会ったシロウは文字通り別人だったのだから。

 

 そんな感慨にふけっていると彼の瞳に一度消えた筈の輝きがもどる。そして私を見据えたと思うとその頬を伝う一筋の涙。何故泣いている?

 

 

 

 

 一体何故涙を流す──ああ、そうか。

 

 

 

 

 一人合点がいった。これは、守れなかった者の涙だ。契約を結んだあの日、彼は私と共に戦うと言った。そして致し方なかったとはいえその誓いを守ることが出来なかった後悔の涙。それを間近で見たのは他でもない私ではないか。

 

 そしてその涙は、私が流したものでもある。その果てに私は決めたはずだ。次に会う者は必ず守り抜こうと。

 だからこそ、あの先も私は折れかけた心を奮い立たせて戦いを続けられたのだろう。 

 果てしない救済の願い、そして──自分の隣に立った者を二度と泣かせないという誓い。

 

 いつの間にかあまりにも身近なりすぎていたこの誓い。

 

 果たしてそれは、願いと天秤に掛けられるものだろうか?

 

 

「私は──」

 

 そんなこと、考えなくても決まっている。

 

「私には……選べない」

 

 そして答えを、絞り出した。

 

「今更それはないでしょうセイバーさん。いつの間に貴女はそんな脆弱になってしまったんですか……やれやれ、大人の僕も見込み違いというか何というか……」

 

 露骨に失望感を示すギル。

 それはそうだろう、決断の出来ない王など王に非ず。今の彼には私がただの小娘に見えているに違いない。

 だが……たとえそれでも構わない。

 

「侮るなよ、英雄王」

 

「──!」

 

 言葉から生気が消えていない、それどころかいつも以上に熱が篭っている。それが意外だったのだろうか、ギルの雰囲気が変わる。

 

 ならば聞かせてやろう。これが私の答えだと。

 

「この世界も、シロウも、イリヤも、美遊も、決して諦めはしない。私は……どちらも救ってみせる。必ずだ」

 

 

 終わったものは戻せない。だがまだ何もしていない、することが出来るうちにどちらか片方を犠牲になど、出来るはずがない。

 もう二度と、後悔はしないしさせないと決めたのだから。

 

 

 

 

 

─────

 

「イリヤ……」

 

「おにい……ちゃん?」

 

「イリヤ!」

 

 イリヤがそう呼ぶと、士郎は強く彼女を抱きしめた──姿は人形なのだが。そんなことは関係ない

 

 だがこの二人の意識には相違がある。イリヤが見ているのは彼よりも幼い本当の兄の幻影で、士郎が見ているのは当の昔に彼の為に命を投げ出した姉であり、妹である存在だ。

 

「あ……ごめんな。君は……」

 

 ──俺の知っているイリヤじゃない。

 

 より早くその事実に気づいたのは士郎のほうだった。

 突然自身の閉じ込められている独房にサファイアと名乗るステッキが飛び込んできて──ゼルレッチの製造と聞いた途端その埒外の存在にもあっさり納得がいった──ある程度事情の説明も受けていたため順応が僅かながら早かったのだ。

 彼自身その前にも思い当たる節があったのが一番大きいのだが。

 

「えっと、あの、その……」

 

「お兄ちゃん、って思ってくれるならそれでいいし、思えないのならそれでもいい。ただ……俺はイリヤの味方だ。それだけは信じてほしい……イリヤに怯えられるのは流石に傷つく」

 

 どうしたらの良いのか分からないとオロオロするイリヤに士郎は努めて穏やかに話しかけた。

 

 そしてその思いは通じたのかイリヤも少しだけ落ち着いた様子を見せた。

 

「あ……うん。ありがとうございま……す?」

 

「ふふっ、なんだよその中途半端な敬語」

 

 ギクシャクとした答えに思わず士郎は苦笑した。純粋に子供なイリヤという存在は彼の心を癒やすには最適な存在だったのは間違いない。

 

「イリヤ様、少し失礼します──簡単な転移魔術。これなら……」

 

「どうした、サファイア?」

 

 サファイアがイリヤに近づくとどこから出てきたのか聴診器のようなものが飛びててイリヤに絡みつく。

 そしてガガガガっといかにもなにか処理していますというような音を立てると一転沈黙した。

 

「はい。イリヤさんの意識がこんなものに押し込められている原因がわかりました。これなら軽い刺激で元に戻せるはずです」

 

「本当か!?」

 

「ですがイリヤ様の身体を取り戻してもこの部屋を覆う障壁を壊すのは難しいでしょう。元々の出力が足りません」

 

「そうか……いや、でも」

 

 喜びから落胆へ。

 結局のところここから出るには至れそうにない。

 

「とりあえずイリヤと一緒にここから抜け出してくれないか? お互い一人なら無理でも二人ならなんとかなるんじゃないか?」

 

「はい。上手くいけば助けを呼んでこれるかも知れません」

 

「そうか、なら頼む」

 

 だが可能性はまだある。

 

 再び小さな通気口へと戻っていく二人を見送りながら士郎は帰るべき人の名前を呟いていた。

 

「桜……」

 




どうもです!

時間開けてすいません。ただ次回も空きそうなんですよね……

今回は少し物語について先に、
あくまで作者の解釈ですがセイバーさんがエインズワースの願いを否定するとはどうしても思えなかったんですよね……なので今回色々と彼女の心理描写に文を割かせて頂きました。ストーリーもうちょい進めろよ!って方には申し訳ないです。ただ区切りのタイミング(50話なのは偶然)で必ずやっておきたかったことなので。
質問などありましたら感想にてどしどし受け付けておりますので。



そしてFGO……セイバーモニュこねえええ!!いつの間にかエミヤさんのが先に最終再臨素材揃ったぞおい!!(なお心臓かぶり)
次のイベントでセイバーモニュおなしゃす!!

そしてイスカンダルはいつくるのか……僕は10連引きたい欲望を必死に抑えてるんですよ……頼む。


それではまた! 評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!!

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