「イリヤおねーちゃんは美遊おねーちゃんの友達なんでしょー?」
自分よりも遥かに小さい少女の言葉にイリヤは、ドクン、と心臓が跳ね上がるのを感じた。
なぜこの子供はあっさりとこの屋敷の結界をあっさりと突破しているのか、そもそもこの子供は一体誰なのか?
疑問は数多く有れどそれは全て一瞬にして1つの単語によって隅へと追いやられる。
「美遊」
イリヤが今一番求める友達。その名を確かに少女は口にした。
「そ、そうだけど……」
混乱する頭の中自然とイリヤの口をついたのは肯定の言葉。少なくとも美遊と自分が友であることは絶対であるからだ。
「よかったー!」
その言葉を聞くと少女はまるで大輪の花が咲くかのごとく笑顔を見せる。
そしてイリヤの手を取るとブンブンと上下に振った。
「それじゃあいこ! おねえちゃん!」
「え!? ち、ちょっとまって!」
少女はそのままクルリと後ろを向くと、イリヤの手を取ったまま木に囲まれた庭を歩き出す。
イリヤはされるがままに一歩を踏み出し――そこで彼女の思考回路はようやく機能を取り戻した。
少女の背中に見えたのは場違いにも見える、赤いランドセル。その向こう側に問いかけ足を止める。
「ん? なーに?」
少女は振り向くと、はてな? という表情を浮かべイリヤを見る。
その表情から読み取れるのは純粋な疑問の感情1つだけだ。
「えーと……」
そのあまりの純粋さにイリヤはどこから問えば良いのか分からなくなるのを感じた。
「そうだなー……よし、あのね。あなたは私の事を知ってるみたいだけど私はあなたのこと何にも知らないの。よかったらあなたのことを教えてくれないかな?」
「私の事?」
「そう。例えば……そう、名前とか」
「名前……あ、わかった! ジコショーカイって言うんだよね!」
最初はピンとこないのかうーん、と唸っていた少女だが、名前という単語を聞いて合点がいったのか手を叩く。
「私はね、エリカって言うんだよ! おねーちゃん!」
そして何故かえっへんと胸を張り、綺麗なブロントのポニーテールをなびかせるとそう宣言した。
「そっかー、それじゃあエリカちゃん。エリカちゃんはどうして美遊の事を知ってるの?」
いつも年下として扱われているのだが今回は逆であることの優越感、不意に訪れた美遊の手掛かりという緊張感。
相反する感情がごちゃまぜになりながらも努めて平静を装い、膝をついてイリヤはエリカに問いかける。
この返答次第ではどんな流れも起こりうるという覚悟を決めながら。
「なんでって……美遊おねーちゃんは美遊おねーちゃんだよ? 知らない訳ないじゃん!」
「あー……」
残念ながら返答は要領を得ないものであったが。
「んーと……それじゃあ――!!」
質問を変えようとしたイリヤは、少女から放たれるはずのない、押し潰されるようなプレッシャーを感じ反射的に後ろへ飛び退いた。
「誰!」
一瞬エリカを凝視したイリヤだがそんなはずが無いと思い至り後ろの木立を見る。
セイバーや凛ほど察知力に優れていないことはイリヤ自身分かっている。そんな自分ですら分かってしまうほど明確な殺気を放てる相手がいるとしたら――
「だめじゃないかエリカ。勝手に進んだら。迷子になってしまうよ?」
「あれ――?」
イリヤは思わず自分の目を疑った。
その先から現れた人物はイリヤの目から見てなんというか――ダメだった。一番近い人物を挙げるなら最後に見た時以外の父切嗣のように。
ボサボサの頭、何とも言えないふわふわとした空気。色々な物が酷似しているとイリヤは感じた。
「あ、パパだー」
その人物を認めるとエリカは駆け寄る。
「よいしょっと……いやあ、全くここは本当に一軒家か? もはや森じゃないか」
飛びつくエリカを抱き上げると男性は汗を拭くとふーっと溜め息をつく。
ここに来るまでに迷ったのだろうか、ところどころに葉がつき、サンダルは泥だらけになっている。
「あの……貴方は?」
すっかり毒気を抜かれながらもイリヤはとりあえず男性に話しかける事を選択した。
このままでは何がなんなのか分かったものではない。
「おっと、すまないね。娘が失礼した――私の事はダリウスとでも呼んでくれたまえ」
柔和な笑みを浮かべ、ダリウスと名乗った男性は頭を下げる。
「いえ、こちらこそ。私は――」
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「え?」
名乗り返そうとしたイリヤを遮って自らの名前を呼ばれる。
驚いたのはそれだけではない。もちろんそれもそうなのだが……その声は先程までののんびりとした声と変わらないはずなのに、まるで別人のように冷たかった。
「――!」
そこでようやくイリヤは思い至り、そして恥じた。
一般人がここにいるわけがないのだ。この屋敷の主が貼った結界。人払いの効果もあるこの中に入るのは一流の魔術師でも骨を折る、というよりも無駄だと本人であるこの世界の遠坂凛だと語っていたというのに。
そして自分自身もそれを承知していたからこそ違和感を感じてすぐに反応したはずなのに。
あまりにも無防備なエリカに警戒を解かれた。あまりにも"自然"に、散歩をするかのように入り込んだダリウスに認識を曇らされた。
今自分がどれだけ致命的な状態だと言うことすら忘れて。
「――」
ようやく今の異常性に気づきイリヤは一歩後退る。
顔を上げればダリウスの顔はもはや別人であった。
「とある世界では聖杯の器、とある世界ではただの小学生。どれだけ世界が多種多様といえどここまで運命に幅がある者もそうはいないだろう……実に素晴らしい!!」
「一体……何を……」
狂気、一言で言い表すならそれしかない。腕に抱かれたエリカがあまりにも不釣り合い。
イリヤには聞こえない小さな声でぶつぶつと何か呟いたかと思うとダリウスは高笑いを上げる。
「――」
間に合わない。屋敷までは数十mなのだがそれ以上にこの相手には間合いが近すぎる。
ダリウスがどれだけの実力かはわからないが、それだけは間違いないとイリヤは一度後ろを見ると向き直る。
「だがね……私"達"が紡ぐ神話の舞台に上がるのに無条件という訳にはいかないなぁ……」
「パパ? おにーちゃんに怒られちゃうよ? えきすとら は勝手に選んじゃダメだって」
「いいんだよエリカ……ジュリアンには神話のなんたるかを後でちゃんと伝えておくからね」
そこからの会話はもはやイリヤにとっては支離滅裂の類であった。
聞き慣れない単語が飛び交うなか、彼女に分かったのは少なくともその神話とやらが自分達にとって都合の良くないものであることだけだ。
「なんとかしな――」
「イリヤさーん!!」
頭をフル回転させるイリヤだがその後頭部に大きな声とともに鋭い痛みが走る。
頭がショートしたのかと勘違いする程のタイミングだったが、その勢いのまま土にダイブした顔をあげてみればなんの事はない。
視線の先には見慣れた彼女の相棒が陣取っていた。
「いったいなー! なにするのよルビー!」
「それはこっちのセリフてす!! 一体イリヤさんは一人で何をしているのですか!!」
「あいた!」
一閃。抗議の声をあげたイリヤのおデコにルビーの根元ビンタが突き刺さる。
「ふう……まあとりあえずお仕置きはこれくらいで良いでしょう。まずはこの場をなんとかしないと……イリヤさん。転身準備を」
「ルビー?」
いつになく真剣な様子のルビーにイリヤを違和感を覚える、というよりも気圧される。
彼女が真面目な様子を見せたのは別に初めてではない、がここまで切羽詰まった様子なのを見るのはイリヤは初めてだった。
「なんとかセイバーさんかこちらの凛さんが来るまでの数分……いや、もう気付いてるでしょうし数十秒かせげればあるいは……」
イリヤの問いかけを無視してルビーは物騒な響きの単語を連発しながら呟く。
「え? なに。ルビーはあの人の事知ってるの?」
明らかにルビーはダリウスという人物の事を知っている。
いつもは人を食ったようなバカにしているようなで何を考えているのか全く分からないのだが、明らかに違いすぎる態度からイリヤにもそれは見て取れた――逆に言うとそれがどれだけ危機的状態なのかということも否応無しに。
「そうですか。そう言えばイリヤさんは知らないんですよね……私としたことがとんだ失態を。いいですか、イリヤさん――」
そんなイリヤを見るとルビーは何とも言えないという風に空中でユラユラと揺れ、一呼吸おき
「どういう訳か知りませんがこんなところであの人にあったのは間違いなく最悪です――あの人、ダリウスは……美遊さんを攫った首謀者であり、セイバーさんを真正面から完封した大ボスです」
「――!!」
セイバーを策を用いず倒した。
その事実はイリヤの喉元に死が目前まで迫っていることを彼女に伝えるのは十分すぎるものだった。
あまりにも強大すぎる敵。
今までセイバーが現れてからというもの、どんなに苦しく、自分達ではどうにもならないような局面が来たとしても最後には彼女がまるでスーパーヒーローの如く何とかしてきた。
そんなセイバーが何も出来ずに敗れたということは先程ルビーが言っていたことも全く冗談でもなんでもないということだ。
「そう力む必要はないよ、カレイドステッキ。ここに役者は整った。
そして今回の物語の中に私の役はない。君達の相手は他の者が努めよう」
「私の役はない――?」
そんなイリヤとルビーを見てダリウスが微笑む。
その言葉を反芻するとイリヤは首を傾げる。
それが本当ならば彼は少なくともここでは手を出すつもりないということになる。しかしそれならそれで一体誰が相手をするというのか。
「何を言うかと思えば……なら誰が私達の相手をすると? そのおちびさんだなんて言うつもりはないですよね?」
イリヤと同じ事を思ったのかルビーは疑問を投げる。
「まさか、エリカに戦闘が出来るわけがないだろう? そう焦らずともすぐに答えは出る――来たまえ」
「――!?」
ダリウスが声をかけると後ろの木立がガサッと揺れその奥から人影が現れる。
暗がりで輪郭しか見えなかったその姿が一歩一歩踏み出すごとに徐々に明らかになり始め――
「なんで――なんでよりによって!?」
―――――
「反応が増えた!?」
「ええ――ちっ、ああもう! なんで家の敷地内にまた結界が貼られてるのよ! やったやつはぶっ飛ばしてやるんだから!!」
「落ち着けトーサカ。この屋敷の防備は万全だった。それをあっさり破った上に内側からめちゃくちゃに作り直すなおすだなど只者の訳がない」
「――分かってますけど……!」
これで何度目か分からない。
進路を塞ぐように現れるキメラをリンが宝石魔術で爆散させる。
そしてまた走る。問題はいくら走っても現実世界においては全くのゼロだということなのだが。
「リン、結界の終わりは――」
「こっちであってる! 人の庭で好き勝手やってくれちゃって……!」
隣を走るリンはギリっと唇を噛みしめる。
話によれば魔術師の工房は己の粋を尽くしたもの、自らの結晶だという。
それを好きに荒らされてはリンの怒りも当然というものだろう。
「しかしこれほどまでとは――」
その使い手の技量に感嘆する。
異常を察知して外に出てみれば、そこは既に異界だった。キメラが地を這い、命を吹き込まれたガイコツが走り回る。まるで遠坂邸の周りの空間だけが切り取られて迷い込んでしまったように。
その一つ一つはけして魔力に富んだものではなかったが、そもそもそんな不純物をリンに気づかれることなく紛れ込ませたこと自体がおかしいのだ。
「あった! ってでか!?」
リンが出口を見つけたのか声をあげ、そしてまた別の何かに驚く。
私がそれを認めたのはわずかながら彼女に遅れての事だったのだが、リンの反応は当然だと思えた。
「伝説におけるキマイラの模倣ですか――今までとは桁が違う」
今まで全く変わらなかった風景が変わっている。まるでその先には何もないという風に黒く無機質に。
そこが出口で間違いないのだろうが、求めたそれよりも目を引いたのは立ちはだかる怪異だ。
獅子の面に牛の胴、翼は……龍種の真似事だろうか。
体長数mは確定的なそれは私達を見るとこの世のものとは思えない咆哮を挙げる。
「――■■■!!!」
「リン、ロード、離れて!」
私の声を聞くと2人はパッと横に飛び退く。それでいい。
この相手には彼女達はリスクがある。
「しかし――」
繰り出される爪を掻い潜りその面の上へと飛ぶ。
それに反応し炎を吐くが、聖剣を振るい薙ぎ払う。
「この程度で……私を止められると思ったか!!!」
「――■■!!」
一閃。重力の勢いも借りそのまま真っすぐに首を一刀両断する。
断末魔さえ満足に挙げられずキメラはその身体も首も跡形もなく消え去った。
「あれだけのサイズも一撃か」
「ただの模造品なので。本物のキマイラならこうはいかなかったでしょう」
地に降りるとロードが呆れたように賛辞を述べるが簡単に返すに留める。
確かに大したものだったが、あくまてそれは即興の中ではに過ぎない。この程度でやられるほどやわでわない自負はある。
「とにかくお疲れ様……あれが肝だったみたいね。空間が崩れかけてる」
「下手に飛び込むよりも待つほうが良いでしょうね」
リンの言葉の通り、空は色を失い、大地にはヒビが入る。
彼女の言うとおりこの空間を維持していたのはあのキメラなのだろう。
そして剥がれ始めた世界の向こうには、戻るべき本来の世界が見え隠れしていた。
これだけの仕掛けをしてくるのには何か狙いがあるはずだ。
急がなければならないのは確かだが、万全を期さなければなるまい。
ほんの僅かな時間。一瞬暗闇に呑まれるその時、集中のため私は目を瞑った。
「これは――!?」
そして目を開けた時、目の前に広がる光景に私は目を疑った。
なぜ彼女が私達より先にたどり着いているのか、なぜ転身しているのか、疑問は尽きない。
だが何よりも――
「クロ――?」
転身したイリヤと切り結ぶ少女には、嫌というほど見覚えがあった。
どうもです!
とりあえずまずは他にめぼしい話題もないので英雄王ガチャですね。
課金はあまりしたくないので今回はチケットと元々の持ち石で計9回引きました。
ええ、期待しましたよ。金のアーチャー来たときは。まあアタランテ可愛いからいいけどね!!(ようするに収穫はアタランテさんのみ。チケットはプロト兄貴が黒鍵にサンドされました)
もうお願いだから早くオケアノス来てくれ……再臨辛すぎるんだよ。セイバーピース欲しいのにたまり続けるアーチャーピース
爪がほしいのに出てくるのはアサシン輝石とライダー輝石、ここまで育てるのが大変だとは思いもしなかったよ!!
まあなんとかオルタさん再臨してちょこちょこ育ててます。ドレス見れるのはいつになることやら……
皆様も再臨アイテムは定期的に集めて起きましょう。レベルストップしてからあつめるのは地獄ですよ……
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