――魔力に満ちているのは間違いない。その容量は正規のサーヴァントと同様のレベルという化物っぷり。しかし魔力回路があるわけではなく、同時に魔術師としての素養も感じられない。だが一般人と呼ぶ事だけは出来ない。
お前達が知りたいであろう何者かという問いについてだが――その質問に答えるのは大師父でも骨を折るだろう。
結論として彼女の正体は分からないということになる。
田中という人物については彼女自身に敵対する意思がない限り傍観するしかないと言うことで一応の決着を迎え、今はまた微妙な空気がこの場を支配していた。
あまり良い意味での進展がない以上仕方のないことではある。
「まあそれはおいおいでいいとして――いつ迄黙ってるつもりよ、ギル」
静寂を破るのは時計の針音だけ、そんな現状を破ったのは――昔もそうだったが――例のごとくリンの一言だった。
「――はい、なんでしょうかリンさん?」
きょとんとしながら微笑みを浮かべるギル。
しかしその言葉とは裏腹に、彼女の言葉に思い当たるふしがあることは明確だった。
「――――」
「おっと、怖い怖い。睨まないでよセイバーさん。リンさんのそういう顔は僕としても見てて楽しいものだけど、貴女がやると恐怖しか覚えない。
全く……オリジナルの僕は実は被虐体質とかだったんじゃないかなほんと……」
ギルは両手を挙げて降参というふうに苦笑いを見せたかと思うと横を向き小さくぼやいた。
何か聞き捨てならない言葉も混じっているような気もしましたがこれ以上話が進まないのもややこしいので今は見逃すこともしましょう。
「そうですね、僕達――セイバーさん、そんな嫌な顔しないで。少なくとも今の僕は味方なんですから――の最大の懸念が戦力の確保と言う話になったと思うけど、それについてはあてがある。それが朗報です」
「あてがあるって……簡単に言うわねあんたも。私達だってこの世界に跳ばされて協力してくれるような手練がいるかどうかくらい探したわよ――けどそんなやつはいなかった。
どう言う訳かは知らないけどこの世界の魔術は私達の世界に比べてどうも衰退している。ロンドンも同じ、形こそ残ってはいるものの力は無かったわ。それは教会も同じだった……下手すりゃこの世界の最高戦力は私なんじゃないかってぐらい」
この世界の魔術師事情というのもどうやら複雑なものらしい。
最低でも私レベルじゃなきゃ戦力には数えられないと苦い顔をするリンをギルは真意の読めない微笑みを浮かべたまま見据える。
「もちろん分かってますよ。まあ貴女以上の雑種なんてどこへ行ってもそうそういないでしょうけど――」
「その雑種って呼び方やめてくれるかしら? すっごい嫌だわ。理由は特に無いけど」
「――なるほど、記憶に刻まれてるわけだ……分かりましたよ、リンさん。もう貴女に雑種呼びはなしだ」
「よろしい。じゃ、続けて」
と思えばすぐにギルも眉がぴくりと動く。
二人の間の空気が不穏なものが混じり始めているのを私はどうすれば良いのか――何もしないが吉なのでしょうね
仲裁に入るべきかどうかの脳内会議をあっさり閉廷すると下手に刺激しないように傍観すべく目の前に置かれた煎餅に手を伸ばす。
「ええ、仰せのままに――それは当然です。僕が言っているあてというのはこの世界の住人ではない。貴女達のように他の世界から紛れ込んだ不純物だ」
「――ギル!? それはまさか!」
バキッという音とともに煎餅が砕ける。
それは口によるものではなく、驚きによって必要以上に力の入った私の手によるものだ。
「その通りです。セイバーさん。薄々気付いているとは思いますけど、この世界に飛んだのはあの空間にいた者全てです。
とすれば――」
「クロ達も――」
私の言葉にギルは頷く。
「時系列で考えると、まず最初にリンさんが2週間前に、それからほどなくして僕が飛ばされました。
いやあ、焦りましたよ。だーれもいやしないんですから……まあそこからアンテナを張ってたら一週間前にまず2人反応が、そして2日するとまた2人、また2日して2人、1日おいて1人、そして今日2人――これはイリヤちゃんとセイバーさんですね。
とにかく、リンさんが来てから計9人がこの世界に入り込んだのは確認済みです。
そしてその大半は恐らく僕とセイバーさんが打ち合った時にいた――」
「彼女達、ということですね。因みに誰がどこにいるのかというのは」
「残念ながらそこまでは。あの雑種はどうやら見る目はあるらしい。めぼしいのは全部持ってかれて精度が低いのしかないんですよ。
誰がいつ来たのかも実際問題分からないですね」
「そうですか……」
苦々しげにそう言う。今彼の言った雑種というのは恐らくアンジェリカのことだろう。
それにしてもクロ達もこちらにきているというのは良い情報であり、そして気がかりになることでもある。
特にギルの話だと誰かは1人ということになる。言峰やバゼットといった大人ならともかくそれがもしもクロかもしれないと考えると――
「ちょっとついていけないんだけど……私の探知の後にそれだけの戦力になりそうな人が大量に入ってきた。こういう認識で良いのかしら?」
「あ……申し訳ない、リン。その認識で大丈夫です」
不安から一瞬できた沈黙、蚊帳の外になってしまっていたリンが頬づえをつき少しむくれながら再び破る。
認識がギル、私と彼女では異なっているのだ。
そういう細かい所にも気を使わなければいずれ重要な行き違いも起こりかねない。
「なるほどね、因みに誰が来てるのかしら? 平行世界の住人だから結局は別人だってのはわかってるんだけど……それでも向こうの知り合いとかは気になるものじゃない?」
「はい、最後に私達と一緒にいたのは――」
まだ体感時間としては1日も経っていないはずなのに、もはや懐かしくさえ思える面々を頭に思い浮かべる。
「まずはクロ――イリヤが持っていた聖杯としての機能が人格を持って独立した、と言うべきでしょうか……面識はないと思いますが貴女の知っているイリヤスフィールをイメージしてもらえれば良いかと」
「初っ端から頭痛くなる説明ね……」
「大丈夫です。彼女は良い娘だ。リンもきっと気にいるはずです」
リンの顔色が悪くなったように見えるのはきっと気のせいではない。
「続いては……こちらは貴女もよく知っているはずだ。ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト、そして……遠坂凛」
「――もうイヤよほんとに。いや、貴女の話を聞いてそれなりに覚悟はしていたつもりだけどさ……そっか、あの成金も、そして私もいるのね……」
リンはもうどんな反応をしたらいいのか分からないというふうに頭を抱える。
彼女の気持ちは分からなくもない。私とて、自分と同じ存在がすぐ近くにいると言われれば複雑な気持ちにもなるはずだ。
「リン、顔色が悪い。別に無理をして聞く必要は……」
「大丈夫よ。これ以上頭の痛くなるような相手はそうそういないと思うしもう覚悟はできたわ」
その言葉とは裏腹に彼女の心は既に折れかかっているように見えた。
しかしこう言っている以上止めればそれはそれで逆効果だろう。
「そうですか――この人物は貴女はしっているでしょうか? バゼット・フラガ・マクレミッツ。封印指定執行者ということでしたが……」
「バゼット!?」
今まで瀕死の体だったリンがガバッと顔を上げそのまま身を乗り出す。
ここまで強い反応を示すということは何か覚えがあるのだろうか。
「知り合いですか?」
「いえ、直接面識があるわけじゃないけど名前は知ってるわ。協会の中でも指折りの実力者だもの。
――そっか、彼女がいるってのは心強いわね。正確には分からないけど彼女の切り札はそれこそどんな相手でも一撃で消し去るって評判だし。
それにね、セイバーは知らないだろうけどランサーのマスターは彼女だったのよ」
「なんと!?」
今度は私が驚く番だった。
冬木の地で始めて対峙したサーヴァントランサー。アイルランドの光の皇子ことクー・フーリン。
彼との接点はその一度だけであり、そのマスターまでは知る機会がなかったのだが……元の世界でそのような関わりがあったのは驚きの一言だった。
「やっとまともなやつが出てきたわね。よし、元気出てきた。次いきましょ、セイバー」
にわかに活気付くリン。
ここまであまり彼女にとって良くない因縁持ちの相手ばかりの中でようやく挙がった通常の助っ人にテンションが上がっているのだろう。
「そうですね。後は――あ、」
そうだ、大事な人を忘れていた。
頭を捻って思い出した私はその人物を失念していたことを恥じた。
彼女にとって1番縁ある人物がいるではないか
「いました。リンにより強い関わりを持つ人物が。それも相当頼りになります。話を聞いただけですが、劣化した存在とはいえバーサーカーを一度殺したというほどの手練です。加えて人格的にも何ら問題ない」
「ほんとに!? いや、けど待って。私の知り合いにそんなやついたかなあ……」
パアっと顔を輝かせた後に、ん?とリンは考え込む。
どうやら彼女の中で兄弟子の評価はそこまでは高くないらしい。いや、近すぎるほど見えないものもあるというやつのだろうか。
「んー……わかんないわ。セイバー、じらさないで教えてよ」
リンが急かす。
彼女の言う通りここで焦らす意味もないだろう。
「はい、リン。言峰……言峰綺礼です。確か貴女の兄弟子のは――リン?」
「は――――」
その言葉を聞いた途端、今度こそリンは固まった。
「まさか――」
目の前に手を持っていってひらひらと振る。しかし反応はない。顔から血の気は引き、その目はどこか虚空を見つめている。
そして横を見てみればここまで沈黙を貫いていたギルが必死に笑いを押し殺していた。
それを見て私は悟らざるを得なかった。
「……ギル、貴方知っていましたね?」
「ま、何となくですけどね……いやあ。面白いものが見れました」
「すまない……リン……」
人には触れてはいけない地雷のようなものがあるのだと。
「2人は不明……どういうことよそれは。ギル、あんた間違えてんじゃないでしょうね?」
「それは僕の財にケチをつけてるんですか? それなら流石に黙っている訳にはいかなくなるんですけど」
バチバチと火花を散らすリンとギル。
あれから十数分。ようやく機能を回復したリンはいつもの調査を取り戻していた。
もっとも先程までは「なんであれとまた会わなきゃならないのよ……」「こんなの嘘よ、目が覚めたら全部夢に決まってる」等と彼女に似合わぬ弱気な発言の連続だったのだが。
ともかく今は新たに発生した問題に生気を取り戻し、同時にいつもの調子にもどっている。
そしてその問題というのは――
「だってそうじゃない。セイバーが挙げたのは自分とイリヤを除いて5人、それ以外に心当たりはないって。けどあんたは7人って言ってる。
これじゃあ他のメンバーが来てるかどうかの信頼性もなくなるってもんよ」
「知りませんよ。僕はそこまでそちらの事情に踏み込んでないんですから。とりあえず僕は7人の来訪者が世界の壁を越えてきたのを感知した。信じないというのならご自由にどうぞ」
そう、人数に矛盾が生じているのだ。
私に心当たりがあるのは先程いった者のみでそれ以外はない。
しかしギルは確かに他にも2人の存在があると主張しているのだ。
そうこうしているうちにリンとギルはプイッと互いにそっぽを向く。
「ま、まあ今はそこまで気にしなくても良いではないですか……もしかするとあの付近に巻き込まれた者がいたのかもしれない。
それを確かめるのはまず探してみてからでも遅くはない。来ているのならきっと皆も合流を望んでいるはずです」
そこまで根拠のない願望と言うわけでもない。
拠点がない以上それを求めるのは人の常だ。特に今の季節は冬、野宿には限界がある。
「まあそれはそうかも知れないけど……」
「僕が間違っているなんてありえないですけどね」
私の言葉で2人の対立は一応の終結を迎えたらしい。
「なら今夜はそろそろお開きにしましょう。探索をするにも昼の方が効率が良いはずです」
時刻は気がつけば22時を回っていた。
明日以降もあるしこの2人の今後の関係が心配になるがとりあえずはこれで良いだろう。
そう思い席を立とうとし――
「――――っ!」
違和感を覚えた。
この感じは知っている。確かにエミヤ邸に間違って酔っぱらいか
何かが入ってきた時のそれだ。
ぴーんと張り詰めた糸に取り付けた鈴が刺激を受けて鳴り響くような。
「リン――」
「分かってる――これは――」
「まさかもうお出ましとはね。何が淑女の帰り道を邪魔しちゃいけないだ。紳士が聞いて呆れる」
その仕掛け主であろうリンは勿論のこと、ギルも同じ感覚を抱いたようで真剣な表情で2人とも立ち上がる。
「行きましょう――夜分に招かねざる客、それなりの対応をすべきでしょう」
この時、私達は気づかなかった。というよりもその可能性を考えもしなかったというのが本当だろう。
戦えるのは自分達だけだと思い込み、より早く異常に気づいた少女が誰よりも早く打って出ていたことを。
前書きに書いたことが全て。感動に打ち震えております。
皆さん今後とも応援よろしくお願いします。
FGO速報? ギルイベまではひたすら待ちですよ!!石全力で貯めるから特に何もないんですよネタが!! あ、オルタのキャラクエ半端なかったです!
他のネタ? パジャマセイバーは反則だと思います!(コミックアラカルト無限の章並感)
久しぶりに投票とかもらえたら嬉しいなあ……来なかったらさみし……おっと、心は硝子だぞ?
それではまた!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!!