Fate/kaleid saber   作:faker00

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お気に入りの伸びかたやらなにやらが半端なくて(作者比)狂喜する作者。頑張ります。
今回は渾身のメインヒロインイリヤちゃんのターンです。
そしてそろそろあらすじの注意書きが役にたつかも……?


第4話 乙女の困惑

「むー…」

 

「どうしたんですイリヤさん?まるで恋する乙☆女みたいな溜め息ついちゃって~」

 

「あわわわ、ルビー!?学校で出てきちゃダメだって!」

 

「大丈夫ですよ~私の感知では私を見える位置に人間はいませんから~……それで、どうなんですか?」

 

「わかってる癖に……」

 

 肯定とほぼ同義と見てもいいであろう アハー、なんて楽しげな笑い声を上げるルビーに軽い頭痛とともにガックシと肩を落としながら他に人がいない夕焼けの校庭を1人……いや、2人でイリヤは歩いていた。

 頭が痛い理由はいろいろとある。 

 終わっていない宿題があったから朝早起きしようと気合い万端でベッドに潜り込むが逆に寝れなくなり睡眠不足だったり、体育の授業得意の50m走で顔面から突っ込む見事なヘッドスライディングをかましたり、提出物を出し忘れてそろそろ5時になろうかというこんな時間まで居残りになってしまったりと本当にいろいろだ。

 けれども今日1日どころかこの3日間に渡ってイリヤの頭を悩ませている一番の原因はそれとはまた別のものだ。

 

「アルトリア……セイバーさんのことですよね~本当にとんでもない美人ですよねあの人~顔良し、雰囲気良し、スタイル良し……ちょっとだけお胸が足りないですけどそれを補ってあまりある美貌はそうそうお目にかかれないですよ~」

 

 余計なことも混じっていたが大方その通りだ。

 昨日突然現れた正気を保つ味方のサーヴァント、アルトリア・ペンドラゴン、本人曰くアルトリアよりもセイバーという呼び名の方が気に入っているそうだが……まあ今それはあまり関係なく、ルビーの言うとおりとんでもない美人だということがイリヤにとってはとても大きな問題だった。

 

「すっごい美人……そうなんだよねー」

 

 うー、と片手で頭を掻きながら家にいるのであろう金髪美少女--ルヴィアが偽造戸籍を用意してねじ込むまでは自宅待機なんだそうだ--の姿を思い浮かべる。

 今ルビーが上げたことのみならず礼儀も完璧、声まで綺麗という完璧少女、イリヤからみると完璧お姉さん、だが。

 その彼女がイリヤに警戒に近い感情を抱かせている理由は一つしかない。

 

「それでもって士郎さんにべったりで……超強力ライバル現る!って感じですね~♪」

 

「やめて!それ以上言わないで!」

 

 ルビーのど直球な指摘にザクッと心に何かが突き刺さるような音をイリヤは確かに聞いた。もっとも、にやにやと笑いながら彼女の頭の上をクルクルと浮遊しているルビーはそれを楽しんでいる節があったが。

 

 そう、セイバーはあくまで兄が偶然呼び出した英霊でありそれ以上特に意味はない、とイリヤは考えていたがどうにもその考えは間違っているんじゃないか?と揺らいできていた。

 それというのも--

 

 --セイバーさん、気がついたらいつもお兄ちゃんと一緒にいる……

 

 普段自分がしてきていたことだからこそ気付いた由々しき問題があるからである。

 

「だってお風呂と寝るとき以外ずーっとだよ!?心配になるに決まってるじゃない!」

 

 それ以外だと風邪を引いた時に夜看病してくれたときくらい。

 治りかけが一番危ないのですときてくれたときは本当に嬉しかった……昼間少しよくなった時に美遊のメイド姿に変なテンションになったせいで体調が悪化したのは絶対に内緒だ。

 

「あらーイリヤちゃんジェラシーば・く・は・つ、くぅ~! たまらないですよ~その幼いながら剥き出しの独占欲!イリヤさんのオンナが出てましたよ今の叫びは~……勿論録音済み」

 

 しかしそんな悲痛の叫びすらルビーの餌となった。

 

「いやぁぁぁ!!最悪!最悪の弱み握られたよ私!!」

 

 --またルビーのおもちゃにされる……

 

 イリヤは軽率な発言を呪った。

 

 そして考える。背中を後ろからポンポンと叩くように飛んでいる性悪ステッキに弱みを握られるのはこれで何個目になるのだろうかと。そして直ぐに考えるだけ無駄だと諦める。

 と言うよりも考えれば考えれるほどそろそろ主従関係が逆転するんじゃないか?という見たくない現実がちらついてくるからやめた。

 

「まあイリヤさんの心配もわかりますけどね~……ちょっとそれ以上の問題かもですよ?ほら、前」

 

「ルビーはそうかも知れないけど私には重要なの~……で、前って一体……美遊?」

 

 どうせ大したことではないのだろうと思いながら上を向くと校門の横に見知った黒髪の見るからに大人びた雰囲気の少女……最近ようやく距離感が縮まったように思える美遊が見えた。

 

 --おかしいな?こんな時間にいるわけがないんだけど。

 

 はてな?とイリヤは首を傾げる。

 小学生であるイリヤ達に部活動はない。今のイリヤのように居残りでもなければこの時間に学校にいるということはほとんどないのだ。

 勿論イリヤに比べて遥かに頭がいい美遊が居残りになるとはイリヤには思えなかった。

 

「あれですよ~あれ、こないだメイド服姿の美遊さんを襲ったやつ。イリヤさん、かなり彼女のことを辱めましたからね~仕返しにきたんじゃないですか……同じようにイリヤさんにメイド服を着せて」

 

「ちょっ!? 表現が最大限にいやらしいよルビー!? ……待って。仕返しってまさか……」

 

 --有り得ない、なんて言えない。

 

 イリヤの脳裏にあの日の光景がよぎる。

 勢いで押し切ったとは言えあの日の行動は充分根に持たれてしょうがないものだったと今のイリヤは理解していた。

 その証拠と言うべきか彼女の背中とランドセルに挟まれた薄い紫のTシャツは湿ってその色を濃くしていた。

 

「やだよ!?メイド服見るのは楽しいし可愛いと思うけど着るのは恥ずかしいもん!!」

 

「それは自業自得ってやつですね~いや~私の内部のイリヤちゃんフォルダがますます潤いますよ~これは~」

 

 完全に楽しんでいるルビーに目の前が真っ暗になったような錯覚をイリヤは感じた。それどころか思考は本人の預かり知らぬ所で暴走を始めていた

 

 --これはどうしようもないかもしれない。逃げる?ダメだ。足には自信があるけど美遊には適わないしそもそも校門以外に出口はない。そして頼みの綱であるルビーは完全に敵だ。頼りになるどころかその話を聞けば確実に泥沼に背中から突き落とされちゃう……!

 

「イリヤ……?」

 

「えーと、えーと」

 

 --なら他に突破口はないのか?いくら考えても見つから……ない。こんな時に助けてくれる人、そんな人がいるとしたら……

 

 イリヤの理性、羞恥心その他諸々はそこで吹き飛んだ。

 

「お兄ちゃんのことだよね!!」

 

「ええ!?」

 

 イリヤはいつの間にか目の前と言える距離にまで近付いていて不思議そうな表情をしている美遊の肩をがっちりと掴み揺さぶる。

 突然、そして想定外の出来事に美遊の顔は引きつって硬直しているが既に冷静さの欠片すら残していないイリヤがそれに気付くことはない。

 因みにこの時それを見たルビーはあまりの面白さに羽をピクピクと痙攣させながら笑いを堪えていた。

 

「やっぱり美遊もセイバーさんの事が心配なんだよね!?」

 

「え?え?何が?」

 

 それでもイリヤのマシンガントークは止まらない。勢いのまま美遊を校門の横の壁に押し付けるとそのまま顔を真っ赤に上気させながら暴走し続ける。

 

「セイバーさんとっても可愛いもん!お兄ちゃんとられちゃうよこのままじゃ!」

 

「セイバーさんに……?」

 

「そう!美遊も困るよね!」

 

「……それは……困る……!」

 

「アレッ!?」

 

 妙な友情が芽生える。

 イリヤと美遊は満足気にお互いを見つめ合ってがっちりと握手をしているがそれに違和感を覚えた者もいた。

 あいにくそれを口にする気は彼女にはなかったが。

 

「美遊!」

 

「イリヤ!」

 

 

 

「で?なーにしてるのよあんたたちは。美遊、ルヴィアも車で待ってるわ。 全く……なんであなたまでイリヤのペースに巻き込まれてるんだか」

 

「「あ……」」

 

 どれだけそうしていただろうか。実際のところは数秒なのだろうがイリヤと美遊の2人にとっては長い時間は突然終わりを告げた。

 そう、眉間にしわを寄せこめかみに青筋を立てたあかいあくまの登場によって。

 

 

「痛い……」

 

「……通常の女子高生の拳骨の威力でこれは有り得ないです」

 

 プクーと仲良くたんこぶを作ったイリヤと美遊は文字通り頭を冷やしていた。

 その前には未だに不機嫌そうな凛と呆れたと言わんばかりに顔をしかめるルヴィアがイリヤ達に向かい合うような形に座っている。

 ここはルヴィアの車の中。

 

 痛烈な痛みとともに頭に星が見えたと思えばイリヤが次に視界に収めたのはこの風景。

 間違いなく数分記憶が飛んでいた。

 

 

「あのー……これからなにを?」

 

「作戦会議&クラスカード回収ってところね。次のカードが見つかったの。」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 一歩一歩歩くごとに踏みなれられていない地面が沈み、固まる音がする。

 規則正しい足音は計4つ。

 ここは冬木郊外の大きな森の中。都市部から少し離れたここに市民が足を踏み入れることはそうそうない。

 そんな人気のない暗い森の中を人が見たら場違いだと100人中100人が口を揃えて言うような恰好の少女達は進んでいた。

 

 

「ひゃい!?」

 

「どうしたのイリヤ!?」

 

「カラスが……」

 

「その程度でおたおたしない!」

 

 発光する2本のステッキをライト代わりに先陣を切る凛に怒られて、まだ何も始まっていないというのにイリヤの精神は既に限界スレスレだった。

 とは言っても、凛とてイリヤに配慮していない訳ではなく、なるべく何も見たくないという願望から下を向き、歩く方向を凛の腰をヒシッと両手で掴むことで把握しているイリヤの行動を黙認しているだけいくらか良心的と言えた。 

 もちろん、それを見てニヤニヤしながら明日はどうやって弄ってやろうと悪い顔をしているステッキに言及するまではしなかったが。

 

 

「ここね」

 

「あいた!」

 

「ほんとあんたって子は……」

 

 目的地に到達したのか止まった凛の背中にイリヤは顔面からつっこむ。

 それに振り返った凛の顔は呆れを通り越して何か残念なものを見るようなそれだったが幸か不幸かそれをイリヤが見ることはなかった。

 

「歪みは……大丈夫のようですわね。それ自体が異常なのでこの表現が適当かどうかは疑問ですが安定していますわ」

 

 そんなイリヤの横を殿を努めていたルヴィアがすーっとすり抜けて行く。

 そして一際大きな木に触れるとふーっと息をを吐いた。

 ここで問題ないらしい。

 

「今日ってこれからカード回収するんですよね?」

 

「そうよ?そうでもなきゃわざわざこんなところこないわ」

 

 そんなルヴィアを見てイリヤは横に立つ凛に問いかける。

 

 --人、少なくない?

 

 ここにくるまで何度か見返してみたけど……絶対足りない。

 

 何度数えてもここにいるのは4人と2本だ。それ以上はいない。

 つい先日まではそれで問題なかった。けれど今となっては最大戦力と言って過言ではない彼女の姿が見えないことにイリヤは違和感を覚えていた。

 

「セイバーさんは?」

 

「ふんっ私はあんな人を味方、だなんて認めた覚えはありませんわ。これは私達の任務、あんな得体の知れない相手に頼るつもりは毛頭ありません」

 

 それについて聞こうとするとその豊満な胸の前で腕を組んだルヴィアがプイッと横を向いてそう吐き捨てる。

 そんなことを言うなら私と美遊がここにいるのはなんなのか、とイリヤは感じたがそれを口にはしなかった。疑問を解消するのと引き換えに全く釣り合わない対価を支払わされるであろうことはルヴィアを見れば分かるからだ。

 

 このお嬢様、とりあえず機嫌が悪い。

 

「ちょっと凛さん……!」

 

「あー、ごめんねイリヤ。作戦会議というか話したかったのってこれのことなの。 こんな意地っ張りな奴だけど間違いなく頼りにはなるし協力しないと勝てるもんも勝てないから」

 

「……私も説得したけど無理だった」

 

 ルヴィアに聞こえないようにぼそぼそっと凛に耳打ちすると凛は苦笑いしながら ごめんね。と小さく両手をあわせる。

 美遊の説得も無駄だったということは本当にルヴィアの意思は堅い、ということになるのだろう。

 

「それにね、あいつの言うことも一理あるのよ。セイバーだけなら問題ない、と言うよりもいくらルヴィアが反対しようが連れてくるけど今はもう1人余計なのもくっついてきちゃうでしょ?」

 

「あ……」

 

 その言葉にハッとする。

 そう、セイバーが来るなら彼女1人、ということはないだろう。もう1人、絶対この場に来てはいけないし来てほしくない少年もやってきてしまうだろうことをイリヤは理解した。

 

 

「そういうこと。衛宮君を巻き込むのは論外よ。前回はセイバーがキャスターを瞬殺したから無事だったけど今回もそうとは限らないし。もし乱戦になったら真っ先に死ぬのは彼。 私達が守りきれる保証はどこにもない」

 

 死、という言葉にイリヤは背筋から血の気が引くのを感じた。

 ここにきて自覚が目覚めたと言っても良い。魔法少女となってから今まで自分の力、凛やルヴィアのサポートで事なきを得てきたが本来なら命の危険をふんだんに含んでいるのがこの任務なのだ。

 あと1時間後に自分が生きている保証などどこにもありはしない。

 

「ほら。 そんな顔しない!そうしないために連れてこなかったんだしあなたは私が守ってあげるから? ね?」

 

 そんなイリヤの心情を察したのか凛がバーンと背中を叩き励ます。

 その手はイリヤにとって痛いものではあったが、確かに安心感があるものだった。

 

「クラスカードはちゃんと持ってる?また落としてるとかなったら困るから最後の確認。」

 

「う、うん。ライダーとランサー。キャスターは美遊が持ってるから全部揃ってるよ。」

 

「セイバーはあれだからあと3枚か……よし!それじゃあいくわよ……接界(ジャンプ)--」

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり森の中なんだ……」

 

「いや~魔法少女と夜の森は相性最悪ですからね~定番の触手プレイなんか大抵こういう場所ですよ」

 

「やめて! 冗談でもやめて!」

 

 茶化すルビーの声に耳をふさぐ。

 ただでさえ夜の森で恐ろしいというのにそんなことを想像してしまえば足も竦みかねない。この場においてイリヤは日頃以上にもろい状態だった。

 

 

「それにしても見つからないわね。まあ鏡面世界があるってことはここにいるってのと同じだから間違いなはずないんだけど」

 

「英霊の数が減ってきたのもあってこの世界の広さもかなり縮小されている筈ですのにこれは確かにおかしいですわね」

 

「世界が狭く……」

 

 数分同じように木々が埋める道を歩いたところで少し開けた場所にでる。そこで凛がそう呟き足を止める。

 同意の意を示すルヴィアの言葉にイリヤが上を向くと空は今までみたそれとは全く違っていた。

 

 --形がなんだかカクカクしてる

 

 通常空というものは上を見れば視界全体を平面的に埋める。それは空に形などない--少なくともその下から見る分には--からだ。それは地球上のどこにいても変わることはない。

 よく流行りの歌詞などにこの空の下みんな繋がっている、などという文が多用されるのがいい例だ。

 だが今の空は違う。明らかに遥か彼方にはつながっていない。不自然な所で折れ曲がり、最終的に上空中央に向かって収縮している。

 

「……黒化英霊の減ってきた影響でしょうか」

 

「ですわね、まっこちらとしては探す手間が省けてありがたいですが」

 

 最初この任務に取り組んだときは遥かに大きかったのだとルヴィアが言う。

 

 イリヤはその空の異様な形に気を取られあまり聞いてはいなかったが。

 

 

「けど索敵って地味ですよね~よし、イリヤさん。ここは魔法少女っぽく上空からビーム連発して敵をあぶり出しましょう!」

 

「それは魔法少女じゃなくて敵の中ボスのやることだと思うよルビー」

 

 地味な空気に飽きたのかそんなことをいうルビーにイリヤは反対する。

 しかしこのままでも疲労が溜まる一方だという声がルビー以外からもあがりとりあえず一度やってみるということになった。

 そうしてイリヤが飛び始めたところで事態は急展する。

 

「え……」

 

「イリヤ!?」

 

 木々の間に何か黒いものが見えた気がした、と思ったらいつの間にか尻餅を着いていた。

 イリヤは混乱の中片手を地面についたまま何か違和感を感じた首筋を触る。

 そうしてねっとりとした感覚に震えながらその手を見ると頭が真っ白になった。

 

 --血……?

 

 自覚した途端に手だけだった震えは全身へと広がる。

 その震えを抑えるように両腕で上半身を抱え込む。

 そのまま力が抜けイリヤは膝をついて座り込んでしまった。

 

「ちいっ! こいつらどこから……!?いや、そもそも英霊が複数ってどういうことよ!?」

 

「そんなこと今はどうでもいいですわ!美遊、トオサカ、急いで散開!兎に角死角を潰しますわよ!」

 

「「(……)了解!」」

 

 イリヤは見ていなかったがその間にも突如出現した無数の黒い影が木々の間を駆け回り黒い短剣を次々と投げる。

 それを認めた他3人の動きは早かった。

 ルヴィアが声を上げると即座に互いが背中合わせになるように散り死角を削りガンド、宝石、魔弾といった手段で相殺、反撃に転じる……ただ1人を除いては。

 

「ば、バカ!早く立ちなさい!」

 

「ふえ……」

 

 イリヤは抱え上げられる感覚で正気を取り戻す。

 彼女の様子に気づいた凛が短剣飛び交う中を駆け寄り無理やり立ち上がらせたのだ。

 固まることでの狙い撃ちを恐れたのか凛はイリヤを立たせると直ぐに離脱する。それでようやく自分の足で立とうとするがそこで決定的な事に気がついた。

 

 --あれ……?立てない?

 

「イリヤさん!?」

 

 足がふらつく。ルビーの声に答えようとするが声がでない。視界も眩んでふらふらと世界が揺れている。

 混乱だけではない。何か先ほど飛んできたものに仕込みがあったのだ。とぼーっとしはじめた頭ながらイリヤは理解した。

 

 

「あっ……」 

 

 再び倒れこむ。今度は立ちたいのに、立てない。

 

「イリヤ!!」

 

 それにもっとも早く気付いたのはまたも凛だった。その叫びは何とか逃げろというとにかく必死の思いがこもったもの。

 いつの間にか影の大半は3人の注意を削ぐ最低限の人数のみを残してイリヤの正面に集中していた。

 

 

「---!」

 

 一斉にイリヤへと向かう短剣、そしてそれを投じた英霊「達」。

 そいつらはみんな同じお面を付けた黒い体。

 そしてそれは全てイリヤにはスローモーションのように見えていた。

 

 

 

 --なんでこうなっちゃったんだろう

 

 ゆっくりと、けれどかわすことは出来ないと分かっている剣をまるで他人事のように眺めながらイリヤは考えていた。

 はっきり言ってしまえばこの相手はあまり強くない。キャスターのような火力もなければライダーのようなスピードもパワーもない。だというのに今こんなことになってしまっている。

 

 

 --もうだめかもなあ……

 

 何となくそんなことを思う。

 これでゲームオーバーだ。今回は負け。また次がある……そんなものあるの?

 

 

「いやっ!」

 

 当然のことに気がついた。

 それだけで冷や水を頭から掛けられたように浮遊感が抜ける。

 

 --あれが当たれば死ぬ!間違いなく!!

 

 細胞すべてが警鐘を鳴らす。どうやってもそれは間に合わないのに。

 

「イリヤ!!」

 

 自分の名を叫ぶ声が聞こえる。けどそれすらも耳障り。

 

 --ヤバい!ヤバい!ヤバい!!防げない、当たレバ死ぬ、シンだらだらど…なる? ワカラナい

 

 駆け巡る思考

 

 --イヤだイヤだイヤだ!

 

 いつしか考えることを止めそれは否定と拒絶以外の意味を失う

 

 イヤイヤイヤイヤイヤ--ナラアケワタセ--イヤイヤイヤ

 

 入り混じるノイズ

 

 --イヤイヤイヤシニタクナイシニタクナイ

 ----オマエデハムリ

 

 片隅に生まれた小さなそれはどんどんと広がる

 

 --ダレダレダレ

 ----チカラヲカシテヤル

 

 -ータスケテ 

 

 全てが、暗転した。

 

 

 

 

「風よ!!」 

 

 凛々しい声が聞こえ、巻き起こる突風を感じ、吹き飛んでいく無数の短剣が見えた。

 しかしそれを感じたのはイリヤであってイリヤではなかった。

 

「----!!」

 

 

 

 




どうもです!

やっぱり本職だけあってイリヤ書きやすいな!(2話前にもそんなこと言った気がするけど気にしない)
隙あらばセイバーねじ込みますけどちゃんと意味はあるつもり。次回はついに、原作からガタッと外れたことやります。(もちろんセイバーさんのターン)楽しみにしてくれる人がいれば幸いです!

いよいよubwリメイク2期は明日! わくわくしながら待つ間にでも読んでもらえると嬉しいです!

それではまた!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!!

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