Fate/kaleid saber   作:faker00

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そろそろgo始まらないですかね……事前登録してからそろそろ半年立つ件


第8話 和解

「おはよー……あれ? 珍しいねセイバーさんが朝練ある日に家にいるの」

 

「おはようございます、イリヤ。実はルヴィアゼリッタに8時頃に家に来るように言われていまして……」

 

 パジャマ姿にボサボサ頭、おまけに片手で熊のぬいぐるみを抱え空いている方の手で寝ぼけ眼を擦りながら、のいかにも今起きたばかりという体でリビングの扉を開けたイリヤが椅子に座る私に驚いたように挨拶する。

 

 飲んでいたコーヒーをテーブルに置き私も挨拶を返す。

 朝食は既に取り終わっていた。今卓上にあるスクランブルエッグとベーコンの朝食のセットは1つのみ。

 通常のものよりもかなり小さいそれはイリヤの為に用意されたものだ。

 

「おはようございますイリヤさん」

 

「おはようセラ……ありがと――8時? それって私がいつも美遊と待ち合わせしている時間だよね?」

 

 よいしょ、とイリヤがテーブルに座ると同時にいつの間にやってきたのかすっとセラが現れオレンジジュースの注がれたグラスを彼女の手元に置きそのまま台所へと引き返していく。

 まるで最初からそこにあったかのようにイリヤの手の中に収まったそのグラスの中身をぐいっと飲み干すと今までトロンとしていた瞳が覚醒する。

 そうして今朝の時間ずっと私の頭の中を占めていた懸念にも気がついたようだ。

 

「なんでなんだろうね? わざわざこんな朝から」

 

「それが全く――」

 

 分からないが面倒なことになりそうなのは確かだ。

 

 律儀にそう告げてくれる直感にため息をつく。

 

 たまには外れてほしいと思わないこともないがまあ外れないだろう。それだからこそ私はこの直感に全幅の信頼を寄せているのだから。

 

「――セイバーさん凄い顔してるよ?」

 

「……っ、すみません。今後の展開を予想してつい――只でさえ凛の事で大変だというのに」

 

「凛さん……」

 

 凛という単語にイリヤの箸が止まる。

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの襲来から数日。

 表向き平静を保っている私達だが内情そんなことはない。

 切嗣を失ったアインツベルン家、特に事情を把握しているメンバーの焦燥は大きかった。

 いつも天真爛漫なアイリスフィールも理解こそしているが納得はしていないようで私が全てを打ち明けると

 

『なんであの人はいつも自分のことを捨ててしまうのかしらね……』

 

 と遠い目をしていたのが私の脳裏に焼き付いて離れないでいた。

 

 しかし精神的ダメージならそんなアインツベルン家の面々よりも凛の方が上だろうと私は心の中で危惧していた。

 彼女が知ってしまったことは大きすぎた。

 

 父親の死の真相、聖杯戦争と自らの繋がり、そして衛宮と自分。

 精神を病むのはある程度やむ無しだろう。事実この何日か私は彼女を見てはいない。

 自室に篭ってしまい食事も禄にとっていないようだとルヴィアゼリッタは言っていた。

 

 このまま行くのが好ましいとは到底思えない。

 

「なんとかしなければいけないのですが……う――思いの外苦いですねこれは」

 

 判然としない思いのままティーカップに手を伸ばしコーヒーを注ぐと口許へ運ぶ。新しい試みとして敢えて砂糖を入れなかったその味は苦く思わず顔をしかめてしまった。

 喉を通る不快な刺激と同じように心の中に渦巻くさざ波に私はもう一つ大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

「おっねえちゃーん!!」

 

 だがそんな懸念は私達がエーデルフェルト邸に到着し、チャイムを鳴らし門が開いた直後――というよりも体感的にはほぼ同時と言っていい――に弾丸の如く飛び込んで来た少女によって強制的に頭から消し飛ばされた。 

 

「ク、クロ!? いったいその格好は!?」

 

 突然腰に感じた衝撃を受け止める。

 あまりの威力に全力を出したのに止まり切るのに数mほどを擁したことからもその勢いが窺えるだろう。

 地面にはローファーの底が摩擦によって幾分か削れたのか、二本のブレーキ痕がくっきりと写っていた。

 

 だがしかし、そんなものは大した問題ではない。

 私の鳩尾……もとい腰に顔を擦り付けるクロの服装には見覚えがあり。なおかつ彼女が身に纏うには意外なものであった。

 

 

「えへへー! ルヴィアに学校に行けるようにしてもらったの! どう? 似合う!?」

 

 ひょこっと顔を上げた顔を上げたクロの顔は満面の笑みに満ちていた。

 私から離れると制服をこれでもかのアピールせんばかりにくるくると回る。その姿は人を殺すだなんだ物騒なことを言う戦士のものではなく、年相応の可憐な少女のものだ。

 

「ええ、とても――ってちょっと待ちなさい、クロ」

 

 純粋に思った通りの賛辞を述べる――のと時を同じくして違和感を思い出した。 

 

「ん? なーにおねーちゃん?」

 

 頭の上にはてな、というクエスチョンマークが見えそうなくらい分かりやすくい仕草でクロは人差し指を顎に当て首をちょこんと横に傾げる。

 本当に分かっていないと言うことなのだろうか。

 

「――」

 

「……」

 

 そんなクロの斜め後方に見えるイリヤと目が合う。

 その彼女は……固まっていた。

 

「これはーー」

 

 おそらくだがあまりの展開に頭がついていかなくなったのだろう。

 だがその妙な沈黙もそろそろ終わりが見えてきていた。血の気が引いたように白くなっていた顔、特に頬が下の方から紅潮し始めている。

 

「あー――」

 

 どう声をかければ良いのか困る。

 生活を共にしていく中で分かってきたのだが、こうなった彼女は処理が追い付くと同時に爆発するのだ。それも後々本人が恥ずかしさで悶えること間違いなしの勢いで。

 そしてそれは止めることは今のところできておらず――今回も例外ではなかった。

 

「ちょっとまったー!! なに!? どういうつもり!? 私やママを殺そうとしてたやつがどの面下げて学校行くとか言ってるの!? と言うよりもルヴィアさんは何考えてるのー!!」

 

 指で耳栓をしていたにも関わらず頭がキーンとなる。

 

 言いたいことは分かる。非常によく分かるのだが……この爆発はどうにかならないものだろうか。

 

 

 

「うるさいですわよ!! 全く……こんなところではしたない」

 

「あいたっ!?――ルヴィアさん……」

 

「チョップで人を判別するのも如何なものかと思いますが――まあそれは良いでしょう」

 

そんな私の心の内を代弁するかのような声とともにイリヤの脳天に強烈なチョップが突き刺さる。

 スパコーンという擬音が似合う綺麗なそれを真後ろから受け涙目になる彼女の向こう側には般若よろしい怒気を全開にするルヴィアゼリッタの姿が見えた。

 

「おはようございます。セイバーさん――イリヤ、大丈夫?」

 

 その隣にいた美遊は私にペコリと頭を下げると未だ痛みに苦しむイリヤに駆け寄る。

 仲の良い事は良いこと……なのだが最近どうもその姿にただの友人以上の何か踏み込んでいけないものの片鱗を感じるのは私の気のせいだと信じたい。

 

「おはようございます。ルヴィアゼリッタ――なるほど、私を呼んだのはこういうことでしたか」

 

「おはようございます。まあそれも間違ってはいませんわ。万が一クロが暴れ出しでもしたら私と美遊だけでは手に負えないのは事実ですから」

 

 なんとなくクロを見た時には察しがついていた。

 確かに私を呼ぶのは道理である。

 

「しかしどういうことなのです? ルヴィアゼリッタ。なぜ彼女を――」

 

「外に出すのか? と言うことですわね。あれから本人たっての希望があったのです。イリヤに手を出したり魔術を使ったりしないから学校に行かせてほしいと」

 

「意外ですね。貴女はそう言った情に絆されてリスクを犯す人間ではないと思っていたのですが」

 

 私がここにいる時点でルヴィアゼリッタは承知の上だったということで間違いないだろう。

 

 年相応の柔らかさこそあるものの、ルヴィアゼリッタ、そしてこの世界の凛は向こうの士郎や凛に比べて魔術師らしい非情さがあると見ていた。

 だからこそいかに本人が希望しようとそれを彼女が許したことが少し意外だったのだ。

 

「む――なにか勘違いされているのかも知れませんが私とて血が通った人間です。確かに魔術師として抑える所は抑えますし非情にならざるを得ない場面ではそれを貫きますがなにもいつもそうだと言う訳ではありませんわ」

 

 私か何を言いたいのかくみ取ったのか、少しムッとした表情を浮かべるとルヴィアゼリッタはそう言い切る。

 あまり触れてはいけないところだったのかもしれない。

 

「申し訳ありません。ルヴィアゼリッタ」

 

「構いませんわ。魔術師とはそう見られる人種なのはまあ間違いありませんもの――ちょっと」

 

 謝罪すると、別にそんなことはする必要はないとルヴィアゼリッタは手を振る。

 かと思うとチラッと目線を外し、少女達の注意が私達から離れていることを確認すると私に近づいて、ひそひそ話をするように顔を近づけた。

 

「それにですね……あの娘を拘束しておくというのがそもそも無理な話なのですわ。私が知っている方法は全て試しましたが尽く軽々と破られて――学校に行くことで無駄なことが起きる可能性を無くせるなら取引としても悪くないと思いませんこと?」

 

「なるほど……それは判断としては正しいでしょうね」

 

 私がルヴィアゼリッタの立場だとしてもそうするだろう。

 

「ですが――」

 

「だからなんでって聞いてるのよ!!」

 

 それにしても1つ確かめておきたいことがある。

 

 そう思い聞き返そうとすると高い少女の叫び声が耳を突き刺した。

 

「――っ! あの娘達と来たら……!」

 

「普通の少女ならば微笑ましい程度ですむのですが……あの2人だと冷や汗が出ますね」

 

 お互いにぱっと顔を離し声のした方向を向くといつの間にか喧嘩が始まっていた。

 

 2,3mの距離をおいて睨み合うイリヤとクロ、そして間でおろおろする美遊。

 ただの少女ではない2人のどちらかが一線を踏み越えればここは一瞬にして戦場となるだろう。それは避けなければならない。

 

「私か行きましょう。クロはどうも私に懐いているようですし話にはなると思います」

 

「お願い致しますわセイバー。それでは私は――念のためのに防音結界を貼り直しておきます」

 

 そんな物騒なルヴィアゼリッタの声を受けながら私は少女達へと歩み寄った。

 

 

 

 

「何を騒いでいるのですか」

 

「セイバーさん!」

 

「おねーちゃん!」

 

「セイバーさん……!」

 

 私か声をかけると三者一斉に視線をこちらに向ける。

 特に美遊のそれは、まるでヒーローが助けに来た瞬間の囚われのヒロインのごとく熱い期待の籠もったものだった。 

 

「だっておねーちゃん! イリヤが私のことイジメるんだもん!!」

 

 クロは真っ先に駆け寄ってくると私の袖を引っ張りイリヤを指差しながらそう訴える。

 とりあえずそれを振り解くことはせずに為すがままにされておいてお互いの話を聞くことにしよう。

 私に言わされるよりも主体的に出る言葉のほうが真実に近いはずだ。

 

「ー! そうやって直ぐにセイバーさんに飛びつく! 私はイジメてなんかないんだから!!」

 

「へへーん! おねーちゃんは私のだもん! イリヤになんかあげないわ!」

 

「――――」

 

 訂正。どうも私か主導権をにぎらないとそもそも話が脱線しそうだ。と言うよりも既に半分以上脱線しかかっている。

 

「とりあえず私のことは良いですから……なんで喧嘩してるのかと聞いているのです。それをはっきりさせないようなら私はクロのことを嫌いになりますし、イリヤの事も悪い子としてシロウに報告せざるを得ません」

 

「――」

 

「――」

 

 絶望、私の言葉に瓜二つの容姿をした少女達は全く同じような顔をする。

 その姿に合う形容詞は絶望しかない。

 まるでこの世の終わりのような空気を醸し出す彼女達に若干の罪悪感が湧いてきたのは隠し通す必要があるだろう。

 

 

 

「だって――」

 

「ん? なんですかイリヤ」

 

 数秒の沈黙の後下を向いたままボソッとイリヤが口を開く。

 

 あまり聞き取れなかったがその声は震えているように思えた。

 

「だっておかしいじゃない! こいつは私のこと殺そうとしてたんだよ! そんな奴と一緒に学校だなんて嫌に決まってるじゃない!」

 

 やはりそこが納得いかなかったのか。

 イリヤは再びキッとクロを睨みつける。

 

「だから……それを説明しようとしたんじゃない……」

 

 その言葉を受けて、クロは私から離れて彼女へと近づく。

 

「貴女からしたら私は怖いでしょうね……ええ、貴女だって分かってるんでしょ? 私達が普通じゃないって」

 

 その声は私に向けていたものとは別物。

 聞いているこっちが寒くなるような冷たいもの。

 

「パパが言ってたのを貴女もちゃんと聞いてたでしょ。イリヤ。私達は……コインの表裏のようなもの。偶々貴女が表で私が裏だった。それだけのこと。

 けど今は、私と貴女。ありえない事だけどどちらも表になっている」

 

 淡々と語る。

 その内容は私の聞いていないものだ。

 だと言うのに、なんとなくその言葉は自然と理解できた。

 

「だからさ……私にだって表の世界を見せてくれたって良いじゃない。もう貴女に成り代わろうなんて思ってないんだから……普通の女の子の生活を私もしてみたいのよ」

 

「――――」

 

 最後は絞り出されるように小さくなった声。

 私はイリヤに声をかけるべく一歩踏み出す。

 声をかけるというよりは説得だろうか。

 詳しいことはアイリスフィールに聞かねば確証はとれないがまず今私が持っている認識で間違いないはずだ。封じ込まれた聖杯の機能。その際に何か起ころうと不思議はないのだから。

 となると今の言葉は真実であり、その希望は叶えるに値するものだと思う。

 

 しかしイリヤの気持ちも分かるし、今のクロの説明で割り切れるほど大人ではないことも承知している。

 それならば私が手を差し伸べる他ないだろう。

 

「――った」

 

「え――?」

 

 だがイリヤの反応は意外なものだった。

 

「分かったって言ってるの……本当にそうならだけど……」

 

 ぼそぼそと呟く。

 しかし彼女の言葉は確かにクロの事を肯定していた。

 

「私だって別に殺されたりしないって約束するなら無理やり嫌う必要ないし……別に学校くらいはいい……よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

「驚きました、イリヤスフィール」

 

「なにがー?」

 

 今日は歩いて学校に行く気分だと語るルヴィアゼリッタに合わせて皆学校への道を歩く。

 先頭をウキウキで歩くクロに聞こえないように私はイリヤに声をかけた。

 

「先ほどの対応です。私はてっきり貴女が――」

 

「あのまま意地になると思った、でしょ?」

 

 私の言葉の先を読んだかのようにニッと笑って彼女は返した。

 

「私だって全部が全部納得してる訳じゃないよ? 正直クロのことを信用するなんて無理だし。けど――おとーさんの娘としてその言葉は守らなきゃ。突然のことで流石にちょっと混乱しちゃったけど、家族仲良く、ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投票を……投票をクレメンス

どうもです!

分かりづらいかもですがクロは前話最後起きていた、っていうオチです。
次は凛ちゃんさんのターンかそれとも……
 
それではまた!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!

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