Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「未来に向けた一歩」



77. Le pas pour le futur

 さて……鈴ちゃん、セシぃ、箒さん、織斑君を外に出したので始めましょうか。

 現在パーティー会場内にいるのは私とシャルを除いた全員がシュヴァルツェ・ハーゼの関係者……つまりドイツ側の人間です。

 多勢に無勢ではありますけど……まぁ、国防大臣の人柄から察するに、そう困った事態にもならない気がします。

 フランスからのバックアップもありますし。

 

「さて、いきますか」

 

 気合いを入れるために下ろしていた髪の毛を一つに縛ります。

 ……ドレスも実は私のだけ持ち込みなので気合い入ってるんですよね。

 もとからドイツのお偉いさんと対峙する気だったので正装も持ってきていましたから。

 

「エリーさんも、来てください」

「分かりました」

 

 シュヴァルツェ・ハーゼの参謀なのですし、親私派と考えても良さそうなのでついてきてもらうに越したことはありません。

 

「もちろん、シャルも」

「ふぇっ? って、どこか行くの?」

「話聞いてなかったんですか!? ……まぁ、シャルは私の近くにいてくれればいいです」

 

 シャルの手をギュっと握りしめて歩き始めます。

 向かう先は今だにラウラさんに絡んでいる国防大臣、エーデルトラウト・ボーデヴィッヒのところです。

 ……今日のことをどう捉えているのか、聞かなければなりません。

 

「ご歓談のところ失礼します。一時的にフランスを代表することになりましたアリサ・フワです。国防大臣のエーデルトラウト・ボーデヴィッヒに相違ありませんね?」

「……ふむ、君があの不破か……」

 

 なるほど……不破圓明流についても知っているようですね。もし、ラウラさんのクラスメートとしての私のことを言っているのならフルネームかファーストネームで言うでしょうから。

 ……少なくてもミス・フワとなるでしょう。

 まぁ、知られていてどうなるってことでもないのですけど……ただ、暗殺者として見られるのはヤですね……

 ママもその仕事をやっていたみたいですし、間違ってはいないのですけど……

 

「それで、用件はなんだね?」

「……フランスの代表、と言ったはずですが……この場で座ったままそれをお尋ねになるということは、ドイツにとってフランスとの話し合いなど場を改めるまでもなく、まるで世間話程度の重要度しかないということなのでしょうか?」

「む……」

 

 ……私が一時的にフランスの代表となっているの事実です。

 本国の方でも今回の事件の対応に追われているみたいですからね。まったく、軍隊を派遣していない証拠を出さないといけないなんて……

 フランスの保持している軍事力を公開して、さらに訪仏でもさせろという話ですか?

 まぁ、ドイツはまだ何も言っていないので、もちろんフランスの取り越し苦労の可能性もありますが。

 ……今回の騒動に乗じて、本当に亡国機業の仕業なのか明らかにすると言う名目でフランスに入るかもしれませんし。

 

「……どうやら、可愛いお嬢さんという風に考えていては痛い目をみそうだ。部屋を用意させよう」

「可愛いお嬢さんと思っていてくれても構いませんけどね?」

 

 ……試されていたみたいですね。

 正直、ある程度の会話のカンニングペーパーは送られているとはいえ、外交を任されるなんて初めてです。

 デュノア社の渉外を担っている人がリアルタイムで支援してくださってもいますが……彼も複数の仕事を並列してこなしているようですから、あまり負担はかけられません。

 秘書らしき人が大臣に近付き何かを囁きました。

 ISで解析することも可能ですが……まぁ、部屋が用意できました、とかそういうことでしょう。

 

「場所を移そう」

「はい。シャルとエリーさんとラウラさんもいいですか?」

「ああ、構わない」

 

 さて、油断しないようにしないと行けませんね。おそらく、なにもないとは思いますが……フランスとしても話し合いの場ができた以上、メリットがほしいですから。

 秘書さんについていくと応接室のような場所に通されました。

 見た目は普通ですが……扉を閉じたときの音からして鉄板が仕込まれているようですね。要人警護のためでしょうか。

 さて、全員ソファに座りましたし……では、始めましょう。

 

「まず第一に、ドイツは誰から侵攻された、と発表しますか?」

「無論、亡国機業だ。奴らがドイツ-フランス戦争を起こそうとしていたことなど明白だからな」

「それを聞いて安心しました」

 

 まぁ、ここらへんは予想済み……というより当たり前なんですけどね。

 それでも暗黙の了解なんてものを国家間に持ち込むわけにはいかないため言葉にしたまでです。

 次に確認しなければいけないことですが……

 

「では、訪独状態にあったフランスのIS操縦者二人が巻き込まれ、また協力を要請されたことへのドイツの対応はいかがなさるおつもりでしょうか?」

「現在、他の国の操縦者たちのことも含めて検討中だ。ところで……シュヴァルツェ・ハーゼの基地の一部がレールカノンのようなもので強引に破壊された形跡があるのだが……君のISには現行レールカノンでも最高の威力を誇るものが装備されていたな?」

「ええ、あれは私が破壊しました。エリーさんの指示のもと、戦闘が発生していた場所までのショートカットを作るため、ですけどね」

 

 私の左隣に座っているエリーさんが頷きます。右隣はもちろんシャルです。お手て繋いでます!

 ……というかエリーさん、向こう(ドイツ)側に座らなくていいんですか?

 

「つまり事態の早期解決のためか……なるほど」

 

 まるで打合せしていたかのようにトントン拍子で進みますが、こうなることを予想していたからこそフランス側の人も私を代表としたのでしょう。

 そうでなければ無理をしてでも本国から人を寄越したはずですから。

 

「あとは……亡国機業から接収した無人機の残骸……どれほどの割合で分割することになるのでしょうか?」

「分割……? あれは、我々の戦利品のはずだが……?」

 

 なので、ここからは私が勝手にやることです。

 ダメそうだったら素直に謝って芋引いちゃいましょう。

 

「ええ、ですが亡国機業はフランスの軍を装っていたわけですから無人機自体もフランスのものかもしれません。それが普通に海外向けに販売されているようなものならいいのですが……相手はあの亡国機業ですからね。もしかすると、私達がまだ公表していない技術のものを使用しているかもしれまん」

「それを調べるために一部を要求する、というとか?」

 

 少し、楽しそうな目で私を見ていますね……どうやら、また試されているようです。

 でも、まだ引き返すほどではないと思います。

 もうちょっと、踏み込みましょう。

 

「もちろん、ドイツが信頼できる国であることを証明していただけるのでしたら私達も無理に回収などせず、解析を任せてしまいたいのですけどね……」

 

 ここで、意味深な流し目でちらっ!

 これで食いついてくれればきっと私のプランは成功です!

 

「ほぅ……それはどう証明すればいいのかな?」

 

 本当に興味深そうに見てきますね……なんだか予想以上に楽しまれているのですが……もしかしたら、なんだつまらん、とか言われちゃうかもしれません。

 それに、ドイツが損すると思われてもいけません……私が言おうと思ってることは、その点では問題ないはずですが……

 

「無理に何かをしてもらうこともないのですけど……たとえば、同盟国を疑うことはしませんよね?」

「ほう、同盟」

「……三か月ほど前、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長であるラウラ・ボーデヴィッヒからイグニッションプランとは異なる、フランス・ドイツ間の対等な共同防衛体制をという打診が私がシュヴァルツェ・ハーゼに入ると言う条件付きでありました。もちろん個人的なものですけどね?」

「ほぉ……?」

「う……アリサ、それは……」

 

 ……あちゃー。

 予想はしてましたけど、やっぱり正式では、というか上層部に伝えたりはしていなかったんですね。

 まぁ、普通に考えてあんな話を本気で話す人もいないでしょうし、話されて本気にする人もいないでしょうからね。

 ですが……後でラウラさんが怒られる程度でフランスの立場が安定するなら躊躇する理由なんてありませんよ。フランスの立場が安定すれば将来のでゃるの立場も安定するということですからね。

 それに、これは私が勝手にやっていることなので成功しても失敗しても、私もお偉いさんに怒られると思うのでラウラさんにも我慢してもらいたいです。

 まぁ、ラウラさん的には完全に巻き込まれただけですけどね。

 

「それで、もし、その同盟が結べるのであれば後日、戦車などの型をご報告していただくことを条件に全てをお譲りします」

「ふむ……なるほど。これはやはり君の独断だね?」

「えぇ」

「「「えっ!?」」」

 

 その指摘に、私と大臣以外の三人が驚きの声をあげました。

 やっぱり(つたな)かったですか……分というものをわきまえなければいけませんね。もともと私の思い通りにするのが困難なのは分かってましたけどね。

 これが、年齢の差というものですか。私もこう見えて色々と画策することは得意だと思っていたのですが……政治に関しては何も知らない赤ん坊のようなものですからね。

 

「それで、続けるかい?」

「えっ? ……いいんですか?」

「もちろんだ。有用かも知れないプランの全貌を聞く前に席を立つなんてこと、政治家がするわけないだろう?」

 

 今度は私が驚かされる番だったようです。

 怒って出ていってしまうと思ったのですけど……これくらい器の大きな人じゃないと軍部の頂点には立てないのかもしれませんね。

 それなら、ここからは駆け引きはいりませんね。私のプレゼンテーション能力が必要になってくるだけです。

 

「ええと……それでは、私の提案通りドイツとフランスが同盟を結んだ場合のメリットとデメリットを考えていきましょう。もちろん、損なんてさせませんよ?」

 

 こう見えてプレゼンテーションは得意です!

 一考の価値がある程度に考えてもらえるよう頑張りましょう。

 

「まず一つ目は先ほども言ったように誰からも文句を言われずに戦車などを接収できます」

「唯一、文句を言うかもしれないのがフランスだからか」

「ええ、今のフランスには金属はあればあるほどいいですから。そして二つ目ですが、今回の事件が亡国機業によるものだと周辺国に体してアピールできます」

「ふむ?」

「フランスが現在微妙な立場にいることはもちろんご存じだと思います」

 

 最近、とうとうイグニッション・プランからも外されましたからね。ヨーロッパの中での発言力も随分低いです。

 ギリギリで爪弾きにされていないのはラファール・リヴァイヴが安定的に生産でき、汎用性の高さから各国でも使われているためです。

 

「ここで、現在フランスを支援している、というより第三世代型保有国を目の敵にしているIS後進国……つまり、第二世代型までしか開発できていない、もしくはそれすらできずラファール・リヴァイヴを使っている国々が今回の事件を大義名分にしようとするかもしれません」

 

 もちろん、彼ら一国一国に勝ち目はないですが同盟などを組んでドイツに攻め込むのなら話しは別です。

 それでもドイツが負けるとは思いませんが経済的にも大打撃を受けるでしょう。

 

「しかし、もし今回の事件がドイツとフランスの衝突だとしても攻め込んだのはフランス。開戦の大義名分にはならないのではないか?」

「ええ、ですが自作自演だ! というように騒ぎ始めたら仮に戦争などにならなかったとしてもお互いに面倒なことになると思います。条件さえ整えば戦争を起こそうと考えてる国もありますからね。第二世代型しかないのに第三世代型保有国にどうやって勝つつもりなのかは知りませんが」

「はっはっは、なかなか厳しいことを言う」

 

 第二世代で第三世代を相手にできる私やシャルは珍しい例です。燃費以外で第三世代に勝る部分がない量産機では、たとえ数が十数倍あったとしても第三世代型には勝てません。

 まして、フランスのラファール・リヴァイヴを使っている国ならなおさらです。海外向けのあれは絶対に第三世代型に勝てないように作ってありますから。

 

「それで、三つ目ですが……フランスは既にイグニッション・プランに返り咲くことは不可能です。もともとあれはヨーロッパ代表ともいえる機体の選定作業ですからね」

 

 ヨーロッパ全体の防備のため、とは言われていますが、さすがにヨーロッパを守りたいからなんていう騎士道精神のもと競っている国はありません。

 あれによって生まれる利権目当てです。当たり前ですけどね。

 なので、フランスが返り咲くことは参加国が認めないでしょう。

 

「それが、何かのメリットに?」

「ええ、イグニッション・プランでは度重なる試験動作によって、それぞれの機体のスペックデータを余さず抜き取られてしまいますよね? そうなると本国の防御の穴がつかれやすくなってしまうのではないですか? それに、ドイツもVTシステムの不正利用が見とがめられてプランの方も絶望的ですよね?」

「確かにその通りだが、今のフランスにその穴を埋められるとは、」

「あと二ヶ月です」

「む?」

「フランスの第三世代型ISの試作一号機が完成するまでにかかる時間です。機密なので詳しいことは言えませんけど確実ですよ?」

 

 私の真意を見抜こうと大臣さんが私の顔をじっと見ています。それに対する返答は……もちろん、自信満々にニヤリと笑うだけです。

 

「なので、ドイツはある意味では誰にとっても未知のISによって守られることになります。攻める側からしても相手の情報が分からないというのは怖いことですからね……って、ラウラさんたちに先に出ていってもらうの忘れてました!?」

 

 完成するまでの時間なら聞かれてもそこまで問題はありませんけど……機密は機密……洩らしちゃいました。

 

「なるほど……ラウラ、上の許可を得ずに勝手なことを言ったことは責めない。確かに彼女にはそれだけの価値はありそうだ……まぁ、今後の成長を含めて、だがな」

「大臣殿は隊長を甘やかしすぎだと思いますが、私もお姉様の近くにいたいので何も言いません」

「なにを、エリーも儂の大切な孫だぞ」

「いえ、私も試験管ベビーなので地球上のどなたとも血縁関係はございません。そして書類上では私と隊長は大臣殿の娘のはずですが」

 

 なんだか話が変な方向に……?

 え、娘?

 ……ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 ……エーデルトラウト・ボーデヴィッヒ。

 …………ファミリーネームが同じですよ!?

 

「あれ、じゃあエリーさんのファミリーネームって……」

「あ、正式には自己紹介していませんでしたか。失礼いたしました。お姉様、私はエリー・ボーデヴィッヒです。ラウラ・ボーデヴィッヒの戸籍上の妹に当たります。改めてよろしくお願い申し上げますね」

「はぁ……」

 

 真面目な話をしていたのに、なんだか急に気が抜けましたねぇ……大臣さんもラウラさんとエリーさんを愛で始めましたし……

 

「まぁ、ここで早速決定とはいかないが……フランス側にも準備があるだろうからな。ただ、なかなかいい話ではある。こちらでも検討しよう」

「……ありがとうございます」

 

 ……これで、第三世代型ISの開発が終わった後の友好国が一つ作れましたか。いきなり開発できました! だと不信がられそうですしね。実際、篠ノ乃束という裏技を使っているのですから。

 次はイギリス……ですかね?

 ブルー・ティアーズを開発した研究所とはパパが懇意にさせてもらっているはずですし。

 ……あの人も立場を弁えないというかなんというか……下手したら国際的な問題にされるかもしれないのに。

 夏休み最後に行くことになっているアメリカでもいいかもしれません。ただ、こちらから頼むと下に見られますからねぇ……向こうで実力を見せつけておけば第三世代が完成した時に声をかけてくるかもしれませんね。

 でもまぁ、とりあえずは……

 

「アリサ……また勝手に全部決めちゃうんだから」

「あはは……」

 

 拗ねてるシャルをどうにかしないといけませんね。

 ……私はまだ戦う気でいることも理解してくれていればいいのですが。


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