Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「炬燵の上の猫」


54.Un chat sur le kotatsu.

「さて、福音にリベンジするとは言ったものの具体的にどうしましょうか?」

 

 束さんが主張していた織斑君の部屋ではなく、その向かいの空き部屋を借りて作戦会議中です。

 織斑君がダウンしている以上、一撃必殺は難しいですし……

 ただ、アタッカーは篠ノ之さんで決定ですね。

 

「それなんだけど、箒は防御にもエネルギーを回してたからエネルギー切れが早まったんじゃないかな?」

「だとすると、防御役に徹する人と援護をする人、そして攻めるための人ってのがいいんじゃない?」

 

 シャルの発言を踏まえての鈴ちゃんの提案。

 うーん……つまり、アタッカーは防御役の人の陰に避難するということですね。

 

「とりあえず、わたくしは援護いたしますわ」

「そうだな。私も援護に回ろう。あの手の相手に有効な防御も攻撃もシュヴァルツェア・レーゲンにはないからな」

 

 今度はセシぃとラウラさん。

 うーん。

 この作戦会議みたいな空気、久しぶりですね……

 

「そうですね……それなら私の役割は、」

「アリサは箒と一緒にアタッカーがいいと思うな」

「え……ですが……」

 

 束さんとの約束があるので、私は直接関わっては……

 やっぱり、IS用に調整したあのステルスシステムは捨てがたいですし……これ以降に束さんの助力を借りれるかも分かりませんし……

 

「あーちゃん、誕生日いつ?」

「へ? あ、ハロウィンですけど……?」

「そっか、じゃあこれ誕生日プレゼント!」

 

 いえ、ですから誕生日は三ヶ月後ですってば……

 これは、DVD-ROM?

 いったい何が……?

 

「……きっと、あーちゃんも、あーちゃんのパパさんも喜ぶよ?」

「っ! じゃあ、これって!?」

「その、さっきは勝手なことしてゴメンね?」

「いえ、それは、その……」

 

 ラリアットでチャラにしましたし……

 これって、あのステルスシステムのデータですよね?

 でも、今渡すということは……受け取ったんだから約束は守れ、ということなのか、もしくは気にしないで戦ってこいということなのか……

 そんな私の迷いを感じ取ったのか束さんが小さく笑いました。

 

「好きにしていいよ。あーちゃん」

「……わかりました」

 

 なら、私がやることは決まりですね。

 

「では、篠ノ之さんが攻撃、シャルが防御役で、鈴ちゃん、セシぃとラウラさんが援護をお願いします」

「アリサ、あんたは何すんの?」

「私は遊撃です」

 

 私は高エネルギー効率で防御も攻撃もできますからね。

 シャルの防御が間に合わない時は私が篠ノ之さんを守りましょう。

 

「あれ? カゲロウに防御用の装備なんてあったっけ?」

「……さっき、ガーデンカーテンの量子変換(インストール)を済ませました」

「そっか、カゲロウはラファールの装備のほとんどを使えるんだよね」

「……お、お揃い、ですね」

「まぁ、そうなるね」

 

 う、うぅ……シャルの朴念仁!

 もうちょっと、照れたり、意識してくれたっていいじゃないですか……

 確かに、大したことのないお揃いですけど、勇気が必要だったんですからね!

 

「そ、それに、ラファールにもカゲロウの装備は積めますよ……?」

「そうだけど、あんなの積んだらパンクしちゃうよ」

 

 う~!

 シャルつれないです……ぐすん。

 さっきは抱き締めてくれたのに。も、もちろん友人としてだったのは分かってますけどね?

 ……それでも、少しくらい期待に応えてくれたっていいじゃないですか。

 

「……むぅ。作戦会議はここまでですっ! 紅椿のエネルギーが回復する四時半まで休憩です! あと、シャルは残って下さい!」

「シャルロットだけ?」

 

 な、り、鈴ちゃん! にやにやしないで下さい!

 べ、別に二人っきりになりたいっていう理由だけでは(・・・・)ないんですからね!

 ……これくらいのワガママは、私にも許されますよね……?

 

「じゃ、私は一夏の看病をしてくるわ。アンタらも来るでしょ? てか来なさい」

「と、当然だろう。私が原因なんだ! わ、私が看病する」

「私は軍人だからな。こういう場合の看病の心得がないこともない」

「し、心配ですからわたくしも行きますわ……」

「束さんはー……あーちゃんと、」

 

 あぁ、シャルと二人っきりになりたいなぁ!

 ……あれ?

 束さん、震えてますけど寒いですか? ウサミミもパタンと伏せちゃってますよ?

 

「ち、ちーちゃんのお部屋いくぅ! バイバーイ!」

「あ、アリサ、程々にしなさいよ?」

「鈴ちゃん? なんのことですか?」

「無意識だったのね……」

 

 ええ、もちろん意識して邪魔だなこの人みたいな目を束さんに向けるわけないじゃないですか。

 なんのことを言っているのか全く分かりませんね!

 

「ま、なら行くわね? 襲っちゃダメよ?」

「鈴ちゃん!」

 

 最後の最後でいらないことを言うんですから……もう、シャルにバレたらどうするんですか!

 

「アリサ、襲っちゃダメよってどういうことだったんだろうね?」

「ひゃっ!? いえ、それは、あのっ……」

「あっ、私がアリサをってことかな? いくらアリサが可愛いからってそんなことしないよ。ねぇ?」

 

 あう……やっぱりシャルは女の子同士に興味ないんですね……先手を打たれた気分です。

 でも、可愛いだなんて……えへへ

 

「アリサ?」

「ひゃっ!?」

 

 お、おおお、お顔が近くてよ!?

 ……落ち着きましょう。

 すー

 はー

 ……ああ、シャルの香りが肺いっぱいに、って私は変態ですかっ!

 

「シャル? 顔赤いよ? ……っあ! そっか、あんな雨の中で立ってたんだもんね……昨日も溺れたばっかなのに……ゴメンね、気付かなくて……アリサにも気をつけてないといけなかったのに……」

「あ、そんなことじゃなくてっ!」

「なくて?」

 

 シャルのくりっとした大きい目が私を捕らえます。

 目を、離すことができません。

 

「その、襲うのは私の方じゃないかなって……」

「うん、だから僕がアリサをでしょ? そんなわけないのにねー」

「そうじゃなくて! 私がシャルを襲っちゃうってことです! ……っあ!? や、あの、今のは忘れて下さい! へ、変なこと言っちゃいました」

 

 や、ヤバいですよ!?

 今のなんて殆ど告白じゃないですか!

 う~、恥ずかしいやら緊張するやら怖いやらでシャルの顔が見れません……もったいないからやっぱりしっかり見ておきましょう。

 シャル、どうして黙ってるんですか?

 あ、いや、ドン引きしているんですよね。そりゃそうです。こんなシチュで、しかもあんなテンションで告白されたら私だって引きますもん。

 

「あぁ、そっか。アリサは女の子も好きなんだもんね?」

「むぅ……」

 

 気付かれなかったので安堵しましたが……微妙に寂しいような気もします。

 改めて、私って全く意識されていませんね。泣いちゃいます。

 

「――綺麗だね」

「ひゃい!? な、ななな、何がですかっ!?」

 

 い、いきなり人の髪の毛を触りながら何を言うんですか!?

 

「何って、髪の毛だってば」

「あ、あぁ……でも、伸ばし放題で不気味じゃないですか? 自慢ではないですけど、昔は髪の毛お化けってからかわれましたよ?」

「あれ? でも私と会った頃は肩くらいだったよね?」

「あぁ、あの時はちょっと……」

 

 まぁ、原因はシャルですけど。

 あんな長い髪の毛だと染めても気付かれますしね。逆に、だからこそ染めて切っただけで気付かれなかったというのもありますが。

 

「そういえば、あの人もアリサくらい長かったなぁ……」

「ぁ……そ、そうなんですか」

 

 あの件については微妙なしこりが残っているんですよね……

 でも、シャルは私と一緒にいてくれると言いましたし……私が女の子が好きだというのもバレてますし、感謝してると言ってましたし……

 もう、正体を隠す必要もないんですよね。

 

「あの、昨日はすみませんでした」

「えっ!?」

「シャルの言っていた、ゼブラブロンドでフリフリの服を着た女の子を私は知っています。その子がつけていた髪留めの色まで答えられるくらいには……」

「お、教えて、くれるの……?」

 

 ……むぅ。

 なんで、そんなに嬉しそうなのに、恐る恐る聞くんですか……私が原因なのは分かってますけど!

 それでも、そういうの、ヤです。

 

「夏休み、デュノア社主催のパーティーに行くって約束は覚えてますか?」

「もちろん」

「その時、会わせてあげます……」

 

 言葉で言うより、実際に見てもらった方が早いでしょうしね。

 ……い、今から緊張してきました。

 あの頃の私は女の子らしい格好をしていましたからね……今みたいに髪だけ異様に長いのにボーイッシュスタイルな服装だったりしませんからね……!

 久しぶりにフリフリふわふわが着られると思うと楽しみになってきました。

 

「うん、ありがとう。それじゃ、僕もそろそろ……」

「……ぁ」

 

 ぎゅ……

 

「ん、アリサ?」

「へ? ……ってわぁ!? あ、いや、これは別にその、えっと」 

 

 な、ななな、なんで私はシャルの腕を掴んでいますか!?

 無意識!?

 なにそれこわいです!

 

「ご、ごめんなさい! なんでもないです」

「んー……」

「お、おおお茶入れますね!」

 

 とりあえず、手を離して座卓の方に、

 

「えいっ☆」

「きゃっ!?」

 

 バタン!

 

 痛たた……って、えーー!?

 

「えへ」

 

 なんで、シャルに押し倒され、えー!?

 な、なんなんですか、この状況は!?

 も、もしかしてこのまま私いただかれちゃったり……?

 

「だ、ダメですよ! 私、今日は上下不揃いで、しかも可愛くないですし!」

「ダメなのは僕のセリフだよ!」

 

 ふぇ?

 シャルが意外と真面目な顔してます。

 えっと……また、私なにかしちゃいましたか?

 

「もう! こんなに体が冷えてるなら早くいってよ! もう少し時間があればお風呂いけたのに」

「あ、えと、ごめんなさい……」

 

 でも、そんなに怒ることないじゃないですか……

 ずっと雨の中で立っていたのは皆さんのタメなんですよ……?

 

「あ……ゴメン。アリサに怒ってるんじゃないの……予想できたはずなのに、触られるまで気付かなかった自分がバカみたいで……」

「だ、大丈夫ですよー。これくらい、少し立てば温かくなりますって」

「もうアリサが中に入ってから一時間も経ってるんだよ? それなのにまだ震えてるじゃん……無理、しないでよ」

「ごめん、なさい……」

 

 シャルは、私のことを気遣って……あ、どうしましょう。なんだか、すごく嬉しいですよ?

 そんな大したことじゃないのに……

 って、

 

「それと押し倒すことに何の関係が?」

「ほら、こうすれば暖かいでしょ? ぎゅーって。僕、結構体温高い方なんだよね」

「そ、そうですか……」

 

 うわぁ、うわぁ……シャルの体温が、匂いが……あ、ダメです。もうダメ……

 もう……

 

「死んじゃってもいいかもしれません……」

「ダメだよ!?」

 

 こういうのは……とても、嬉しいです。

 シャルに、私がドキドキしてるの気付かれませんように……

 

 ◇

 

 思わずアリサを抱きしめちゃったけど……と、友達なら普通だよね?

 リンもアリサの抱き心地は最高って前に言ってたし、きっと皆普通に抱きしめるんだよね!

 

「アリサ、ちっちゃいね」

「うぅ!? シャルは、自分より大きい人の方が好きですか?」

 

 ん?

 ……なんで急に好きな人の話になったんだろう?

 うーん……分からないけど、そうだなぁ……

 

「やっぱり大きい方が頼りになりそうだよね」

「うぅ……私は頼りないですか?」

 

 えぇ!?

 今度は急にアリサの話に戻るの!?

 というか、大きいと頼りになるのは男の子であって、アリサは女の子なんだし気にしなくていいと思うけど……

 アリサが頼りになるかどうかだったら、やっぱり強いし一生懸命になってくれるから頼りになると思う。

 二年間、僕を見守ってきてくれてたわけだしね……

 でも、頼ったらアリサは無茶しちゃうから……

 

「頼りにくい、かな……」

「はぅっ……もっと、頑張りますね」

「いや、アリサは今のままでも、」

「今のままじゃ、シャルのことを守れないじゃないですか! ……もっと、私が頼れる人だったら……シャルが言ってくれれば、なんでもできるのに……」

 

 ……もう!

 別に僕はアリサに守られたいなんか思ってないのに……そんなことより僕はそのせいでアリサが怪我することの方がよっぽど心配だよ……

 もちろん、アリサが色々やって僕のことを守ってくれたのは嬉しいけど……

 

「でも、僕は、こうやって抱き心地がいいアリサが好きだよ? すぐに真っ赤になっちゃうところとかも……だから、怪我とかしてほしくないな……」

「そ、そですか……気をつけます」

 

 うん、よろしい。

 アリサの体温が急にあがった気がするけど……本当に照れ屋さんだなぁ。

 やっぱりアリサは戦いなんかより、こうしてる方がずっといいよ。


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