Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「はぁ……学校、行きたくないな」
入学式の翌日。1日目で既にあんなハードだったのに2日目があるなんて……身体になにかしらの悪影響があると思います。大体、ISの操縦が出来ないんじゃ意味ないです。フィールド開放して授業中に自主訓練させて下さいよー。
大抵、私は目が覚めてから1時間くらいはそんな意味のないことを考えながらベッドでぬくぬくしています。んー、そろそろシャワー浴びないと遅刻しちゃいますね。
廊下から食堂へ向かう生徒たちの声も聞こえてますし、朝食は普段から抜いていますけど、流石にそろそろ起きた方がいいでしょう。
……はぁ、学校行きたくないなぁ。
◇
「お、おはよう、ございます」
シン……
朝の挨拶を口にしつつ教室に入りましたが皆さん無言です。昨日あんなに悪目立ちしちゃいましたからね。一瞬、私を見てからはひたすらに目を逸らされます。やっぱ帰ろうかな。
「お、おはよ……?」
そんなことを思いつつも席に着くと、昨日私の自己紹介の後で話しかけてきた女の子が挨拶してくれました。やっぱり真面目に授業を受けましょう。2日目でサボるとこうして話かけてくれる子もいなくなるでしょうから。
女の子は
「昨日、オルコットさんと話してたけど仲いいの?」
「まぁ、そうですね」
「そっかー、やっぱりIS関係で仲良くなったのかな?」
「はい、何度かイギリスに行ったときに」
「へぇー……オルコットさんが認めてるんだし不破さんもやっぱり強いの?」
「えぇ、まぁ、それなりです」
なんていうか、私、ダメダメですね。せっかく話しかけてもらっているのに話が広げられるような返しができません。一松さんもちょっと困り顔です。
と、恐縮している間に一松さんの背後に2人の女生徒が。
「イッチー! おはよ! うーん、今日もましゅまろ幸せー。あ、不破さんもおはよ!」
「きゃぁ!? ってふたちゃん! ……もう、せっかく不破さんと話してたのに」
おぉ、一松さん、意外と巨乳さんみたいです。ふたちゃんこと
うーん、私もいつかシャルロットと……
「二木ぃ、一松ぅ、不破さんに勘違いされてるよ?」
「ひゃん! ふぁ、ふたちゃ、そこ先っぽ、直接だめ……って不破さん誤解だよ! 私そんな同性愛者とかじゃ」
2人に注意した子は
一松さんは頬を染めながら喘いでいたのに否定はしっかりしました。大丈夫ですよ? 私にそういった偏見はないですから。
でもイッチーさん、えっちぃのはダメだと思います。というか学校で下着の内側まで攻められるとか……イロイロすごい。見てるだけで顔が火照ります。
「だから、好きで揉まれてるんじゃないよー!」
「あー! イッチーひどい! 私がここまで育て上げたのに!」
「えーと……一松さんがネコで二木さんがタチって言うんでしたっけ?」
確か、百合業界では受け攻めのことをそう言うんでしたよね?
「あれぇ、不破ちゃんも興味あるのかなぁ?」
ない……いえ、シャルロットのことを考えると後学のために、という考え方もありますが。なんでしょう。私は冗談だったのに二木さんは今にも舌なめずりしそうでって……
「さ、触ったら、怒りますよ?」
「きゃー、怖い顔しないでー。それに私はイッチー以外に興味ないから」
「私は百合に興味ないのにー!」
本気で後ずさりすると二木と一松さんがノロケ始めました。朝からお熱いですねー。
「おっと、織斑君だ」
気の強そうな女の子を伴って現れた織斑君。それに気付いた二木さんがパッと一松さんから離れる。私の目の前ではオープンいちゃラブだったのに転校生の織斑君だと……やはり男性の目の前では抵抗があるのでしょうか?
「男なんかにイッチーの胸は見せらんないからっ」
「まだ誰にも見せてないよっ!?」
あはっと明るく笑う二木さん。いい独占欲です。
この百合カップル、外見がいいので外野の男が見たら勿体無いって思うんでしょうね。
「だからカップルじゃないのにー!」
「一松ぅ、落ち着いたら? それにしても不破さんは手強いわぁ」
へ? 一体何を指して手強いのでしょう? 特に彼女達と何かを競っているわけではないのですが。
「うーん、昨日は不破さん1日中怖い顔してたから、笑ってるところみたいなーって思って……あぁ、これはクラスの総意だよ?」
二木さんが一松さんの言葉に付け足しましたが、じゃあさっきのいちゃラブも演技なのでしょうか。そうなると将来シャルロットとあぁなった時の理解者はいないことに……
え? というか私の笑顔がみたいってなんですか? しかもクラスの総意って!? まだ目立つの!?
「あ、演技に決まってるよ!」
「ううん、マジだよ」
よかった、マジなんですね。目立つのは困りますけどこの二人に免じて少しは我慢しましょう。
あと一松さんはそんなに恥ずかしがらないでもいいですよ? さっきも言ったとおり偏見はないですから。
「よーし、お前ら席に着け」
◇
授業が始まる直前、
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
なんて織斑先生の発言で教室中が沸きました。
あぁ、あのポニーテールが篠ノ之箒だったんですねー。
授業中なのに女生徒が何人も彼女のもとに集まっていきます。こいつら授業をなんだと思ってやがるんでしょうか。ISのことをしっかり知っておかないと怪我しますよ?
まぁ、昨日からなんとなく私に集まっていた視線のほとんどが彼女に移ったのは僥倖ですが。
というか彼女にISの操縦を聞こうとしてる人もいますけど、だったら授業を聞きましょうよ。
というか博士の妹ってだけでISに詳しい理由にはならないじゃないですか! ……そう考えてみると篠ノ之さんと私は境遇が似ていますね。身内が常識はずれな研究者ってあたり。
「あの人は関係ない!」
我慢の限界が訪れた篠ノ之さんが声を張り上げる。
えぇ、その気持ち私もわかりますよー? 自分は関係ないのに中心人物みたいに扱われるのはヤですよね……ちょうどクラスメイトの皆さんが恐る恐る私を見ているみたいに。
別に大声だしただけじゃ昨日みたいに怒りませんよ! 昨日はたまたま緊張しててつい怒っちゃっただけなんですから……だから見ないで下さいよぉ。
ここまで見つめらると恥ずかしいじゃないですか。
「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」
そう言って篠ノ之さんはそっぽを向いてしまいました。
何人かが彼女の態度を不快に感じたようですが……他人の事情に土足で踏み込んだことを反省もせずに、勝手に怒るなんて何様なんでしょうかね? 頭にきます。
「さて、授業を始めるぞ。織斑、分からないことがあったら隣に聞け。山田先生、号令」
「は、はいっ!」
織斑先生、織斑君が私を見てきます! ……昨日の発言の責任をとれと言うことですか。女子の皆さん、好きでやらされているんじゃないんですから、そう怖い目で見ないで下さいな。分割思考のおかげで冷静ですけど、内心は震えてるんですからね? がくがくぷるぷるなんですからね!?
「わ、分からないことがあったら、聞いて下さい。分からないことがあったら」
「お、おう」
大事なことなので2回言っておきました。
できれば聞かないで下さいね? いちいち注目されるのは居心地が悪いですから。
「あ……」
「どうかしました?」
「いや……悪いけど消しゴム貸してくれない?」
まぁいいですけど……次は私じゃなくて逆隣の子に借りて下さいよ。
なんで周りの皆さんは約得だ抜け駆けだみたいな顔で見るんですか!
授業が終わったすぐセシリアが織斑君に絡みに来ました。
こうやって注目を集めてくれるのは私としてはありがたいんですけど……織斑君の席、私の隣なんですよね。あんまり意味がないです。
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
胸を張って相手を威圧するセシリアお得意のポーズです。対する織斑君はなんていうか、どうでもいいけど復習の邪魔しないでくれ、って感じです。
あ、それ、私からもお願いします。自主的に勉強してくれれば私の負担も減りますから。
「この私、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」
「へー」
さーて、私はお弁当を出しますか……今日のはけっこう自信作なんですよねー。
というかセシリアもよく私の隣で専用機持ちだってこと自慢できますね。ここで私も持ってるよ、とか言われたら恥かくんじゃないですか?
まぁそれはおいといてー、まずは里芋の煮っ転がしを……
「それを一般的に馬鹿にしているというのでしょう!」
ババン!
「ひゃあ!? ……あ、続けて下さい」
セシリアが両手を机に叩きつけて怒鳴った拍子に私のお箸がつるりと滑って里芋が落下しました。まぁ、運良くお弁当箱の中に戻っただけなのでいいでしょう。
気を取り直して……
「そこは重要ではないでしょう!?」
ババン!
「わぁ!? ……ぁ」
再び机を叩いて怒鳴るセシリア。私の里芋も落ちていきます。お弁当箱のふたで受け止めようと試みましたが……
ベチャッ! という音とともに不時着しました。はい、この間0.8秒。
不時着先も問題でした。私の里芋は先に落ちていたらしいノートにのっかっています。ノートが開かれた状態で落ちていたので誰の物かは分かりませんが、位置関係的に織斑君のでしょう。
しかも、ちょうど私が昨日の放課後に説明したところのノートでした。うん、ノートに書いた意味なくなりましたね。
なんとか解読してみると、私を納得させるためかISの兵器以外での利用法の羅列と、その真ん中に[IS≠兵器]と色付きで書かれていますから間違いないでしょう。
まぁ、その利用法は里芋の煮汁で読めなくなっていますが。
うーん、落ちた里芋、どうしよう。
「不破さん、里芋食べるぞ?」
「え? あ、どうぞ。まだあるので」
「うん、美味い……腹減ってきたな。箒……篠ノ之さん、飯食いに行こうぜ」
落ちた里芋を本当に食べました。きゃー織斑君ワイルドー……もちろん悪い意味で。でもうまいと言ってくれたのは、まぁ、ありがとうございました?
織斑君は里芋を飲み込んだらパッとノートを拾い上げて、汚れてしまったのも気にもせずに歩き去って行きました。
こ、こーやってヒロインをおとしたんですね。なるほどなるほど。
「あの、アリサさん……?」
「セシぃ……お昼時は静かに! ちょっと用事でしたから行くね。お弁当、ふたしといて」
「あ、ちょっと!?」
ノートに気になることが書いてあったので、織斑君を問い正してきます。
さっきの口振りだと食堂に向かったはずなので……
「見つけた! ……って、えぇ!?」
追いついて声をかけようとした瞬間、織斑君の身体が飛びました。しかも、ほぼ真後ろまで来ていた私を巻き込むように。
私に気付いた織斑君は私との衝突を避けようと体を無理に捻って……て、ちょっと!
「それじゃ、背骨が……もぉ!」
目立ちたくないですけど人命には代えられません。織斑君の身体を受け止めようと手を伸ばし、
ドサッ!
……ええ、やっぱり、男の子は重いですね。しかもそこに投げられた勢いが加わったら鍛えてる私でも受け止められませんよ!
織斑君の下敷きになっているので、彼が立ちやすいように支えて立たせてから私も立ちます。
「あ、不破さん、大丈夫か!? というかなんで、」
立ち上がったら織斑君が自分が悪いと本気で思っている態度で謝ってきました。学園唯一の男子を謝らせる私。すごく……目立ってます。
「慌てすぎですよ。私はどこも痛めてません。あと追いかけてきたのは織斑君に聞きたいことがあったからです」
「聞きたいこと?」
「さっきのノートに書いてあった[IS≠兵器、IS=力]のことです……まぁ、それよりも大事な用件が今できましたけど」
目の前に立つ篠ノ之さんを睨みつける。睨み返されましたが、それがなんだと言うんでしょう。
「篠ノ之さん、でいいですよね? 一体何を考えているんですか?」
「……私に文句があるようだが、何のことだ?」
「もちろん過失致死未遂のことです」
苛々したような声で返事をしてきますが……まぁ、本当は分かっているけど認めたくないって感じでしょう。本当に分かっていないなら素人もいいところです。
「あなたが使った業は人を殺せる技術です。どうしてそれを織斑君に使ったんですか?」
あの業は相手を背中から叩きつけて背骨を折る業だ。相手の肘を固めて受け身をとれなくするのがその証拠。
「手加減はしていた……お前が庇わなくても怪我は、」
「しなかった、とでも言いたいんですか? 確かにあなたが思ったとおりに投げればせいぜい背中が痛む程度でしょうねー」
「だからそうだと、」
「でも、彼が空中で不自然に体勢を変えたら? 例えば、背後にいた私を避けるためにとか。あのままでしたら死にはしなくても一生残る後遺症を背負っていたかもしれませんよ?」
「…………」
「それに、あなたたちの後ろにいたのが私ではない、普通の女の子でしたら、その子も怪我していたでしょうね。そんなつもりはなかったことは分かっています。でも、力を振るうときはそういうことを考えるべきだと思いますよ?」
「あー不破さん、箒も悪気はなかったんだし、」
「無かったのが問題なんです。抜き身の刀を片手に繁華街を全力疾走したら通りすがりの人に刺さってしまいました。悪気はなかったんです……こんな言い訳が通りますか?」
実際、あの勢いで落ちていたら背骨にひびが入っていた可能性は十分ありました。しかも背骨は人体の中でも頸骨とならんでもっとも重要な神経が集まっている箇所。ひび程度、と思う人もいますが、それだけで体の一部が不随になったりもするんです。
しかも、背後にいた私がなんの対処もできなければ2人とも巻き込まれて、今以上の惨事になっていたことは想像に難くありません。
「おまえに武術の何が分かる!」
自分で目を逸らそうとしていた事実を突きつけられた篠ノ之さんが激昂します。武術の何がわかるって……
圓明流という業は、千年もの間、効率的な人体の破壊を研究してきた流派です。
嵐才流は破壊されることを前提に、攻撃するのに必要な部分だけを守る流派です。
「それを使う私が、分からないわけないじゃないですか」
そうでなければ、自分のリスクを回避するために彼を助けずに避けています。
「手加減しようがしまいが、武術は武道と違って相手を破壊する技術です。あなたにはその理解が足りない」
ISにも通じることですがね。
力を手に入れた人には相応の義務が発生すると思うんです。
「黙っていればずけずけと……そこまで言うなら、」
「力比べでもしますか? それなら文字通り死ぬ覚悟でかかってきて下さいね。馬鹿は死ねば治るらしいので」
幼なじみとのじゃれ合いに過分な力を振るっておいて、それを反省するどころかさらなる力で自らを正当化しようとする。
えぇ……気に入らなすぎて手加減もできそうにないです。
「ま、待てよ! 2人とも落ち着けって。不破さんだって俺を助けてくれたんだし、箒だって偶然ああなっただけなんだろ? わざわざ喧嘩するほどのことでもないだろ」
気付かない内にいつでも掴みかかることができる距離にいた私たちの間に、体を滑り込ませるようにして織斑君が止めに入りました。私の方を向いて許してやってくれ、みたいな顔をしています。
なんというか……お人好しというか、お節介というか。気が抜けちゃいます。
「はぁ、私も大人げなかったですね。織斑君、さっきの話、今度でいいですから聞かせて下さい」
「あぁ、分かった。ありがとう」
何がありがとうですか。あなたからしてみれば、私が勝手に怒っていただけじゃないですか。
本当に調子が狂います。
しかも、また目立っちゃいましたし……しかも今回は廊下ですから全学年全クラスに危ないチビ新入生の話が伝わるでしょう。憂鬱です。
「お腹も減りましたし、私は教室に戻ります」
「…………」
「あぁ、あとでな」
ふぅ……やっぱり、人付き合いは苦手ですね。