Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「アリサ、遅いなぁ……」
織斑先生が受けた連絡では七時半過ぎに到着するって話だったんだけど、時計の長針はもう五十分を回ってる。
やっぱり無理して診断を誤魔化して、それで戻ってくる途中で倒れちゃったとか?
それなら、のんきにご飯なんて食べてる場合じゃ……
「シャルロット? 大丈夫か? ……シャルロット?」
「え!? あ、一夏、なに!?」
「いや、シャルが心ここにあらずだったからさ」
「あ、平気だよ。うん、ちょっと考え事」
……別に、僕だけがぼーっとしてるわけじゃない。一組の人は皆アリサのことを心配してるし、二組の人もそんな感じ。
リンに聞いた話だと二組の人とアリサは僕が転校してくる前にあったクラス対抗戦の時から仲良くなり始めたとか。
こんなお通夜みたいな雰囲気で食事をするのは旅館の人にも申し訳ないけど……無茶しやすいアリサだから顔を見るまで安心できない。
……アリサに無茶させてるのは主に僕みたいだけど。
理由はまだ分からないけど、無茶の原因が僕なら、無茶させないこともできるはずだって思ってたのに今回もまた……
「――でしょー!?」
騒いでる生徒ももちろんいる。アリサとはあんまり関わりがない生徒なら仕方ないとも思うけど……なんでか、その子たちの会話だけは僕の耳に入ってきた。
「なんかさ、ひとりで泳ぎの練習して溺れたらしいよ? もうね、私だったらそんなの皆に知られたら恥ずかしくて自殺ものだよね!」
「うっわー! マリ不謹慎ー! でもその不破って子、フランスの代表候補生だったらしいよ? あと一組でボールペンを生徒に突き刺したのもあの子だとか。あーあと、この前、廊下を血塗れにしたのもそうなんだって」
「まじで? どうしよー! こんなこと話してるのバレたら殺されちゃーう!」
あ、ラウラが立ち上がった。
「お前ら、よくもアリサのことを馬鹿にしてくれたな……!」
分からないな……
なんであんな話で盛り上がれるかもそうだけど、なんでこんなに怒ってるんだろう――
「なんならアリサがお前らを殺す前に――」
「僕が殺してあげようか?」
――僕は。
「デュノア! ISを解除しろ!」
この後、僕とラウラは織斑先生にすごく叱られて、アリサも結局現れなかった。
……アリサ、どうしたんだろう。
◇
「さて、束さんの部屋から出てきたもののここは結局どこなのでしょう?」
なんだか随分遅くなってしまいました。
織斑先生の部屋の場所は分かっているのですが現在位置が分からないことには始まりません。
たたたたたたたっ
む、誰か走ってきますね。
これで織斑先生の部屋への行き方を聞けますね。べつにほっとしたりしてませんよ? ただ、手間が一つ省けると思っただけです。
「あっ、アリサ!」
「あ、誰かと思ったら鈴ちゃんですか」
「鈴ちゃんですか、じゃないわよ! 無事だったとは聞いてたけど……それでも心配だったんだから早く顔見せなさいよ!」
「あぅ、ごめんなさい……」
「なんで照れてんのよ」
だって、面と向かって心配してたなんて言われると嬉しいじゃないですか。
いなくなって心配したってことは、鈴ちゃんにとって私は近くにいる人ってことですもんね?
普段の会話から分かることじゃないので……本当に嬉しいです。
「あ、鈴ちゃん、織斑先生の部屋に行きたいんですけど……」
「ん、今ちょうどシャルロットを呼んでから向かうから付いてきなさいよ。私達も部屋に呼ばれたから」
「分かりました」
私達って要するに専用機持ちってことですよね?
私がいない間に何かが起きたのでしょうか? そういえば鈴ちゃんも焦ったような顔を……
「アリサはシャルロットのことが好きなのよね?」
「はい……えぇ!? そ、そんなことないですよ!?」
鈴ちゃんが何気なく聞いてきたから、つい素で答えちゃったじゃないですか!
むむむ、鈴ちゃんも油断ならないですね。
「アリサが女の子も好きになれるってことを知ってる人はみんな気付いてるわよ?」
「なななな、なにをそんな……」
……自分でも目が泳いでいるのが分かります。カナヅチなのに目が泳ぐとはこれいかに……むぅ、こんなところに織斑君の影響が。
こんな寒いギャグを言うようなセンスではなかったのですが……
「……まぁいいけど。それで、そんなアブノーマルなアリサ的に近親相姦ってどうなの?」
「ん、んー……私も弟がいるので可愛らしいとは思いますが、でも確かに弟以上の男性以外と付き合う気にはなれませんし……ナシとも言い切れませんね」
「そ、そうなんだ……って弟!?」
鈴ちゃんは織斑先生と織斑君の関係を疑っているんですよね?
それなら私と弟がモデルケースになると思ったのですが……
「いや、そうじゃなくて、アリサって弟いるの!?」
「ええ、今は七歳の可愛い盛りですよ?」
……とはいっても武術の才があるようで、この間ママから電話で飛燕十字蔓(ひえんじゅうじかずら)が何となくできるようになったとか。
我が弟ながら末恐ろしいです。
ママも私の代で不破圓明流は途絶えると思っていたので嬉しかったでしょうね。
「名前は?」
「天羽(あもう)です。あげませんよ?」
「いらないわよ!」
弟は私のものなのでしばらくは私が可愛がります!
……IS学園は寮なのでもう全然会えていませんけどね。
天羽、わ、私のこと覚えてますよね?
「それで、何でいきなりそんなことを?」
「それがさぁ、さっき一夏と千冬さんの部屋の前に行ったんだけど、中から妖しい声が聞こえて……その、えっち? してるみたいな? だから、もしかしたら一夏が振り向いてくれないのって千冬さんがいるからなのかなって……」
「あー、二人ともブラコンシスコンの素養はありますからね」
それにしても、ちょっぴり涙目の鈴ちゃんは可愛いです。
普段が勝ち気なため余計に美味しそうに……じゃなくてそそる……でもなくて、魅力的です。
「鈴ちゃん鈴ちゃん」
「ん?」
ちゅっ
「な、なななな!? なんでキス!? え!? えー!?」
「デコチューくらいで動揺しすぎですよ。今の鈴ちゃんは私がキスしたくなるくらい可愛かったので平気ですよ。織斑君もきっと惚れちゃいます!」
「う……むー、アリサ!」
「はい? ってわわ!?」
振り向いた瞬間、鈴ちゃんが飛びかかってきて押し倒されました。
そのまま鈴ちゃんは顔を近づけてきて……あ、やり返しですね!
ぺろ
「ひゃぁん!?」
「うわ、すごい声……」
な、ななな、なんで首筋をなめたんですか!?
というか、その玩具見つけたみたいな顔は……
「分かってるじゃない……いくわよ?」
目を輝かせないでください!
「ん、やぁ…ひゃん……す、吸ったららめ、らめですよぉ」
「かーわい♪ って、きゃっ!?」
「やり返しま、」
「すごい音したけどだいじょう、ぶ」
こ、ここでシャルですか!?
そういえば鈴ちゃんはそもそもシャルを呼びに来たとか何とか……
それよりも浴衣が乱れてる状態で絡み合ってる私と鈴ちゃんはシャルにはどう見えるのでしょう!?
少なくともシャルが思考停止しているように見えるのは私だけではないはずです!
……冷静になってみると浴衣もはだけて脱げてると行っても間違いではない状態になってますし……
「シャル、落ち着いてください。これは違うんですよ? 決して私達がニャンニャンしていたわけではなくて、」
「アリサ!」
「わぁ!?」
がしっどたん!
!?
なんで、シャルに押し倒されたんですか!?
というか、シャル、ブラジャーしてないのに浴衣で四つん這いになると、その、胸が……
「痛っ! ……あの、シャル?」
指が、肩に食い込んでて痛いかなー……って?
「今まで、なにしてたの?」
「え!? えと、遅れてしまったので皆さんとは別の部屋で夕食を」
「なんで到着してすぐに先生に連絡しなかったの?」
「その……織斑先生の部屋が分からなくて。あの、えと、私、地図とかそういうの読めないんです。だから、その、えと、迷っちゃって……あの、怒らないでください……」
シャルの顔が怖いです。
無表情なんですけど、その心の中で激しい感情が渦巻いているのが分かります。
シャルが怒っていると不安になって、きゅっと胸が締め付けられているみたいに痛くなります。
だから……怒らないでください……
「…………いよ」
「ふぇ?」
「だから! 怒ってなんかない! 怒ってないの……ただアリサの顔を見たらすごく安心できて、でもやっぱり少し苛々しちゃって……」
ぽた
「冷たっ!? ……シャル? 泣いてるんですか?」
目の前にあるシャルの瞳が揺れています。
「どこか、痛いんですか……?」
ぎゅっ…
「きゃ!?」
「違うよぉ、アリサが無事で嬉しいのぉ……安心したら、勝手に涙が……」
いたた……
四つん這いの状態からシャルが無理矢理に抱き締めてきたので、シャルの肩が鼻に……鼻血、出てませんよね?
……私を抱き寄せて泣きじゃくるシャルは子供みたいで愛しいです。
背中に手を回して、なんとか宥めようとゆっくり撫でさすります。
私は、シャルの笑顔が一番好きです。
だから、早く笑ってくださいね?
「心配、してくれてたんですね?」
「うん……すっごく心配してた」
えへへ……やっぱり嬉しいです。
「シャルロットとラウラはすごかったわよー? 夕食中にアリサをネタにして騒いでた二人を殺しかけてたからね」
「リンっ!? あ、アリサ! そ、そんなことないからね? 確かにアリサのことは心配したし、あの二人のこともどうかと思ったけど、」
殺し……ってラウラさんはともかくシャルまでそんなことしちゃダメですよ!
「ま、二人がやってなくても私とセシリアが同じことを……ってそうだ! 二人とも早く一夏の部屋に! 千冬さんに呼ばれてたんだった」
「リン、それを早く言ってよ! また怒られちゃうかも……アリサも早く行くよ!」
素早く立ち上がって、私に手を差し伸べるシャル。
その顔は泣き跡こそ残っているものの綺麗に微笑んでいて……やっぱり、シャルの笑顔が大好きです。
……ううん、少し嘘を付きました。
シャルのこと大好きじゃないです。
大好きじゃなくて、
「……愛しています」
「うん?」
「な、なんでもないです!」
うん……きっと、これが愛なんですね。