Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「宴から離れて」


46. Ils partent de parti.

「七時四十分……えと、夕食の時間ですね」

 

 いわゆる臨海学校の手引きを確認してみると七時半から夕食だそうですが……大広間三部屋をつなげたところってどこですか!?

 えっと、ここが鶴の間の前で、行かなきゃいけないのは牡丹の間から始まる三部屋ですから……私、地図読めないんですよね。えっと、私が向いているのがこっち向きですから、鶴の間が左手にあるべきで……こっち?

 

「右に三部屋、左に曲がって二部屋ですから……ここですね!」

 

 がらっ

 

「うん? あー! あっちゃんだー! 同じ部屋に泊まるなんて奇遇だねー!」

「ここ一人部屋じゃないですか! というか同じ旅館止まってたんですかっ!? あと部屋間違えただけです!」

 

 予想外の先客――束さんに驚く暇もなくボケられたのでツッコミを入れてしまいました。うん、私、反射神経が良いいのかもしれません。

 部屋でくつろいでいた束さんは浴衣を着崩していて……でも頭のウサミミのせいでセクシーにも思えないような状態です。

 

「ごろーん!」

「……そんなゆるゆるの浴衣で動くと脱げますよ?」

「大丈夫だよー。あーちゃんしかいないしねー」

「そっちの意味の大丈夫ですか……でも丁度二人きりで話したいと思っていたのでちょうどいいです」

「ふふふのふー、あーちゃんがこの部屋に来たのは必然だったのだー」

「なんですって!?」

 

 ……織斑君をIS学園の試験会場に行かせたのも束さんだという話ですし、私がここに来てしまったのも私が地図の読み方を間違ってしまったからではないんですね。きっと束さんが私の分の旅館の案内図だけ書き換えていたに違いありません。

 ……最初に奇遇だとか言っていたのは忘れましょう。

 私は地図が読める子なんです!

 

「それで、用事って何のことかな? ゴーレムのこと?」

「ゴーレムって言うんですか? ……やっぱりクラス対抗戦の黒い無人機は束さんの仕業だったんですね」

 

 織斑先生にも他の先生にも言っていませんが、あの無人機にはISコアが内蔵されていました。

 織斑君がゴーレムに突っ込んで相討ちになりいざこざが起きている間に、織斑君に両断された無人機からコアを抜き取ったからです。

 ゴーレムに内蔵されていたのは通常刻印されているはずの1~476のコアナンバーがない非正規ISコアでした。そうなると束さんが関わっているのは間違いありません。

 

「私以外にISコアは作れないからね」

 

 ……ということです。

 恐らくあのゴーレムは独立稼働(スタンドアローン)ではなく束さんによる遠隔操作(リモートコントロール)だったのでしょう。

 実際にゴーレムと戦った鈴ちゃんと織斑君の話ではゴーレムは二人が話している時には動かなかったそうです。束さんとしては二人の関係が気になったか、作戦を立てるのを待っていたのでしょう。

 

「でも、なんでですか?」

「んーとね。いっくんのため、って言うのが分かりやすいかな?」

「織斑君の?」

 

 なら、なぜ織斑君を傷つけるようなことを……?

 

「第四世代型ISの特徴は戦闘経験から独自に進化し続けていくことなんだよ。これはコア自体の設定じゃなくて、展開装甲の効果。最初はコアの設定を弄ってリアルタイムでの変形(シフト)を達成しようとしたんだけど、こればっかりは天才の私でも出来なくてね」

「……え?」

 

 リアルタイムでの変形(シフト)ってもしかして……カゲロウの?

 ですが成功しなかったって……?

 

「気付いた? あーちゃんのISのコアは部分的に私の改竄が施されてるの。私の時は成功しなかったんだけど……そのコア、純利用時間が一万時間を超えてるから、それが原因でコアによる変形(シフト)が有効になったのかもね」

「……」

「うん、どこで間違えたのかは分からないけど打ち込んだ式に間違いはなかったんだね。さすが私だよ。あぁ、あのドイツの候補生が乗ってた第三世代型に積まれてたVTシステムも第四世代の雛型になったんだよ」

「どういうことですか?」

「第四世代型は装備の換装無しでの全領域・全局面展開運用能力の獲得を目指したものってのは知ってるかな? 私は展開装甲を使ってそれを成立させたわけだけど……VTシステムで何種類かのISのデータを打ち込んでおいて、それを使い分けられるようにすれば第四世代と同じように全領域・全局面展開が出来ると思わない?」

「なるほど……」

「だから、あーちゃんのISはISコア(ソフト面)では第四世代型のプロトタイプともいえるね。機体(ハード)は第二世代型止まりだけど。まぁ二・九世代かな?」

 

 なるほど……三世代ほどの出力はないものの二世代ともまた違うとかそういう感じですかね。

 束さんの話を総合すると、どうもカゲロウに第二形態(セカンドシフト)はないような気もするのですが……それとも変形が止まった時点が第二形態(セカンドシフト)なのでしょうか。

 

「それで、学園を襲撃した理由を聞いていませんよ?」

「誤魔化せるかなーと思ったんだけどなぁ。さっきも言った通り第四世代の白式は、」

「白式が第四世代だったことが既に初耳ですけど」

「うん? そっかそっか。まぁそれは置いといて、白式もあーちゃんのと同じで戦闘経験から進化するの」

「だから、不慮の戦闘をさせることでその経験を?」

 

 でも、そこまでして織斑君を鍛える必要はあるのでしょうか?

 どこの国の代表校お補正にもなっていない織斑君は戦争になんて行かないでしょうし、大人しくしていれば危険な目に遭う可能性なんて……あ

 

「唯一の男性パイロット……」

「そういうこと。いっくんが望むにせよ望まないにせよ、ISを放棄するにせよしないにせよ、必ずいっくんを狙う奴らはいるから……だから、いっくんが火の粉を振り払えるようになるまで鍛えないと」

「……なら、最初から織斑君を学園に入れなければよかったじゃないですか」

 

 最初からISが動かせることが世界に公表されなければ……それなら織斑君はそれまでどおり一般人として生活できたはずです。今、彼がいる場所が不幸だとは思いませんが、関わる必要が無い世界に踏み入れてしまったことは確かなのです。

 

「ううん。いっくんはISに乗れなきゃいけなかった……ちーちゃんの弟だからね」

「織斑君を人質にするような団体がいるんですね? ……亡国機業(ファントム・タスク)ですか?」

 

 織斑先生はIS操縦者の中では最強の存在です。

 亡国機業(ファントム・タスク)が彼女の力を手に入れるとしたら……織斑君を人質にとって脅迫するしかないでしょう。

 それでも第二回モンド・グロッソの時は失敗していたようですが。

 

「……知ってるんだ。あーちゃんも粉かけられた事あるの?」

「いえ、フリーの技術屋だった父が彼らの存在に詳しかっただけですよ。何度かスカウトもされていたとか」

 

 今なら分かりますが、パパが目立たないように自分が開発した技術を企業に売っていたのも亡国機業(ファントム・タスク)の目から逃れるためだったのでしょう。

 デュノア社に入ることを決意したのは企業が守ってくれるからというのもあるでしょうが……私のわがままのせいでしょうね。

 

「まぁ、それも私がISを公表しなければよかったんだけど……どうしても皆で宇宙に行きたかったんだよね」

「……わがままですね」

「そんなこと、世界中の人が知ってるよ?」

 

 そうですね……

 私だって会う前から自己中な人だって決めつけていて、実際その通りだったわけですし。

 ……想像よりも随分と子供らしい自己中(わがまま)でしたけどね。

 

 ぐぅ~~~~

 

「と、とりあえず、このコアの処分は任せます。あんまり派手に作り過ぎると外野が騒ぎますよ?」

 

 コアの数が増えても私は別に困りませんけど、国や企業はそのコアを手に入れようと躍起になるでしょうからね。

 特に、先ほどの話に出ていた亡国機業(ファントム・タスク)なんて実力行使も辞さないでしょうし。

 

「ん、気を付けるよ……ご飯、ここで食べる?」

「えと……はい。お邪魔します」

 

 やっぱり聞かれてますよねー。

 しょ、しょうがないじゃないですか!

 お昼前に溺れちゃったので昼食も食べてないんですから!

 ……何も言わずに私を見ながら淡々と料理を注文する束さんの優しさが身にしみます。

 きっと同じ大人の女性でも、織斑先生だったら人に心配かけた割にはお気楽な胃袋だな、とか言うにきまっています! ……そもそも心配してくれますかね? くれますよね?

 

「でも、本当に宇宙に行くことが目的で開発したんですね。束さんの自由が保障されればどうでもいいんだと思っていました」

「私は自分の自由なんて求めてなかったんだけどな……本当に、ただ四人で宇宙に行きたかっただけ。SFの世界の兵器なんかを使えるくらいのエネルギーも成層圏を突破するだけのものだったのに兵器転用されちゃって……」

「なんで放っておいたんですか?」

「皆、戦争よりも宇宙に興味があると思ったんだ。だから放っておいてもそのうち兵器じゃなくて宇宙開発のために使われると思ってたのに……」

 

 ……本当に子供みたいな人だったんですね。

 自分がそうだから皆も宇宙に行きたいはずで、宇宙より戦争に興味があるはずがないと考えていたんですね。戦争で生まれる経済効果や利権などは考えていなかったのでしょう。

 ……真空、無重力、その他の衝撃から操縦者を守るのはエネルギーシールドで、膨大なエネルギーは長時間航行を可能にするためのもの。

 そう考えてみると、確かに兵器を装備しなければ宇宙に行けてしまいそうです。

 

「一緒に宇宙に行きたい三人は織斑先生、織斑君と箒さんですか?」

「うん。あっ! あーちゃんも一緒に行きたい!?」

「え、えぇ、まぁ機会があれば……」

 

 宇宙と海ってどっちが怖いですかね?

 ……そんなことよりも気になることが一つあります。

 織斑君には白式を作っておいてどうして篠ノ乃さんは量産型を使っているのでしょう。この間の電話は私の記憶が正しければ紅椿が篠ノ乃さんに渡る契機だったです。

 どうしていまさら……?

 

「その顔は、箒ちゃんが量産機を使ってる理由が知りたいって顔だね?」

「えっ!? ……天才は読心術までできるんですね」

「天才だなんて照れるなあ。本当のことだけどね! まぁ、あれかな……箒ちゃんは、危ういから」

 

 危うい?

 どういうことでしょう。

 確かに立場としては織斑君と同じくらい束さんの妹である篠ノ乃さんも危ないとは思いますが……それなら余計にもっと早い段階で紅椿を与えているはずです。

 

「どうして今、紅椿を渡すんですか?」

「……」

「あれ、顔に何かついてます?」

 

 紅椿の名前を出した途端、束さんが私をじっと見ました。

 その瞳から感情は伺えません……どちらかというと理科の実験で解剖されている魚を見るような好奇心を含む無感動でしょうか。

 

「そろそろ使えるかなと思って。こう言っちゃなんだけど、箒ちゃんは昔から危ない子だったんだ。竹刀を貰えば人を叩きたくなる性分とでも言えばいいのかな。自分の力を不必要に誇示したくなる、そんな子なんだ。多分私のせいで箒ちゃんの存在価値が霞んでると思いこんで、それで自分を必死にアピールしようと思ったんだと思うけど……」

「なるほど……」

 

 確かにしょっちゅう竹刀や木刀で織斑君をどついていますね。

 私が篠ノ乃さんと話すきっかけになったのも彼女が織斑君をわざわざ危険な業で投げたからですし。

 

「その、平気だと思った根拠は?」

「箒ちゃんが自分から私に電話をかけてきたのって初めてでね。箒ちゃんは自分がいっくんの力になれなかったことを悔しがって、それで専用機を欲しがった。だから一番白式の力になれる紅椿を作ってあげたんだ」

「それだけですか?」

「あ、ううん。今のは無駄話。箒ちゃんもさっき私が言った自分の悪癖を自覚しててね……だから自分から力を求めるな行為を避けてる。その箒ちゃんが自分から力を欲したってことは……ちょっとは期待してもいいよね? お姉ちゃんだもんね?」

 

 篠ノ乃さんの覚悟を信じたということですか……焦って力を求めた篠ノ乃さんが飲み込まれなければいいのですけど。

 ……ISは好戦的な人物に乗せるのは危険です。私のように、というのも可笑しいですが、臆病な人間が乗るのが一番いいと思うんです。

 そうじゃなければ、ISは抑止力を超えて兵器になってしまいます。

 

 トントン

 

「失礼します、お夕食でございます」

「はーい。入っていいよー」

 

 ふすまが二度叩かれ、女将さんと女性二人が現れました。

 その手には食事を載せた御膳と……国士無双? あの、どう見ても一升瓶なのですが……清酒ですよね?

 

「お酒は頼んでないよー。というか私は飲めないし、あーちゃんも未成年だし」

 

 おぉ……束さんが常識人です。

 織斑先生だったら間違いなく飲んでます。しかも生徒に口止め料として一品追加した上で飲むに違いありません。

 

「ああ、サービスと思ったのですが申し訳ございません。おさげいたします」

「あー待って待って! 今日さ織斑千冬って子がきてるでしょ? サービスならその子の部屋に持っていってあげてよ」

「かしこまりました」

 

 ……んー織斑君と篠ノ乃さんも幼馴染なんですし、織斑先生と束さんもやっぱり仲がいいんでしょうか?

 なんだか当たり前のように頼んでいたのですけど。

 なにはともあれ飲酒させられなくて良かったです。楯無先輩やシャルの話では私は酔っぱらうと危険らしいので……

 

「わー、カワハギだよー。私これ好きなんだよねー。うまうま」

「ちょうど旬ですからねー。鮮度もよくて、美味です。キモの方も臭みや苦みも無いですし」

 

 美味しいものを食べるとやっぱり幸せになりますよねー……どれどれ、次はこの山菜の和え物を。イノコズチとトラノオですね。夏の山菜と言えばアカザもありますが……海水浴客が多いので控えているのでしょう。紫外線に過剰に反応することがあるようですし。

 このお鍋は……昆布のだし汁に生姜で軽く下味を付けて最後に山椒を加えたんでしょうね。ハモをお鍋にしてしまうのは珍しいような気もしますけど、これはこれでいけますね。

 この小骨の食感を嫌う人もいますけど……人生の半分を損していると思います。そんなに食べる機会はないので言いすぎでしたね。

 

「あーちゃん、美味しそうに食べるねー」

「えっ!? あ、いえ、別に食いしん坊とかそういうわけではないんですよ!? ただ美味しいものは美味しい顔して食べろと育てられたので、」

「いーよいーよ。美味しそうに食べる人と一緒だと私も美味しく感じるからね」

 

 それならその我慢しないでいいんだよ? みたいな目を止めて下さい。

 し、仕方ないじゃないですか! 美味しいんですから!

 

「んー、もうちょっと頼もうか?」

「えっ、じゃあ何にしましょうか! ……あ、いえ、その……」

 

 ち、違うんですって!

 どうせなら二人ともが好きなものを一緒に頼んだ方が無駄が無いと思っただけでその……

 

「ふふ、あーちゃん、一緒に選ぼっか?」

「……はい」

 

 結論から言いますと……とても美味しかったです。

 お昼からずっと続いていた空腹感がそっくりそのまま幸福感に変わってしまいました。

 

「さ、て……そろそろ織斑先生の部屋に行かないといけませんね」

「そっか、ちーちゃんによろしくねー」

 

 戻った時の報告が遅い、なんて怒られてしまうかもしれませんね。

 でも、さっきのお酒のおかげで気分良くなってるかもしれませんし、勇気を出していきましょう!

 

「あ、そうだ。あーちゃん耳貸して?」

「はい……………………………え?」

 

 さっきの話の続きなんでしょうけど……それは危険です。


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