Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「ん……ここは?」
「あぁ、不破さん気がつきましたか。お医者サマ呼んでくるから、そのまま待っててくださいね」
私が起きたことに気付いた女性の看護師さんが私の唇に人差し指をあてて悪戯っぽく笑った後出ていきました。
……キャバクラの方みたいな看護師さんでしたが……病院、ですよね?
あれ、ナース服なのでイメクラって方ですか……?
それはさておき、多分、私は身体に異常が無いか検査するために搬送されたのでしょう。
それにしても……
「今の看護師さん、随分スカート短かったですね」
あれでは寝ている患者さんからは見えてしまうと思います。
しかも黒かったのでピンクのナース服と対照的過ぎてよく目立ちますし……開き気味な襟元から覗いた胸元のほくろも相まってえっちぃというよりセクシーです。
やはり、いくら内なる大人の魅力を磨いたとしても本物にはかなわないのですね……やっぱり牛乳をたくさん飲むことにしましょう!
どこが、とは言いませんがとりあえずCを目標にしましょう!
「失礼します。不破さん、体調はどうですか?」
……ここにきて女医さんですか。
真っ赤なルージュがまた色っぽいです……何なんですかこの病院。
高血圧の男性患者とか絶対に来れませんよね!?
先ほどの看護師さんもついてきていて、目が合うと、はぁい♪ とてをひらひらと振ってくれました。
本当に、病院とかじゃなくてそういうお店なのではないでしょうか?
な、投げキッスとかされても困っちゃいますよ……
「顔が赤いわね。抵抗力が落ちているのかしら……?」
「あ、いえ! 体調が悪いというわけではなくて……というよりゆっくり眠れたようで身体の調子がいい気がします」
「そう? なら、ちょっと触診して問題なかったらこの子に旅館まで送らせるわ」
あの人運転までできるんですか。
見た目から考えて大学を卒業したくらいでしょうか……? 七年後、私はあれくらいセクシーになれますかね?
でもやっぱり運転できる女の人って格好良いですよね。
なんというか男の人に媚びない感じといいますか……看護師さんはむしろ媚び媚びな気もしますけど。
……というか触診って?
「溺れたことでの影響はないみたいだし、身体がマヒしてるとかも無いわね?」
「えぇ、ありません」
「そう。じゃあ触診するわよ」
「だから問題は、」
「どうせだから色々教えてあげるわ」
なんで手をワキワキさせてるんですか!?
触診ですよね!?
そんなエロティックな手つきで触る必要はないですよね!?
ちょ、待って、た、助けて!
だ、だれか~~~~!!
◇
「あー。本来なら不破が名ばかりの監督役をするはずだったが、あいつは病院で検査を受けているので私がしっかり監督する。各自、騒ぎすぎないように」
「「「「「は、はぁ~い」」」」」
うわ、マジかぁ。
イッチーと岩陰で楽しもうと思ってたのに織斑先生じゃヤバいなぁ。
流石に教師として不純同性行為は認めてくれないだろうし……夜も不破ちゃんと同じ部屋だから二人で抜け出せるかなーって思ってたけど無理そうだね。
はぁ……せっかく勝負下着たくさん持ってきたのにな。
……ところで、どこまでは許してくれるんだろう?
ふざけてる振りしてイッチーのおっぱいを揉むのはセーフかな?
下は……無理だよね。
キスも結構ギリギリ? でも、最近はアイドルグループも女の子同士でキスしたりしてるし、本気にならなければ大丈夫かも?
それに、イッチーは見られると興奮しやすいし……案外、織斑先生の目の前でじゃれつくだけでイケるかもしれない。
ふふふふ。いつもと違うイッチーが見れそうだねっ!
すぱぁん!
「痛っ!? せ、先生!? 私、何もしてない!」
というかどこから出席簿を取り出したの!?
……まさか、水着の中から?
四次元バストー! みたいな感じなのかな?
「不穏な気配……もとい不純な臭いがした」
「え、冤罪だ!」
すぱぁん!
「というか二木、お前は教師に対しての態度がなってないな。教育的指導が必要だな」
「ちょ、まっ、待って先生! 大人しくする……しますから!」
「これは、いわゆる見せしめ的な部分が大きい。諦めるんだな」
「そんなぁ……」
どなどなどーなーどーなー
……不破ちゃん戻ってきてぇ!
◇
ゴォォォォォ、という音をさせながら走るバンに乗って花月荘に向かいます。
運転手はやはり先ほどの看護師さんです。
「……あの、病院から離れてもいいんですか? 一応私にも足はあったのですが……」
「ISでしょ? あんまり外で使っちゃだめじゃないの?」
「あれ……知っていたんですか?」
「ウチはIS関係で怪我した人を受け入れるための病院でもあるの。さっきのお医者サマの妹がIS学園の卒業生だったとかで」
そうだったんですか。
もしかするとあの病院があるから臨海学校の行き先も花月荘だったのかもしれませんね。
あまり状況などをしつこく聞かれなかったのもIS学園関係だったからですかね。
「でも、あの学園。私も入りたかったなぁ」
「目指していたんですか?」
「まぁね。ISの技術を学べば医療にも転用できると思ってたから……残念ながらISの適性が全くなくて受験資格も貰えなかったんだけど」
IS学園にいると忘れがちですが最低ランクの適性Cでも相当珍しいんですよね。この看護士のお姉さんのように適性が全くない人の方が普通なんです。
でも、適性があっても自慢できるようなことではありません。
むしろお姉さんのように人を助けるため、というような目的を持っていた人の方がよほど立派に思えます。
もちろん高校一年生で目的を持っている人の方が少ないのは分かっていますけどね。
大人っぽい雰囲気は見た目や所作ではなくて、考えて生きてきたという経験からなのかもしれませんね。私も頑張りましょう。
「なぁに? 何か気になるの?」
「あ、いえ!」
バックミラーごしに私がお姉さんのことを見ていたことに気付いたようです。
考えていたことが魅力なんていうしょうもないことだったので恥ずかしくなってしまい、つい視線をそらしてしまいました。
お姉さんのようになれれば、私も自分に自信を持てるでしょうか……?
「そういえば、体の傷はなんで?」
「っへ?」
「背中の物はともかくお腹と足のは最近の怪我よね? ISってさ、そんなに危ない目に遇うようなものなの?」
「いえ、ISは操縦者が命の危険に瀕していない限りはエネルギーシールドのおかげで肌に日焼け痕が付くことすらないです」
「じゃあ、不破さんは余程危険な目にあったことがあるんだ」
「そういうわけでもないのですが……まぁ、私がバカだっただけです」
あの時シャルを庇わなかったとしてシャルが死ぬことはおろか、怪我をすることすらなかったでしょう。
昏睡状態に陥りはしたでしょうが、それでも数時間で目を覚ます程度だったはずです。あの時シャルを守ったのは……感情に突き動かされた結果です。
シャルは感謝してくれていますが、私は必要のないことをしてシャルに、そしてラウラさんに一生消えない負い目を背負わせてしまいました。
あの出来事は……結局、誰も救ってはいません。
「いろいろあるのね……でも、その傷に負けちゃだめよ?」
「ですけど……やっぱりこんなの……特に背中のものは、」
「……運転席の後ろのポケットに白い封筒があって、それに一枚の写真が入ってるの。それ、見て」
えと……?
ポケットというとこれでしょうか?
封筒は小さくて、ちょうど写真が一枚入るかという程度の大きさでした。
「よし君、七歳……?」
「あ、それ裏面」
分かってますっ!
誰かの写真が移っているのだろうことは予想できたので特に身構えもせずひっくり返して――
「ぅ……」
写真を取り落としかけました。
写真に写っていた男の子――この子がよし君なのでしょう――はにこにこと笑っているのですが、その身体は誰の目から見ても何かしらの、そして重大な病気を持っていることが明らかでした。
それでも、本当に目を逸らしたくなるくらい酷い状態なのに、楽しそうに笑っていられる理由が私には分かりません。。
「私の弟。病名は言わないけど皮膚が石みたいに硬くなっていく先天性の皮膚病に罹ってたの」
「…………」
「その子と不破さんの傷痕は同じ? ……思った通りに言って」
「……いえ。私の方が何倍もマシです……ごめんなさい」
見下したり、醜いとか気持ち悪いとか、そんはことは思いたくないのですが……それでも、こんな風にならなくて良かったと考えてしまいました。
私の傷より、よっぽど酷いです……
「謝る必要はないのよ。それで、私の弟はどんな顔をしてる?」
「……笑っています」
よし君は本当に楽しそうに笑っています。
自分が背負っているものを気付いていない訳ではないはずです。それでも……それこそ彼よりかはよほど健常者に近い私よりも楽しそうに、純粋に笑っています。
「体温調節が難しくなる病気だから……去年、死んじゃった」
「ご冥福を……」
予想はしていました。
お姉さんが先程から過去形でしか話さなかったので……
「別にね、不破さんに火傷程度でなんなの? なんて言いたいわけじゃないの。女の子にとって肌は大切だしね。でもね、できれば私の弟みたいに自分の背負ったハンデもものともしないくらい力強く生きてほしいの。それは、私が看護師やってる理由でもあるの」
「それでも、この傷が醜いのは見た目だけではないですから……」
人には見えないでしょうが、これは罪の
「あぁ、数年前のフランスで起きた小学校が全焼した事故ね……ごめんね。少し調べちゃったの」
「……火元の教室で唯一生き残ったのが私です」
「一人だけ生き残ったから申し訳ない?」
「いいえ、私も生き残るための努力をしましたから」
誰も、私も死ねばよかったとは思っていないでしょう。
亡くなった生徒の母親は私が生き残ったことを喜んでくれました。
私が代わりに死ねばよかった、と言われたこともありましたがそのあとで謝ってもらえましたし……
ですが、
「ですが……私は誰かを助けられたんじゃないかって。皆とは言わなくても被害に遭ったうちの独りくらいならきと……!」
「そんなに簡単に人は助けられない。状況的に助けようとすることはできたかもしれないけど、それで助かるかは別。医者と同じようなものよ」
「お姉さん、しっかりしてますね……」
「こんな格好してるからってバカ女だと思ったら大間違いよ?」
……人は簡単には助けられない、ですか。
私は思い上がっているのでしょうか?
私になら助けられたはず、という風に……あの火事の時はまだ九歳。自己弁護のようになってしまいますが、思っているほど出来たことは少なかったのかもしれません。
……それに、今更ですよね。
あの火事の責任を感じ始めたのは学年別トーナメントの時からです。
自己嫌悪のあまり、私は自分を悲劇のヒロインにしていなかったでしょうか?
どちらに転んでも、私は最低の女かもしれませんね。
「それに、あの火事は実験中のガス爆発でしょ? 多分、本当に助けられなかったわ。ガス爆発の現場なんてレスキュー隊員だって二の足踏むんだから」
「……受け入れられはしませんけど、その可能性もあることは覚えておきます」
もっと早く、誰かに聞いてもらえばよかったのでしょうか?
……いえ、きっと親しい相手には何を言われても私は聞かなかったでしょう。
私を気遣って出てきた言葉だと思いこんで、心の中で否定すると思います。
「ありがとうございます。少し、楽になりました」
「どういたしまして。これが看護師の仕事だからね……不破さんも看護師なってみない? 可愛いと思うわよ?」
「え、いえ……そんな大胆な格好は似合わないと思うので……」
あ、でもおじいちゃんおばあちゃんには好かれる自信があります!
このロリ体型を活かして孫のように可愛がってもらえると……涙がでそうです。
「そうやって外見から判断するのは間違いよ?」
……分かってますけど、お姉さんだと本当にイメクラの人にしか見えません。
「それに、私はケーキ屋さんになるんです」
「あら可愛い」
「む、バカにしてますね? 今度病院にホールで送りますからお皿とフォークとナイフを用意して待っていてください!」
「楽しみにしておく……ほら、もう着くわ」
薄暗くなった窓の外に海が見えてきました。
人がはしゃいでいる声も聞こえるので既に花月荘の近くまで来ているのでしょう。
……今回のこともありますし、本気で泳ぐ練習をしてみましょうか?
ただ、誰かに協力してもらわないと無理ですね。
「はい、到着。臨海学校楽しむのよ?」
「はい。いろいろありがとうございました」
「だから、これもシ・ゴ・ト」
「送迎は看護師さんの仕事ではないかと……縁があればまた、」
「看護師と医者とはさっさと縁切らないとダメよ? 私達も同じ患者さんの顔なんて見たくないわ」
……確かにその通りですね。
彼女たちに会うにはまた危険な目に遭わないと無理ですから。
「では、もう会わないことを願いましょう」
「そうね。さよなら。元気でね?」
最後にハグをして、お姉さんの胸のボリュームを測った後で花月荘に向かって歩き始めます。
……95のFですか。