Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「長い長い初日」


4. Le long et désire ardemment en premier le jour.

「あー、寒っ」

 

 2月中旬、日本の土地で肩を抱きながら歩く私は目立ちまくりです。いえ、常軌を逸した奇態を曝してるとかではなく容姿の問題からです。金髪なんて珍しくないのに……日本人のこういうところは直すべきですよね。

 というかカンニング防止策で試験二日前まで受験会場を通知しないとか、日本人真面目すぎません? 私が日本人だった頃はカンニングした人もニュースとネットで叩かれてお終いでしたよ。

 それに、この多目的ホールですか? どこの勘違いさんが設計したのか知らないですけど構造が不親切すぎます。

 

「うん、受験会場間違えるとか一夏どんだけだよ! って思ってましたけど、これは仕方ないですね」

 

 インカの古代都市は迷路状に家を建てていくことで敵対勢力からの侵略に備えていたらしいですが……この建物はだれに襲われる気なんでしょうか。

 まぁ、私が迷うことはもうないのでいいですけど。

 え、その根拠ですか?

 

「えーと……あれ? これ、どうやって2階に行くんだ?」

 

 なんて呟いている織斑一夏を発見したからですよ。ついて行けば問題無くIS学園の受験会場に到着することは間違いないです。

 あ、暇つぶしにいいこと思いつきました。確か携帯の録音モードが……ありました。これで、

 

「ええい、次に見つけたドアを開けるぞ、俺は。それでだいたい正解なんだ」

 

 録音完了! そして残念不正解! そしてそして道案内ありがとうございました。頃合いを見てこれを本人に聞かせてみよう。

 織斑一夏に数歩遅れて部屋に入ると、それはもうぞんざいな扱いで通されました。これでもフランスの代表候補生の1人なんですけど……

 というか、この女、どう見ても男の織斑一夏を通した時点で怪しすぎます。篠ノ之束の手がこんなところまで。

 

 そして、男がISを動かす世紀の瞬間を目撃しました。

 いや、本当に動いてますね。って、なんで大したリアクションも無しに実技試験会場に行っちゃうのんですか!? 頭の構造が理解できません……だって藍越学園の試験じゃないのはもう分かってますよね?

 

「……で、山田先生の突進を避けて合格……と」

 

 というか動かせれば合格なんでしたっけ? 合格が分かってる試験とか、やる気でないですね。しかも山田先生は乗り慣れているとはいえラファール・リヴァイヴ……まぁあれもいじってあるみたいだけど、カゲロウと比べたら役不足感が拭えません。というか専用機持ちは試験パスでいいじゃないですか。意味分かりません。

 

「えーと、じゃあ次の、不破アリサさん?」

「はい」

 

 じゃあ……あぁ、これ倒しちゃうと主席になっちゃうんでしたっけ? 確かセシリアだけが試験官を倒したから主席だった、とか言ってましたね。

 後々の面倒は避けたいですし……無駄弾も撃ちたくないので格闘だけで適当に負けようかな。不破圓明流を使わなければ負けることにも抵抗ないですし。確かエネルギー切れで負けでしたっけ? 織斑一夏が避けただけで勝利扱いされたことを見ると……先生に膝を付けさせなければ勝利しないで済むみたいです。

 

「よろしくお願いします」

「こ、こここ、こちらこそよろしくお願いしましゅ!」

「「…………」」

 

 あちゃー、な空気が流れました。というか山田先生を試験官にしたの誰でしょう? 逆立ちしても向いてないと思います。

 まぁ……嵐才流がISでも有効なのか試したいですし、軽く動きますか。今まで母様(ママ)の手前、不破圓明流以外使えませんでしたから。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)……確かに遠距離からの接近には有効ですが、格好の的になっちゃいますよ」

 

 知ってます。ISじゃなくて母様(ママ)との組み手での経験からですが。

 

「でも、先生? 我慢すれば何とかなるんですよ。それと、」

 

 飛来する銃弾をノーガードで受け止めながら先生に接近。残り数メートルまで近付いてからの再加速です。上手く負けるにはこれしかないです。

 

「早いところ、撃つのやめた方がいいですよ?」

「え? って近い……!?」

 

 体勢を低くして肩口からタックル。うん、もう9割のシールドエネルギーを削ってくれてます。反撃1、2回で私の負けでしょう。 

 

「ただじゃ負けませんけど、ね!」

 

 さらに一歩踏み込んで腹部に跳び膝蹴り、そのまま膝を使って空中に浮き上がらせてからのソバット。PIC(パッシヴ・イナーシャル・キャンセラー)が乱れて落ちてきた山田先生の機体にさらに右ストレート。そして肘を曲げて接近してのショートエルボー……が当たる前に試合終了のブザーが響きました。見れば胸部の装甲に山田先生のブレードが突き立ってます。

 最初から負ける気ではありましたが、いつ展開したのか気づきませんでした。試験官に選ばれるだけはあったんですね。

 

「最初の射撃がなければ負けていました……うーん、セシリア・オルコットさんの時よりエネルギー削られちゃってますね」

「いけるかな、思ったんですけどね」

 

 当然、本当はそんなこと考えてないですよ? あんな特攻で勝てるほど、元候補生は甘くないですから。

 嵐才流の特徴の1つの高速戦闘法・嵐打がISでも有効だってことが分かったので良しとしましょう。……ただ足が不格好に長いので調子が狂います。

 

「んー、どちらを主席にするか迷いますねー」

「主席にならないために負けたのに!?」

 

 あ……

 山田先生のメガネがキラリと光りました。

 

「やっぱりおかしいと思ったんですよー。専用機なのに兵装さえ使わないで近接戦闘に持ち込むなんて。でも、合格基準は満たしてますし……不破さんは主席になりたくないようなので次席ということにしておきましょう」

「ありがとうございます」

 

 話が通じる人でよかったです。セシリアが主席じゃなかったら一夏との試合フラグが折れるかもしれませんし。

 

「それにしても、不破さんのISはそれで全展開ですか?」

「はい。どこかおかしいですか?」

「いえ……露出が多くて可愛いなって思っただけです」

 

 ……可愛い、ですか。IS学園にくる前に、とある事情からカラーリングを白から黒一色にしたので大人っぽいって言われたかったのですが……背、ちっちゃいですし無理ですよね。

 というか実はこの時点での格付けなんて全く意味ないですよねー。ちょっとすれば鳳鈴音が、そのあとシャルロットとラウラ・ボーデヴィッヒと専用機組が転校してきますし……あ、セシリアの主席自慢も録音しようっと。

 

「不破さん。次は本気で戦いましょうね」

 

 山田先生って戦闘狂(バトルマニア)だったんですか!?

 

  ◇

 

 と、そんなこんなで初日のホームルームです。自己紹介とか恥ずかしいから苦手なんですよね。趣味とかもないので面白くできないですし。というのは全部建前で……酷い人見知りなんですよ、私。

 

「えーっと。不破アリサです。えっと、その、あの……あんまり見ないで下さい……」

 

 もう、なに言ってるんでしょうかね、私は? まるで自過剰女じゃないですか……でも30人くらいに注視されるなんて慣れてないんですよ。フランスでは少人数制とかでクラスメイトが10人だけでしたし。

 

「不破さんってハーフなの?」

「そうですけど、なにか?」 

「ううん……それだけ」

 

 なので、席に着いてから話しかけてくれた女の子にも不愛想な返事しかできませんでした。人見知り、直さないとまずいですね。

 なんちゃってでもピンクがかった金髪は珍しいのでかなり視線を感じますね。しかめっ面になっちゃうのは仕方ないんです。

 

「さぁ、ホームルームはお終いだ。IS基礎理論始めるぞ。オルコットと不破は退屈だろうが寝たら許さん」

「あら、そんなことしませんわ。しかめっ面をしている不破さんは文句がありそうですけど」

「この顔は生まれつきです」

 

 セシリアが私をちらりと見て笑いました。まだ、英仏での共同IS訓練の時のことを根に持ってるんですかね?

 あぁ、セシリアと会うのも久しぶりですね。フランスにはBT兵器の資料が少なかったので、親父(パパ)が個人的なつき合いのあったイギリスのIS研究所にたまに遊びに行っていたんですよね。それでセシリアと知り合って、彼女は上下をはっきりさせたい性格ですから? 何度か模擬戦闘をしたんです。戦績はだいたい互角だったと思います。

 多分セシリアが怒ってるのは私が1回多く勝ってる状況で模擬戦闘をするのを止めたからでしょう。機体的にBT兵器は苦手なんで遠慮したいんですよね。もちろん勝ち越したのでやめました。勝ち逃げ万歳です。

 セシリア自体はISの兵器としての一面を認めてくれたので嫌いじゃないんですけどね。やっぱりスポーツカー扱いの現状ではISを兵器として見ないのも仕方ないのかもしれませんが。

 それでも軍に配備されていたりするんですから、やっぱり兵器だと思うんですけどね。

 

「これで、授業は終わりだ。今日一日頑張るように」

 

 織斑先生の一言に女子生徒の方々が、はぁーい♪ と元気に答えます。うーん、どこがいいんでしょうか? シャルロットの方がよっぽど魅力的だと思うのですが……最初の訓練以来一度も会えていませんけど。自分から距離を置いたとはいえ辛かったです。

 というか、その弟の織斑一夏も廊下いっぱいに見物客が押し寄せていますし。ご苦労様です。あ、ポニーテールの女の子が果敢にも話しかけましたね。

 

「アリサさん、久しぶりですわね」

「あー、そーですね」

 

 私には早速セシリアが絡んできました。

 

「なんでそんなに投げやりな反応なんですの!? ……まぁいいです。主席はわたくしですのでこれで戦績は同点ですわよ」

 

 やっぱり気にしてたんだ。今8戦4奨4敗くらいですか?

 

「26戦13勝13敗ですわ! どれだけわたくしとの試合に興味がなかったんですの!?」

 

 そんなに戦ってたっけ? ……というかセシリアの声に反応して、いなくなった織斑一夏に代わる標的を探してたクラスメイトがこっち見てるじゃないですか。しかも13敗って言うけど、その半分くらいはギャラリーが大勢いて私がまともに戦えなかったからじゃないですか。

 

「アリサさん、そんな顔をしていると眉間が凝りますわよ」

「誰のせいですか……」

「未だに人見知りは直っていないのですわね……涙目になっていてよ?」

「なってないもん」

 

 こっち見るな! という風に周りを見たら目を逸らされました。そんなに怖い顔してるのでしょうか?

 

「しています」

「だからセシぃのせいです!」

「ふふ、そのあだ名も懐かしいですわ」

 

 つい言っちゃっただけですよ! もう……目立ちたくないのに。周りからヒソヒソ話されてるじゃないですか!

 

 キーンコーンカーンコーン。……パァンッ!

 

 ありがとうございます織斑一夏。今は叩かれているあなただけが私の癒しです。

 

  ◇

 

「――であるからして、ISな基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せら――」

 

 隣で唸っている織斑一夏……もう織斑君でいいですね。彼を見て癒される。いやーこんな当たり前のことがなんで分からないんですかねー。

 まぁ、私には彼以外のノートに必死に書いている女子生徒たちの方が心配ですが。

 男性であるが故にISに興味を向ける意義がなかった織斑君と違って、彼女達はISがどれだけの力を持ったものか分かっているはずなのに。どうして今更この程度のことでノートをとるんでしょう? 彼女達は罰しなければなにが起きるのか理解していないに違いありません。

 

『また、険しい顔になっていますわよ』

『だって……』

 

 プライベート・チャンネルを使用してセシリアが話しかけてくる。これも校則違反のはずなんだけど……

 

『彼女たちもISに乗るようになれば実感するでしょう。今はまだ仕方ないですわ』

『そうでしょうかね……』

『それに、アリサさん? 少しは柔らかい態度をとらないと疎まれてしまいますわよ?』

 

 人と同調できないものは爪弾きにされる。そんなことは分かっていますけど、だからって伝えなければいけないことを伝えないことが許されるわけじゃないと思うんです。というか私は疎外されている、というより私から中に入っていけないだけです。自分の責任です。

 でも孤立してしまえば私の意見に耳を傾けてくれる人もいなくなってしまいますし……今は様子見の段階なんですかね。

 

「――はなにかわかりますか、不破さん……えーと、不破さん? 退屈だとは思いますが授業に集中してくれないと先生困っちゃいます」

 

 どうやら考えに没頭しすぎていたようですね。というかセシリア? しっかりなさい、みたいな反応してますけどね、これあなたのせいでもありますよ?

 ……とりあえず、答えなきゃ。

 

「こほん……えっと、特記事項第21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする、ですか?」

「え!? あ、はい。正解です……よく覚えてますねー」

 

 もらってよかった分割思考。普段は使ってないんですけど、それでも無意識の間に聞き取った情報とかを処理できてるみたいなんですよね。平然と答えた私にセシリアがビックリしていたのでフフンと笑いかけておきました。

 というか、これくらいならみんな覚えてるんじゃないですか? 読んでおけって渡された冊子に書いてありましたし。それに、自分たちに一番関係する項目なんですから基礎理論とかなんかよりよほど重要じゃないですか。

 

「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」

 

 シーン……

 

 いや、だから聞くまでもなくいるわけないじゃないですか。というか、必読って書いてありましたよね。

 

「あ、そーだ……」

 

 織斑先生にどつかれている織斑君を見て妙案を思い付きました。うん、私天才かもしれません。

 

「織斑先生」

「なんだ、不破? まさかお前が織斑の面倒を見るとでも言うのか?」

 

 うわー、自分の弟の不甲斐なさに若干キレてらっしゃいます。おぉ怖い。ですがうちの母様(ママ)はもっと怖いので平気です。

 

「その、まさかです」

 

 ニヤリと笑いながらの宣言。思えば、今日学園に来てから初めて笑ったかもしれません。

 

『アリサさんっ!? 今、その男に手を出せばこの学園の全員を敵に回しますわよ!?』

 

 あ、そっか。なら……うん、こうしよう。

 

「でも、1人じゃ限界があるので有志の人にも協力してもらいますけど」

 

 セシリアの忠告を踏まえ、周りの女生徒たちも巻き込めるようにする。私に向けられていた裏切り者を見るような視線が、救世主を見るようなものに変わりましたがどうでもいいです。というか、また目立っちゃいました……

 まぁ、私が織斑君に教えたいのはISは兵器であるっていう一点ですから、教える人数が増えるのはさほど問題ではありません。多分、彼がその意見に共感してくれれば、他の生徒もひきずられるのではないでしょうか。

 

「……別にクラス内での交友について口出しする気はない」

 

 織斑先生のその言葉を聞いた瞬間、クラスのほぼ全員が黄色い歓声を上げました。盛り上がっていないのは当の本人である織斑君と私、あとセシリアくらいです。

 なんていうか、皆さん自分の欲望に素直ですね。

 

 二時間目が終わって休み時間。

 セシリアが織斑君に絡んでいましたが無視……しようと思っていたのに、

 

「極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら」

 

 ……なんて言葉が聞こえちゃったら無視できません。

 

「ねぇ、セシぃ? どの方角の島国が未開の土地だって言いました? フランスの北の島国ですか? ちょっと聞き逃しちゃいました」

「極東の、この日本という……アリサ、さん?」

 

 ギギギ、とセシリアが青い顔で振り返ります。

 

「えぇ、アリサさんです」

「……怒って、いませんよね?」

「さすが、下味もつけないで肉を焼く大雑把な国の人は違いますねー。適当なもの食べ過ぎて、相手が怒っているのかどうかの判断も自分ではできませんか?」

 

 イギリス人は料理をバカにするに限ります。いえ、当然おいしい料理はありますよ? ハズレのレストランが多いだけなんです。

 

「なんですって……アリサさん、あなた言っては、」

「セシリアー? 私の特技、知ってるよね? あと、この学校、IS以外の校則は割と緩くてね。喧嘩くらいなら怒られるだけなんだよ?」

「ひぃっ! ……あ、アリサさん、落ち着いてください。日本人の美点である敬語が崩れていてよ?」

 

 震えながら後ずさりをするセシリア。一度、セシリアがISじゃなくて生身での格闘で挑んできたときに返り討ちにしたんですよね……トラウマ確実の業で。えぇ、最恐の不破圓明流の人間ジェットコースターで。

 

「ふーん……日本人はよく謝りすぎだって言われますけど……むしろ西洋人は、」

「ごめんなさい!」

 

 おぉ、90度謝罪……

 

「まぁ、いいですけど。相手をバカにするときに国のことを言うのは危険ですよ」

 

 特に日本で日本のことをバカにするとか、リスクばかり高まるだけです。

 

「ご忠告傷み入りますわ……皆さんもごめんなさい」

 

 私だけじゃなくて周りにいた日本人の女生徒にも謝るセシリア。偉いじゃないですか。

 ……それでも織斑君には謝らない辺り、らしいですけど。

 

「あぁ、あと私は英国式のステーキもフィッシュアンドチップスも好きですよ?」

 

 大雑把ではありますが、食材の味が活きますからね。

 じゃ、席に戻ろうかな。セシリアもぼーっとしてないで行きますよ。

 

「えっと、次の授業は……」

 

 ザザザザッ!

 振り返った瞬間、人混みが割れて私の席までの道が出来ました。

 皆さん少し顔が青いですよ? 大丈夫ですか? というか見ないでくださいよ。私が転んだらどうするんですか。

 

「よし、では実践で使用する各種装備の特性を説明する……前に、再来週のクラス対抗戦にでる代表者を決めないとな」

 

 クラス代表者……あーあれですか。生徒会の会議とかにも出なきゃいけないっていう。目立ちそうな役割ですからさっさと織斑君にしちゃってください。

 

「はいっ。織斑君を推薦します!」

「お、俺!?」

 

 お前ですよ。抵抗せずにちゃっちゃと……あ、私も織斑君が良いと思いますー。

 

「待って下さい! 納得がいきませんわ! そのような選出は認められません! 大体――」

 

 ですよねー。まぁ私に被害がなければ……

 

「実力から行けばわたくし、もしくはアリサさんが代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由でそこの冴えない猿にされては困ります!」

 

 うん、なんで私の名前を出したんですか……別に誰が代表でもいいから私を目立たせるようなことだけはやめて下さい!

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」

 

 カチン。

 

「イギリスだって、」

「織斑君は黙って下さい。セシぃ、日本が文化として後進的な国ならイギリス人は脳の発達という意味で後進的みたいですね」

 

 キレた織斑君に被せるようにして一気に言い放ちました。言い放っちゃいました……目立ちたくないのに。その途端、セシリアが可哀想なくらいに慌て始めましたが、今回はさっきより熱いお灸を据えないといけませんよね。

 

「アリサさん、いまのは」

「文句ですか? ほんの数分前の忠告も省みることができないって、自分で証明したんですから文句なんてあるわけ無いですよね?」

「その……」

「さっきの謝罪もただのポーズですか? それだとセシぃとの付き合い方も考え直す必要が、」

「アリちゃんのばか! きちく! 大嫌いですわ!」

「…………あれ?」

 

 教室から出ていっちゃいました。

 ……アリちゃんとか久しぶりに言われちゃいました。じゃなくて、もしかしなくても、また、やりすぎました?

 周りを見渡すと、目を逸らされます。いえ、見ないで下さいとは言いましたがこれはこれで辛いです。というか日本人のために怒ったのに非難されるなんて……いえ、見るからにプライドが高いセシリアを泣かせたわけですから当然かもしれません。

 

「とりあえずちびっこいの、座れ」

「ちびじゃ……なんでもないです」

 

 国だけじゃなくて人の身体的な特徴も馬鹿にしたらいけないんですよ? 好きで端数切り上げ150センチな訳じゃないんですから……

 

「とりあえず、候補者は他薦で織斑一夏、自薦でセシリア・オルコット、他薦で不破アリサ、だな。どうやって決めようか……」

 

 あぁ! しっかり数に入れられてるし! というか織斑君にセシリアフラグを立てさせなきゃいけませんから方法は決まってます。

 

「試合で勝ち残った人というのが順当だと思います」

「一番強いのがクラス代表者、か。いいだろう。試合は一週間後の月曜日と火曜日の放課後だ。組み合わせは、」

「先にセシリアと私が戦います。互いに万全でないと勝負が決まってしまうので」

「そうだな。とりあえず関係ない奴らもこの専用機持ち2人の試合を見て技術を盗め」

 

 だから、私が注目されるようなこと言わないで下さいよ! というか専用機持ちの代表候補生ってこと隠してたのにセシリアのせいでめちゃくちゃだよ……放課後だから他のクラスの人も来るんだろうな。私、戦えないかもしれません。

 

「ところで俺はどれくらいハンデをつければいいんだ?」

 

 空気が、死にました。

 原作では爆笑の場面でしたが……セシリアとの掛け合いがなかったから売り言葉に買い言葉じゃなくて、ただの勘違い君みたいになってます。

 ……え、フォローも私なの? なんで言ってやってくれみたいな目で私を見るの? こういうのは普通教師である織斑先生が、ってなんで先生まで私を見るんですかぁ!?

 

「……お、織斑君、本気ですか? あの、こう言ってはなんですけど織斑君はただ唯一男でISが使えるだけなんですよ?」

 

 切なすぎて私が泣きそうです。というかなんかもうごめんなさい。恨んでくれてもいいです。

 

「……じゃあ、ハンデはいい」

「…………ごめんなさい。というか私達がハンデ付けましょうか?」

 

 うん、トドメをさしてるのはわかるけど今ならまだなにも知らなかったで済みますからね。

 

「いや、いい」

「なら、せいぜい足掻いて下さい。あぁ、セシリアが勝つように祈っておいた方がいいですよ。あれで、しっかり手加減してあげられる子ですからね。私と違って。」

 

  ◇

 

「もう、なんで私がこんなに苦労しないといけないんですか!」

 

 他の住人のいない寮の部屋でつい叫んでしまいます。というか、2人部屋に1人で暮らすってのも寂しいですね……まぁ、知らない人といるのも厳しいんですけど。初日からクラスの皆さんに怖がられてしまいましたし……はぁ。

 

 コンコン。

 

 ため息をついていると扉からノックの音。誰でしょう?

 

「アリサさん、開けて下さらない?」

「セシリア? ちょっと待ってね」

 

 考えてみれば私の部屋を訪ねる人なんてセシリアくらいしかいませんね。

 扉をあけると紅茶のいい匂いが漂ってきました。

 

「実家の方から持ってきましたの。味は信用していいですわよ?」

「セシぃ……」

「な、なんで泣きいますの?」

「だって、学校では泣かせちゃったのに……ありがとう」

 

 実は、セシリアを泣かせてからは本当に不安だったんです。知っている人が誰もいない中で唯一の友人は泣かせてしまうし、一年間付き合うことになるクラスメイトに怖がられますし……

 

「誰かが今のアリサさんをみたら驚くでしょうね」

「ヤですよ。みえっぱりってバカにされます」

「プライドばかり高いと疲れてしまいますわ」

 

 そうかもしれない。

 でも、

 

「セシぃには言われたくないです」

「……この子は全く……」

 


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