Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

39 / 148
「生き残れ!」

アリサ達が三年生になったら、のお話。


38/EX2. Survivez!

 

『さぁ! 始まりました! 全学年対抗サバイバルゲーム! 皆さん気合いは十分ですかぁぁぁあ!?』

「「「「「「おぉぉぉぉぉぉおお!」」」」」」

 

 なぜか司会をやっている蘭ちゃんに合わせて、生徒の皆さんが吠えます。

 気合い、入れすぎです。

 皆さん女の子なんですからもっと淑やかにですね……

 ……今年から始まった新イベント、もとい生徒の実技試験――サバイバルゲーム。もう師走だというのに外に出なきゃいけないなんて苦痛です。

 ランダムに支給される武器を駆使して相手に一撃加えれば倒したことになり、そうして最後まで立っていた生徒の内、最も得点を稼いだ生徒が勝利という単純なルールです。

 このイベントの目標は何らかの問題が発生してISに乗れないまま戦場に出てしまったとき、生き残れるための勘を養うとかなんとか……十中八九、思いつきの企画でしょう。

 一年生の一般生徒が1ポイント、二年生は2ポイント、三年生は3ポイントです。

 専用機持ちはその十倍で、一般生徒と専用機持ちは別々の方式で採点されるとか。

 あと、優勝者には何か特典があるそうです。

 

『えー、アリサさん……じゃなくて生徒会長の不破アリサ先輩は30ポイントに生徒会長補正の50倍をかけて1500ポイントです』

 

 なんですかそれ!?

 だって、一般生徒相手にIS展開しちゃダメって言ってたじゃないですか!

 そうなれば私はただのか弱い女の子ですよ!?

 

『専用機持ちの方々はISを利用しての専用機持ちへの攻撃は可能です。ただし、その場合は行動不能にしないと得点になりません! また、攻撃用兵装でなければいつでも使用可能です!』

 

 ……ん? 本当ですか?

 それならこの勝負、もらったも同然ですね!

 ハイパーセンサーでも捉えるのが難しい私の第三世代型IS『幻狼(ミラージュ・ガルー)』なら見つかりっこないですし。

 

『では、大校庭の中央に設置されている支給武器を手に取った方から開始です!』

 

 だだだだだだだだっ

 

「……支給武器を取らなければ参加しなくてもいいんでしょうか?」

 

 同じようなことを考えたのか、私の他にも武器を取りに行かない生徒が何人かいました。

 

『ちなみに、武器をとらなかった場合も十分後に強制開始でーす!』

 

 それ、先に言ってください!

 というか先生方も新しいこと始めるなら事前にルールブックを配布するとかしてくださいよ!

 今回の件、生徒会に知らされてませんよ!?

 ……なんて言っていたら、最後の一箱になっていました。

 まぁ、残り物には福があると言いますしね。

 

 ぱかっ

 

「…………そうですか。えぇ、分かってましたよ? これがお約束だって……」

 

 武器 : こんにゃく詰め合わせ

 使用方法 : 相手の地肌に滑らせる

 

「……そこはかとなくいやらしい武器ですね」

 

 ◇

 

 さて、とりあえず人目に付かないところまでやってきました。

 というか、こんにゃくを手に持った瞬間に攻撃されて散々でしたよ。

 五枚あった板こんにゃくの内、二枚が撃ち抜かれてしまいました……もちろん、ちゃんと回収しましたけどね。

 とにかく、身を隠さないと……

 

「……きて」

 

 ゆっくりと黒い装甲が身体を包んでいきます。

 その形状はカゲロウと同一。

 コアを流用したからですかね?

 

 ――Code : Trick or Trick?――

 ――Mode : Ghost――

 ――Stealth Cloth open――

 

 全天候対応ステルス十月最後の夜(イタズラしちゃいます)

 一昨年、出張で戦い抜いたオーレリア戦争から得たフェンリアシステムを改良した、50センチメートル以遠からでは目視もできない第三世代兵器です。

 チャフやフレアなどのソフトキル兵器との併用でハイパーセンサーにも捉えられなくなります。

 ……これが完成したから私が生徒会長になんかなってしまったわけですが。

 

「さて……お化けの狼が皆さんを食べにいきますよ」

 

 自分で言って気付きましたがカゲロウもミラージュ・ガルーも大神のくせに二足歩行ですし、狼人間ですね。

 ハロウィン生まれの私にはちょうどいいかもしれません。

 れっつ! とりっく・あんど・とりっく!

 

「え? ……だ、誰かいるの?」

 

 ……おっと、声を聞かれてしまったようです。

 音による探知からだけは逃れられないんですよねぇ……

 私の声を聞いたと思われる一年生の女の子は青い顔をしながら周囲を伺っています。

 

「もぅ……やっぱりこっちに来るんじゃなかった……ここって、昔、お墓だったらしいし、やっぱり出るんだぁ!」

 

 ……え、そんな七不思議初めて知りましたよ?

 というかIS学園は新しいので七不思議なんかあると思いませんでした。

 まぁ、私好みの状況になったので多くは言いませんけどね。

 

「う~ら~め~し~や~」

 

 ぴとり

 

「~~~~~~っ! きゅう……」

「あらら、気絶ですか?」

 

 背後から忍び寄りこんにゃくで首筋を撫でたら倒れちゃいました。

 うーん、怖がりだったんですねぇ。

 少し可哀想なことをしました。

 

『おーっと!? またもや誰かが生徒会長の餌食になった模様! 場所は第四校舎の裏です!』

 

 えー!?

 私の居場所言わないでくださいよ!

 

『会長はこんにゃくというハズレ武器を巧みに利用して、次々と挑戦者を屠(ほふ)っていきます! 正直、未だに倒されていないことの方が驚きです!』

 

 ハズレ武器入れないでくださいよ!

 

 チュイン!

 

「ふぇ?」

 

 パァン!

 キィンっ!

 

 ……みゃぁぁぁぁぁ!?

 狙撃されてるぅぅぅぅ!?

 

 ガン!

 ががががががっ!

 パァン!

 チュイン!

 

「ちょ、多いですってぇ!? しかも狙われてます!?」

 

 襲撃者の狙撃は正確に私の立っている場所を狙っています。

 なんでか知りませんが居場所がバレているみたい……あぁ! シャルですね!?

 同じフランス製なので識別コードが発行されているはずですし!

 ……それなら。

 

 ――複合ソフトキル兵器(ヨルノトバリ)射出――

 

 チャフ、フレア、電磁波に超音波。

 ハイパーセンサーを含む、ありとあらゆる探知機類を狂わせる世界最高のソフトキル兵器群。

 射出という行程がある以上、動きがあるのでどこらへんにいるかは知られてしまうのですが、すぐにどこにいるかは分からなくなります。

 発射から弾着までのタイムラグがある狙撃に対しては大きなアドバンテージです。

 

「しかし、やってくれますね」

 

 シャル……次は私の番ですよね?

 

 ◇

 

「残念、逃げられちゃった」

 

 中央塔の頂上から第四校舎に向けていた二十の銃口を下ろす。

 アリサのと同時期に作られた第三世代型IS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ』――通称暴虐の疾風(ラファール・タイラニー)

 イメージ・インターフェースを用いているけどアリサのと違って、それらしくない。

 特徴は超大容量の量子化領域と、二十機の多目的ビット。

 そこに百種類は下らない多種多様な装備を詰め込み、それを多目的ビットに装備するように展開して同時に複数の敵を討つことを目標にしている。

 ただ、動作確認の結果、僕かアリサしか使いこなせないことが分かって、フランスの正式な第三世代型ISはミラージュ型(タイプ)に決まった。

 ……正式採用された機体もアリサのオリジナルとは似ても似つかない形だけどね。

 アリサは前の機体と同じコアを流用したからオンブル・ループと同じでミラージュ・ガルーも進化し続けてる。

 

 ガサッ

 

「……ん、見つかっちゃった」

「シャルロットは高台からの狙撃を選ぶだろうと思ったからな」

 

 なるほどね。

 僕のISの特徴から場所を予想したんだ……

 一夏は雪羅の荷電粒子砲を僕に向けたまま動かない。

 ん、ちょっと、怖い……かな?

 

「んー、一夏は結構鋭いなぁ……でも、やめた方がいいと思うよ?」

「別に負けるなら負けるで構わないけどな」

 

 眼下に広がる中央塔の壁面。

 そこに取り付けられたらガトリングやミサイルポッドが勝手に壊れていく。

 下から、上に。

 

「ううん、そうじゃなくて」

 

 その破壊音がだんだんと大きくなって耳に届く。

 わざわざ下から順に壊してくなんて……ううん、踏み場にしてるのかも。

 

「ん? 何この音?」

「……私を損なおうとする悪魔は騎士(ナイト)様がやっつけてくれるんだよ?」

「は? ……ってまさか!」

 

 騎士(ナイト)様――ある生徒に付けられた称号とも言えるあだ名。

 理由は、これまたある生徒のことを何度も体を張って守ったから。

 その守られた生徒はお姫様、なんて言われてるけど……恥ずかしいから止めてほしいんだよね……

 

「あー、ひとまず逃げる!」

「もう遅いと思うけど……」

 

 

 ――ええ……もちろん逃がしませんよ?――

 

 

 どこからともなく聞こえるアリサの声。

 風だけが僕の横を吹き抜けた。

 ……ラファールの名前はアリサのISにこそ合ってると思うんだけどなぁ。

 

「っ! 雪片!」

 

 アリサが見えていない一夏。

 それでもアリサがどこから攻撃してくるかを予想して雪片を横薙ぎにふるった。

 でも、大外れ。

 アリサはもう一夏の背後にいる。

 一応、一夏にも攻撃の瞬間だけは見えるはずだけど、50センチなんて距離で目視してからじゃ対応できるわけがないから……

 

「シャル! トドメを!」

 

 一夏が僕の方に蹴り飛ばされた。

 うーん……協力して生き残るのもサバイバルゲームだよね?

 

「一夏、ごめんね?」

 

 小型のガトリングを十機、ビットに装着して一夏に向ける。

 

「あー……お手柔らかに、とか言ってみたり……」

「うん、それ無理♪」

 

 私は引き金を引くだけだからね。

 秒間二百発という暴虐の疾風が一夏をくだした。

 

「……さて、と」

 

 ◇

 

 んー……流石ですね。

 ISの性能とかじゃなくて、相変わらずの容赦のなさが怖いです。

 

「……さて、と」

 

 む、シャル、私とやる気ですかね?

 

「流石にこの距離だと私が有利ですよ?」

「分かってるよ? でもね、」

 

「「自分以外にあなたが倒されるのは気に食わない」」

 

 うん、さすが自他共に認めるIS学園随一のバカップルです。

 以心伝心、一心同体、どちらでもいいですが、私たちの関係はそういう感じです。

 私が織斑君に手を出したのも、そんな理由があったからです。

 

「というか、アリサを倒したい……かな?」

「そんな顔で言われると、むしろ押し倒したくなりますね」

「そ、そういうこと言うのよくないと思う」

 

 顔真っ赤にしちゃって可愛いですね。

 シャルはいつまで経っても初々しいままです。

 最近、少しだけ積極的になりましたけど。

 ん……?

 

「……シャル、狙われてますよ」

「そうだね。あと、アリサも見つけられてるよ」

「ですねぇ。彼女たちはなかなか強いですし……場所を変えて迎え撃ちましょうか?」

「そだね。第四アリーナとかどう?」

「了解です」

 

 ヴェンギルガルム(翼狼狩り)ハント――展開

 

 背中に半透明な菱形の破片が蝶の羽の羽にずらりと並びました。

 その一枚一枚が非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)で、小型スラスターです。

 そして上羽と下羽の間に大きな黒い八面体が二つ生えます。

 

「それじゃ、先に行ってますね」

 

 八面体に内蔵された小型爆弾をいくつか落とし、その爆風を羽で受けることで機動を速めます。

 速度なら白式の瞬時加速(イグニッション・ブースト)にも負けないんじゃないですかね?

 こうやって小型スラスターを全て稼働させながら爆風を受けることで速度はどんどん上がります。

 演算の結果では機体が壊れるまで加速できるとか。

 

「エネルギーの無駄ですし、ステルスは切りますか」

 

 私のいる高さに攻撃できるのはISだけですからあまり警戒する必要もないでしょう。

 

『おぉーっと!? 学園上空に突如としてISが現れました! あれは……生徒会長です! どうやら目的地は第四アリーナ! 時を同じくしてシャルロット・デュノア先輩も第四アリーナに向かっている模様。二人を一度に倒せれば優勝は確実だー!』

 

 だから場所を……

 いえ、逆に纏めて皆倒しましょうか?

 ……あぁ、一般生徒に集まられると武器がこんにゃくな私には辛いですね。というか企画した人はなんでこんなものを入れたんでしょうか?

 ヴェンギルガルム(翼狼狩り)ハントを展開したままアリーナの中央に……気配はしますが、今のところ攻撃してきそうな気配はないですね。

 観客席に四人、ピットに二人ずつ、カフェテリアに三人……ですかね?

 固まって行動しているので徒党を組んでいるのでしょう。おそらく、同じ部活とかそういう関係ですね。

 特典が何かは分かりませんが、自分の部活のために確保しておこうということでしょう。

 

「まぁ、あなたたちに攻撃する意志が有っても無くても私には関係ありませんが、ね」

 

 シャルがくる前にお掃除しましょうか。

 

「消えた!?」

「ちょ、どうすんの!?」

「声デカい! ヤバいって、私たち気付かれたよ!」

 

 まずはカフェテリアの三人ですね。

 手に玉こんにゃくをもって……もう! この武器、シリアスブレイカーすぎますよ!

 ……というか、この分だとバナナの皮とかも有りそうですね。

 

「バナナの皮があたった人はご愁傷様です」

 

 こんにゃくはまだ使い道がありますからね。

 接近戦には板こんにゃく、遠距離からは玉こんにゃく、そしてトラップとして糸こんにゃくが使えます。

 ……ば、バランスは、いいのかもしれません。量も結構ありますし。

 ……気を取り直して、玉こんにゃくを指弾の要領で打ち出します。

 にゅるりとしているのでやりにくいですけど……まぁ、一般生徒に対しては十分ですね。

 

 びたんっ

 びたんっ

 びたんっ

 

「きゃっ!?」

「ひゃぁっ!」

「うぐっ……く、口に……」

 

 これで三人。

 あ、生こんにゃくなので飲み込むとお腹壊しますよ?

 

「次は、観客席です」

 

 びたんっ

 びたんっ

 びたんっ

 びたんっ

 

「「「「やーらーれーたー」」」」

 

 前々から思っていたのですが、IS学園の生徒って……ノリ、いいですよねぇ。

 打ち合わせとかしてなかったのなら素晴らしい人材です。

 そんなことを考えながら西側ピットの二人を板こんにゃくで倒しました。

 残るは……

 

 ばたっ

 

「っ!?」

 

 東側ピットに足を踏み入れた瞬間、二人の一般生徒が倒れました。

 これは……?

 

「アリサ、ネズミがいたよ?」

「シャル!」

 

 再びステルスを解除してシャルに飛びつきま……せん。

 危ないところでした。

 飛び込んでいたら容赦なく倒されていたでしょう。

 シャル、戦いになると容赦ないですから。

 

「二人は……追いかけてきてるけど手出ししなさそうだし……やろうか」

「ふふ、たっぷり()してあげます」

「……素敵」

 

 シャルと闘うのは久しぶりですね……

 お互いに痛い目見るので自重していたんですけど……やっぱりイベントでは多少、タガが外れても仕方ないですよね?

 

「ステルスは、使いません」

「そう? 僕は気にしないけど……アリサがそう言うなら」

「だって、シャルに見てもらえなくなるでしょう?」

 

 シャルが私に気付かないなんて、そんなのヤですからね。

 本当はさっきの狙撃も飛び跳ねてしまうくらい嬉しかったんですよ?

 

「じゃあ、行きます」

「よろしくね」

 

 全てのスラスターを同時に励起、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰めます。

 離されたらシャルに狙い撃たれますからね。

 

「僕の方が、早いね」

 

 シャルの周囲に二十のビット――トリガー・ハッピーが浮かび上がり、それに装填されているのは……散弾銃!?

 

「ファイア」

 

 強烈な破裂音に聴覚が狂う……三半規管は無事のようです。

 ですが、回り込んだお陰で被害は軽微です。飛び退けばダメージはゼロでしたが、そうしていたらこの状況はできません。

 シャルは私に背を向けています。

 後ろからシャルの首に腕を絡めて、そのまま背負い投げ、お腹から地面に叩きつける。

 

「シャル、遠慮しないでいいですよ?」

「……そっか」

 

 シャルを組み伏せた私を取り囲むようにして、浮遊していたビットが火を噴きました。

 今度はライフルですか。

 

「これではまだ、足りませんよ」

 

 ヴェンギルガルム(翼狼狩り)ハントの小型スラスターの一部を切り離し、ビットとして動かす。

 それを銃口にぶつけることで狙いをそらします。

 ビットを使えるのはシャルだけじゃなくて私も同じです。

 

「まだまだ、いくよ!」

 

 シャルのビットがさらに換装され、今度は……ナイフ?

 

「こんなの、スラスターで押し退けられます!」

「ほんとに?」

 

 スパンッ

 

「え?」

 

 切断……?

 ヴェンギルガルム(翼狼狩り)ハントのスラスター群は小さくて薄いですがそれでも相当の硬度があるんですよ?

 しかも、刃を立てさせないようにずらしていたのに……

 

「ただのナイフじゃないよ。超振動ナイフ。切れないものはほとんどないとか」

「っ! 爆!」

 

 中部スラスターから小型爆弾を散布、同時に起爆してビットを破壊するとともに、その爆風を羽で受けて距離を取ります。

 

「アリサが飛ぶなんて珍しいね」

「飛ばさせたのはシャルじゃないですか」

 

 飛ぶと格闘が出来なくなるので好きじゃないんですけどね……というか、離されちゃいました。

 シャルのビットも十二機まで減らしましたし……昔のように、少しくらい無茶をしますかね。

 

「アリサ? 楽しい?」

 

 ……笑っているんでしょうね。

 

「えぇ、久しぶりの死合ですから……それはもう、愉しいですよ」

「む、無茶はだめだよ?」

 

 無茶させてるのはいつもシャルです!

 ……と言いたくなりましたが、それを言うと日頃の仕返しだもんと言われるので止めておきます。

 そんなに無理をさせている気はしないんですけどね……シャルも実際には悦んでくれますし。

 

「こほん、仕切り直そ?」

「ビット、これ以上壊れても知りませんよ?」

 

 着地して有線式の迎撃用ビーム兵器、妖精の加護(フェアリーダンス)と三節六肢のカマキリの前足のようなナイフ、姫騎士の護剣(ヴァルキリースカート)を同時展開。

 どちらも威力は低いものの精密性と速度に優れるのでシャルに突撃するときには重宝します。

 

 キュィィィィン……

 

 ……シャルは多機能のガトリング砲。

 普通の弾だけじゃなくてミサイルやらニードル弾やらを撃ち出すことができる物騒な兵器です……その代わり、連射性能は低いのがありがたいです。

 それでも十二機合わせて秒間百発以上でしょうが。

 

「行きます……」

 

 今度は疾歩(しっぽ)での接近。

 それと同時に一斉射撃が開始されました。自分に向けられていなければ溜息を吐いてしまいそうになるくらい壮観です。

 

「くっ!」

「よっ、ほっ! はっ!!」

 

 動きの鈍い無誘導ミサイルは機動力だけでかわし、私を確実に捉えている弾を妖精の加護(フェアリーダンス)で撃ち落とし、姫騎士の護剣(ヴァルキリースカート)で切り裂きます。

 比較的、ダメージの小さい弾丸は無視して我慢です。

 

 きぃんっ!

 

 近付いたところでミサイルを放っていたものが超振動ナイフに置き換わったので、姫騎士の護剣(ヴァルキリースカート)の刃で受け流しました。

 振動していると分かれば対処の仕様はあります。

 

「まだ終わらないよ!」

 

 四つのビットが突撃槍(ランス)に変わり、その槍先を飛ばしてくる。

 遅いです。

 二つを叩き落とし、二つは避けました。

 これは、いくらなんでも悪足掻きが過ぎますよ?

 

「終わりです!」

 

 シャルの頭部に拳を――

 

「アリサ、ごめんね? ……僕もまだ本気じゃなかったみたい」

 

 ガンッ!

 

「!?」

 

 腕が下からの衝撃に跳ね上がられ、空振ってしまいました。

 しかも、腕の装甲が大破するというおまけ付きで……

 

「レイン・オブ・サタデイ……まだ使っていたんですね」

「やっぱりさ。ビットなんかに頼っちゃダメだよね」

「それを言ったらセシぃが怒りますよ?」

「ふふ、そうかも」

 

 セシぃはビットが主兵装ですからね。

 

「ねぇ、IS学園で初めて戦ったときのこと、覚えてる?」

 

 当たり前です。

 だから、私はシャルの左手を掴んでいるんですから。

 私に同じ作戦は利きませんよ?

 

「あのときと違うのは……ふふ、僕も悪い子になったかも」

「いいじゃないですか。良い子でも悪い子でもシャルは私の好きなシャルですよ」

「もうっ! そういうことさらっと言わないでってば」

 

 でも、なにかあるんですね。

 

「アリサ、僕を離さないでね?」

「っ! ……闘ってる最中に色仕掛けは利きませんよ?」

「ふふ、ちょっと時間を稼げれば良かったんだよ」

 

 ――注意、背後に高エネルギー反応あり――

 

「これは……」

「クラスターボムの構造を槍に搭載したんだ。結構痛いよ?」

 

 痛いってそういう次元じゃ……!

 というか、なんで私の腕を掴んだまま離さないんですか!?

 シャルまで巻き込まれちゃいます!

 

「いやー……やっぱり、アリサを倒して自分だけってのも、ね?」

 

 ……死ぬなら一緒に?

 

「……私は、死んでもシャルを守るつもりですけど?」

「え……?」

 

 ……ぎゅぅっ

 

 ――ヴェンギルガルム(翼狼狩り)ハント・スラスター群の分離――

 ――上下スラスター耐爆面を反転、対象を完封――

 

 シャルを庇うように抱きしめます。

 シャルの柔らかさを堪能するにはISの硬い装甲が邪魔ですが今だけは我慢です。

 

「もとより、私が倒れるつもりもありません」

 

 ドォン

 

 槍先……いえクラスター弾頭が爆発しましたが、私とシャルは多少の高熱に炙られただけですみました。

 まぁ、その代わりにヴェンギルガルム(翼狼狩り)ハントが使い物にならなくなってしまいましたけど……耐火性の高い、本来なら爆風を受けるための羽で弾頭を包み込むようにしたのですが、やはり耐えきれなかったらしく粉々になって空中に巻き上げられてます。

 

「うわぁ……キレイ」

「雪みたいですねぇ」

 

 戦闘中であることも忘れて息をのむシャルの可愛いこと可愛いこと……実際、半透明の破片がひらひらと落ちてくる様子は綺麗ですけどね。

 でも、修理のためにデュノア社の研究者さん達が泣くかと思うと素直に感動できません。

 簡単な修理なら整備課の一松さんか三好さんにでも頼めばいいのでしょうが……跡形もない、といっても過言じゃないですからね。

 

「しばらく、こうしてようか?」

「今なら私を倒せますよ?」

「……ううん。やっぱり二人で一緒に生き残る方がお話としては素敵だよ」

 

 さっきまで無理心中しようとしてた人のセリフじゃないですね。

 まぁ、私もシャルといられるだけでいいので、このままのんびりサバイバルゲームを傍観するというのもいいですね。

 

「終わるまで、こうしてていいですか?」

 

 ISを解除しても未だに私の腕の中にいるシャルに尋ねます。

 

「んー……だーめ」

「えー……?」

「今度は僕の膝枕で、ね?」

 

 ポンポンと自分の膝を叩くシャル……のんびりするのもいいですね。

 それでは、失礼しましょうか……

 

「そうはさせませんわ!」

「お前たちだけ楽をするなどということは断じて認めん!」

「あ、セシリアと箒も来たんだ」

 

 太陽を背に、登場した二人ですが……やけにぼろぼろですね。

 

『おっとぉ! デュノア先輩といちゃついていた不破生徒会長にオルコット先輩アンド篠ノ之先輩タッグが勝負を挑みました! 人の恋路を邪魔するなんて、馬に蹴られたいんでしょうか?』

 

 ……人の恋路を邪魔しているのは蘭ちゃんもですけどね。

 鈴ちゃんが怒ってましたよ?

 

「ところでセシぃと箒さんは随分ぼろぼろですねぇ」

「……鈴さん、簪(かんざし)さんにラウラさんと連戦を強いられたのですわ」

「まぁ、良いけどさ。それより先に周りのギャラリーをやってもいいかな?」

 

 ……あれ?

 シャルが、怖いですよ?

 

「正直に言うとね? うん……もう、うんざりなんだ♪」

 

 シャルが笑いながら制服の上着を脱いで軽く振ると……

 

 ガシャン

 

 さらにスカートを軽く持ち上げて振っても……

 

 ガシャーン

 

「あの、シャル? その大量のエアガン、どこで手に入れたんですか?」

「ん? 敗残兵から、ね」

 

 シャルが落としたエアガンが軽く山になっています。

 というか、どこに入れてあったんでしょうか?

 

「アリサはいいけど……セシリアと箒はぼぅっとしてると纏めて撃っちゃうから、気をつけてね?」

 

 語尾にハートマークが付きそうなくらいご機嫌な口調ですけど……シャル、キレてます。それはもう、怒髪天ってレベルでキレてます。

 ……まぁ、かく言う私もシャルとの一時を邪魔されて頭に来てるのですが。

 私も助勢しましょう。

 

「シャル、いくつか借りますよ?」

「んー、たまには僕の格好良いところ見せたいかも?」

「……なら、大人しくしてます♪」

 

 シャルがなんだかやる気なので任せることにしました。

 銃を手に取ったシャルはほんわかする微笑みから一転、無表情の中に少し楽しさを感じさせる凛々しい顔つきになりました。

 うーん。

 ラヴいです。

 

 パンッ

 

「……うん、一番小さいのでも届くから十分」

 

 銃の型自体には詳しくないのですが、シャルは拳銃の大きさのエアガンを握っています。

 届くって言ってましたけど……あの小さなBB弾が見えているのでしょうか?

 私には遠くで誰かが痛がっているのしか見えませんよ?

 

 パパパパパッ!

 タタタンッ

 

『デュノア先輩かっこいい! これはアリサさんが惚れるのも仕方ないですね!』

 

 蘭ちゃん……?

 私のシャルに手を出したら縊りますよ?

 でも、今のシャルは確かにかっこいいので許してあげます。

 手に持つ拳銃を撃ち切るとそれを投げ捨てて、足元の違うエアガンを蹴り上げてスイッチしています。

 

「ふふっ!」

 

 シャルも楽しそうで何よりです。

 今は両手で自動小銃のようなエアガンを持ってBB弾をばらまいています。

 

「ははははっ! 踊り狂えばいいよ! あはははははっ!」

 

 うん、楽しそうで結構結構。

 

『なんと言うことでしょう! この数分間で第四アリーナに集まっていた半数以上が失格です! うーん……来年からはまた専用機持ちと一般生徒が分けられそうですね。せっかく関係なしに楽しめると思ったのに』

 

 あぁ、なるほど。

 専用機持ちと一般生徒が差別化されているので、その垣根を低くしようというのがこのイベントだったんですね。

 

「あはは! 一人も逃がさない! 一人も残さない! 一人も、生かさない!!!」

 

 タタンッ

 ぱんっ!

 タタタタタタタ!

 

「あははははっ………………ふぅ、あらかた、片づいたかな……?」

「え、何それ怖いです」

 

 一人で殲滅しちゃったんですか?

 

『えー……現在、第四アリーナにいる生徒は四人のみです。アリサさん、じゃないや。不破生徒会長、デュノア先輩、オルコット先輩、それと篠ノ乃先輩です! 不可視の生徒会長が有利にも思えますが……一体どうなるのでしょう!』

 

 んー……

 やっぱり一般生徒と専用機持ちは身体のスペック自体が違うんですねぇ。

 まぁ、それぞれが訓練を受けているので当たり前といえば当たり前なのですが、専用機持ち以外には生身で戦いあっているのにこの結果ですからね。

 

『ちなみに現在残っている専用機持ちの方もアリーナにいる四人のみです! 一般生徒の方々は彼女達を狙うもよし、逆にひっそりと隠れるもよしです! 集まる一般生徒を隠れて倒す、というのもありですね』

 

 蘭ちゃん、意外と頭使ってるんですねぇ。

 というかラウラさんや簪さんも倒されちゃいましたか。あの二人のことだから一般生徒には正直に正面から挑んだんでしょうね。

 とりあえず……

 

「箒さん……ラストダンスを踊りましょうか?」

「じゃあ僕はセシリアとだね」

 

 ……アリーナの中央でシャルと並んで二人に向き合います。

 セシぃも箒さんも既にISを展開しています。

 紅椿……第四世代型ISだなんて、フランスは一年前やっと第三世代型を完成させたっていうのに二年前の時点で第四世代型だなんてズルすぎです。

 というか展開装甲、あれ、なんですか?

 なんで装甲が武器に変形するんですか?

 どう考えても物理法則とかいろいろ……あぁ形状記憶合金ですか。踏んでしまっても元通りになるメガネフレームと同じ構造なんですね。もう、それでいいです!

 

「行くぞ不破!」

「あ! ちょっとその前にいいですか?」

「……なんだ? 出鼻をくじかないでくれ」

「大したことではないんですけど……私には苗字で呼ぶなって言ったのになんで私のことを名字で呼ぶんですか?」

 

 私は自分の苗字が嫌いというわけではないですけど、これではまるで私が一方的に箒さんに対して友情を感じているような構図になっている気がします。

 いえ、どうでもいいんですけどね? 本当ですよ?

 

「べ、別に今じゃなくてもいいだろう!」

「いいですけどねー? いいんですけどねー? ただ気になっただけですからー」

「う、うぅ……分かった。いくぞア、」

「篠ノ乃(・・・)さん、行きますよ?」

「……穿千(うがち)!」

 

 紅椿の両肩の展開装甲が変形、十字弓(クロスボウ)の形をしたレーザー兵器……性格にはブラスター・ライフルとなって私に光線を浴びせます。

 

「お、っと……」

 

 まぁ、セシぃと散々戦っている私にとっては直線でしか飛んでこない光なんて怖くも無いんですけどね。

 私が怖いと思うのはセシぃのブルー・ティアーズのように避けても後ろから襲ってくる意味不明なレーザーや、鈴ちゃんの龍砲のような眼に見えない攻撃。そして、なんといってもシャルの直線攻撃であっても、そして見えていても関係のない弾幕ですね。そもそも避けられないですから。

 

「もうっ、冗談の分からない人ですね篠ノ乃さんは!」

「雨月(あまづき)! 空裂(からわれ)!」

 

 掛け声とともに現れた二本の刀を篠ノ乃さんが空に振るいます。

 雨月の付きと同時に直線的なレーザーが、空裂の斬撃と共にエネルギー刃が飛んできました。

 うーん……やっぱり、小手先ですねぇ。

 二年生の頃までは機体が付いてこないで苦労しましたが……実際、第三世代兵器ともなると違いますね。自分が出すことが出来る速度の限界を軽々と超越します。

 そういう意味で、私たち第三世代組と実力に大差ない織斑君も箒さんも、まだISをしっかりと乗りこなせていないんです。

 ……今の私なら昔の織斑先生には勝てるかもしれませんね。

 

「はぁ……篠ノ乃さんにはがっかりです」

「ま、また苗字で!」

「そんな興奮しては勝てる勝負も勝てませんよ? ただでさえ、あなたの前に立っているのは学園最強の生徒会長(わたし)なんですから。あんまり酷いと十月最後の夜(イタズラしちゃいます)よ?」

 

 会話の中にキーワードを含めることでステルスの展開を早めます。

 兵装の名前を言って展開するのは未熟な証拠と言われていますが、こういう風に使えば予備動作を悟らせることなく瞬時に展開することが出来るんですよね。

 そして、近距離では空気の対流などで居場所を悟られてしまうので複合ソフトキル兵器(ヨルノトバリ)を散布、ハイパーセンサーを狂わせます。

 このソフトキル兵器の良いところは、無理矢理私の反応を消すのではなく、全く見当違いの方向にいくつも私のダミーを作り上げるというところです。

 当然、私自身が攻撃されるリスクもあるにはありますが、それも爪の先ほど。

 

「隠れるとは卑怯な……ただ、そのステルスの弱点は知っているぞ? 空気の対流等の情報さえもこちらのISコアをハッキングして感知されないようにしているが、機体から出る音だけはごまかせない。そうだろう?」

 

 えぇ、その通りです。

 十月最後の夜(イタズラしちゃいます)を展開すると同時に半径十メートル以内のISのコアにコアネットワークからそれなりのレベルのハッキングを仕掛けて私の場所をさらに分かりにくくします。

 その影響を受けないのはシャルのように識別コードが発行されているISだけです。

 

「つまり、音が一切出ていない現状、お前は一歩も動いていないということになる!」

 

 空裂を横薙ぎ一閃、横に広がるエネルギー刃が私が“いた”位置に殺到します。

 

「……いないだとっ!?」

「後ろですよ」

 

 朝峰嵐才流歩法――兎踏(とと)

 本来は兎のように足音を消して逃げるための歩法ですが、今は音を消すための隠密歩法として利用しました。

 もちろん、ISに乗っていても音が出ないようにちょっとしたアレンジを加えましたがね。

 例えばISの展開装甲を極力減らして内部のドレスアーマーだけにするとか。

 

「なっ」

 

 右腕を紅椿の胴部に回して腹部を締め、左手をその背中――心臓の裏側に押し当てます。

 私の左腕に展開しているのは討鬼の鋼杭(ドラクル・ペイン)。どんなに堅牢な装甲でも厚さが五十センチより薄ければ穿つことのできる決戦兵器です。

 もちろん、第四世代になったとはいえ絶対防御によってシールドエネルギーが減少するのは変わりません。

 そして絶対防御は命に影響が起きやすい部位であればある程、シールドエネルギーをかき集め操縦者を守ろうとします。

 心臓の裏側なら、私の杭の威力も鑑みると一発で落とせるでしょう。昏睡状態まではいかないでしょうけれど。

 

「篠ノ乃さん。なんで、中距離戦をしようとしたんですか?」

 

 左腕を押し付けてプレッシャーを与えながら尋ねます。

 

「私は別に中距離戦など……」

「していましたよ? だって、雨月も空裂も直接私にあてようとしなかったじゃないですか? 得意の剣術はどうしたんですか?」

「しかし、接近戦では、」

「じゃあ、篠ノ乃さんの流派が圓明流に負けているって認めるんですか! そうなら明日にでも看板をいただきに行きますよ!?」

 

 実際、圓明流に勝てる剣術はないと思いますが……それでも自分の流派には誇りを持たないといけません。

 そうじゃないと、同じ流派を研鑽(けんさん)してきた先達者達に失礼じゃないですか……

 

「むぅ……そうだな。不破の言うとおりだ。では仕切り直しと、」

「いくわけないじゃないですか。これはサバイバルゲームですよ? 生き残り戦なんて言っていますが本質は殺し合いです。情けをかけたがために後悔する、なんてことは嫌なので……」

「おまえ、それでも武道家か!?」

 

 家業は暗殺です……とは言いませんけど。

 そもそも見逃す理由がありませんしねぇ……?

 

「まぁ、待て。落ち着いてくれ。そんな太いもので貫かれたら失神してしまう」

「そこはかとなくえっちな感じだったので却下です」

「どこがだ!?」

「……ところで箒さん。このゲーム、専用機持ちが専用機持ちを倒す方法はなんだと思いますか?」

「支給された武器で一撃を加えるか相手のISを行動不能にするかだろう? まぁ、ISを展開している状態で武器での攻撃を通すのは不可能だからやはり相手を打ち倒すことになるだろう」

 

 まぁ、間違ってはいませんね。

 ISのシールドエネルギーはダメージの代償に関わらず操縦者を危害から守るので、例えエアガンのようなおもちゃの攻撃でも肌にまで届きません。

 

「シールドエネルギーはダメージを可能なかぎりは事項とするんですよねぇ。では、どうして私達には泥が付着するのでしょう?」

「それは、ISが危険のないものだと判断したからだろう?」

「そうです。ISは土や砂のようなものが目や口以外に付着する分には無視しています。つまり害がなければ通るんですよ」

「ふむ……」

「たとえば、こんにゃくが武器の生徒がいたとして、ISはそれを攻撃だと判断すると思いますか?」

「は?」

 

 ……答えは、否です。

 

 にゅるん

 

「ひゃうんっ!?」

「失格(ゲームオーバー)ですよ。箒さん」

 

 ……こんにゃく、やっぱり最強の武器かもしれません……

 

 ビッ、ビッ、ビィィィィィィィィッ!

 

『ここで、終了のサイレンです! これにて第一回サバイバルゲームは終了! 第一アリーナにて成績発表があるので興味がある方はお越しください!』

 

 それにしても蘭ちゃんは最後まで司会に徹していましたねぇ。

 そういえば中学生の時は生徒会長だったそうですし、仕事をするのが好きなのかもしれませんね。

 もしそうなら生徒会に招き入れてもいいかもしれません。

 

「シャル。行きます?」

「ん、そうだね……アリサに勝ててるのかどうかも気になるし」

「わたくしも行きますわ。これでも鈴さんとラウラさんを倒したので高得点は狙えるはずですわ」

 

 ふぅん。

 セシリアとシャルの方は決着が付かなかったんですね。

 まぁ、お互いに短期決戦を主とする戦い方ではないので不思議ではないかもですね。

 ……でも、優勝者はシャルでしょうね。あれだけの数の一般生徒(ギャラリー)をひとりで殲滅しちゃいましたし、その前にも織斑君にとどめさしていますし。

 二位は私でしょうか。

 シャルと上下並べたらいいですね。

 その下にセシぃというところでしょうか?

 

 ◇

 

「いやー、驚きました」

「そうだねー」

 

 優勝者がシャルだったのはいいとして、準優勝が蘭ちゃんだとは思いませんでした。

 なんでも、あの放送は学園から頼まれた仕事でも何でもなくて情報を統制するためにやっていたのだとか。

 人が少ないので放送室の機能のジャックは簡単だったと思いますが、それを思いつくのがすごいです。

 情勢を操作できれば生き残ることのハードルはぐっと下がるでしょうし。

 

「蘭ちゃんのはなかなか私好みの作戦でした」

「はぅ……そんなことないです」

「むぅ」

 

 なぜか、最近は私が話しかけると蘭ちゃんが赤面するんですよね。

 ようやく、私がすごい人だと気付いたのでしょうか?

 ……シャル、睨まないでください。

 

「私のは、なんというか卑怯でしたから……」

「それで、順位的には私に勝っているんですから誇っていいと思いますよ?」

 

 蘭ちゃんがすごかったのは放送能力を手にしてからでした。

 ただ自分から危険を離すのではなく、何度も勢力を分断した上で、自ら狙撃をして点を稼いでいたそうです。

 蘭ちゃんが参加者ではなく司会だと思っている人相手ですから不意をうつのも用意だったでしょうし。

 聞けば簪さんも蘭ちゃんが倒したとか。

 一般生徒の中ではずば抜けた戦績でしたね。

 

「うーん……蘭ちゃんにはなにかご褒美をあげないといけないですね」

「あ、アリサさんからのご褒美……」

「ら、蘭ちゃん? お顔が真っ赤ですけど……体調優れないんですか? 保健室、連れて行きますけど……」

「え!? えと、あの……お願いします、アリサさん……」

 

 やっぱり十二月に外で何時間も緊張状態に置かれたら、精神的に参っちゃいますよね……

 来年もやるようでしたら、私が卒業してしまう前に行事の日取りを改革しましょう。

 先生方も何も考えていないわけでもないでしょうが、気付いた問題点は直ちに修正するべきです。

 

「じゃ、失礼します」

「え? きゃぁっ!?」

 

 あまり歩かせるのもどうかと思うので蘭ちゃんを抱き上げました。いわゆるお姫様だっこの形です。

 

「あ、アリサ。そ、それはランが恥ずかしいんじゃないかな?」

「でも、触ってみて分かりましたけど身体も熱を持っていますし、吐息も熱いです。なるべく蘭ちゃんに負担かけない方がいいと思うのですが……蘭ちゃん、恥ずかしいですか?」

 

 蘭ちゃんが嫌がるなら無理矢理抱き上げて連れて行くわけにも行きませんからね。

 でも、目もぼーっとしてるように見えますし、息もだんだん荒く……それに拍動も速くなっていってますから、急がないといけない気がします。

 

「あ、アリサさん!」

「はい、聞こえていますよ」

「えっと……このまま、が、ぃぃです」

「分かりました。シャルは先に戻っていてください。ぞろぞろと保健室に行くのは迷惑になりますから」

 

 なにより、蘭ちゃんが病気だったとして、シャルに伝染るのは避けたいですから。

 

「で、でもさっ、やっぱり二人いた方がなにかと楽だと思うよ?」

「シャル、お願いです」

「……ふたりともズルい」

 

 ……私の負担を減らそうとしてくれるシャル。

 それは嬉しいんですけど、やっぱり二人して病気になるリスクは避けたいです。

 どちらか片方が病気になってしまえば逢えなくなっちゃうんですから。

 

「……アリサの、ばか。お願いなら聞きたくなっちゃうじゃん」

「ふふ、ごめんなさい。じゃあ行きますね?」

「うん。おいしい夕食作って待ってる!」

 

 部屋に戻ればシャルと同室ですか……生徒会長権限を利用して寮の部屋割りに口を出して良かったです。

 一日中シャルと一緒にいられて幸せです。

 

「アリサさん、相変わらずシャルロットさんと仲良いんですね……」

「ええ、だからとっても幸せです!」

「あぅ……」

 

 あ、のろけてしまいました。

 体調が悪いときにのろけられたら嫌な顔もしますよね。反省です。

 

「あの、アリサさん」

「はい?」

「その、そういう幸せそうなカップルを引き裂いてまで略奪愛を狙うのは……間違ってますよね?」

 

 ……織斑君と鈴ちゃんのことですか。

 確かに略奪愛は二人の関係を崩すでしょうが……

 

「自分の方が相手を幸せにできる、そういう自信をもって、一生恨まれることを覚悟してけじめを付ければ良いんじゃないでしょうか」

「ぇ……」

「その人以外、何もいらないと、そう思えるんでしたら間違ってませんよ。恋愛に早い者勝ちは関係ありません」

 

 鈴ちゃんも奪いたいならかかってこい、みたいなスタンスですしね。

 奪われたら一カ月は泣き続けた上で、織斑君を一生恨んでやる、とも言っていましたけど。

 

「で、でもそれじゃ」

「ええ、奪われた方には誠意を見せないといけません。もちろん、それは幸せな姿です」

 

 私の場合、シャルが幸せそうな顔をしていれば奪われてしまっても我慢できます。

 多分、思い出しては泣くことになるのでしょうが、シャルが幸せならと思えるでしょう。

 特に私達は女の子同士ですから大人になるにつれて苦労や負担も増えますしね……なにより、自分の子供を持てませんし。

 だから、シャルが男性相手に恋をしたら……私は引き留めずに身を引いてしまうでしょう。

 シャルのことを愛していますから。

 

「私は……幸せにできるかな……?」

「蘭ちゃんならきっと。私も蘭ちゃんの笑顔から幸せを貰っていますから」

「そ、そそそ、そうですか……」

 

 それにしても、彼女を作っても女の子を誘惑し続けるなんて、織斑君も罪な男ですね。

 鈴ちゃんも気苦労が耐えなさそうです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。