Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「逢瀬」

番外編その1
本編よりも未来の話、です。
ちょっぴり甘め。


37/EX1. secrètement rendez-vous

「どぉぁぁいひょぉぉぉぉう!」

「ちょっと、微妙に猫型ロボットみたいな呼び方しないでください!」

「てれれてれれ、てれれてれれ、てれれてれれてれれれ♪ あーんなこっと、」

「この始まり方は映画版なんですか!?」

 

 ……背後からかけられたら声につい全力でツッコミを入れてしまいました。

 新聞部の時期エースとも目されている彼女は彼女は確か私の隣の組の……って、私あなたの組の代表じゃないですか!?

 

「まぁまぁ、それは余所に置いといて……」

 

 置いといて、をわざわざ身振りを付けて言う必要はないと思います。

 というか置いとかないでください。私は去年もあなたの代表ではなかったんですから。

 

「勉強会を開こうじゃないかっ!」

「生憎、日々の勉強はしっかりしていますので……」

「そりゃー、代表が頭いいってのは知ってるよ!」

「……だから、あなたのクラスの代表は私じゃないと思います」

 

 いつの間にか、二年生の大多数から代表と呼ばれるようになっています……一年のときに同じクラスだった子たちが未だに私を代表と呼ぶせいですね。

 あぁいえ、今のクラスでもクラス代表をやっているので間違いではないのですが……問題なのは別のクラスになった子も依然として同じ呼称を使ってるってことです。

 だってこれじゃ学年全体の代表みたいじゃないですか!

 

「まぁ、要するに、私には教える側として出席してほしいと……」

「うん! さすが話が早いね!」

「だが、ことわ、」

「時に不破女史、甘いものはお好きかな?」

 

 甘いもの、に気を取られて最後まで言えませんでした……修行が足りていませんね。

 そんなことを考えていると、視界に一枚の紙が飛び込んできました。

 …………?

 ……!

 これは!

 

「ふっふっふ、これが何か気付いたようだね……そう、これは、」

「「万疋屋(まんびきや)の超豪華ふる~つぱふぇ(時価一万円相当)無料券~」」

 

 未来の猫型ロボットの秘密道具の名前のようなイントネーションでハモりました。

 

「……代表って意外とノリいいよね」

 

 甘い物好きの間では伝説と名高いこれがなぜここに!?

 1パーセント以上の株保有につき、四半期に一枚支給されるだけなんですよ!?

 IS学園とはいえ、生徒が持っているようなものではありません!

 

「今ダイエット中なんだよねー」

 

 ……ゴクリ。

 ですが、一枚しかないなら意味がありませんし……

 

「他にもそのパフェを食べたいと思っている方がいると思うので、その方に、」

「二枚あるんだけど、どうしようかな~? 私ダイエット中だし、手元にあると我慢できなくなっちゃうから捨てようかな~?」

「それを捨てるなんてとんでもない! ……っは!?」

 

 ……つ、つい、体が反応してしまいました。

 だ、だって、高いだけじゃなくて一日三名様限定なんですよ!?

 無料券はその限りじゃないのでこれさえあれば……というよりこのチケットがなければ食べられないと言っても過言じゃないです!

 それが二枚!

 

「誰か、勉強を教えてくれる人がいたら二枚ともあげてもいいかなぁ……?」

「さぁ、勉強会はどこでやりますか!? 学食ですか!? 学食ですね! さぁ行きましょう!」

「代表ありがとう! これ、先払いの一枚ね」

「はいっ♪」

 

 ふふふ、まさか伝説が二枚も手に入るなんて!

 シャルと一緒に行きましょう!

 

 ◇

 

「はいっ、ということで不破アリサ先生に来ていただきましたー! 分からないことがあったら何でも聞いてください! だそうです!」

「「「「「「「おお~!」」」」」」」

 

 ……え、なんですか、これ。

 会場(学食)内の熱気とか、皆さんの目の輝きとか……新興宗教並みなんですけど。

 軽く数えても六十人……?

 これ、私一人じゃ面倒見れませんよ?

 というかこれだけ集まればそれぞれが得意な部分を教え合えばいいと思うんですが……うん、そうすれば私は楽チンですね。

 セシぃとかシャルも通りかかるでしょうし、そうなったら協力してもらいましょう。

 

「というわけで、十人くらいのグループに分かれて教え合いっこをしてください! それでも分からないところがあれば呼んでください」

 

 その間に私も勉強しますかね。

 まずは古文でもやりましょう。

 助動詞とかはどうでもいいんで……物語でも読みますかね。

 

「だいひょー、ISコアの四つの特徴ってなにー?」

「コアネットワーク、操縦者へのフィッティング、大容量量子化領域に高エネルギー発生体、です」

(ふた)って漢文だとなんて読むの?」

「けだし、です」

「The most beautiful sunset I've seen in my life is the one which I see with her. の間違いって、夕日よりも彼女の方が綺麗だから間違いってこと?」

「素敵ですけど違います! seeじゃなくてsawです!」

「不破さんの好きな人は?」

「シャル! ルマーニュです!」

「……ニヤニヤ」

 

 危なかったです……まさか、この場でトラップを仕掛けてくるなんて。

 第二グループは要注意ですね。

 ……何ニヤニヤしてるんですか!

 

「あれ、皆、なに集まってるんだ?」

「おりむー。不破さん主催のテスト勉強だよー」

「テスト直前のアリサさんの頼もしさは随一ですわ」

 

 私主催じゃないです!

 あとセシぃ! 私はいつだって頼れる皆の代表ですよ!

 じゃなくて一組の代表です!

 

「また、アリサを便利品扱いして……奴は我がドイツ軍のものだぞ!」

「へー、それは初耳だなぁ……?」

「しゃ、シャル!? いや、今のは、その……

 

 視界の片隅でシャルがラウラさんに向かってゆらりゆらりと歩み寄ります。

 何故でしょう。濃い紫にピンクと黒を混ぜたようなオーラがシャルから立ち上っているように見えました。

 

「アリサは私の恋人なんだから、とったらダメだよ……?」

「う、うむ……分かったから、鉛筆を握りしめるのをやめてくれ」

 

 シャル、聞こえてますよ!

 もぅ……恥ずかしぃですよぉ……でもそういうのも大好きです!

 今日は一緒にお風呂で流しっこしましょうねー。

 

「「「「「「「ニヤニヤ」」」」」」」

「……っは!?」

 

 うぅ~!

 だからニヤニヤしないでくださいよ!

 嘘教えますよ!?

 

「あと、そこの専用機持ち達+本音さん-シャルも教える側に回ってください! シャルは私の隣にいることを希望します! が、頑張ってるご褒美に……撫でてほしいな、なんて……」

「うん、いいよ。でも、僕も分からないところあるから教えてね?」

「もちろんです!」

 

 保健体育でもISの基礎理論でも数学でも物理でも現代文、漢文、古文、世界史でも保健体育でも手取り足取り教えますよ!

 

 ぱこん

 

「保健体育は手も足も取らないでいいわよ」

「鈴ちゃん、叩かないでくださいよ……背が縮んだら恨みますよ?」

「あはは、ちっちゃくなってもアリサは可愛いよ」

 

 シャル……いちいちそういうこと言わないでくださいよ。顔が熱くなっちゃいます。

 それにしても……

 

「んー」

 

 ……シャルは相変わらずいい匂いがしますねぇ。

 なんだか、癒されつつ、興奮します。

 あ、興奮といってももちろん性的なものではなくて……抱きしめたいだけのプラトニックな衝動です。

 

「ちょっと、アリサくっつかないでよ。くすぐったいよー」

「くっつかないでなんて……私のこと嫌いですか……?」

「いや、好きだけど……」

「っ!」

 

 ぎゅー!

 すりすり♪

 私もシャルが大好きですよ?

 

「すまん、シャルロット、ちょっとここ教えてくれないか?」

 

 って、織斑君!?

 空気呼んでください!

 

「あ、一夏。うん、どこ分からないの?」

 

 あぁ、織斑君に呼ばれてシャルが行っちゃいました……って、行っちゃうんですか!?

 もう……あの程度の問題、他の人に聞けばいいじゃないですか。

 シャルもシャルです! 私を放って織斑君の方に行っちゃうなんて。

 

「一夏。なんで私に聞かないのよ。一応、彼女なのに……」

「あの二人は本当にいつまでたっても恋人に対する気遣いだけはできませんよね!」

「本当よね。これじゃ付き合ってる意味が無いわ……ちょっと言ってくる!」

 

 鈴ちゃんも織斑君の方に行ってしまいました。

 勇気ありますねぇ……私は重たいとか思われるのが怖くてあまり強く言えないです。もちろん、シャルのことを信じているから言わないという面もありますけどね?

 

「まったく、ところ構わずいちゃつくなんて淫らな……!」

「はーい、篠ノ乃さんは嫉妬しない嫉妬しない。お菓子ありますよー?」

「いらん! というかお前はいつになったら私を名前で呼ぶんだ!」

「いえ、引っ込みつかなくなっちゃいまして……えへ」

「えへ、じゃなーい!」

 

 篠ノ乃さんは結局勇気が出せずに告白しないまま鈴ちゃんに織斑君をとられちゃいました。

 でも、本人もあまり気にしていないようでもありますね……?

 あ、そういえばラウラさんはどう感じているんでしょうか?

 彼女も織斑君にフラれた一人ですが。

 

「……ッフ。私の学園生活ももう半分を過ぎたな」

「あれ、織斑君のことは気にならないんですか?」

「ん? あぁ、惚れていたのは昔の話だ。別に一夏が私の嫁にならなくてもいいさ」

 

 確かにドイツではっきりとフラれしたが、私にはその後も結構引きずっているように見えていました。

 とうとう諦めがついたのでしょうか?

 

「そうじゃない。ただ、恋仲になどならなくとも一夏は……いや、皆、大切な私の仲間(かぞく)だからな」

「ラウラさん……」

 

 試験管ベビーとして生まれたラウラさんには同じお腹から産まれた血の繋がりのある家族がいません。

 もちろん遺伝子的な意味での家族はいないことも無いですが……

 私達との生活の中で、私達も家族として思うようになってくれたのだったら嬉しいですね。

 

「む、どうしたアリサ?」

 

 いつの間にか私をドイツに引き抜こうとしていたことも完全に諦めたようです。

 先程のように冗談で言うことはありますがラウラさんの本心はもう割り切っています。加入をやめてくれたおかげでシャルが不機嫌にならないので嬉しいは嬉しいのですが……

 それがなくなって、ちょっと寂しいです。

 

「いえ、アリサお姉ちゃんって呼んでもいいですよ?」

「あぁ……私達を家族とした場合、私が父親でセシリアが母親なんだそうだ」

「ふぇ?」

 

 ラウラさんの、照れるか真顔で聞き返されるかのどちらかの反応を予想していた私にその言葉は急過ぎて、変な声で聞き返してしまいました。

 

「鈴が昔呟いていたんだ。私はそこまで男らしいか?」

 

 あー、確かに分かるかもしれませんね。

 

「ラウラさんは不器用なところがありますから」

「アリサが鈴の姉らしいぞ」

「あー……下がしっかりする典型ってやつですかね?」

 

 ラウラさんもセシぃもなんだかんだで抜けてますし、私も鈴ちゃんにフォローされてばっかですしねぇ。

 

「ラウラさーん。ドイツ語教えてー!」

「む? ああ、構わない。アリサ、行ってくるぞ」

「いってらっしゃい」

 

 この一年でラウラさんも随分と角が取れましたよね。

 最初は織斑君をいきなり殴り倒して引かれていたのに……人間、変わるものなんですね。

 今の、友人と言えるほどの関わりもない生徒と話すラウラさんなんて昔からじゃ想像もつきませんよね。

 ……シャル、戻ってきませんねぇ。

 多分、誰かの質問に答えてるんでしょうけど……寂しくなってきました。

 いえ、最初はいなかったので元の状態に戻っただけですけどね。

 

「代表、春秋時代と戦国時代の違いって何?」

「…………」

「代表?」

「はいっ!? あ、あぁ。春秋時代は主な国が秦、楚、燕、晋、斉の五覇だったんですが、戦国時代では晋がさらに三国に分裂しましてその国々を指して戦国の七雄と呼ぶようになったんです。つまり晋国があるかどうかで判断できますよ」

「なるほどー」

 

 はぁ……しばらくは皆さんに教えることに集中しましょうか。

 忙しさに身を任せればシャルがいない寂しさも紛れるでしょう。

 

「あ、アリサさん……じゃなくて先輩。何してるんですか?」

「あ、蘭ちゃん。学園生活はどうですか?」

「えっと、せ、先輩のおかげで楽しいです!」

 

 五反田蘭ちゃん……織斑君の幼馴染の妹さんです。

 この子もいい子なんですよね。

 やっぱり織斑君にホの字なんですけど、鈴ちゃんに苦手意識があるみたいで奪い取ろうって思えないらしいんですよね。

 今も私の背中に隠れて織斑君と鈴ちゃんを見ています。

 

「う~……!」

「はーい、蘭ちゃんむくれちゃだめですよ。どうどう……」

「アリサさんが鈴さんを手伝ったりしなければ……」

「ぅ、す、すみません」

 

 だ、だって、鈴ちゃんには色々とお世話になりましたから……

 

「あ、いえ! 責めてるわけじゃないんです! ただ、学園に来てから頑張ればいいなんて甘かったな、と」

 

 ただ、蘭ちゃんも後輩として可愛がっている子なので……

 

「まだ遅くないですよ。欲しいなら奪えばいいんです。協力はできませんけど邪魔も多分しませんよ?」

「……っはい! 頑張ります!」

 

 んー、やっぱり素直で可愛いですね。

 私たちと違って一般的な家庭で不幸ではない生活を送ってきたからでしょうか?

 蘭ちゃんの笑顔は曇りがありません。

 元気づけたのは私ですが、なんだか元気をもらっている気がします。

 

「でもアリサ先輩はすごいですよね……こんなにたくさんの人と仲良くしていて」

「え? この中の友人はセシぃたちとかだけですから、そんなに多くないですよ?」

「…………先輩って、難しく考える人ですよね」

「?」

「それじゃ、私も勉強しなきゃいけないので行きますね!」

 

 溌剌とした雰囲気をまとって蘭ちゃんは行ってしまいました。ここで一緒に勉強しようかとも思ったのですが……織斑君がいる場では集中できないでしょうね。

 勉強と自分のことでメリハリを付ける子ですから、私が呼び止めても邪魔になるだけでしょうし。

 

「どぉぁぁいひょぉぉぉぉう!」

「またあなたですか!」

 

 蘭ちゃんを見送ってさあ勉強を再開しようというところで言い出しっぺの生徒が私に後ろからタックルしてきました。

 確かに、この行動力は黛先輩の後を継ぐ必須条件でしょうね。

 

「代表っていま古文やってる? というか古文分かる?」

「ええ、古文なら学年の誰よりも点数取れる自信ありますよ?」

「じゃあ、この文章、どういう話なのかおしえて!」

「もちろんです。でも約束の無料券、忘れないでくださいね?」

「最後までいてくれたらちゃんと渡すよ」

 

 えーっと、どれどれ…………

 あぁ、典型的な恋バナですねー。いいなぁ。

 

「えっとですね。あるところにお付き合いしている男女がいたって話ですよ。でも、読み解く前にまず古典常識として、この時代では男の人が一目を憚って深夜に女性の家に訪れ、早朝に帰るというお家デートが普通だったんです。逢瀬ってやつですね」

「へー」

「ですが、この女性の家は人の出入りが多い家だったので男の人はもっと早く、日が昇る前に帰らなければならないんです。でも帰りたくなかったので、外に出た後、家の門の前にある川の橋から女性の部屋に向かって和歌を詠うんですね」

 

 ――夜半にいでて渡りぞかぬる涙川

 ――――――淵とながれて深く見ゆれば

 

「どういう意味?」

 

「うーん、夜中にあなたの部屋から出て帰ろうとするが橋を渡りかねているところだ。別れが辛くて泣いてしまう私の涙で、川の水かさが増して深い淵のように見えるから……というところです。それに返して女性はこう詠います」

 

 ――さ夜中におくれてわぶる涙こそ

 ――――――君がわたりの淵となるなめ

 

「これは、夜中にあなたを引き留めておくわけにもいかないので送り出した後、一人残されて別れの辛さのために流す私の涙が、その川をより深くしているのでしょう……ってあたりです」

「「「なるほどー」」」

「それで、男は女性がいじらしく思えて、もう一度何かを言いたい、と思うのですが路に人がいたので帰らざるをえなかった、といういじましい恋の話ですね」

「「「「「おおー!」」」」」

 

 ……増えてます。

 いつのまにっ!?

 でも、素敵な話ですよねぇ。お互いに別れが辛くて流す涙が川を深く見せて、無理だと分かっているのに、せめて二人で言葉を交わすことができる時間を増やすなんて……

 

「お、不破の乙女モードだ」

「千の顔を持つ魔性の女だもんね」

「なんですかそれ……」

 

 皆さん、エロとか素直とかクールとか、私のことを~~モードと言いますが、私はいつだって乙女です。

 シャルのことを考えるだけで顔が赤くなっちゃうくらいピュアハートです。

 

「でも、この和歌すごいね。よくこんなこと即興で思いつくよ」

「そうですか? 私もシャルの部屋から帰るときはこんな感じですよ?」

「乙女だと思ったらアダルトだった!」

 

 そ、そそそ、そんな理由で部屋に行ってるわけじゃないですよ!

 ただのお泊まりです!

 …………建前は。

 

「でも、ラウラさんいるからそんなことにはならないか」

「いえ、その間ラウラさんは織斑君の部屋に行ってますよ?」

「えぇ!? 織斑君って(ファン)さんと付き合ってるんじゃないの!?」

「あぁ、織斑君はその間私たちの部屋に来て鈴ちゃんと一緒にいます」

「……専用機持ちはやっぱりレベルが違うのね」

 

 そ、そんなあからさまに顔を赤くしなくてもいいじゃないですか!

 べ、別に同じ部屋にいるからって、いつもいつもそういうことしてるわけでは……!

 

「いつも……ねぇ?」

「こ、言葉の綾です! 私はまだ未通娘(おぼこ)です。鈴ちゃんは知りませんが……」

「いや、女同士じゃそうでしょ。というか鳳さん、したことあるんだ……織斑君って上手なのかな?」

「知りません。気になるなら耳でも澄ましてみたらどうですか? どちらの喘ぎが大きいかでなんとなくなら主導権を握ってる方が分かるんじゃないです?」

「っ! だ、代表はさらっとそういうこと言うのやめた方がいいと思う!」 

 

 あれ?

 恥ずかしいんですか?

 恥ずかしがってますよね?

 なら、もっとイロイロ聞かせてあげますよ?

 

「あ、不破のいじめっ子モードだ」

「そんなこと言ってないで代表を止めてーーー!」

「この前、鈴ちゃんと織斑君がデートしたらしいんですけどね? 二人ともお互いにムラムラしちゃったらしくて外で、」

「わー! わー! わー!」

「むぐっ!? ちょっと、危な……!」

 

 いたたた……

 私の口を塞ごうとしたのでしょうが、勢いが強すぎてそのまま倒れてしまいました。

 なんだか、女の子にのしかかられている、というのも新鮮でドキドキしますね。

 シャルもこれくらい積極的になってくれればいいのに……

 でも、シャルが攻めにまわったら私、死んじゃうかもしれません……!

 

「……こほん」

「あ、シャル! やっと戻ってきたんですね。なにか分からないところあったんですか?」

「ううん、それは一夏とかに聞いたから大丈夫」

 

 あ……そうですか……

 うん……シャルの苦手科目は古文ですが、織斑君はそれなりに得意みたいですしね。

 

「それにしても、戻ってきてみれば、随分と楽しそうだね? 勉強会じゃなかったっけ?」

「え? あの、シャル?」

 

 シャルが震えて……泣きそう?

 

「いつもいつも、いろんな子と話してるし……アリサ、酷いよ……」

 

 ……でも、それはズルいですよ。

 先に私が悪いみたいに言われたら……私、言い返せないじゃないですか。

 シャルが先に私を置いて織斑君の方に行っちゃうから、こうして寂しさを我慢してたのに、シャルは私のことなんて気にもしてくれなくて……

 私は……ずっと、シャルを視界からはずさないようにしちゃうくらい、戻ってきてくれるのを待っていたのに……

 それなのに……なんで私が責められてるんですか?

 シャルの……シャルの……

 

「シャルロットの、ばか……もう知りません」

 

 もう、勉強会もおしまいです。

 

 ◇

 

 アリサ……行っちゃった。

 でも、何でアリサが怒るの?

 事故だろうけど……押し倒されて顔を赤くしてたのはアリサの方じゃん!

 

「あーあ、代表泣いちゃった。というかデュノアさんと付き合うようになってから泣き虫になったよね」

「あー、そうかも……それで、デュノアはどうするの?」

 

 一年生の頃からアリサと仲がよかった三好さんが詰め寄ってきた。

 

「どうするのって……だって、今のはアリサが、」

「悪いって? まぁ、どう思うかは人それぞれだと思うけど、今の、私はデュノアの方が酷かったと思うなぁ」

 

 でも……

 アリサはいつも、僕以外の子と話してばっかだし、今日だってわざわざ皆のために勉強会まで開いて。

 しかも、僕には声もかけずに。

 

「アリサは、僕がいて当たり前だってたかをくくってるから……ううん、アリサは近くに誰かがいればいいんだよ。別に僕じゃなくたって寂しくなくなるなら……」

「デュノア、それ本気で言ってる? 不破がデュノアのことを何とも思ってないって? それだったらサイテー。さっさと別れればいいじゃん」

「だって! アリサは僕がいなくても楽しそうだし、僕がどこかに行くときは放っておくし! アリサは僕のことなんて考えてくれてないよ!」

「……あぁ、もういいや。というかさ、不破を置いて織斑についてったあんたが言えんの?」

 

 それなら勝手にすれば?

 それだけ言い残して三好さんは消えた。

 残されたのは僕と、僕の知らないアリサの友達。

 

「ちょ、三好! あぁ、もう、私がどうにかすんの……? えっと、あぁもう!」

 

 何をどういえばいいのか混乱してるみたい。

 でも、それもすぐに収まって、僕の目を真っ直ぐと見つめてくる。

 

「デュノアさん、代表の得意科目って何か知ってる?」

「え? あ、えっと、古文……?」

 

 いきなり話の方向が変えられたから今度は僕の方が混乱しちゃったけど何とか答えた。

 アリサ、古文の得点はいつも上位だって言ってた。

 

「うん。代表、今まで一度も古文の問題を間違えたことないくらいだよ」

「それが、なに?」

 

 何を意図してるかが分からなくてイライラしてくる。

 今、アリサの話なんて聞きたくないのに。

 

「まぁ待って、最後まで聞いてよ。それなのに代表は今日ずっと古文だけやってた。それも、誰にでも分かり易いようなノートを作って」

「一つに絞って勉強したんだと思うけど……ノートだって、普通じゃない?」

 

 アリサはいろんな人にノートを貸しているから、分かりやすさを意識していても不思議じゃない。

 ……他の人のことじゃなくて僕のことを意識してくれればいいのに。

 

「まぁね……ところでデュノアさんって古文は苦手だよね?」

「え? まぁ、うん」

「代表に分からないところは教えてねって言ってたよね?」

「……何が言いたいの?」

「代表、ずっとデュノアさんのこと気にしてたよ。まだ、聞きにこないのかなーって」

 

 ……え?

 

「まぁ、デュノアさんは織斑君に教えてもらったみたいだけどね?」

 

 そんなまさか……

 だって、皆に教えてる声がしてたし……

 だいたい、僕は古文を勉強しようなんて一言も……

 

「……じゃあ、だめ押し。代表、なんでこの勉強会に参加してくれたんだと思う?」

「アリサは……誰にでも優しいから……」

「ううん、最初は断られかけたよ? だからね、これをあげるって言ったの」

 

 そう言って取り出されたのは……万疋屋のパフェ無料券?

 なんで、こんなもの……

 

「これ、すごいレアものなの。本来一日三食限定なのに、これがあれば好きなときに頼めるからね」

「あぁ、アリサ甘いもの好きだもんね」

「惜しいっ! 代表はね、この券が二枚あったから引き受けたんだと思うよ? 誰かと一緒に食べたかったんじゃないかな」

 

 誰かと……

 そんな相手なんて、僕しかいない。

 それは僕の自惚れとかじゃなくて、お互いにとって当り前のことで……

 

「……アリサ」

 

 アリサは僕のことを考えてくれてたんだ。

 ……本当は、きっと僕も分かってた。

 喧嘩なんて始めに感情的になった方が得てして間違えてるものだし……

 

「あ、でも、代表、途中でほっぽり出して帰っちゃったからこの残った無料券はあげられないなぁ」

「可哀相だけどそういう契約だったし、仕方ないよね。前払いの一枚で我慢してもらおう」

「…………」

 

 しかも、僕はアリサの楽しみを奪っちゃったみたい。

 きっと、アリサのことだから一人でなんか行かない。

 アリサだって少なからずパフェを食べたかったはずなのに、僕がアリサを怒らせて、泣かせたからその機会が失われた。

 僕のつまらない嫉妬のせいで……

 

「ところでデュノアさんに頼みたいことがあるんだけどさ」

「……なに?」

「このままだと私達が気になって勉強に集中できないから代表と仲直りしてくれないかなー? バイト代にはこの伝説のパフェ無料券を先払いで!」

「…………ありがとう!」

 

 アリサの周りには良い人がいっぱいだね。

 待っててね、アリサ。

 すぐに行くから。

 

 ◇

 

「うぅ……ひっく、しゃるにぃ……しゃるに嫌われましたぁ……ぐすっ」

 

 私が……シャルが私以外の人に分からなかったところを聞いたのがショックで、すぐに謝らなかったから。そんなつまらないことで怒ってしまったから……

 別に口約束にもならない掛け合いだったのに本気にして、勝手にショックを受けた挙げ句に大嫌いなんて言ってしまいました。

 シャルも怒ってましたし……そんな時に大嫌いなんて言われたら、しばらく話しかけてくれないかもしれません。

 自分が他の人と話すシャルを見て辛かったのに、シャルも自分を見ていることなんて考えなかったから……自業、自得ですね。

 そんなんで、一緒にパフェどころか出かけることもできなくなってしまうなんて……

 

「ふぇ、ヤですよぉ……ん、ぐすっ」

 

 結局、自分のことしか考えていないからこうなるんです。

 ……これが怖かったから、今まで大した喧嘩にならないように気をつけていたのに……

 ちゃんと付き合い始めてからは喧嘩したことがなかったのが、何よりも仲がいい証拠だったのに……

 

 ばたんっ!

 

「アリサ!」

「しゃ、る……?」

 

 大きな音に振り替えるとシャル、らしき人影。

 部屋は真っ暗なままで、廊下には電気がついているためシャルの表情は逆光で分かりません。

 

「うん、えっと、さっきは……」

「ごめん、なさい」

「え?」

 

 シャルの、静かな問い返し……

 謝罪の声が小さくて聞こえないってことですか?

 いつものじゃれあいの時なら、そんな意地悪しないで許してくれるのに……そんなに怒ってるんですか?

 

「ごめん、なさい……!」

 

 でも、怒らせちゃったのが私なら、悪いのも私です……

 シャルが許してくれるまで謝らないと、シャルが嫌な気分を引きずっちゃいます……!

 だから、大きな声で、何度も、謝らないと。

 

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ!」

「あ、アリサ!? と、とりあえず落ち着いて?」

「だ、大嫌いなんて、嘘、ですぅ! ほ、ほんとはしゃるのこと好き、ううん、大好きです! だから、だからぁ……」

 

 嫌わないでください!

 まだ、私の近くにいてください。

 

「しゃる? こ、答えて、むぅ!?」

 

 許す、と言って欲しかったのに、

 

「ん、ちゅ、んぅ……」

 

 そのシャルの唇は、私の口を塞いでいました。

 

「んー!? ん、ぅ、んぁ、んふぁ……ちゅ」

「ん、んー……アリサ、落ち着いた?」

「ふぇ…キ、ス……?」

 

 それも、シャルから……?

 いつも、私からなのに。

 

「うん、キス。僕も……私もアリサのこと大好き。だから、ごめんね? 自分のことしか考えてなかった。アリサは僕のことを考えてくれてたのに」

「口で、言わなかった私が悪いんです」

 

 相手に伝わらない想いなんて無いのと同然です。

 シャルなら、シャルなら分かってくれるなんて勝手に考えていた私の責任です。

 

「しゃる」

「ん?」

 

 私を後ろから抱きしめたシャルが耳元で返事をします。

 

「私は、重い女ですよ?」

「僕もだと思うよ」

「すぐに泣く、卑怯な女ですよ?」

「僕だから、泣いてくれてるって思ってもいいよね」

「本当に、私でいいんですか?」

「そんなに疑うなら……よいしょ、おっとっと」

「きゃっ!?」

 

 シャルが急に私を抱き上げたので驚いてしまいました。

 そのままシャルは部屋の外へ。

 

「あの、どこへ?」

「いいからいいから。ところで、明日パフェ食べにいこうよ」

「……デートですか?」

「うん」

「腕を、組んで歩いてもいいんですか?」

「うん♪」

「人前で、キスしても良いですか?」

「う、うーん……うん」

「…………えへへ」

 

 シャルに運ばれてたどり着いたのは、シャルとラウラさんの部屋。

 シャルは中にはいると私は普段シャルが使っているベッドに横たえられました。

 ……これって?

 

「喧嘩しちゃったし、どれだけアリサのことが好きか……証明、したほうがいいよね?」

 

 え、え? えぇ!?

 シャルからですか!?

 いつもは私が襲……攻める方なのに。

 

「えと……電気、消しましょう……?」

「うん」

 

 ぱちん

 

 逢瀬の始まりです。


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