Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
――こちら黒兎。
これより狼への攻撃を開始する――
今日は12/12/12ですね。ちなみに今は12時
「「「あ」」」
三人分の間抜けな顔。
いえ、トーナメントも近いので第三アリーナで特訓でもしようかと思ったんですけど、セシぃと鈴ちゃんも同じ事を考えたみたいです。
まぁ、鈴ちゃんはあの噂に踊らされているようで……私とセシぃは苦笑いです。
「あ、あんたたち、一夏に興味ないって言ってたじゃない!」
「いえ、買い物の荷物持ちを任せられるならそれでもいいかな、と」
「私は一夏さんはどうでもいいのですけれど、ライバルとしてアリサさんには負けられませんわ」
あれ……私だけ理由が不純な気がします。
「むぅ、訓練ついでに二人とも纏めてかかってくるといいと思いますよ?」
少し、暴れたい気分なので。
「はぁ!? あのねぇ、あんまりなめた態度とってると……あれ、そういえば、デュノアは?」
「……織斑君と一緒です」
「ふーん。まぁ、ずっとアリサと一緒にいるわけでもないか」
だから機嫌が悪いんですよ! よりによって織斑君と一緒だなんて!
もしかしたら今頃またラッキースケベイベントが発生してるかもしれないじゃないですか!
「なので、早く終わらせて……っ!?」
ガンッ!
ほとんど勘だけでいきなりの危険を察知、転がるようにしてなにかを避けました。
もう、ISスーツが汚れちゃったじゃないですか。
飛んできたのは……え、砲弾?
あぁ、特訓してる人達からの流れ弾かー、と思って振り向いてみれば
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
セシぃが苦虫を噛み潰したような顔で呟きました。イグニッション・プランのライバルだからでしょうか?
とは言ってもそのプランに参加する全員が私のライバルなのですがね。
やっぱり、シャルを助けるためにはイグニッション・プランに殴り込みをかけることが必要だと……いえ、殴り込みをかけてでもシャルを助けたいと感じました。
「いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」
鈴ちゃんは双天牙月を連結して手で軽く回して遊んでいます……やる気満々ですね。
地味に龍砲をいつでも撃てるように準備してますし。
「中国の甲龍にイギリスのブルー・ティアーズか……ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな。それで不破、お前は展開しないのか? フランスの第二世代型(かたおくれ)を」
「……はい? いま、なんと……?」
かた、おくれ? ……ふふ、ふふふふ
「なに? やるの? わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってるの?」
このカゲロウは私が外見をデザインして、親父(パパ)を始めとするデュノアの研究者たちが魂を込めて組み上げたんですよ?
「あらあら鈴さん、こちらの方はどうも言語をお持ちでないようですから、あまりいじめるのはかわいそうですわよ? 犬だってまだワンといいますのに」
それを……かたおくれ?
「はっ……二人がかりでも量産型に負ける程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国はな」
量産型……あぁ、二人が山田先生と戦ってコテンパンにされたやつのことですか。
まぁ、どうでもいいです。
鈴ちゃんとセシぃが興奮してるのも無視です。
「二人とも、少し、黙ってください」
「「っ……!?」」
「ふん、ISを展開することすらしない腰抜けがいまさら、」
「あなたも黙りなさい」
カゲロウをバカにしただけでは飽きたらず人の国のことまでバカにするなんて……
「確かに、中国には人が多すぎますし、イギリスも古いだけで中身がありません……」
「「アリサ(さん)!?」」
「それでも、人が積み重ねてきた歴史をたかが女子高生が否定するもんじゃないですよ。それに、ドイツなんて大戦期の枢軸国家じゃないですか。まともに扱われているだけ感謝した方がいいと思いますよ?」
「なっ」
「だいたいなんですか? 兎ごときが調子に乗って……あぁ、発情期ですか? だからって五月蠅くしてると、野生の狼に襲われますよ?」
カゲロウを完全展開。普段は展開しない脚まで、です。
どうやらシュヴァルツェア・レーゲンも接地状態で戦うようですし、それなら負けません。
「それがお前の、くっ!?」
「いつまで鳴いているんですか? 早く逃げないと食べられちゃいますよ?」
兎なんて狼の餌なんですから……あれ、兎って鳴きますっけ?
拳打、掌打、蹴りに頭突き。連撃に連撃を重ねて一気に決めにかかります。
今日は最初から本気です。
「な、めるなぁ!」
ボーデヴィッヒさんの吠え声と同時に……ん、ISが動かない?
これがAICですか……ここまで強力な固定力だとは思いませんでしたが……
「まさか、いきなり眼帯を外さざるを得なくなるとはな。第二世代がなかなかやるじゃないか」
「はぁ……第三世代は第二世代より強いなんて思い込み、捨てた方がいいですよ?」
「なんだと?」
「っふ!」
「……っぐぁ!?」
金色に輝く左目に向けて唾を吐く。
不破圓明流、訃霞(ふがすみ)――死を運ぶ霞。
打撃や銃弾は止められてもこの至近距離からの、それも予想外な唾液は止められませんよね?
一瞬でもその瞳を封じればあとは簡単です。
「見えないでしょう?」
濁りを増すために口腔内を噛んで血を混ぜましたから。ちょっと、深く咬みすぎて痛いですけど。
「くっ!」
後方に跳ぼうとしたボーデヴィッヒさんの脚を踏み抜いて地面に縫いつけました。
同時にその顎に手を当て、空に向けて跳ね上げます。
「一気に決めますよ?」
つまらないのですぐに終わらないでくださいね?
上を向くボーデヴィッヒさん。その死角には入り込むように身体を地に沈める。
足が固定されているため全身をバネのようにして戻ってくる“しかない”ボーデヴィッヒの顎を、打ち抜く……!
カァンッ!
「……あれ?」
軽い金属音がしました。
こんな音がする訳ないんですけど……?
「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」
「織斑先生? せっかくの珍しいラウラさんとの模擬戦の途中なので邪魔しないで欲しいんですけど?」
「おい、しれっと嘘をつくな馬鹿者。ブチギレていただろうが」
……セシぃと鈴ちゃんがすごい勢いで頷いています。裏切り者……二人だって怒ってたじゃないですか。
まぁ、そんなことより私の本気が生身の先生が使ったIS用のブレードで逸らされたことの方がショックです。
あなた本当に人間ですか?
「まったく。ボーデヴィッヒ、お前もあまりこいつを刺激するな。危うく学年別トーナメントに出れなくなるところだったぞ」
「は、はい」
いえ、そこまで大破させる気はありませんでしたよ?
でも、まぁ……この程度ならイグニッション・プランの三機の内の二機には勝てそうですね。それも致命的な欠陥をついての勝利を演出できます。
初見での判断なので間違っているかもしれませんが、AICは操縦者が予想できない攻撃を止めることは出来ないようです。
恐らく
それと、あの感触は……PICの発展技術のようなので逆算してAICの効果範囲を算出できれば私のPICを干渉させることで効果を弱められるでしょう。
あとはイタリアのテンペスタⅡですね……第二世代のテンペスタといい、戦線配備されている唯一の動けないIS、ルース・テンペスタといい、あの国のISは独創的なんで困るんですよね。
同じ世代のISでさえあれだけの違いがあるんですから、世代が変わったイタリアの第三世代型どうなってしまったんでしょう……
「いいか、こいつの前でオルコットと鳳(ファン)を馬鹿にするなよ? あと国のことで中傷するのも論外だ」
そうです。人間、親と国は選べないんですから、そういうものをバカにするのは卑怯です。
……私は選んだような気がしますけど。
「あ、あとシャルにも手を出さないでくださいね?」
もっと酷い事になりたくなければ、ですけど。
「不破、無駄に挑発するな……とにかく、学年別トーナメントも目前というときにアリーナが荒れ地にされるのはさすがに黙認しかねる。決着は学年別トーナメントでつければいいだろう」
「教官がそう言うなら……」
ボーデヴィッヒさんは素直にISを解除しました。
私も彼女が戦いをやめるというなら駄々をこねる気はありません。
というかシャルがいないことへの八つ当たりみたいなものでしたし、ボーデヴィッヒさんが私のカゲロウが型遅れではないと認めてくれれば言うことはありませんよ。
むしろレーゲン型(タイプ)と戦わせてもらえたことを感謝したいです。
「物分かりがよくて助かる。ではこれより学年別トーナメントまでの間、一切の私闘を禁ずる!」
織斑先生が周りの生徒にも聞こえるように大きな声でいいました。近くにいた私は大ダメージです。
耳キーンてしましたよ!
「ところで特訓のための模擬戦は……」
「不破とボーデヴィッヒだけ禁止だ」
「えー……」
そのかわり、アリーナの破壊についてはお咎めなしということでしょうか。
見ればPICを使わずに暴れていた私の足跡がそこら中に残っています。
やっぱり踏ん張りが効かないと格闘は威力が出ませんし、IS自体の重量もなかなかのものですから仕方ないんですけど……
ところどころひび割れてますし……うん、整備する人ごめんなさい!
「じゃあ、おまえらも解散しろ」
「……了解しました」
はぁ、また私が危ない人扱いされるかもしれないですね。
黛先輩にまた取材されそうです。
はぁ……部屋に戻ってシャルに癒されましょう。今日はシャルが料理当番なので新婚気分を味わえますし……きゃー!
「不破アリサ。少し、話がある」
「……っは!? あ、あぁ、ボーデヴィッヒさんですか。すいません考え事をしてました」
「その……私もさっきはすまなかった。それとこれから二人で話せないか?」
なんの話しでしょう……?
ボーデヴィッヒさんとはあまり関わりがないんですけどねぇ。
「では、そこの休憩室で。今なら人もいないでしょうから」
「助かる」
うーん。
原作の記憶はあまり残っていないんですけど……こんな人でしたっけ?
謝ったり、お礼を言ったりできる人だとは思いませんでした。
つい先週、シャルと二人で話した場所はやっぱり人がいませんでした。
「それで、えっと、話というのは?」
「単刀直入に言う。シュヴァルツェ・ハーゼに来い。あぁ、いや来てくれ」
はい?
……いや、私フランス人ですよ?
それが何でドイツの軍に所属するんですか。
「分かってる。いきなり入隊なんて事は抵抗があるだろう。だから、とりあえずは……そうだな、夏期休暇あたりに招待しよう。そこで、我が軍の空気を知ってほしい」
「いえ、そういうことではなくてですね……」
「国籍の違いくらい何とかしよう。いや、なんだったら上に掛け合ってフランスとの共同防衛を提案してもいい。イグニッション・プランとはまた別の、ドイツとフランスだけの同盟関係だ」
あれー?
話が伝わらないどころか膨れ上がってますよ? というか私にそこまでの価値はないと思うんですが。
というか、ボーデヴィッヒさんがとても先走ってますけど、ドイツ自体が私を欲しているということなのでしょうか?
「何で、私に?」
「生身による卓越した戦闘技術。相手の弱点を瞬時に見抜く慧眼。ボールペンをも凶器に変える柔軟さ。そしてヒトゴロシを選択肢の一つに含める思考。ここまで揃った人間を放っておくわけがない」
ヒトゴロシ……ですか。
原田さんを傷つけたときの話でしょう……あれは出張で戦争を経験する前の話だったので言い訳もできませんね。
根本的な部分で私はヒトゴロシを許容しているようです。もちろんそれが人を殺すという選択肢を選ばせる訳ではありませんけどね。
でも、評価されたい個性ではないのは確実です。
「そして、軍属だと疑われない可憐な容姿。シュヴァルツェ・ハーゼは、」
可憐だなんて照れちゃいます。
ん? 足音……誰かが来てますね。
「あの、ボーデヴィッヒさん。誰かが、」
「……いや、私がお前を欲しいとおもっている」
「え……?」
驚きの声は私のものではなく……
なぜか、一人でやってきたシャルのものでした。