Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「彼女のいない一日」


23. Le jour sans héroïne.

 ピリリリリリリリ! ピリリリリリリリ!

 

「また出ない……監察室行きって言っても携帯は使えるって言ってたのに。アリサ、なにしてんのかしら」

 

 授業の前に声だけでも聞いてこうと思ったのに……あ、まだ寝てるかもしれないわね。あの子、朝は起こされないとずっと寝続けるような子だし。寝てるなら起こしちゃうのも可哀想だし電話はやめとこうかな。

 放課後にもう一回電話でもすればいいかしらね。

 

「まったく、アリサがいないせいで髪の毛纏めるのも時間かかるし、毎日ご飯作らないといけないし……化粧も自分でとか、というかあの子は私のなんなのよ!?」

 

 最近あの子に甘えすぎかもね……というか頼んでもいないのにいつの間にかアリサに世話焼かれてるんだけど。

 あれね。

 朝、私が頑張ってアリサを起こして、あの子が起き上がるのを待ちつつ朝ご飯を用意するんだけど……ご飯食べて、さぁ着替えて出る準備をしようってところになるとアリサが私の下着と制服を用意してメイク道具を準備してるのよね。自分のメイクもしてないのに。

 セシリアにはいつまでも一緒にいられないんだからアリサ離れしないと、なんて言ったけど……私とアリサ、離ればなれになったらお互いに苦労しそうね。

 正直、寮から学園に移動しながらメイクをするのは女の子としてどうかと思うけど、そのことを注意しても人に見られるほど油断していません、なんて言うし実際気付いている人自体が少ないみたいだから呆れるしかないというか。

 

「なんというか、あの子いろいろとすごいのよね」

 

 はぁ来週までめんどくさいわね。

 

「おはよ」

「鳳(ファン)さんおはよー! 昨日の課題なんだけど――」

 

 あー。

 そういえばあの子いないと課題を手伝わせてあげることもできないのね。変な日本語だけど。

 ISの基礎知識から公になっている各国の開発記録、主な兵装の特徴と弱点までありとあらゆる知識をアリサは網羅しているし、ハイパーセンサー関連の知識に至っては教師よりも詳しい内容話せるのよね……しかもIS学園では殆ど触れない教養系の科目にも素養があるみたいだし。

 でも、アリサっていつ勉強してるのかしら? ルームメイトの私ですら勉強している姿を見たこと無いのに。瞬間記憶能力でも持ってるっていうの?

 

「課題」

「ん?」

「私もまだやってないかったわ」

「えー!? 二時間目に提出だよ!? リンダ助けてー!」

 

 いや、アンタも人に頼ろうとしないで自分でやりなさいよ。

 

 ◇

 

「はぁ……アリサさんがいないとゆっくりできますわね」

 

 こう言ってしまってはなんですがアリサさんは目を離すと何をしでかすか分からないので……わたくしも可能な限り気を配ってはいますが完璧には程遠いですわ。

 いえ……アリサさんからは距離を置くんでしたわね。

 別に見捨てるわけでも私達の仲が変化するわけでもなく、ただ距離を置くのです。

 わたくしはアリサさんが犯す過ちを恐れていましたが……鈴さんの言葉で目が覚めたのですわ。距離を置くこともまたアリサさんへの信頼の証となるはずです。

 

「とは言いましても……昨日のあれは驚きでしたわ」

 

 まさかISを使うこともなくボールペンを凶器として投擲するだなんて。あの細腕にそんな力があるわけがないのですが……いったいどのような技術なのでしょうか。

 あれだけのことをしておいてアリサさんへの処罰が僅か三日間の謹慎ということは学園にも事情があったのでしょうね。学園は国家・団体からの命令に振り回されることはありませんがお願いに応えることはありますわ。

 きっとフランスにおいてのアリサさんはそれなりの立場にいたのでしょう。

 IS最大手の一つである会社の御曹司であるデュノアさんもそうですが、今年のフランスは第三世代型が開発できていない技術後進国だとしても油断はできませんわね。

 ……アリサさんに気を配るあまり、わたくしとしたことが己の仕事を忘れていましたわ。

 

「わたくしの役目はブルー・ティアーズを用いてのBT兵器の試験。そして他国のISの情報の収集……そして、打倒アリサさんでしたわね!」

 

 現在の戦績はわたくしの方が一敗多いのですが……というか勝率が五割を超すことも殆どないのですけれど。アリサさんの機体は若干の変形(シフト)を伴う自立進化以外はISとして平凡なものなのですが……アリサさんと戦うと、勝負を決めるのは機体の差ではなく、むしろ乗り手の差だということを強く実感しますわ。

 一年生の中ではアリサさんの戦績が突き抜けているのです。

 わたくしはそのアリサさんと大体互角に戦えていますが他の生徒の方との模擬戦はそれなりの成績なので、未だに第三世代型以外には一敗もしていないアリサさんのオンブル・ループと比べるとどうしても見劣りしてしまいますわ。

 結果だけを見ればわたくしと鈴さんが同じ位の実力ということになるようです。鈴さんを相手するのも骨は折れるのですが。

 

「まぁ、研究を繰り返せば学年最強となる日もそう遠くは、」

 

 スパァンッ!

 

「痛いですわ!? いったい……お、織斑先生?」

「学年最強となる前にISの基礎理論をしっかりとな、オルコット」

「はい……」

 

 はて、いつのまに授業が始まったのでしょうか?

 

 ◇

 

 あちゃー、不破ちゃん休みかぁ。 課題見せてもらおうと思ってたのに……これなら見栄張らないでイッチーに見せてもらえば良かったかなぁ?

 最近イッチーが私の魅力を忘れてるみたいだから距離を置いて私の重要さに気付かせようと思ってるんだ。

 

「とりあえず……三好大先生様! この卑しい二木めに、課題の問八AとGとQの答え教えて下さいませぇ!」

「卑しいというより、いやらしいというか……昨日だって、」

 

 イッチー、あれは純粋な愛情表現だよ! 純粋同性交友。どこにも非の打ちどころはないから口に出しちゃダメ!

 というか一個の問の中になんで二十六題も小問があるのかな!? この問題を作った人はセンスなさすぎ!

 ……織斑先生じゃぁ、ないよね?

 

「二木ぃ、この問題って電子戦系統だからあんたの独壇場じゃん。私に聞いてていいのぉ?」

「え!? ちょまじ!? ……あ、ホントだ。自分でやろうかな」

「問題くらい見なよね。いつも不破に見せてもらってるからそうなんのよ」

 

 いやー、だって不破ちゃんは聞けば何でも教えてくれるから……

 別に不破ちゃんを都合のいい友達だとか思ってるわけでもなくて、解説も丁寧だから聞くだけで勉強になるんだよね。

 下手な先生より教え方が上手いと思う。

 不破ちゃんとあんまり仲良くない子でも最近……といっても噂が流れる前の先週までだけど、質問する子もいたし。

 それなのに――不破ちゃんもやっとクラスにとけ込んできたみたいだねー、なんてイッチーとも話してたのに――昨日のアレだからなぁ。

 ボールペンを投げたときの不破ちゃんは、なんというか怖かった。不破ちゃんのすごいプレッシャーというか、雰囲気だけで私なんかは座り込んじゃったし。

 でも、不破ちゃんは何であんなことができるんだろう。あれだけのことをしておいて三日間の謹慎だけっていうのも変だし……不破さんって何者?

 今までちっちゃくて可愛い、頼りになる優しい女の子と思ってたんだけど……背中の傷の理由とか含めて、私達は不破ちゃんのことを全然知らないんだよね。

 セシリアちゃんとか鳳ちゃんはいろいろ知ってるみたいだから聞いてもいいけど、やっぱりこういうのは本人から直接聞きたいよね。

 でも……

 

「不謹慎だけど……強い女の子もステキ」

「ふたちゃん?」

「イ、イイ、イッチー!? な、何も言ってないよ?」

「?」

 

 浮気なんかしてないからね!?

 

 スパァン!

 

「二木、私の授業中に大声で叫ぶとはよほど痛い目にあいたいと見える」

「……すみません」

 

 ていうか痛くした後にそれ言うのはずるいと思う。

 

 ◇

 

「不破アリサ、と言ったか」

 

 理由は判らないが昨日の投擲術には目を見張るモノがあった……本国にもあれだけの使い手がいるかどうか自信がない。

 中国の第三世代を相手取っての模擬戦を見たが格闘を得意としているようだ。生身での格闘なら私でも厳しいかもしれない。

 まぁ、格闘主体の戦い方では私のシュヴアルツィア・レーゲン相手には無力だがな。

 それでもあれだけの実力。おそらく学園での教官のお気に入りはあいつだろう。

 

「ふん、平和ボケした温い国だと思っていたが……牙のある奴もいるじゃないか」

 

 ドイツでは静かな水ほど深みにはまる(能ある鷹は爪を隠す)、ということわざがあるが……事実、あの躊躇いのない殺気と攻撃に移るまでの速さは称賛に値する。

 軍隊において、最も難しいのは兵士に殺人の覚悟を持たせること……いや、覚悟が無くても殺せればいいのだが、そんな奴はそうそういない。それなのに、ISのパイロットである以外には極普通の――表向きには、だが――あの女は見る者に選択の暇(いとま)すら感じさせなかった。

 あの女……私の隊に迎えるに値する貴重な人材だ。

 

「もはや、織斑一夏などことのついでだ。不破アリサ、お前は我々、シュヴァルツェ・ハーゼが手に入れる」

 

 いずれ量産されるようになるレーゲン型にあの女が乗れば敵はいない……私と並んで戦うようになるのも時間の問題だろう。

 ふむ……それにしても私はあまり人に興味を向ける性質(たち)ではなかったのだが……いや、考えても仕方ないことだな。

 不破アリサを第一目標に、暇があれば織斑一夏に制裁を加えよう。

 

「ふん、目標を定めた私は速いぞ……?」

 

 スパァンッ!

 

「ぅぐっ!?」

「ボーデヴィッヒ。それなら、この問題を解いてみろ。十秒でな」

「きょ、教官!?」

 

 スパァンッ!

 

「先生、だ」

 

 痛い、涙がでちゃう……だって女の子だもん。

 ……教師によるパワハラにはこう言えとクラリッサが言っていた。

 な、涙目ではないんだぞ! 本当だぞ!

 

「ボーデヴィッヒ、何をしている? 早く解かんか」

「……分かりません」

「ふん。何がほしいのか知らんが授業には集中しろ。それがここでのルールだ」

「了解、教……師?」

「よし」

 

 スパァンッ!

 

 ふふん。この程度では諦めないぞ。

 あ、やめて、出席簿で素振りしないで!

 ふ、ふん。不破アリサを手に入れるために……まずは授業には集中しなければな。

 

 ◇

 

 不破さんは監察室か。

 昨日あんなことがあったから当たり前なんだけど、また話す機会を失っちゃったな……

 あの後、拾ったままにして持っていたノートはまだ私の手元にあるから、それを返すついでに話しかけようと思ってたんだけどな。

 

「……何が書いてあるのかな?」

 

 内容は少しは知ってる。

 一つは普通に授業の内容……聞いた話だと不破さんのノートは黒板に書かれた内容だけでなく先生の雑談の中に混ぜられた重要ポイントなどもメモしてあるとか。しかも試験に出そうな範囲も纏められて、それに対する不破さん自身の解釈まで書いてあるらしいけど……べ、別にこれで勉強したいなんて思ってないよ! 

 でも、不破さんのノートを使って一夜漬けをすると不思議な光を発するとか何とか……ちょっとくらいなら……やっぱり人のノートの中を見るのは良くないね、我慢しろ、シャルロット(ぼく)

 授業内容以外にも不破さんは思ったことをすぐ書いちゃう癖があるみたいで所々絵が書いてあったり、難解な図面が書いてあったり良く分からない数式が書いてあったりするらしい。それが僕の知る二つ目のノートの内容。

 そして、どのノートにも書いてあるのが英語じゃない異国語で書かれた文章なんだって。

 多分フランス語だと思うけど……それが不破さんの好きな人のことなのかな。なんでも恋の相手は女の子らしいけど。

 まぁ、フランスではある程度認められているし変な目で見るつもりはないけどね……男としての作法を叩きこまれたせいで僕自身そういう偏見が薄くなった気がする。なにより、男装を強制される前に一度だけそういう感情に近いものを感じたこともあるしね……相手の顔も覚えてないけど優しい人だったなぁ。

 

「不破さんってどんな人なんだろう……?」

 

 周りから聞く話では僕との噂のことで酷い言われようだけど……逆に言えばそれ以外に悪いところがないってことなんだよね。

 デュノア社でも……不破さんが手をまわして僕の味方をしてくれる人がいないんだと思ってたけど、本当にいい人だったからかもしれない。だから、僕の男装も何か理由があったのかもしれない。

 ……でも、昨日のあれは?

 明らかに殺せる技術だったと思う。

 ボールペンでも手の平に突き刺さるんだからナイフとか、尖った物だったら簡単に……

 なんで、そんなことが出来るんだろう? ISを展開していたようには見えなかったから生身での業だったはずだけど。

 

「監察室にいるのは金曜日までのはずだから、土曜日の朝にでも会いに行こうかな」

 

 それで、今までのことに決着を付けよう。

 不破さんが、やっぱり保身のために僕を身代わりにしたのか、それとも何かの理由があったのか……

 

「って、織斑先生どうしました?」

「む」

 

 見上げれば織斑先生が出世規模を振り上げた状態で固まってた。三人も叩かれてるんだから気付いてもおかしくないと思うんだけどな。

 

「デュノア、授業に集中しろ……今回は叩かないでやる」

「えと、ありがとうございます?」

「…………不破がいらんもん残して消えたからな」

 

 先生の声は小さくて良く聞き取れなかった。

 何を言ったんだろう。

 

 ◇

 

 やっと、今日の授業も終わったか……教師にとって大変なのはむしろ放課後からだが、今日のように生徒の落ち着きがないと授業も大変になる。

 不破がいなかったから生徒はそわそわしていたのだろうか? うちのバカ弟に至っては堂々と不破の机を見ていたからな。まさか不破に惚れたのか?

 まぁ、一夏が誰に惚れようと私は関係ないがな。だが今はまだ一夏は私のモノだから筋は通してもらわないと困るか。

 

「それにしても……」

 

 まさか監察室から抜け出すとは……中からは出られない造りになっているはずなのにいったいどうやって……?

 だいたい、罰としての謹慎を無視するのは大問題だ。学園が不破を繋ぎ止めようとしているのを知ったからこその今回の行動だろう。謹慎以上の罰がないと分かっているなら大胆な行動もとれる。

 

「しかし、不破がいないと大変だな」

 

 普段から不破は自主的に黒板を消したり、配布物を持ってきたり、果てはネジの緩んだ椅子を修理したりと八面六臂の活躍だ。アイツがいないだけで作業能率が六割程度まで減る。

 今日の様子を見る限りでは、普段クラスが静かなのも不破の存在があるからなのかもしれない。

 少なくとも課題の出来が良いのは不破がいたからだ。今までと課題の難易度は変わっていないのに成績は落ちている。

 今回成績が落ちた生徒はマークしておこう。

 だが、判らないのは不破とデュノアの関係か。デュノアから不破に対しては憎しみが感じられたが、逆に不破はデュノアを護ろうとしている。

 今朝、監察室で見つけた不破から私宛の手紙の内容からも、それは分かる。

 

 ――織斑先生へ。

 どうやら私への罰則は厳しくないようなので出かけてきます。機密事項なので行き先は秘密ですが、学園に不利益なことではありません。

 監察室から抜け出す方法も言いませんが、私以外に実行できる人はおそらくいないので部屋の構造問題などを探す必要はありませんよ。もちろん、ISなんて使っていないです。

 金曜日の夜に戻ってくる予定なので土曜日の朝まで監察室は閉め切っていて下さると助かります。

 ちなみに今回の件は私も不本意なことですから、あんまり怒らないで下さいね?

 不破アリサ

 

 P.S シャルル・デュノアに危害が及ばないよう見ていて下さい。もし私が帰った際になにかあれば誤魔化しようのない方法で退学させてもらいます。出席簿で叩いちゃだめですよ?

 あと、最近ストーカーされてます――

 

 何一つ詳細が書かれていないからこそ、逆に迂闊に動けない。

 これが普通の生徒だったら破り捨てるところなのだが、不破の場合は本当に退学できる手段を思いついている可能性もある。

 退学するぞ、などと脅される教育機関なんてここぐらいだろう。

 

「しかし、ストーカーとはなんのことだ? ……不破が何でこれを書いたのかが分からないな」

 

 学園の監視だと勘違いして――私以外の誰かの独断による計画の可能性もあるが――止めさせようとしたのか、それとも本当に困っていたのか。

 どちらにせよ私には関係ないことだが……

 

「不破にも担任としてなにかをしてやらないとな」

 

 む、そろそろ原田が来る時間か。退学について交渉したい、と言っていたが……普段なら追い返すのだが、声が本気だったから一応聞くことにしていた。

 

 ◇

 

「失礼します」

 

 職員室に入った私に何人かの先生が驚いたような顔をする。多分、ことの真相を知っている人達なんだろう。

 そんな視線を無視して織斑先生の机までまっすぐ歩く。

 

「原田か。どうした?」

「親が勝手に出した退学届けを無効にしてほしいんです」

 

 確か、表向きの理由はそれだったはず。先生にも私の言いたいことは伝わっているだろう。

 

「それはまたどうして?」

「私の両親は本当のことを知らないで騒いでいるだけだからです。私を退学させてもなにも解決しません」

 

 ここで言う両親は学園のこと。学園が知りたがっていて知ることができていない情報を私は知っている。

 あの事件の本当の根っこの部分。つまり噂の出所に関係すること。

 

「あまり、人に聞かれたくない話なので……」

「わかった。場所を変えよう。山田先生、この書類は任せた」

「えぇ!?」

「しっかりな」

 

 大胆すぎる職務放棄だ。

 山田先生もガツンと言わないからこういうことになるのに……言ったところで扱いは変わらないような気もするけど。

 織斑先生に連れられてきたのは校舎の端にある空き教室。アクセスが悪いから使われていないんだとか。

 不良がいれば確実にたまり場になりそう。

 

「それで、黒幕……いやこの場合は発端か。それは誰だ?」

「その前に、この話が役に立つなら私の退学を取り消すことを約束して下さい。あ、これ念書です」

「……用意が良いな」

 

 私は基本的に立場のある大人の言うことを鵜呑みにするほど好い人じゃないし。

 まぁ、自治区であるIS学園じゃ念書も意味ないだろうけど。

 

「これでいいな? それじゃ話してくれ」

「ええ、噂を流したのは三組のキャサリン・ジェファソンの筈です」

 

 あの噂が広まる前から噂を知っていたし、彼女が私に話した噂の内容は今流れているものと違い不自然な点、つまり尾ひれが付いていなかった。

 キャサリン自身、直接聞いたと言っていたし、その日の昼に彼女が不破の弁当箱をひっくり返したのも知っている。

 キャサリン本人が自慢げに言ってたしね。

 

「キャサリン……あぁ、あのプライドの塊か」

「っぷ!」

 

 確かに自尊心の塊だ。思わず笑っちゃった。

 キャサリンの何がすごいって本当に自尊心だけの塊で、それ以外に優れたところがないのよね。私にも彼女が自分の何に自信を持って、あのプライドが育ったのか分からない。

 まぁ、実家の方はアメリカでも有数の資産家らしいし、そこでお姫様的な扱いでもうけていたのでしょうね。

 甘やかされて育ったから何もできないくせに威張るのだけは人一倍、と。

 

「ふん、なるほどな……今、最も不破に害意を持つやつを売ると言うことか」

「はい。そういうことです。それに私、不破のこと嫌いじゃないですし」

「……分かった。他の教師と話し合って決めよう。今週末には結果が出るはずだ。とりあえず念書は預かろう」

「お断りです」

 

 どう考えたって先生の手で処理する気じゃん。今シュレッダー見てたし!

 

「冗談だ」

 

 ま、キャサリンには悪いけど……もともとあの子はあんまり好きじゃないしね。

 正直に言えば、恨みはないけど私の代わりにあの子が学園からいなくなっても気にならない。


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