Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「始まり」


18. Matière fondamentale.

 はぁ、まったく……私はISの操縦をしたいんであって他のひよっこの面倒をみたいわけじゃないのに。ああいうもは教師がやれっての。

 ……なんて千冬さんに言ったら出席簿で叩かれるんだろうけど。

 とりあえず、アリサのお見舞いに行ってあげないとね。

 きっと、自分だけ実習に出れなくて拗ねてるわ。

 

 コンコン

 

「……あれ、先生もいないの?」

 

 アリサは具合悪いらしいから寝てるのかもしれないけど、病人残したまま保健室空けるってどういことなのかしら。

 ……まぁ、寝てるのがアリサじゃなければ私も大して気にしなかったんだろうけど。

 まったく、まだ一ヶ月と半分くらいの付き合いだってのに随分あの子の大切さ(ウェイト)が重くなってるわ……どこの国でも手がかかる子の方が可愛いなんて言うみたいだけど、まさにそれね。

 ちょっと目を離した隙に何か抱えてそうだからついつい構ってあげたくなるのよね。

 セシリアもそんな感じなんだろうなぁ。

 私とはちょっとスタンスが違うみたいだけど。

 

「このまま立ってても仕方ないし、アリサー? 入るわよ?」

 

 アリサが寝ているのなら起こしてしまわないように、そっと音をたてないように扉を開けて中に入る。

 保健室の中には案の定ベッドで眠るアリサ以外誰もいない。

 ……というか頭まですっぽりと布団の中に入れちゃって、子供かっての。まぁ、身長(大きさ)的にはそんな感じだけど。十二歳から全然身長伸びてないって言ってたっけ? ……それなのにBカップ目前とか私に喧嘩売ってるのかしら。

 

「まったく……それじゃ暑くて目が覚めちゃうでしょ」

 

 なるべく寝てもらうために布団をめくろうとする。いや、別に寝顔を見てみたいとかじゃないわよ? この子寝るの私より遅くて起きるのは私より早いから寝顔を見たことはほとんど無いのよね。

 起きるの速いって言ってもギリギリまで布団の中でゴロゴロしてるような子だけど……低血圧なのかしら?

 

「って、あれ? アリサ、起きてんの?」

 

 布団をめくろうとすると弱くない抵抗がある。

 ちょうど、内側から引き剥がされないように掴んでいるみたいな。

 ちょ、ちょっと、私と話したくないってわけ!? いいじゃない、あくまでも抵抗するって言うなら私も本気出すんだから。

 

「ん~~! 起きてるんなら顔見せなさいっての! なんでこんな力強いのよ! 具合悪いんじゃなかったの?」

「だ、だめです……鈴ちゃん、お願い」

 

 お、お願いされたって。

 アリサの弱気な声につい力が緩む……泣きそうな声出すほど嫌なの? ちょうど、傷痕のことを話していたアリサと同じような声で心配になる。

 

「分かったわよ。無理に引き剥がしたりしないからこのまま話そうか?」

「はい」

 

 さて、カーテン開けて日を取り込んで……暖房ももちろん最大よね。誰か入ってきたら困るから鍵も締めないと。

 アリサ、あんたから出てこないと本当に病気になるわよ? どうせ今は具合悪くないんでしょ?

 というか早く出てきてくれないと私がゆだっちゃうわ。

 

「それで? なにあったのよ?」

「それは……言えません」

「なっ……アンタねぇ!」

 

 先週のこともあったのに、まだ私にはなにも教えてくれないっていうの!?

 私のこと、まだ友達だと思ってくれてないの……? 頼りにならないかなぁ?

 

「友達だから……秘密なんです。話したら、きっと鈴ちゃんは助けてくれちゃうから」

「助けるわよ。当たり前でしょ?」

 

 でも、助けられたくないってことよね?

 私と喧嘩した時もアリサは友達に助けを求めてたんだし……多分、もっと重要なことなんだとは思うけど。

 それでも……

 

「なにを悩んでるのかだけでも言えない?」

「い、言えません……ぐすっ」

 

 え?

 ちょっと、今の聞き間違いじゃないわよね?

 聴覚に集中してみると、やっぱり布団の中から押し殺した泣き声が聞こえる。

 アリサが泣いてる……?

 

「やっぱり、あのデュノアって男になんかされたのね!?」

 

 言えないってのも、よほどのことされたんじゃ……たしかアリサはデュノア社に所属してるんだし、そこの御曹司であるあの転校生に脅されて何かされたっていうのもありえないことじゃないかも。

 脅されて、無理矢理……襲われた?

 もしそうなら……

 

「許さない……落とし前付けさせてあげる」

「鈴ちゃん!? 違います! シャル……あの人は悪くないんです!」

「アリサ……?」

 

 その瞬間、布団を払いのけてアリサが起き上がった。

 ……どういうこと?

 今の態度じゃどう考えてもデュノアが関係して泣いてるってのに……

 そんな、目も真っ赤にしちゃって……なんで泣き寝入りしてんのよ。

 

「なんで、かばうの?」

 

 アリサは、誰かを庇うことはしないはず。だって、庇うような友達がいなかったから、今まで友達を庇うなんてこと考えたこともないはず。

 自惚れじゃなくて、アリサの友達っていえるのは私とセシリア、あと話を聞く限りではさっきの一松さん達三人……それだけだって言える。

 だって、隠し事を一つもしない相手が友達だって先週までそう思ってたんだから。

 そんな生活は誰にも出来ない。だからアリサに友達はいなかった。

 私はフランスでのアリサを見たこと無いけどあんなんじゃ友達と思える人もいないはず。

 じゃあ、あのデュノアってのはアリサにとっての何?

 

「やっぱり、脅されてるんじゃないの? 確か、アリサのお父さんもデュノアの所属研究員なのよね? アイツにとって不利なこと言ったら辞めさせるとかそういうことを……」

「違います! ほんとに、違うんです……私が馬鹿で臆病だっただけで。全部、私のせいなんです。だからこれ以上、デュノアさんのことを悪く言わないでください」

 

 悪く言わないでください。

 その部分に本当にアリサの本音が入っているのが分かってしまって、私は何も言えなくなった。

 

 ◇

 

「鈴ちゃん!? 違います! シャル……あの人は悪くないんです!」

「アリサ……? なんで、かばうの?」

 

 放っておいたら手遅れになるんじゃないかって、そう思ってつい鈴ちゃんに顔を見せてしまいました。

 涙が尽きるんじゃないかって思うほど泣きましたから、もう平気です。

 ただ、こんな顔を鈴ちゃんが見たら勘違いしてしまうから隠そうと思っていたんです。

 今考えるべきことは、どうやってシャルロットの誤解を解くかです……でも、誤解をといても私がシャルロットに男装をさせる結果を引き寄せたわけですから許してはくれないでしょうね。

 私が、恨まれるのはもうどうしようもないです。

 でも、やっぱりシャルロットは社長さんのことを疑っているから……あの本妻さんを含めて三人で仲良く暮らせるように、その結果を作りだすのが罪滅ぼしになるんじゃないかと思うんです。

 

「やっぱり、脅されてるんじゃないの? 確か、アリサのお父さんもデュノアの所属研究員なのよね? アイツにとって不利なこと言ったら辞めさせるとかそういうことを……」

「違います! ほんとに、違うんです……私が馬鹿で臆病だっただけで。全部、私のせいなんです。だからこれ以上、デュノアさんのことを悪く言わないでください」

 

 シャルロットはなにも悪くないんですから……私が自分のエゴで巻き込んだだけで。

 私が中途半端な想いでシャルを守ろうとしたから。

 だから余計に彼女に辛い思いをさせる結果になったんです。

 多分、私が勇気を出して直接シャルロットに社長さんのことを言えば良かっただけなんです。

 シャルロットに私の本当の姿を知られるのが怖くて気付かれないように間接的に関わって、だから保険と思ってシャルロットが男装することになった時に私に教えてもらえるように……わたしから提案したんです。

 苦しめることだって、社長さんとシャルロットの間の溝を深めるだけだって分かってたのに……

 もしかしたら仲違いさせてシャルロットを独占しようと思っていただけなのかもしれません。

 

「全部、私が悪いんです」

「アリサ……」

「鈴ちゃん。私、休学するかもしれません」

 

 シャルロットはいずれ男装しなくなる。そうなるとデュノア社が経営危機に陥るから……だからIS学園を出て、研究所を手伝わないといけません。

 デュノア社に所属している操縦者の中でIS適性Aが出ているのは私とシャルロットだけ。その二人ともがいないので第三世代型の開発はさらに遅れています。

 ただでさえフランスは遅れてるから……精神が摩耗するのも覚悟して協力しないといけません……ううん、それもやっぱり私の罪滅ぼしなんです。

 それでも時間が足りなければイグニッション・プランを崩すのも視野に入れます。

 今、一番採用に近いのはセシぃが乗っているのと同型のティアーズ型(タイプ)のはずです。もちろん負ける気はしません。今まで何十回も戦ってきた機体だから、乗っているのが私との戦闘を経験しているセシぃじゃなければ確実に勝てます。

 その次点のレーゲン型……これがボーデヴィッヒさんの機体ですね。予定されているはずのタッグマッチで弱点を見抜けばいいだけです。

 テンペスタⅡ型はぶっつけ本番で勝つしかありませんけど、仮に負けたとしても突出している二機を破壊できれば……それこそ絶対防御も貫いて操縦者を昏睡状態にできるくらいまで徹底的に。

 操縦者を■すくらいの覚悟で臨む必要もあるかもしれません。

 私は刑に処されるでしょうが、第二世代型であるにも拘らず第三世代型ISの操縦者を再起不能にするだけの力があれば……第二世代型でもイグニッション・プランに入れるかもしれません。

 

「アリサ!」

「ひゃい!? って、鈴ちゃんですか」

「いきなり真剣な顔して……何考えてたの?」

「な、何でもないですよ!?」

 

 危なかったです。鈴ちゃんの存在を忘れていました。

 

「それで、休学するってどういうこと?」

「その……デュノアさんが来たので代表候補生の資格を譲渡するつもりなんです。そうなると私がIS学園にいる必要はなくなりますから。本国に戻って研究の手伝いをします」

「ちょ、ちょっと待って!? 代表候補生はあくまでも候補生なんだからアリサが辞める必要無いじゃない!」

「私とデュノアさんの成績は同じ位ですから……」

 

 これは、事実です。

 社長さんから送られてきたデータによればハイパーセンサーとのリンクは私の方が強いですがシャルロットの高速切替(ラピッド・スイッチ)がそれを補っています。私の並列処理(マルチ・サーキット)は最大でも二つの武器までしか使えませんから高速切替(ラピッド・スイッチ)のほうが汎用性の面で優れています。

 ……思考が三つに分割できるようになれば、その限りでもないんですけどね。

 

「同じだからって一緒にいちゃいけないってわけじゃ、」

「無いですけど、意味はないんですよ。デュノア社は操縦者の数も豊富とは言えないので……」

「……かもしれない、なのよね?」

 

 私が、シャルロットを……シャルロットが被ることになる汚名を雪ぐにはそれしかありません。

 

「私がアリサと一緒に卒業したいって言っても……変わらない?」

 

 私だって、まだセシぃや鈴ちゃん達と過ごしたいですけど……原作の通りになればあと一カ月もいられませんね。

 それで、いつかシャルロットが私の行動の目的に気付いてくれれば……それだけでいいんです。

 

「私は、諦めないわよ……というか髪ボッサボサじゃない。結んであげるからこっち来て」

 

 鈴ちゃんは手早く私の髪の毛を結んでツインテールにしちゃいました。

 

 「アリサって毛の量多いのねー」

 

 というか被ってますよ?

 ……お揃いってちょっと良いですね。

 

 ◇

 

 アリサと話して、気付いたことがあった。

 あの子はどういうわけか自分のことなんて二の次にしてる。

 でも、それ以外のことは全くわからないから、私よりもあの子のことを知っている人物――セシリアに相談する。

 

「セシリア。アリサが泣いてたんだけどさ。何されたんだと思う?」

「……きっと、なにもされていませんわ」

「え? でも、あのアリサが泣いてたのよ? 私、あの子が泣いたのってあの時以外記憶にないわよ?」

「私だって十回も見たことありませんわ」

 

 それなら余計にすごくひどいことされたってことじゃないの?

 ……ダメね。私はまだ全然アリサのことを分かって無い。

 もっとよく知るために、やっぱり休学なんてさせないわ。

 

「アリサさんは……言い方はアレですけど在り方が歪んでいます」

「それは、分からなくもない」

 

 あの子は普通の高校生の思考が出来ていない。それこそ異常とも言えるほどに。だからどこに言っても浮いているような気がしている。

 

「私の勝手な想像ですが……アリサさんは例え犯されても泣きませんわ」

「おかさ……って、はぁ!? さすがにそれは無いでしょ!?」

「いえ、あの子は自分が損なわれるだけのことは我慢してしまいます。だから、嬉しい時にこそ泣くのですわ。今回、それでも悲しみから泣いたというのなら自分の行動に後悔して泣いたのだと思います。あの子が泣くのはその二通りしかあり得ませんから。悪い意味で感情の制御に長けているのですわ」

 

 じゃあ……本当にデュノアは関係ない?

 

「いえ、デュノアさんは悪くない、そう言ったのでしょう? でしたら関係はしているはずですわ。ですが、わたくしシャルル・デュノアなどという名前、アリサさんから聞いたことはありませんわ」

「デュノアに関係することでアリサが後悔して泣いたなら……何かしらの関係があるのよね? それも、私達と同じ程度に深い関係が……」

「恋愛関係……はありませんわね。わたくしも聞きましたがアリサさんは女の子が好きなのでしょう?」

 

 友達、恋人、家族……アリサのことだからそれ以外は全部、他人のはず。

 ダメね……セシリアと話せば何か分かるかと思ったけどこれ以上は本人以外分かりそうにない。

 

「いいえ、あと一人。私でも知らないことを知っている可能性がある方がいらっしゃいますわ」

「へ? どこに?」

 

 私の問いかけにセシリアがついと視線を動かす。目の動きを追った先にあったのは……

 

 ――生徒会室――


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