Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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9. The Phantom killer

「ふーん……やっぱりね」

 

 全てを話し終えて、どの程度驚くのかと思えばこの淡白な反応……

 驚かせようと思ってた訳じゃないけどつまんないわね。

 

「……知ってた、みたいな口ぶりね。本当なら世界中が驚くような情報なのよ?」

「それより、その“世界中が驚くような情報”を先輩が知っている方が驚きですよ? 何者ですか?」

 

 リリティア・スノーホワイト……ただ適正が高いだけの子かと思ってたけど意外と頭はいいのかもね。

 バックナイフ(はもの)の話では何も知らなさそうってことだったけど、それもどこまで本当のことか分からないわ。

 

「おい、キャサリン……私もそれは初耳だぞ?」

「はもの、そう睨まないで」

 

 そもそも興国の志(ファントムキラー)の中でもこの事実を知ってるのはごく少数だもの。

 スコールとオータム、あとはミストラルくらいかしら。

 それも全部、ウィルドフィアみたいにスコールのスカウトじゃなくて他部署から捻じ込まれた不穏分子に興国の志(ファントムキラー)の目的を気付かれないようにするため。

 バックナイフやエムに伝えられていないのは彼女たちの目的とは関係無いから。

 ……私が教えられてるのは、もう立場がスコールたちに近いから。

 

「それに、今のあの子はある意味で私達とは関係無いしね」

「“私達”?」

 

 うん、やっぱり反応してくるわね……洞察力もちゃんと有る、と。

 スコールに言われてることもあるし、この子の所属企業のことも考えると……

 

「ええ、そうよ? 私とはものは亡国機業(ファントムタスク)の末端。そして興国の志(ファントムキラー)の構成員よ」

「……まるで獅子身中の虫だと自称してるみたいな名前してますね」

 

 隣ではものが驚いて固まってるけど、今はいい。

 スコールから不破アリサに憧れてるリリティア(この子)を引き込めって言われてるしね。

 正直、ただ憧れてるだけなようには思えないけど……その程度のことスコールが気付いてないとは思えない。

 とりあえず、この件については私が全部任されてるし、思うようにやってみるとしようかしら。

 

「みたい、じゃなくてそうなのよ」

「おい、キャサリンっ!」

「いいのよ。それにはもの、貴女の役目は私の補佐でしょ?」

 

 ちなみにそれもスコール曰く、はものの方が能力はあるけど暴走しがちだから、らしいわよ?

 だから不満そうな顔は私じゃなくてスコールに向けてほしいわね。

 

「それで本題だけど、リリティア・スノーホワイト――貴女、私達の仲間になりなさいな」

 

 ここまでの話に滞りついてきたこの子なら展開自体は予想できてるはず。

 よほど性格が悪くない限り断られない。

 そう確信して見た相手の顔は――バカっぽい?

 

「あれ? 私、殺されないの?」

「……えっ?」

 

 どういうことよ?

 この展開は流石に予想してなかったわ。

 え?

 私達、この子を殺すと思われてたの?

 

「ええっと……何でそうなったのか説明してもらえる?」

「いや、だって、今までのは冥土の土産みたいな……?」

「殺す理由は?」

「なにかの計画のためにはーちゃんさんをクラス代表にしようとしたのに、私がなっちゃったから、私を殺せば自動的にはーちゃんさんが――」

「小説の読みすぎ」

 

 ……やっぱりこの子バカかもしれない。

 

「じゃ、じゃあ、お前は知りすぎたんだ、みたいな!」

「聞いてもないことを勝手に語り始めたくせに、お前は知りすぎたんだ、なんて言って殺す組織なんて小説の中にもないわよ……」

 

 それに、

 

「そうだとしても貴女が仲間になれば何も問題ないことでしょう?」

「……あぁ!」

 

 確かに! って納得してもらえたのはいいけど……この子、本当に仲間にして大丈夫かしら。

 頭が悪い訳じゃなさそうだけど、間が抜けてると言うか……

 まぁ、最終的な責任はスコールにあるから気にしない。

 

「じゃあ、誤解も解けたところでもう一度言うわ。私達、興国の志(ファントムキラー)の仲間になりなさい」

「……なぁキャサリン」

 

 なによ、いいところで茶々入れないでよ。

 

「さっきのって結局、仲間にならなかったら殺すって言ってるよな?」

「えぇ!?」

 

 まったく……無駄にこの子を脅さないで欲しいのに……大体それって私たちがこの子の妄想の通りの集団だった場合じゃない。

 そんなの――

 

「――そんなの、当たり前じゃない」

「……やっぱお前性格わりぃよ」

 

 なによそれ。

 不破アリサ(あの子)ほどじゃないわよ?

 

 ◇

 

 不破先輩が生きてることが確定したのはよかった。そこは素直に嬉しいよ?

 でも、お父さんお母さん、並びにお兄ちゃんお姉ちゃん、そして可愛い弟妹たち……私、大ピンチみたい。

 

「えっと、誰にも話さないことを確約して仲間にならないってのは……」

「駄目に決まってるじゃない」

「デスヨネー」

 

 私、口軽いし……そうじゃなくても悪の組織の中にある秘密の反抗組織だもんね……

 実際に悪の組織って訳じゃないからまだマシだけど……

 

「なに悩んでるのか知らないけど、入ってくれますか? じゃなくて入れって命令して(言って)るのよ?」

 

 入るか否かの答えを悩んでる私に対して先輩がまるでヒントをあげる、みたいな口ぶりでそんなことを言ってくれる。

 いや、うん。だって、入らなかったら殺されちゃうんだもんね……

 でも、こう、やっぱりせめて安心材料がほしいというか……

 

「貴女にとってのメリットもあるのよ? 興国の志(ファントムキラー)の原則は相互扶助。最終的な亡国機業(ファントムタスク)を潰すって目的に反しない限り、貴女の目的にも協力するわ」

「……不破先輩に会いたいっての以外にも?」

「例えば?」

 

 例えば……えーっと……いきなり言われても思いつかないんだけど……

 

「超セレブになりたい……とか? あとは、世界的に有名なモデルになりたいとか」

 

 いや、私がそうなりたいとかそういうのじゃなくて、それしか思い付かなかったっていうか!

 

「そうね。セレブになりたいならそれに見合うだけの知識と教養を、モデルになるなら生活習慣とか食生活を全力でサポートするわ」

「え、あー、うん……そっか……そっかー」

 

 意外と地味……もちろんそれはそれで他の人よりは恵まれた状況なんだろうけど……

 

「結局、本人の努力が一番の近道なのよ」

「……悪の組織のくせに言うことが真っ当すぎるよ」

 

 今時、そんな正論なんて小学校の先生くらいしか言わないんじゃないかな……

 でも……まともじゃない目的の場合はどうなるんだろう?

 復讐が目的って、はーちゃんさんは言ってたけど……それが年相応の仕返しとかじゃないことは何となくわかった。

 もし言葉通りの意味なら……

 

「……二人の目的は?」

「復讐。姉の仇討ち。そんなところだな」

 

 やっぱり、そういう意味なんだ……

 それは今まで普通に生きてきた私みたいな人間にとってみれば怖いことのはずなのに、なんでだろ?

 はーちゃんさんだったら怖くない。

 なんだかんだでみんなに優しいし学校でもすごく真面目なのを知ってるからかな。

 本気で復讐する気なのかわからないけど……きっと、それくらいお姉さんが好きだったんだろうな。

 

「私はちょっと特殊でね。興国の志(ファントムキラー)になにも求めてないわ」

「何も?」

「ええ、最初は目的もあったんだけど、別口で叶えられちゃったから」

 

 そっか。

 それなら……

 

「私の求めるものは決まってるけど……まだ話せない」

「それは、私たちの仲間になるってことでいいのね?」

「だって他の選択肢はないんだよね?」

 

 脅しかもしれないけど殺すって言われちゃったし……なによりメリットの方が大きそうだしね。

 

「――ということだから、スコール、足を用意してちょうだい」

『分かったわ。ただ、条件は分かってるわね?』

 

 いきなり部屋全体に響いた声にびくっとするけど、二人は当然のように無反応。

 

「ええ、あそこに如何なるISコアも近付けないこと、バックナイフを連れていかないこと、到着するまで目隠しをすること、よね?」

 

 はーちゃんさんが一瞬ぴくりとしたけど、結局なにも言わなかった。

 これはあとから知ったことだけど、はーちゃんさんは身体の中にISコアが埋め込まれてるから、コアを近寄らせないってことはつまり、はーちゃんさんも近寄れないってことになるってことらしい。

 

『ええ、くれぐれも、よろしくね? それが――』

「――あの子(アリサ)の願いのためだから、でしょ?」

 

 ……本当に不破先輩は生きてるんだ。

 でも、先輩に会うための条件がその事を隠して、不破先輩を匿うためみたいだね。

 しかも、それがこの人たちに託した願い?

 でも、それって死んだことにしたがってるってことで……ううん、存在を消したかったんだ。

 だから亡国機業の手先として自国も裏切った。そうすればタブーの存在としてフランスでさえも語られることはない……から?

 事実、学園内では誰も語りたがらないし、事情を詳しく知っているのも極少数……

 でも、どうして、先輩はそんなことを?

 

「それにしても、ISさえ近付けないだなんて……」

 

 一体、誰を相手に先輩を隠そうとしてるんだろうね。

 

 ◆

 

 ――コアナンバー5、コアナンバー48、ネットワークから消失(ロスト)しました――

 ――再検索……失敗――

 ――これにより五つのコアが所在地不明になりました――

 

 ◇

 

「着いたわ」

 

 目隠しをした状態で車に揺られること数時間。

 どれくらいの距離を移動したのか分からないけど、少なくとも都市部から離れていることは分かる。

 空気が綺麗だし、遠くに微かビルが見えるだけで、普通の家も疎らだからね。

 

「リリティア。お前のコア、私が預かることになるけどいいんだな?」

「うん、はーちゃんさんは信用してるし、私としてはなくなってもそこまで困らないものだしね」

「困らないってお前……まぁ、それなら二時間後、ここで落ち合おう」

 

 はーちゃんさんはここで別行動だって。

 ただのお留守番って訳じゃなくて、なにか用事があるらしい。

 はーちゃんさんも目隠しされてここに連れてこられたはずだけど……そんな場所でどんな用事があるんだろ。

 

「ちなみに、この一帯はGPSとか使えないから迷うなよ?」

「ん、わかったー」

 

 GPSも制限されてるんだ……やっぱり、不破先輩は隠されてるみたい。

 

「じゃ、行くわよ。ふらふらしてはぐれても探さないからしっかり着いて来るように」

「はーい」

 

 ……衛星情報とか地磁気から自動的に自分の居場所をスキャンするISをここまでなら運んでよかったのは、ここからはなにかしらの妨害措置がとられてるからかな。

 これ以上、持ち歩くのがいけないのはISコアが持ち主の記憶を読み取り、コアの中にコピーを作ることを知っているから?

 だから、車でも目隠しして私達が余計な情報を受け取らないようにした……?

 ……でも、そんなこと知ってる人って……それに、私がまたISを身に付ければ不破先輩に会ったっていう記憶は洩れるよね?

 

「だいたい、コアが記憶を盗むなんて、普通の人は知らないはずなのに……」

「なにか言った?」

「いーえ、なにも」

 

 それからは一言も話さず。ただ先輩に着いて歩く。

 先輩からも声をかけられなかったのは意外だったけど、どことなく緊張してるような空気もあるからそれでかもしれない。

 目の前のキャサリン先輩と不破先輩は友達だったんだって思ってたけど、今の感じだとそれも分からない。

 次に私達が会話をしたのは目的地が見えてからだった。

 

「あそこに不破アリサがいるわ」

「……サナトリウム?」

 

 外観は広い庭のある煉瓦造りのお洒落な建物。

 でも、その庭にいるのは殆どがお洒落とは程遠い簡素な寝間着や白衣をきた人たち。

 それに、何より外と中を区切る門と格子の塀が不必要に高いし、その鋭く鈎針のようになった上端は内側にお辞儀するみたいに曲がってる。

 まるで侵入じゃなくて脱出を阻むみたいに……

 

「ここ、嫌いなのよね」

「まぁ、この雰囲気じゃあ……」

 

 大抵の人は檻ってイメージになるだろうし、そこに知り合いが入れられてるなら尚更だよね。

 初めて来た私ですらポジティブな感情を受けてないもん。

 一度そういう目で見てしまったら庭を歩く人たちの笑顔だって貼り付けただけのようなものに見えてくる。

 なんでこんなところに不破先輩がいるのかもわからないし、他の入居者の素性だって知れたものじゃない。

 亡国機業の息がかかってる施設ってことなんだろうけど……その関係でサナトリウムに入れられちゃう人たちってどういう人なの?

 

「入るわよ」

「はい」

 

 重い雰囲気の中、私達は門をくぐった。

 

 ◇

 

「瞳、久しぶりだね……」

 

 リリティア達がサナトリウムにいる間の暇を使っての墓参り。

 眠っているのは私の双子の姉……正確に言えばここじゃなくて、ちゃんとした先祖代々の墓に入っているけど、浦霧はものと偽名を名乗っている私はおいそれと実家の墓に近づけない。

 この墓に入ってるのは粉々になった記録媒体と紙の灰――瞳を殺した研究の残骸だけ。

 

「私、瞳を殺した奴を絶対に許さないから……」

 

 もし死後の世界なんてものがあったとして、瞳は多分復讐なんて望んでない。きっとバカな私のことを悲しそうに見守ってくれてるだけだと思う。

 血のつながった姉妹に復讐を望むような性格じゃなかったし、仮に私と瞳が逆の立場でもやっぱり自分の代わりに復讐してほしいなんて望まないから。

 

「ま、そんなの関係ないけどね」

 

 恨んでるのは瞳じゃなくて私なんだから。

 ……一卵性双生児だった瞳と私だけど、それでもIS適性には違いがあった。

 私に世界最高峰にも並ぶ才能があったにも拘わらず、瞳には人並み――数分かけてISを起動できる――程度の才能すらなかった。

 だから……きっと奴らはその違いを明らかにしようとしたんだ。

 一部のデータはまだ回収できていないけど、大まかな研究内容は分かってる。

 過剰なストレスや痛み、そして違法な薬を与えたり、強制的に心肺を停止させてから回復させたり……そんな実験で瞳のIS適性を無理矢理に開花させようとした。

 そうして人工的にIS適性を高める方法を探そうとしたんだ。

 双子の私に高い適性があったせいで瞳はそんな酷い目にあった。

 

「私が無才能だったらよかったのねに……」

 

 それだったら、私たちはただの双子でいられたのに。

 

 ――瞳が急に姿を消してから一週間後の雨の日、水を吸ってぶよぶよになったナニカが近くの川縁で発見された。

 最初は事故死を、自殺を疑われた。

 そして抵抗の痕跡があったことや、脳が極端に萎縮していたことから最後には常日頃から多大なストレス下にあった――つまり虐待を疑われ、そんな周囲の視線に晒されることに耐えられなくなった私達の家族はバラバラになった。

 けど、現実には虐待なんてなかった。

 それどころか、私たちはどこの家族よりも仲が良くて笑顔に溢れてた自身がある。

 

「……脳が縮むほど怖かったんだよね?」

 

 瞳が実際にされたことを想像するだけで体が震えるのに、それを実際に何日間も続けて体験させられた瞳の恐怖はどれほどのものだっただろう。

 そう思うと、ほんの少しだけ瞳が今も生きてなくてよかったかもって思う自分がいる。

 もし生きてたとしても、生きてるとは言えないような状態になってただろうし……たとえそれで瞳が苦しんでたとしても家族の私たちは瞳に死なせてあげることもできなかっただろうから。

 私がスコールに直接スカウトされて興国の志に入ったのは事件の数ヵ月後。

 与えられたコードネームは裏切りの刃(バックナイフ)

 そして瞳が捕らえられていた研究所もすぐに見つかった。

 

「バックナイフなんてさ……センスないよね」

 

 後暗い研究をしていて亡国機業と無関係でいられる訳がないから当然だった。

 私が直接踏み込んで研究所を破壊し尽くしたが、一歩だけ遅かった。

 瞳の実験、つまり『人工的なIS適性開発研究』の主任研究者はそれまでの成果を手土産に機業に入っていた。

 しかも今現在の地位は開発部門の中でも無視できないほど。

 

 ――アーダルベルト・フォン・クルーガー。

 フォンというのがドイツ旧貴族ということを示しているのかは分からない。

 しかしアーダルベルトに機業以外の後楯が存在することは確か。

 そうでなければ、アーダルベルトが機業に入る前から非人道的な研究をすることができていた理由がない。

 

『人間と兵器の一体化』

 

 それがアーダルベルトの打ち出した研究テーマ。

 私のIS……デュラハンはそれによって造り出されたといってもいい。

 私が専用機を持つことついて打診された時、力を求めるあまり碌に考えずに頷いてしまったせいで、奴をすぐには殺せなくなった。

 人体内蔵型IS……いや人体一体型ISは奴のオリジナルだから調整も奴にしかできない。

 調整が行われなければ四六時中私を苛む痛みは増大して、そのうち動くことすらできなくなる。

 いつでも殺せる距離にいるのに手が出せない。

 

「まぁ、あいつが瞳の顔を知らなかったのは幸運だったかもね」

 

 きっと書類で結果だけを見ていたんだろう。そのお陰で私が瞳の双子だと言うことにも気付かれていない。

 とにかく、まずはIS学園で突破口を見つける。

 私のデュラハンを調整できる奴を見つけ出すためにIS技術の集まる学園に入った。

 その問題さえクリアすれば私にとってアーダルベルトは不要だから……

 

「待っててね、瞳。次はこんな中途半端な形じゃなくてちゃんと黒谷双音(ふたね)としてお墓参りに行くから……だから、しばらく弱い自分とはおさらばだ」

 

 また、バックナイフ、もしくは浦霧はものとしての仮面をかぶる。

 今は復讐心以外の感情は必要ない。

 私にやたらと懐いてくるリリティアもただ利用するだけだ。

 

「じゃ、またな」




実は設定の文字数がアリサと同じくらいあるはものさん

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