Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

142 / 148
多分所要時間三時間くらい
こっちはサクっとかけるんだよなぁ



6. Morning coffee

 ゆさゆさ……

 

「んぅ……?」

 

 ゆさゆさゆさゆさ……

 

「ん~~、マルスなぁにぃ? ご飯は今日お姉ちゃんの当番じゃないよ~」

 

 だからもうちょっと……ってここそういえば家じゃない!?

 それになんかすごく他人に聴かれたら恥ずかしいことを口走った気がする!

 というかベッドに入った記憶は無いんだけど……学園のベッドすごくもこもこふかふかで気持ちいいなー……

 

「じゃなくてっ!」

 

 ガバッと勢いよくおきると隣でビクッとした気配。

 うん、まぁそりゃ、揺り起こそうとしてもなかなか起きなかった相手がいきなり奇声上げて起き上がったら、ね。

 昔からもうちょっと落ち着きを持ちなさいって言われるけどこればっかりは……

 

「って、リオちゃん?」

 

 コクコク

 

 そんな擬音がよく似合う、小動物みたいな頷き。

 昨日は入学式中だったりお説教中だったりであんまりよく観察できなかったけどボブカット風の茶髪に鳶色の目。うん可愛い。

 おっぱいは……私の方が大きい!

 そしてなぜかエプロン姿。

 

「あと、誰?」

 

 そしてもう一人、私が使っていない方のベッドで寝てる女の子。

 すごい綺麗にお手入れされた長い髪と整った顔立ちの日本人。

 おっぱいは……横になってて分かり難いけど多分同じくらい……かな?

 日本人は隠れ巨乳だったりするからわからないけど。

 

「とりあえず、時間的には余裕がありそうだけど……状況がよく分からないんだよね」

 

 ここは二人部屋だから、私のルームメイトは黒髪の女の子のはず。

 なのに理桜ちゃんがこの部屋にいるのは……

 

「私に惚れちゃった?」

 

 ブンブンブンブン!

 

 いや、そんなに勢いよく否定されると悲しいよ!?

 顔真っ赤なのが抱きしめたくなるくらい可愛いんだけど……可愛いんだけど!

 抱きしめるか抱きしめまいか、抱きしめたらすごい幸せになれそうだけど朝からドン引きされそうでもあるし……

 

「…………」

 

 何かを躊躇するみたいに黄色い羽毛で出来た髪留めに触ってたリオちゃん向こうのベッドに近寄る。

 そういえば朝御飯のいい匂いもするし起してあげるのかな?

 そうそう、定番の起こし方と言ったらやっぱり大きく振りかぶって――

 

 スパァン!

 

「え?」

 

 スパァン! スパァン!

 

「えぇ!? ちょっとリオちゃん、なんで寝てる女の子しばき倒してるの!? というかそのハリセンどこから出したの!?」

 

 私の時は優しく揺り起こしてたのはなんで!?

 そのいとも容易く行われるえげつない行為の理由は何!?

 

「ん……あ、リオおはよ」

「なんであなたもいつも通りみたいに起きてるの!? 痛くないの!?」

「…………っあ、私、あなたのルームメイトになった油比(ゆび) 翼です。よろしくね?」

「あ、うん、リリティア・スノーホワイトです。よろしくー」

 

 って違うよね!?

 今そんな、先に私が寝ちゃってたから挨拶が翌日の朝になっちゃったけど、よろしくね、みたいなことが許されるまともな空間じゃ無かったよね!?

 さっきから、というかツバサちゃんが起こされた瞬間からこの部屋全部が不思議ワールドになってるからね!?

 

「あ、理桜にはもう面識があるのよね。この子は灯連(ひつらね) 理桜(りお)。こうみえて私の幼馴染なの」

「うん、幼馴染とか友達でもない寝てる人相手にあんな容赦ない攻撃しないもんね……」

 

 なんかもう疲れたからツッコミはいいや……

 こういう人達なんだって理解したことにしよっと。うん、可愛ければ何でも許されていいと思う。

 

「それで、この部屋出て行ってくれない?」

「……あー、うん、こんなに早く前言撤回したくなることもないんじゃないかな?」

「あっ! 違うの! 別に外国の人が苦手とか、外国の人じゃなくて貴女が苦手とかそういうのじゃなくて――ぁうっ!」

 

 そろそろ泣いても良いのかなぁ、と思い始めた矢先に、いつの間にかそっとキッチンにフェードアウトしてたリオちゃんが戻ってきて、ツバサちゃんを後ろからはたいた。

 今度はハリセンじゃなくて平手で。

 そして無表情にツバサちゃんをじっと見て――

 

「ごめん」

 

 ぽつりと私に謝った。

 そういえばリオちゃんの生声はじめてかも。

 初めて話した時はプライベート・チャネルを通してだったしね。

 というか、この二人の関係も良く分からないなぁ。幼馴染にしてもわざわざ起こしに来て朝御飯まで作ってあげるなんて聞いたことないし。

 

「えと、翼は私のご主人さま」

「っふぁ!?」

 

 何その背徳感ありありな関係!?

 女の子同士で主従関係!?

 

「私の実家――油比はそれなりに有名な商家で理桜、というか灯連家の人達が代々お世話係をしてくれてるのよ。私はただの幼馴染だと思っているけどね」

 

 ……あ、スケールは大きいけど結構普通だ。

 

「それで、えっと、私に出てけってのは……」

「その、言葉のチョイスが悪かったのはごめんね? でも私、本当に理桜がいてくれないと生きていけないっていうか……」

「え、ラヴなの?」

 

 ……やっぱり普通じゃない?

 不破先輩がそうだったみたいに女の子大好きなの?

 うん、私は否定しないよ? 私自身はどっちでもいける気がするし!

 

「ううん、そうじゃなくて……私って生活力皆無なの」

「……砂糖と塩間違えて、洗剤の量が二倍三倍になるのは当り前、掃除すると汚れて目覚まし時計は十二時間ずれる」

「うわぁ……」

 

 リオちゃんの補足に悪いと思いつつ声が漏れる。

 ノルウェーの家では自分でやらないと家事が回らなかったから想像もつかないけど……いるんだ、こういう人。お兄ちゃんの持ってる日本のラブコメ漫画の中だけの話だと思ってたよ。

 

「つまり、私とリオちゃんが部屋を交代するってことだよね」

 

 確かにそれを聞くと代わってあげた方がいいような気もするけど……でもなぁ……

 

「その、せっかくお友達になれそうなのに残念、かな」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私が迷惑かけるのは確実よ? 自分で言うのもアレだけど甘く見てない?」

「料理は私もできるし、洗濯だってツバサちゃんが気にしないなら他人の物洗うのに抵抗は無いかな? 掃除だって汚さなきゃいいんだし、時差ボケさえ治れば朝も起こしてあげられると思う」

 

 うん。わざわざリオちゃんが部屋に来なくても大丈夫のはず。

 リオちゃんにだって、ルームメイトの人がいる訳だし、その人も二日目でいきなり相手が変わっちゃったらびっくりするだろうしね。

 

「でも、私、朝はご飯とお味噌汁じゃないと食べれないとか、わがままよ?」

「うちの家族が日本びいきだったから和食も作れるよ? 私もお米好きだし」

「……リリー、貴女、天使なの? 結婚してくれる?」

 

 いや、そんな目を潤ませるほどのことじゃないよ……って結婚って冗談だよね!?

 まぁ、それに人のお世話するのも弟たちで慣れてるしね。たまーに嫌になるだろうけど、その時はリオちゃんに丸投げしちゃえばいいし。

 問題は無さそうかな。

 

「私の方はやっぱり大丈夫そうだけど、リオちゃんは平気? やっぱり自分でお世話するこだわりとかある?」

 

 ちょうど、朝御飯をのせたトレイを持ってきたリオちゃんに確認してみる。

 お世話係としての矜持があるかもしれないし。

 

「……ちょっとだけ」

「そっかー、じゃあお手伝いお願いするね?」

「うん」

 

 じゃあご飯に……って四人分?

 

「理桜のルームメイトの分ね。さっき電話で呼んでたみたいよ?」

「そっかー。あ、それなら毎日四人で食べればいいかな? 私とリオちゃんで用意すれば四人分でも手間じゃないだろうし」

「それ名案ね。お世話してくれるっていうけど、やっぱり多分私のお世話って大変だろうし……自分で言うと悲しいけど」

「うん、言わなきゃいいんじゃないかな」

 

 なんかツバサちゃんって雰囲気は優等生で私みたいなのは近寄りがたいんだけど、話してみると凄い楽な人だね。

 なんか今更だけど学校生活が凄い楽しみになってきたよ。

 早くクラスにも馴染めるといいなぁ……初日はホームルームサボっちゃったし……

 

「はぁ……不良だとか思われてたらどうしよう」

「?」

 

 私の呟きにリオちゃんが首を傾げる。

 そんな大きな声だったつもりは無いけど聞こえちゃったのかな。

 

「昨日、あのお説教のあと校舎で迷っちゃってホームルームに出れなかったんだ。だから初日からサボる不良とかって思われてたら嫌だなぁって」

「あぁ」

 

 お説教を思い出したのかリオちゃんが納得の声を上げる。

 昨日のリオちゃんはずっと先生に対して何も言わなくて不機嫌なのかなって思ったけど口数が少ないだけだったんだね。

 

「それは心配しなくていいと思うわよ」

「うん?」

「私も貴女のこと不良かと思ってたけど、すぐに仲良くなれたしね?」

「……もしかして、ツバサちゃんは同じクラス?」

「ううん、私は四組のクラス代表だから……でも理桜から話は聞いてたし、そもそも呼び出しは全校生徒の前だったじゃない。理桜と理桜のルームメイトは同じ三組なのよね。羨ましいわ」

 

 うぅ、やっぱりお説教くらってサボりかました不良だと思われてたんだ……本当は道に迷ってただけなのに……

 でもツバサちゃんとクラスが違うのは残念だけど、リオちゃんと、あとそのルームメイトの人も同じクラスなのは嬉しいな。

 これから朝御飯一緒に食べるならもっと仲良くなれるしね。

 

 コンコン

 

「あ、開いてるよー」

 

 その人もやっと来たみたい。

 んー、どんな人かなぁ。

 せっかく同じクラスなんだからすぐ仲良くなれるといいんだけど……

 

「あー、悪い、待ったか?」

 

 って、この声は……!

 

「はーちゃんさんだー!」

「うぉっ!? うわっ、翼のルームメイトってこいつかよ……」

「話してみたら結構いい子よ?」

「いや、そうじゃねぇよ」

 

 なんだ、ちょっぴり仲良くなれるか心配だったけどはーちゃんさんなら問題ないね!

 昨日の朝、お説教、そして今朝と三度も偶然が続けばこれは運命だよね!

 リオちゃんも入学式、お説教、今朝って三度続いてるからこれも運命!

 ついでにツバサちゃんもリオちゃんと幼馴染だからやっぱり運命!

 

「もう、はーちゃんさんと私は切っても切れない運命共同体だよねっ!」

「あー、はいはい。変な偶然続いてるから本当にそうなりそうなフラグ立てるんじゃねーよ」

「嫌なの!?」

「嫌だろ」

 

 そんなぁ……はーちゃんさんはお友達第一号だから一番だと思ってたのに。

 ま、いいや!

 思ってる分には私の自由だしね!

 

「はーちゃんさんは私のお友達! リオちゃんもツバサちゃんもね!」

「ふふっ、よろしく」

「……よろしく」

「うぜぇ……」

 

 はーちゃんさんの照れ屋ー。顔赤いぞー?

 

「うるせぇ、早く飯くわねぇと遅刻すんぞ」

「はーい」

 

 ◇

 

「ということで、一日遅れになっちゃったけど、リリティア・スノーホワイトです。昨日はたまたま道に迷ったけど本当は方向音痴じゃないんです! でも移動教室の時はそっと気にしてくれると嬉しいです。よろしく!」

 

 うん、良かった。自己紹介もできたしクラスの人たちのスノーホワイトさんって不良なのかも、みたいな不安も消せたみたい。

 残る不安はあれかな。

 何でか分からないけど担任のダフナ先生が私と目を合わせてくれないことかな?

 その癖、ちらちらと視線は感じるし。

 昨日、保健室で話した以外はなにも無いはずなんだけど……もしかしてまだ不良だって疑われてるのかな?

 先生に不良だと思われるのはちょっと遠慮したいなぁ。

 授業中に居眠りもできなくなっちゃうしね。

 

「それで、スノーホワイトさん、昨日の時点ではクラス代表の立候補はえっと、浦霧さんだけだったんだけど、立候補の意志はありますか?」

 

 先生がなんかすごく浦霧って言いにくそうだったけど、やっぱりはーちゃんさんが言葉遣い荒いから怖がってるのかな?

 ダフナ先生は結構怖がりって言うか自信無さげっていうか気弱って言うか……先生としてやっていけるのか心配になっちゃうなぁ。

 夏休みごろから胃潰瘍で担任が変更になりました、なんてことにはならないよね?

 先生もいい人な気がするからそんな事態にならないといいなぁ。

 

「あの、スノーホワイトさん? 無視されるとちょっと辛いかなぁって……」

「あ、ごめんなさい! ちょっとぼーっとしちゃって! えっとクラス代表には……」

 

 立候補しない、って言おうと思ったけど……

 もしかしたら、代表になればほかの学年の人と話せる機会が増えるかもしれない。

 特に、不破先輩のことをよく知ってる人に。

 生徒会ののほほん先輩に特に不破先輩と仲がよかった人たちの名前は聞いてるけど、今のままじゃ話しかけることもままならない。

 心の傷みたいになってるのに、何も知らない後輩からいきなり事件のこととか聞かれても話せないよね。

 でも、クラス代表になれば、そして、学期ごとのクラス対抗戦で活躍すればどこかで関わりが生まれるかもしれない。

 だったら……

 

「私も……ううん、私がクラス代表をやります」

「へぇ……面白ぇ」

 

 はーちゃんさんに対する挑戦みたいになっちゃったけど……ここは友情とか、そういうもので譲れない。

 はーちゃんさんだって本気で怒ってる訳じゃないし、むしろ愉しそうに犬歯を覗かせて笑ってる。

 これはチャンスだから……一番最初のクラス対抗戦はすぐのはず。

 そこで、まずは優勝して私の名前を先輩たちに知ってもらう。

 不破先輩のことを知るために……本当に、亡国機業に所属するような悪い人だったのか確認するために!

 

「二人とも専用機持ちだから、その、慣例にのっとって戦って決めてもらうことになっちゃうんだけど……平気、かな?」

「あぁ、いいぜ?」

「望むところ、だよ」

 

 ◆

 

「第三アリーナで1-3の代表決定戦だってさ」

「今年も一年生は元気だねぇ」

「去年って誰と誰が戦ったんだっけ?」

「え? 織斑君とオルコットさんでしょ?」

 

 

 

「……去年を、思い出しますわね」

「なによ、どうかした?」

「いいえ、何でもありませんわ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。