Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「えーっと、保健室は一階の通用門近くかー」
いやー、このマッピングプログラム便利だねー。自分が向いてる方向に合わせて地図もクルクル回転してくれるから私でも全然迷わないよ。
アナログの地図だとなんでか太陽の位置に地図の東を合わせても全然目的地に着かないし。
やっぱり日本はこういう細かいところまで気配りが行き届いてていいよねー。
「とーちゃっく!」
ノック二回で失礼しまーす!
「はわぁ!?」
ん?
今の叫ぶ声は私じゃないよ?
私はあんな漫画のキャラみたいな驚き方しないよ?
叫んだのは保健室の先生。女医さんだよ。保健室の女医さんだよ! よく分からないけどエロいね! お兄ちゃんの持ってる日本の本に女医@スクールハーレムってのがあったから男の人が女医大好きってことだけは知ってる!
白衣に編み上げブーツってなんとなく女王様っぽい……って違った。
私はホームルームに遅れたことを謝らないといけないんだった。
大丈夫。私は女の子だから教師と教え子のイケない関係なんて強要されないはず!
あ、でもお姉ちゃんは日本の
それにしても二人ともあれを大学での語学の研究だっ、なんて言葉で誤魔化せると思ってるのかなぁ?
「えっと、リリティア・スノーホワイトです。その、職員室で大事なお話があってホームルーム遅れてしまって……」
「あ! うん、分かってます! えと、えと、大事なお話って織斑先生からのお説教、だよね? とりあえず座っていいよ」
「むぅ」
バレてるー。
ちぇー、専用機持ちだから、そんな感じの大事な話と買って誤解してくれないかなーって思ってたのに。
勧められたままに先生の正面の丸椅子に座ったけど……嘘、いや厳密には誤魔化しただけだけど気まずいなぁ。
こういう時日本ではなんて言えばいいんだっけ。お兄ちゃんの本だと確か、こういう場面では……
「ごめんなさぁい……ダフナ先生にはかっこ悪いこと知られたくなくて嘘ついちゃいました……」
ってスカートをぎゅっと握りながら言うのが正解だったはず!
先生の名前はちらっと白衣についてるネームプレートで確認した!
「そ、そっかー……でも、嘘はダメです。特に自分を誤魔化すような嘘だけは絶対だめなんですよ? ……ってごめんね! いきなりこんな話してもウザいよね!? 」
先生が私の手を両手で握ってハシバミ色の目を潤ませる。
えっと……言った方がいいのかな?
説教よりも年上の人に涙目で手を握られてる状況の方が面倒くさいって……
でも、うん。
初対面の相手だしちゃんとフォローしないと。
えっと、確かお姉ちゃんの本ではそっと優しく手を振りほどいてから……
「先生、ウザいなんてことはないです。先生の優しい気持ち、ちゃんと分かりますから……」
で、ここで逆に手を握って……
「まだ、初対面ですけど、先生の優しい手と、そのお気持ちは、私にとってすごく気持ちがいいです……」
って、私のそこそこある胸の前で手を抱きしめながら言う!
「……」
あれ?
先生が
どうしよう、この後の展開は確か……座ってる先生の膝に片手を置いて前のめりになって、先生の身体によっかかるように体重をかけながら……
「せんせ、これからも優しくしてくださいね……?」
って耳元で囁く!
私、百点満点だよ!
いやー、よくこんな細かい場面覚えてたなー。二人が読んでるのを後ろから覗き込んだだけなのにね。
さすがにこのあとの展開は覚えてないからここら辺で許してくれると嬉しいなぁ。
「だ、だだっ」
「だ?」
先生が顔真っ赤にしてるけど……なんだろ?
もしかして誤魔化そうとしてるのがバレて怒ってるとか!?
そういえば本業は臨床心理医とかなんとかだって入学式で紹介されてた気がする!?
私が心の中で考えてることなんて全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだとか!?
「せっ、先生と教師がそんな爛れた関係になっちゃ駄目なんですー! 卑猥ですー!」
「わっ!?」
軽く押されて私が離れた隙に先生が保健室からダッシュで出て行っちゃった……
うーん、先生がなんでそんな生徒と教師のイケない関係、みたいな誤解したのか分からないけど……
「少なくとも先生と教師なら別に構わないんじゃないかなー?」
きっと言い間違えたんだろうけど。
で、これから私どうすればいいんだろう……?
むぅ、明日からの時間割とか諸注意とか? あと自己紹介とか今日やるべきことはいろいろあったんだと思うけど……もう帰っていいのかな?
「一応、職員室行こっと」
◆
「織斑先生、昼間の襲撃の件ですが……どうしますか?」
山田先生か……
私が新入生三人と
場所は地下の研究施設だったか……私はあの部屋には関与していないから連中の目的もすぐには思いつかないな……
「最近、あの施設で研究されていたことが何か分かるか?」
「一応、報告書の上では今年度の新入生と同世代となるはずだった双子の細胞を使ってのIS適正に関わる因子の研究です」
「双子……?」
それに同世代となるはずだった……?
随分と音島ではない表現だな。
入学しないだけならば同世代の双子、と言えばいいだけの話だ。
「えーと、黒谷
IS適正診断はシステムの形式上、IQテストのように幼年期ほど結果が高く出やすい。
しかも母数が多く、ある程度の指標となることを目的にしている公立小学校の診断結果となると精密な結果は導き出せない。
しかし私立中学校が行う高次特別適性診断となると数値の信頼度は跳ね上がる。
「つまり、姉と妹の細胞内から異なる因子が見つかれば、それがIS適正の有無にかかわるものである可能性がある、とそういう研究か」
「はい。しかも因子が後天的要素によって発生・消滅する可能性がある……つまり訓練、経験によるIS適正の変化という事例についても説得力が生まれる、と考えていたようです」
意図的に因子の発生を促すことや因子の培養ができるようになれば世界でも最も大きな商売になる。
場合によっては一夏だけがISに乗れる理由も分かるようになるかもしれん。
「データが奪われた可能性は」
「端末内の研究成果は常に紙媒体に印刷され、電子媒体のデータに復元も出来ないよう念入りに削除されているそうです。そして紙媒体の方に異変はなかったとのことです」
研究成果の強奪ではないようだ。
となると、似たような研究を機業の方でも行っていて、こちらの研究成果をつぶそうとしてきたのか……?
いや、確証のない予測は必要ないな。
「侵入機体はフランスから奪われた第三世代ISミラージュ・ガルー……か」
本来ならば不破が乗るはずだった機体。
最初から機体性能に頼らない戦い方をする不破のための専用機として開発されたためか第三世代兵器の特色は存在自体が消失すると言っても過言ではない完璧なステルス。
戦闘能力はスペックシートから見る限りは不破の専用機オンブル・ループと大差ないようだが……
「まったく、戦闘を行わず、隠密工作に徹されたら手も足も出ないな」
「一応全ての監視カメラの映像も再確認してもらいましたが不審な影どころか動画の乱れですら研究室のもの以外ありませんでした。唯一と言っていい映像の乱れもデュノアさんのIS展開によるものですし……」
「そうか」
ISはその巨大な電力エネルギのために常に微弱な電磁波を外に漏らす。
基本的にそこらのレーダーを素通りできる程度のステルス性を備えているISがハイパーセンサーから逃れられないのもこのためだ。
そこで学園ではISの発する波長の電磁波に対してのみ誤作動を起こす監視カメラを設置していたのだが……
「デュノアが現場で展開していた間以外は不具合も無しか……フランスめ、面倒なものを開発しくれる」
「それとなく、不審人物を見なかったか、という質問が各学生に伝わるよう手配されていますがこの分だと期待は薄そうですね」
「あの、迷ってる時に研究室っぽいところ入っちゃったんですけどまずかった感じですかね……?」
「!?」
誰だ!?
◇
いやー、やっぱりあの研究室秘密の場所だったんだ……!
先生たちが話してた内容は聞こえなかったけど研究成果、とか侵入、とか聞こえてきたし……もしかして私があそこに行ったことを話し合ってるとか……?
「スノーホワイト、初日から随分と問題を起こしてくれるな……?」
ひぃ!?
織斑先生、なんで「要チェックだな」とか言いながら出席簿みたいなのに書き込みしてるの!?
先生は別に私の担任じゃないよね!?
「それに、あの部屋いたの私だけじゃありませんっ!」
「……ほぉ、話してみろ」
いちいち声が怖いし!
でも話せなんて言われても、話す内容なんて別に……
「えっと、職員室で先生のお説教が終わった後、自分のクラスに行こうと思ったんですけど迷っちゃって、それで研究室的なところで女の子に地図をもらって……」
「女の子?」
「ええ、綺麗な金髪で、身長は私よりもちっちゃかったかな……? あれ、同じくらい?」
正直、ドレスと鉄パイプに気を取られて顔とかの印象が全然残ってないや。
お人形みたいにすごく可愛かったって記憶だけはあるんだけど……
「それで、その地図見て廊下走ってたら先輩にぶつかって、教室で山田先生に会って地図を最新版にしてもらって……」
「地図は昨年度のものだったのか」
「みたいです」
きっと、あの女の子は先輩だったんだろうなー。
教室が変更になったのとか知らなければわざわざ更新なんてしないだろうし、そもそももう使ってなかったのかもしれないし。
あ、先輩と言えば!
「織斑先生! 不破先輩ってどこに行けば会えますか!?」
「え?」
「む?」
あれ、織斑先生も山田先生もすごく形容しがたいような表情になったけど……?
「えっと、去年、日本に着てた時に色々あって助けてもらったのでそのお礼が言いたいんですけどクラスとか――」
「死んだぞ」
「何も知らない――はい?」
死ん、だ?
いやいやいやいや、そんなまさかー。
「専用機持ちの人が死ぬわけがないじゃないですかー」
ISコアによって病気が治ったって言う例まであるんだし。
それにあんなに強い人がそう簡単に死ぬわけが――
「死因は自爆だ」
「自爆って、そんな……」
だって、会社の人はISは見かけだけの兵器で、戦争で実際に使われることもないから操縦者は安全だって……
そんな、自爆しなきゃいけないようなことになることなんて何があるの?
だってそれって、直接的か間接的にかは分からないけど自分の命よりも優先すべき選択を採らされたってことでしょ?
そんなの、安全なんて言えないじゃん……!
「興味があるなら自力で調べろ」
「っ!?」
先生は、本気だ。
そういう目をしてる……しかも、本当で調べろって言ってるみたい。
やれるもんならやってみろ、そういう意図が見える。
不破先輩にはお礼が言いたいだけだからお墓の場所さえ教えてくれればそれでいいのに……でも――
「――やったろうじゃん」
本当のことが分からないといつまで経っても気持ちが晴れない。
きっと、先輩の墓前で毎日お礼を言っても少しも私の心に晴れ間は生まれない。
「ふん、期待している」
――分かった。
今、分かったよ。
この人、嫌な人だ……!
「失礼しましたっ!」
とりあえず情報収集から!
◆
「織斑先生、いいんですか? あんな焚きつけるようなことを言って……あの件は、学生たちの間でも
「それを口にすることによって叩きつぶされるかもしれないな」
「専用機持ちだって、イジめられることはあるって、去年だって――」
「山田先生、私は本当にスノーホワイトに期待してるんだ」
「……あの件が真実ではないと証明してくれることをですか?」
「いや、それだけじゃない」
――きっと、一部の生徒たちを立ち直らせてくれると、な。
「ふん、たまには教育者らしいこともしないとな」
「はぁ……?」