Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「真面目な話、実際にいたらこの男ウザいよね」


13. Sérieusement, l'homme irrite vraiment.

「でさ、一夏のやつ、ぜんっっっぜん的外れなこと言っちゃってさ! 全く、おごるってなによ! 毎日作ってあげるってのはそういう意味じゃないでしょ!」

 

 そーですねー。

 

「しかも、ちゃんと約束は覚えてる、とでも言いたげな態度! もう、信じられない!」

 

 大変ですねー。

 返事が適当なのは仕方ないんです。だって鈴ちゃん、ずっと同じ話してますよ? もう最初に話した時から2週間くらい経ってるんですよ?

 まぁ……家出、というか部屋出? の原因が私じゃなくて、織斑君と同室になろうと強硬手段に出ただけだったのは安心ですけど。 

 

「ってアリサ!? 話聞いてる!?」

「へ? あぁ、もちろん鈴ちゃんの酢豚は食べてみたいです。私、あんまり中華を作るのは得意じゃないので」

「って違、」

「あとエビチリとか……あ! チンジャオロースとかも食べてみたいです」

「いや、だから、」

 

 こういう時は押し切るのが一番です。1日1回くらいまでは聞いてあげようと思いましたけど、もう10回を超えて内容も覚えちゃいましたし。

 それに、何より時間が……

 

「あと胡麻団子でしたっけ? 杏仁豆腐もいいですねー」

「あの……」

「あ、そろそろ家を出ないと間に合いませんね。私は朝食いらない人なので問題ないですが、鈴ちゃんは辛いんじゃないんですか?」

 

 最近は日本人にも朝食をとらないひとが増えてきているらしいですが。

 あぁ、ヨーロッパ圏だと朝食抜きは割合普通なんです。

 

「えっ、もうこんな時間!? 気付いてたなら先に言ってよ!」

「ええ、鈴ちゃんが17回目のプロポーズ失敗談を始めなければすぐにでも伝えられたんですけどね」

「私のせい!? ……うん、私のせいね。というか早く着替えなきゃ!」

「鈴ちゃんの制服はそこに、鞄の中に必要なものは全部いれてあります。というか、髪の毛は私が結ぶのでぱぱぱっと着替えちゃってください」

 えーと、鈴ちゃんの髪留めはこれで化粧ポーチは……これですね。流石に恋する乙女がすっぴんはまずいでしょうし。

 とりあえずツインテ完成。我ながら美しすぎる出来映えです。

 

「ん、ありがと。でも最近ずっとこんなだけど、アリサは準備できてるの?」

「えぇ、鞄は教室においてありますし……それに最近こうなのはほとんど鈴ちゃんの責任ですよ」

「悪かったわよ……というかソツなさすぎ」

 

 誉められてるのに呆れられてる気がします。

 朝はお風呂入って薄く化粧して、手ぶらで登校。楽で良いじゃないですか。

 

「課題は?」

「やたら大きいもの以外は学校で終わらせてます」

「……はぁ」

 

 む、私の完成された生活スタイルに何の問題があるのでしょう……と、化粧もこんな感じで良いですね。

 

「ん、ってアリサなにしたの!?」

「あれ、気に入りません? 私的には可愛いと思うんですけど」

「いや、そうじゃなくて……アリサ、人に化粧するの慣れてるんだ」

 

 クラスの三人娘がいろいろ教えてくれますからねー。特に三好さんのテクはすごいです。

 顔と化粧の化学変化です。もちろん良い意味で。

 それに手先は器用な方ですし。料理とかも得意なんですよ? 特にケーキ。

 

「ま、食堂行きましょうか。急いだおかげで普段とほとんど同じ時間ですよ。あ、鞄もってあげますよ」

「そうね……アリサはきっと良い奥さんになるわ」

「?」

 

 

 食堂で番茶を1杯。鈴ちゃんの朝食に付き合うようになってからの新しい習慣です。

 なぜか周囲から物珍しそうに眺められて居心地悪いんですけどね。

 

「そりゃ、欧米圏からの留学生の女の子がよりによって番茶なんて飲んでたらね……私まで見られてるじゃない」

「番茶、美味しいじゃないですか」

 

 論点はそこじゃない、とツッコミを入れられました。鈴ちゃんのツッコミは地味に痛かったです。プロは本気に見えてスナップを利かせているだけらしいですよ?

 ……分かってます。

 でも鈴ちゃんの朝食の方がすごいと思うのですが……

 

「こんなの普通よ? 結構これくらい食べる子いるみたいだし、少なくとも番茶よりは一般的よね」

「でも、好きなんだから仕方ないじゃないですか! 少しくらい付き合ってくれたって……!」

「わ、バカ、声大きいわよ! というか、微妙に端折るのやめて!?」

 

 へー、あの子たちそういう関係なんだー。しかも同室らしいよ。え、じゃあ夜とかキャーキャー。

 ……という感じの声が周囲からちらほらと。鈴ちゃんも紅くなっちゃって可愛いですねー。えぇわざとです。

 

「アリサ、性格悪いわね……というか視線が嫌なんじゃないの?」

「ヤですよ? でも、友達と一緒にいると平気みたいです……鈴ちゃんが私を受け入れてくれましたから」

 

 適度に感動的な雰囲気を混ぜると、鈴ちゃんも静かになるのも最近分かってきました。

 基本的に人が好い鈴ちゃんに軽く微笑みかけます。

 それを見た周囲が、何かいい雰囲気、キスするのかも、と囁きあいますが……全部聞こえてるんですよね。やっぱり確信犯ですけど。

 というか彼女たち、内緒話する気ないでしょう。

 あぁ、視線に慣れてきたというのは本当ですよ? というより見られても、大丈夫と言ってくれる人がいることを知ったからでしょうか。

 

「あ、織斑君ですよ? 呼びます?」

「呼ばない。というか、もう行こう」

「そですか」

 

 まーだ、怒ってるんですね。まぁ、分からないでもないですけど……怒ってみせても無駄だと思うんですよ。

 彼、朴念仁ですし。

 カロリーの無駄です。

 

 

 

「おはようございます」

「あ、だいひょー、はよー」

 

 朝の就業時間までの間に鈴ちゃんをできるだけ宥めてきましたが……効果は薄いでしょうね。織斑君が悪びれていないのが主な理由なのですが。

 というか女の子が怒っていたら気にしてあげないとダメですよ? 相手の気を引きたいポーズなんですから。

 あ、当然本気で怒ってる場合もありますが、まぁ、どうなっても私の責任ではないですね。

 挨拶もそこそこにして席に座り、隣の織斑君にちらりと目を向けると……普通ですね。

 鈴ちゃんのことも少しは考えているみたいですがそれだけです。

 なので余計にたちが悪い。

 心配しているならもちろん、苛ついているのだって鈴ちゃんが彼にとって小さくない存在だという証明になるのですが……まぁ、こういう人だってのは分かってます。

 

「織斑君、鈴ちゃんと仲直りできましたか?」

「仲直りもなにも鈴が勝手に避けてきてるだけだぞ?」

「はぁ……でも鈴ちゃん怒ってるんですよ?」

 

 言外に謝っちゃいなよユーと伝えてみますが柳に風。いい性格してますねこの男。

 

「でも心配じゃないんですか? このまま嫌われちゃったら、とか」

「ま、少しすれば元に戻るだろうしなー」

 

 甘いですね。

 やっぱり織斑君の見通しというのはトレハロース並みに甘いです。

 鈴ちゃんの一世一代のプロポーズをただの酢豚をおごるだけの約束だと言ったのに、自然に仲直りできる程度なわけがないじゃないですか。

 というか鈴ちゃんは優しい方だと思います。私なら即刻絞めころ……さないですけど、肉体的苦痛を与えているところです。

 あ、でも私の場合、相手はシャルになるから……うん、許しちゃうかもなぁ。

 

「というわけで今すぐ謝りに行ってください」

「どういうわけだよ……というか不破さんには関係ないだろ?」

「鈴ちゃんは私のルームメイトですよ? 関係ないわけがないじゃないですか」

 

 毎朝グチられてますし。慰謝料請求したいくらいなんですよ?

 というか、

 

「謝るべき時に謝れない男の人って……」

「なんだよ?」

「ちょっと、お灸を据えてあげましょう。放課後アリーナでフルボッコにしてあげます」

「あぁ、望むところだ!」

 

 私の言い方が頭に来たのか織斑君はヒートアップ。見方によっては男らしい態度かもしれませんが、女の子の純情を弄んだ男の言葉と捉えると最低ですね。

 まぁ、本人がプロポーズをプロポーズと思っていなかっただろうことが唯一の救いでしょうか。

 というか、周りの女子から、やめときなよー、勝てっこないって、この前負けたばっかじゃん、と言われる織斑君が不憫です。

 まぁ、だからといって手加減したりはしませんが。

 ……あちゃー。戦うと思ったら身体が火照っちゃいました。授業にでる気分でもないですね……

 

「一松さん。保健室に行ってくるので先生に伝えてください」

「え? 不破さん大丈夫?」

「ちょっと身体が熱いだけですから」

「えっ!?」

 

 あれ? 一松さんが一瞬で真っ赤になっつんですけど……?

 

「あー、不破ちゃん気にしないで? イッチーはエロ子だから」

「ふたちゃん!?」

 

 あぁ、あー、なるほど……汚れてますね。

 まぁともかく、

 

「頼みましたよ、エロ松さん」

「うん……うん?」

 

 ツッコミが行方不明ですよ!? 私のキャラじゃない下ネタだったのに放置されたら困りますってば!

 

 ◇

 

 午前中は全部サボっちゃいましたが、おかげで元気いっぱいです。

 思う存分お説教できますね。肉体言語で!

 今日は……第3アリーナですか。知らない内にセシぃと篠ノ之さんも来ることになっていますが、まぁいいでしょう。

 というか、今日は私が思う存分に織斑君をいたぶ……いじ……鍛えるので、何しようとかの議論は無駄ですよ?

 多分終わった頃には動けないでしょうし。

 対抗戦は来週なので、よほど大破させない限りは本気で攻撃しても構わないでしょう。

 

「じゃ、開けますよ」

 

 バシュッとちょっとカッコいい音を出してドアが開きます。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 あ、いないと思ったらこんな所にいたんですか。腕組みして不適に笑っていますが……おかしいですねぇ。お昼差はまだ期限悪かったんですが。

 

「貴様、どうやってここに――」

「一応、ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ……まぁ、わたくしは構いませんが」

「ま、一夏関係者だから問題ないでしょ」

 

 というか、今から私と織斑君が戦う理由を考えたらむしろ張本人ですからね。

 

「ほほう、どういう関係か、」

「というか、現状このメンツで一番関係ないのは篠ノ之さんなので自重してくださいね?」

「なっ!?」

 

 もともとは私と織斑君との試合なんですし。

 

「じゃ、じゃあセシリアはなんなのだ!」

「まぁ、私と織斑君と鈴ちゃんの共通の友人ですね」

 

 あ、遠回しにあなたは友達じゃないですって言いたいわけじゃないですからね? 誤解しないでくださいよ?

 ただほら、お互いに面と向かって友達とまで言える関係でもないですね?

 

「まぁ、静かにしていれば中に入ってくれても構わないので」

「偉そうだな……」

 

 そりゃ、今の状況に限って言えば、篠ノ之さんよりも力がありますからね。

 ふふふ、関係者かどうかは私の匙加減です。

 

「性格悪いやつだ……それと一夏、おかしなことを、」

「はーい、もういいでしょ? 満足したら退いて。今はあたしの出番。あたしが主役なの。脇役はすっこんでてよ」

 

 ま、鈴ちゃんの言う通りなんですが……言葉は選びましょうよ。篠ノ之さんが隅でいじけ始めたじゃないですか。可哀想に。

 

「だ、大丈夫ですよ篠ノ之さん。あなたが主役になるときだってきっとありますから……」

「ほ、本当か?」

「はい。だから元気出してください!」

「不破、お前、良い奴だったんだな」

 

 あれー? 意図していないところで好感度あがりましたよ? まぁ好意なので受け取りますけど。

 私が篠ノ之さんを慰めている間に、鈴ちゃんの方の事態も進展していました……喜ばしくない方向へ。

 

「なんだ、やめるならやめてもいいぞ?」

「誰がやめるのよ! あんたこそ、あたしに謝る練習しておきなさいよ!」

「なんでだよ、馬鹿」

 

 馬鹿って……子供の喧嘩ですか?

 

「馬鹿とは何よ馬鹿とは! この朴念仁! 間抜け! アホ! 馬鹿はアンタよ!」

「うるさい貧乳」

 

 貧、乳?

 この男、貧乳と言いましたか? 私の目の前で?

 えぇ、分かってます。私に言ったわけではないということくらい。

 でもですね……

 

 トンッ

 

「うぉっ!?」

「私、その言葉はピータンと同じくらい嫌いなんですよ……?」

 

 軽く押して転ばせた織斑君に、キスができるほど顔を近づけて囁く。

 ふふ、照れてる場合じゃないですよ?

 

「え、ピータン美味しいじゃない……というか私が怒る場面じゃないの!?」

 

 ダメです。あれは製造過程を先に知ってしまったので食わず嫌いになりました。

 

「というか私より少し大きいアリサが怒るっておかしくない? あぁもう、言ってて泣きたくなってきた」

「セシぃの胸で泣いていいですよ」

「余計に悲しくなるわ!」

「ちょ、不破さん……悪かったから退いてくれ、重た、」

 

 パァン! ……バシバシ!

 

 重たいって言おうとしましたよね!? 筋肉ついちゃって他の女の子よりも体重を気にしてるのに!

 ……思わずはたいた後に追加攻撃しちゃったじゃないですか

 もう織斑君なんて嫌いです! 顔も見たくありません!

 

「あっ、アリサどこ行くのよ!? あぁもう!とりあえず一夏! 私も怒ったんだからね!」

「いや鈴は最初から、」

「それもアンタのせいでしょ! あぁもう頭来た! 手加減してあげようと思ったけどもういいわ! ――全力で叩き潰してあげる」


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