Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
「なぜ呼び出されたか……分かっているか?」
場所は職員室。私を先頭にしたはーちゃんさんとリオちゃんの三人で織斑先生と向かい合ってる。
入学式が終わったから織斑先生のところに来たけど……もしかして先生怒ってる?
うーん、でも怒られるようなことをしたつもりは全くないんだけどな。
「うーん……?」
「はぁ……私のことを知らないどころか校則すらも……入学手続きの書類と一緒に送付されただろう?」
あ、そんなの確認してないや……
「学園内でコアネットワークを介した通信は原則的に認められていない。隠れて使うならまだしも……式中に堂々と使うな」
「はーい……」
私が自分から使った訳じゃないけどリオちゃんのせいにするわけにもいかないしね。
「灯連、お前のことも特別扱いする気はない。教師のいる場で使うなよ。いいな?」
「…………」
リオちゃんは無言で、緩く巻かれたオレンジ色の髪の下では少し不満げな顔……もしかしてリオちゃんってば不良さん?
不満があってもとりあえず返事くらいはしないとダメだよ? 怒られちゃうよ?
心配で顔を覗き込むけどそれでもリオちゃんはだんまり……うう、もしかして私にも怒ってる?
……確かに私のせいでばれちゃった可能性もあるし……
「で? その二人は分かったけど、私はなんで呼ばれたんだよ?」
「は、はーちゃんさん! せ、先生には敬語だよ!」
「……むしろその呼び方をどうにかしてくれよ」
えぇ!?
でもはーちゃんさんは可愛いから
「もう何言ってるのか分かんねぇ……で、せんせー、私を呼んだ理由は?」
「まったく……今年の一年は態度がなってないな。形だけでも敬語を使おうとは思えないか?」
「悪いね。帰国子女なんで敬語の文化がなかったんだ」
あわわ……一触即発の空気だよぉ……
はーちゃんさんも猫くらい被れば良いのに。見てるこっちがドキドキしてきちゃうよ……
リオちゃんも一言も話さないから空気が最悪に重い……でもリリー負けない!
……っていっても何をどうすればいいのか……
「浦霧、お前を呼び出した理由だが生徒会の……」
その時、先生が私とリオちゃんをちらりと見て――
「いや、なんでもない。式中に居眠りはするな」
「はいはい……ま、気を付けますよ」
にやっと笑いながら敬語を使うはーちゃんさん……でも全然敬意が感じられないよ……
「まぁいい……お前らは全員三組だから早く行け。もうロングホームルームが始まってるから廊下では静かにな」
うう……初日から呼び出しと途中入室のダブルパンチだなんて……これ以上ないってくらい悪目立ちしちゃうよぉ……
「はいはい」
「…………」
はーちゃんさんは面倒そうに返事してから、リオちゃんは無言でスタスタと――って!
「ちょっと二人とも待ってよー!」
なんで私のこと置いていっちゃうのさ!
職員室から出る前に礼だけして二人を追いかける。
もー、私どこに三組の教室あるか分からないんだから連れてってくれないと困るよ!
「で、追い掛けてみたはいいけど……」
ここ、どこ……?
適当に走り回ってたらいつの間にか迷っちゃったみたい―…
目の前の教室にも場所を示すプレートはないし、そもそも窓がなくて何階なのかもいまいち分からない。
それにISを扱う学園だからかもだけどISのマッピング機能も制限されてるみたい……ピンチ?
このまま教室にたどり着けなかったら入学式で職員室に呼び出された挙句、それを不満に思ってサボタージュしちゃう生徒だって思われちゃう!?
「こ、こうなったら……失礼しまーす……」
ノックをして扉を開ける……お願い、誰かいて!
そっと中を覗き混んでみると――
「なに……この部屋……?」
一辺が十メートル以上ありそうな部屋に電子顕微鏡とか名前も知らない機械とかが置かれてる。
うーん……?
なんとなく、テレビで見た科学系の研究室に似ているような?
「でも誰もいなさそう……ハイパーセンサーに反応もないし……あ」
そっか、熱源探知で人が沢山いる方にいけば教室に着くかもしれないじゃん。
戦うためのISを日常に活かすとか、もしかして私って天才!?
カツン……
部屋の奥から足音……ラッキー!
これで教室までの道を聞ける!
「あの――っ!?」
振り返って声をかけようとして……息を飲む。
ドレスを着た金髪の女の子。
その片手にはその身長よりも長い鉄パイプ。
どうしよう……なまじ女の子が可愛いから余計に混乱する……
IS学園って私服登校も許されてるの?
いやいや、そうだとしても学校にドレスは着てこないよね……鉄パイプなんてもっての外だし。
「……あれ?」
でも、この人――
「ここで何を?」
「え!? あ、えと……その……あー……」
ど、どうしよう!
女の子が小首を傾げて……可愛い!
じゃなくて、えっと……ここでなにしてるかなんて入学したばかりの一年生が聞くべきことじゃないだろうし……
というかそもそもの目的は――!
「一年三組の教室にはどう行けばいいですか!?」
うう……恥ずかしいよぉ……
相手も目を丸くしてるし、きっとどうやったら学校で迷えるんだなんて思ってますよね……
あぅ、顔赤くなってる気がする……
「くすっ」
「へ?」
んと、笑われた?
それもバカにされたような笑い方じゃなくて、なんていうかつい漏れた笑い声みたいな……ようするに可愛い!
……と、少し落ち着いた方がいいよね。
結局この子が誰なのか分からないし……
「えと、あなたは――」
「もうホームルームが始まっているはずなのに生徒がどうしてと思ったら迷子だったんですね」
「いえ、迷子とかじゃなくて――ひゃっ!?」
なんの前触れもなくいきなり手を握られちゃったよ!?
も、もしかしてあれかな?
これが伝説の運命の出会い(一目惚れver)ってやつ……?
ちなみにもう宿敵verと恋敵verってのもあるらしいよ。
……でも確かにこの子は可愛いけど女の子同士はちょっと私には理解できないって言うかなんて言うか――!
「はい、じゃあ自分の教室に行きなさい……あ、私がここにいたこと、誰にも言わないでくださいね?」
「ぅ?」
もちろん言わないけど……そもそも迷ってるから教室の場所を聞いたのに――って、あれ?
ISになにかが送られて……地図?
手を握ったのはこれのため……って、おお、これは校内ナビ!
「ありがとっ! これでサボタージュにならない!」
「どういたしまして」
くすくす笑う女の子にお礼を言ってから廊下に出る。
右見て……左見て……よし!
先生もいないし走っちゃおう!
右に曲がって階段上がって……
どんどん階段上がって……
どんどんどんどん階段上がって……
「はぁ……はぁ……階段多いよぉ」
ってさっきの部屋地下何階だよぉ!
いくらなんでも方向音痴すぎるでしょ!
……まぁ、確かにたくさん階段を下りた記憶はあるけど。
うぅ、反省しないと――きゃっ!?
「痛っつぅ……」
もう、廊下で走っちゃ行けませんって習わなかったのかな!
ちなみに私は習ってない!
「ごめん、大丈夫?」
「あぅ……大丈夫です……」
「そう、急いでるからこれで」
あ、行っちゃった……
それにしても……んー?
どっかで見たことある人のような……
金髪を三編みにして中性的な顔付き……あぁ!
「不破アリサ先輩の彼女さん!」
名前は確か……シャルロットさん?
そっか、あの人もIS学園だったんだ。でもなんだか凄い険しい顔してたなぁ……もしかして迷子で焦ってたのかな?
「いやいや、それはないでしょ……」
セルフ突っ込みが廊下に寂しく反響する。
「って私も急がないとっ!」
地図的にもうすぐそこのはずなんだけど……あ、左に曲がって一つ目が一年三組の教室だ。
「あれ?」
さっきの女の子、どうやって私にこのプログラムを送ったんだろう……?
IS用だからコア・ネットワークを介してなんだろうけど私のISには他のISの存在の反応はなかったはず……
ステルスモードだったにしてもネットワークを使うときは個別のラインが形成されてない限り、ステルスモードを解除しないといけないし……
「不思議だけど……ま、いいか! とりあえず教室に入ったらなんて言えばいいんだろ――」
ズズゥン……
「うひゃあっ!?」
突然の揺れに足をもつらせて転びかける。
うぅ、びっくりした……これが日本の地震かぁ。
地震なんて片手で数えられるほどの経験しかないから腰抜けちゃうかと思ったよ……
「さてと……えと、ごほんごほん」
やっぱり第一声は遅れてごめんなさい…… 理由は職員室に呼び出されたから、でいいよね?
よし……息を整えて……
…………も、もう一回深呼吸して……
「すぅ~…………はぁ~~~…よしっ! 遅れました!」
ガララっ!
……あれ?
誰もいない?
も、もしかしてホームルーム終わっちゃって皆帰っちゃったとか!?
「あら……? スノーホワイトさん?」
「ふぇ? ……あ、えっと……山田先生……でしたっけ?」
私に声をかけてきてのは低身長、童顔、なのに巨乳という一部の人に泣いて崇められそうな身体をした先生……
うん、山田先生のはず。
「そうですが……どうしてここに?」
どうしてと言われても……いや、先生こそどうして?
なんだか急いでたら私を見つけてしまって放っておくこともできなくなってしまったみたいな顔をしてますが。
「えと、ここ、一年三組の教室……ですよね?」
「いえ、ここは今年は使われていない教室ですよ……?」
「え、でもナビに……っ!」
あ、危ない……IS用のプログラムを使ってたなんて知られたらまた怒られちゃうところだったよ!
「ナビ……? IS用のプログラムですか?」
「や、えっと、その……」
「そういったプログラムの使用は制限されていないので叱りませんよ? 去年も同じようなものを利用していて生徒はいましたし」
そ、そうなんだ……じゃあ頷いちゃっても平気だよね……
「じゃあ見せていただけますか? 偶然、今日は私もISを所持していますから」
「は、はい」
今日は……?
そういえば学園では普段の校内警備にもISを使うようにしたって話を聞いたことあるなぁ。
なんでも去年の襲撃では迅速に対応することができなかったからだとか……
「……これは」
「先生?」
どうしよう……一瞬だけど確かに山田先生の顔が険しくなった。
も、もしかしてやっぱり怒られるのかな?
「スノーホワイトさん、これをどこで手に入れました?」
「いや、えっと……」
えと……口止めされてるし……あれ?
口止めされたのはあの部屋にいたことだけだっけ?
いやいや、多分これは日本語の曖昧なところであの子の本心的には自分のことを話してほしくないっていう意図があったはずで……
「……まぁ、誰にもらったかというのは地図が去年度のものだったからなんですけどね」
「ふぇ?」
「ほら、今年は新入生が少ないので一年生の教室も便利な場所に移動できたんですよ」
ほぁー、なるほど……
確かにここだと寮からも学食からも遠いもんねぇ。
「というわけで教室の場所を本年度版に改めておきました。とは言ってもホームルームの時間も過ぎちゃいましたが……」
「えっ!?」
「で、でも先生はまだいるはず……あ、三組だともう……」
「帰っちゃったんですか!?」
ど、どうしよう!
これじゃ先生にもちゃんと説明ができなくて私が不良生徒だって誤解されちゃう!
「いえ、帰ってはいないのですが……この時間だと保健室に向かった方がいいと思います」
保健室?
「はい、保健室です」
どういうこと???
◇
スノーホワイトさんに見せてもらった地図……どうしてあれを今年の生徒が持っているのでしょう?
あれは夏休み後に――ってこんなことをしている場合ではないんでした!
そもそも私が急いでいたのも緊急連絡が入ったからで……地下の関係者以外立入厳禁の研究室が何者かによって襲撃されたとか。
ただ、どうやって侵入したのでしょう?
IS反応は未だありませんし、全ての監視カメラの映像にも不審人物は映っていません。
あの研究室までは何十個というカメラが仕掛けられているので死角はゼロ。
透明人間でもなければ侵入するのは不可能です。
「ただ、目的は分からなくもないです」
あの場所で調査していたもの……でもその目的の理由もイマイチなんですよね。
「はぁ~……織斑先生に怒られる前に早くいかないと……」