Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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第二部開始
「新生活」


2. Filles après l'histoire
1. Nouvelle vie journalière


「ふぅーー! 学生寮も久しぶりですね! シャル、私の部屋はあの辺りですからね!」

「うん、ちゃんと覚えてるよ。じゃあアリサ、僕の部屋はどの辺りでしょう?」

「あそこです!」

「えーと……そだっけ?」

「そです!」

 

 確かに外側からだとどこも同じに見えますけど私は毎日あれがシャルのお部屋ですねーって見てましたから!

 あ、もちろんラウラさんのお部屋でもあることは承知していますよ?

 

「でも、学生寮だと離れ離れになっちゃいますね……せっかく、一緒だったのに寂しいです」

「そうだねぇ……でも互いに遊びに行けば気にならないんじゃないかな?」

「……私は、シャルから一秒たりとも離れたくないです……」

「僕だって本当はずっと一緒が良いよ……」

 

 あと五日もすれば二学期が始まります。いろいろ準備もあるからと寮に帰ってきましたが……私が並列処理(マルチ・サーキット)による連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)の説明のためにアメリカなどに出張していた間以外はシャルと二人暮らしだったので、やっぱり寂しいです。

 ああ、残念ながらアメリカに貸しは作れませんでした。並列処理(マルチ・サーキット)が私の固有の能力であることに気付かれてしまったのが痛かったですね。

 それに臨海学校で銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の装甲を白狼の咆号(ウルフズロアー)で吹き飛ばそうとしたのも良くなかったかもしれません。

 どうやらフランスを格下と見て油断してはくれないようです。

 

「シャル……」

「アリサ……」

 

 そんなことより重要なのが、まさに今、シャルの瞳には私が、私の瞳にはシャルが移っていて……顔が近付くことでその像が段々大きくなっていきます。

 目を閉じるのが礼儀ですけど……一瞬の瞬きさえももったいなくて……

 

「コホン」

「「ひゃっ!?」」

 

 突然の咳払いに私達は弾かれるように離れました。

 もう、いったい誰ですか!?

 せっかく六分ぶりにシャルとキスできそうだったのに……

 失神させる気で黒髪をツインテールにした相手を睨むと……あれ、鈴ちゃん?

 

「アリサ、睨まないでよ……正門入ってすぐなんてところでキスしてたのが悪いんだからね」

「恋する乙女を邪魔する人は馬に蹴られて折れた肋骨に肺と心臓を貫かれれば良いと思います」

「ちょ、それが久しぶりに会う親友に言う言葉!? というか私にはクッションになる胸が無いって言いたいの!?」

 

 いえ、それはさすがに被害妄想です……というか胸が大きくなっても馬に胸部を蹴られれば肋骨は折れちゃいますよ。

 

「まぁ、桃園の誓いも恋には敵わないんですよ」

「友情より愛情っていうのね! そういうこと言うなら私だって……! あぁ、でも確かに私もアリサより一夏の方が大事かもしれないわね……」

「鈴ちゃん酷いです……私に優しくしてくれる友達はあんまりいないんですよ……?」

 

 無視とかイジメは減ってますけど、それは優しくしてくれる人が増えたと言うこととイコールで結ばれませんから……

 私が自分から歩み寄らないからというのもあるのでしょうけど……だから鈴ちゃんは私の数少ない友人なんです。

 それなのにあんな織斑君な織斑君の方が大事なんて……うるうる

 

「アリサにとって一夏自体がマイナスイメージな形容詞なんだね……」

「あ、あぁ、泣かないでアリサ! 一夏は放っといてもケロリとしてそうだしやっぱりアリサの方が大事よ!」

「ありがとうございますっ!」

「ちょ、嘘泣きなの!?」

「いえいえ、鈴ちゃんの言葉が嬉しくて涙が吹き飛んじゃったんですよ」

 

 ほんとですよ?

 

「……その手に持ってる目薬はなんなのよー?」

「ひゃっ! ひはいへふ(痛いです)! ふひほふはははいへふははい~(口をつかまないでください~)!」

「おー、相変わらずよく伸びるわねー」

 

 そ、そんなことないです!

 それにそんなに口を触らないでくださいよぅ!

 私の唇は……

 

「リン? アリサの唇は僕のものなんだけどな?」

「な、なによ……私だってアリサと遊びたいのよ……?」

「それは構わないけど唇はダメ!」

「それなら唾でも付けとけばいいじゃないの?」

 

 唾ってそんな……あの、それって要するにその、えと……そういう意味ですよね?

 

「じゃあ付けておく!」

「えっ!?」

「ってシャふむぅ!? ん、ふぁ、シャル、こんなところで、ちゅ、激し、んぁ、むぅぅっ」

 

 だ、ダメですよ~!

 ソフトなキスならいいですけどこんな昼間からお外でこんなキス……

 

「だ~め♪ んちゅ、もう少し……ん、ふぅん……ちゅ、ぁむ」

「ふぁっ!?」

「ちょ、あんたら……こんなところで……すご、激し……」

 

 お、おへそ触らないで……!

 そんなにめちゃくちゃにされたら……私……わたしぃ……!

 鈴ちゃんも見てるのにぃ!

 

「あ、ぃや、も……らめれすってばぁ……」

「はい、ここまで!」

「……え……シャル……?」

 

 私、まだなのに……こんな中途半端に止められちゃったら私、おかしくなっちゃいますよ……?

 もう、体の芯から火照ってるのに……こんなんでお預けにされたら……下腹部がきゅぅってしちゃいますよぉ。

 

「これ以上はだめっ!」

「ふぇ……そんな……シャル、私に飽きちゃったんですか?」

 

 フランスでは毎日愛し合ったのに……それに、私、もっとシャルから責めてほしいのに……どきどき、しちゃってるんですよ?

 もう、私とはしたくないんですか……?

 キスだけで十分なんですか……?

 

「そんなの……そんなのヤですよぉ……ぐすっ」

「あ、アリサ? な、なんで泣いちゃうの? ねぇ、泣かないで? アリサが泣くと僕も悲しいよ……」

「でも……シャルがキスでやめちゃって……私のこと飽きちゃったんですよね……?」

 

 涙で、前がよく見えません……私、泣き虫になっちゃいました。

 シャルが学園に来るまでほとんど泣いたことないのに、シャルが来てからはつきに二回は泣かされちゃってます。

 私、こんなに弱くなかったんですよ?

 

「ち、違うよ!」

「ふぇ?」

「僕が! ……僕がアリサに飽きちゃうわけないでしょ? そうじゃなくて、これ以上しちゃったら、ここでアリサのこと押し倒しちゃいそうだったから……」

「そ、そうだったんですか……」

 

 じゃあ、私としたくなくなっちゃったわけじゃないんですね?

 それどころかむしろ……ヤですね。顔が熱くなっちゃいます。

 

「というかそもそも公衆の面前で舌まで絡めるってどうなのよ?」

「リンは黙ってて」

「なっ!」

 

 至極常識的なことを言った鈴ちゃんを理不尽に黙らせるシャルも素敵です……でも鈴ちゃんは私の親友なのであんまりイジメないでくださいね?

 

「だからね、アリサ……」

「はい?」

「アリサの部屋に行こっか?」

「ちょ、アリサの部屋って私の部屋でもあるんだけど!?」

「リンは一夏の部屋でも行ってればいいんじゃない?」

「なっ……!? 帰ってきて早々ルームメイトを追い出すの!? 普通は久しぶりだから私と休みの思い出話すとかあるでしょ!?」

「はい……シャル、行きましょう……?」

「アリサぁっ!?」

 

 鈴ちゃん、そんな裏切られたような声を出さないでくださいよ。確かに鈴ちゃんからしてみれば気分悪いかもしれないですけど……

 

「鈴ちゃんが合法的に織斑君の部屋に行けるように理由を作ってあげたんですかよ」

「……絶対、嘘!」

「ほ、ホントですよ?」

「思いきり目を逸らしてるじゃないの……」

「しゃ、シャル以外の人と見つめ合ったら浮気ですから(ふはひへふはは)……って鈴ちゃん!」

 

 ほっぺた禁止です!

 というかどうしてそんなに疑わしそうなんですか!

 嘘だろうが本当だろうが織斑君の部屋に行けるんですからいいじゃないですか!

 

「あんた達みたいにずっとイチャイチャ出来るほど羞恥心捨ててないの!」

「付き合ってイチャイチャするのは義務じゃないですか!?」

「ここは日本よ! ヨーロッパみたいに公共の場所でバカップルやっていいような国じゃないの!」

「そ、そんな……と、ふざけるのはやめにして鈴ちゃんお久しぶりです」

 

 これ以上からかうと夜ご飯が人質にされてしまうので……久しぶりに鈴ちゃんの中華が食べたいですから自重です。

 

「でも鈴ちゃんはなんでこんなところにいたんですか?」

「ん? あ、デートよ。もちろん一夏とね?」

 

 あ、確かに言われてみればいつもより気合いが入ってますね。

 今の鈴ちゃんは足元から毛先までオシャレさんです。

 

「リン……人には控えろみたいなこと言ってたくせに」

「いや、デートはただの不純異性交遊だけどあんたらのは猥褻物陳列罪じゃない……」

 

 そ、そんなことしませんよ!

 ど、どうしてくれるんですか! シャルが想像して茹だっちゃったじゃないですか!

 ……可愛いですねぇ。

 

「僕達はこう見えて弁えてるから人様の目の前でエッチなんてしないよ。したとしても前戯くらいかな? ねぇアリサ?」

「既にアウトよ」

 

 シャル!?

 いくらなんでもそんなことまで言わなくてもいいじゃないですか!

 ですが、確かに私とシャルはするときはベッドなので……まったく、鈴ちゃんったら失礼しちゃいますね!

 エッチの間の可愛いシャルを人に見せるわけないじゃないですか。私だけが可愛いシャルを知っていればいいんです!

 

「はぁ……」

 

 なんです、その溜息。

 

「ま、そういうことで私はデートに行ってくるわ。でも夜ご飯までには帰ってくるからアリサも待っててね?」

「了解です。でも大変そうなら夕飯係代わりますよ?」

「気を遣わなくてもいいわよ。アリサだってシャルといたいでしょ? それに下拵えまでは終らせてるしね」

 

 それならお言葉に甘えて……

 

「でも私たちの部屋でエッチするのは禁止」

「「そんな!?」」

「あんたら……」

「も、もちろん冗談です。ねぇ、シャル?」

「うんうん。僕も部屋に荷物運んだり忙しいしね!」

 

 覚悟はしていましたけど今日はあんまりシャルと行動できなさそうですね。

 復寮手続きに荷開け、さらにお土産配りとやることはたくさんありますし。

 

「じゃあ行ってくるわね」

「鈴ちゃんファイトです!」

 

 せめてキスくらいはさせてくるんですよ!

 ……ふぅ。それじゃ私たちもそろそろ荷物を運ばないとですね。

 

「アリサ、手伝おうか?」

「いえ、平気ですよ。ほとんどが服ですし、シャルも疲れているでしょうから今日はこのまま解散にしましょう」

「いいけど……不完全燃焼気味かな……」

「あぅ……」

 

 そ、それは私もですけどシャルがあんな情熱的なキスするからなんですからね!

 自己責任ですしこれからの戒めとするためにも今日は我慢です!

 ……フランスとは違って毎日というのも難しいんですから少しずつ慣れないとダメになっちゃいます。

 

「うぅ……分かった。今日は我慢する」

「ん。シャルはいい子ですねー」

 

 撫でちゃいます!

 シャルの金髪は相変わらずサラサラで触り心地がいいです。

 身長差があるため手を伸ばさないと撫でられないのが少し残念ですけど……でも触ってるだけで幸せになります。

 

「くすぐったいよー……アリサにもお返ししちゃうもん」

「ホントですか!?」

「ふふ、可愛いんだから」

 

 えへへ……やっぱり撫でるよりも撫でてもらう方が嬉しいですからね。

 シャルの手は少し冷たいので地肌に触れられるとビックリしてしまうんですけど、それが余計に触れられてるということを私に意識させるんですよね。

 ただあんまり長く撫でられちゃうと照れちゃうんですけど……

 

「あれ、アリサ」

「ん? なんですか?」

「地毛が見えてきちゃってるけど……染めなくていいの?」

 

 あぁ……ストロベリー・ブロンドで通っている私ですけど本当はブロンド……それも金髪と栗毛が混ざったいわゆるゼブラ・ブロンドなんですよね。

 今まではシャルが私の正体に気が付かないように変装の一環として染めていましたけど正体をバラした今では染める必要もないですからね……シャルが今まで通りの桃色がいいと言うなら染め直しますけどシャルのことですから心の底から『どっちのアリサも好きだよ』なんて言ってくれそうです。

 

「えへへ……」

「アリサ?」

「なんでもないです。じゃあ、荷物運んじゃいましょうか?」

「うん」

 

 今日はこれでお別れですけど途中までは一緒です。それに夜に電話もするつもりですし……少しの寂しさも一緒にいるときの幸せを強めてくれるアクセントです。

 

 ◇

 

「あ、久しぶりじゃん。不破はフランス?」

「お久しぶりです三好さん。お土産渡しに来ました」

「ふーん……ま、立ち話もなんだしちょっと上がってきなよ」

「お邪魔します」

 

 そういえば三好さんのお部屋は初めてですね。集まるときはいつも一松さんと二木さんのお部屋でしたし……

 

「うーん……質素ですね」

「備え付けの家具しか置いてないしね。それにリカもめんどくさがりだから」

「え、原田さんと相部屋だったんですか?」

 

 それは知りませんでした。

 原田さんも一松さんたちのお部屋を使わないときは私たちの部屋に来ることの方が多いですし。

 

「そういえばリカが約束したのに名前で呼んでくれないって怒ってたけど? 今シャワー浴びてるから出てきたら名前で呼んでみれば?」

「約束……? あぁ、あの時のですか! いろいろドタバタしていてタイミングを逃してました」

 

 そういえば私とシャルの関係をねじ曲げた噂が流れた頃に、原田さんがうまく退学を逃れたら名前で呼ぶって約束してましたね。

 停学に戦争、それにシャルとの接触禁止とかあって忘れちゃってました。

 

「やっぱり友達なら名前で呼ぶべきなのでしょうか……?」

「そんなことないんじゃない? 私らだって苗字で呼びあってるし、不破も篠ノ之って呼んでるでしょ? それに私は苗字で呼ばれる方が慣れてるしね」

「なるほど……」

 

 私の気にしすぎみたいですね。どうも昔から人との距離感が測れません。

 

「あれ、代表来てたんだ……なんの話してたの?」

「いえ、えと、なんというかその……」

 

 こう、いざとなると恥ずかしくなってきちゃいます。別に好きな人の名前を呼ぶわけでは無いんですけどね……

 

「代表?」

「不破ぁ、男らしくないよ? 覚悟決めなって」

「や、だから二人ともなんの話してんのよ」

 

 よ、よし。呼んじゃいます!

 呼んじゃいますからね!?

 今から止めてって言っても止めてあげませんから!

 

「お、お久しぶりです……リカさん……」

「ん、久しぶり……あれ?」

「な、なんですか……ジロジロ見ないでください」

「んー? んー……なんだ聞き間違いか」

「違いますよっ!?」

 

 せっかく勇気だしたのに聞き間違いだなんて言わないでくださいよ!

 そりゃ、まぁ……蚊の鳴くような声だったかもしれませんけど……

 

「り、リカさん! フランス土産です!」

「ありがと代表。それにしてもやっと名前呼んでくれたね。あれから三ヶ月くらい経ってるよ?」

「う……それはすみません。というか私のことは代表って呼ぶんですね……?」

 

 既にあだ名みたいになっているので仕方ありませんがちょっぴり不満です。

 

「今から代表をアリサって呼ぶとデュノアさんに睨まれそうだしね……」

「シャルはそんなに心は狭くないです……って、どうして私とシャルが付き合ってること知ってるんですか?」

「織斑君と凰さんが付き合ってるのが広まったときにどこからか代表たちの話も拡がってねー」

 

 ……私達より先に日本に来ているのは鈴ちゃんとセシぃの二人なのでどちらかですね。

 噂に照れた鈴ちゃんがぽろっと言ってしまった可能性もありますが、それならセシぃがつい言ってしまった可能性の方が高い気がします。

 まぁ、自分から発表するのは恥ずかしいのでありがたいですが。

 

「それにほら、この写メがかなり出回ってるし」

「へ? …………ってこれ!?」

「あんなところでディープキスなんてお熱いねぇ」

「不破ぁ、さすがに一松と二木でもそこまでオープンじゃないよ?」

 

 うぅぅ……恥ずかしいです。

 かなり高解像のカメラで撮られたみたいで舌までバッチリ写っちゃってるじゃないですか!

 あぅ、思い出したらさっきの余韻が……

 

「二人はもうデートとか行ったの?」

「リカ、屋外でディープキスするカップルがデートしたことないなんてありえないでしょ」

「だよねー。どんなとこ行ったの?」

 

 えと、シャルと行ったところは……デュノア社と、私の家と、社外のIS研究施設にトレーニングジム……

 

「あれ? 私、シャルとデートしたことないかもです」

「えーっ!? じゃあ今から誘いなよ!」

「で、ですがどこにいけばいいのか……」

「それなら三日後くらいにデートすることにしてそれまでに皆に相談してみれば? 一松と二木でもいいし」

「そ、そうですね……そうします」

 

 じゃあ、シャルに電話をしましょうか……プライベート・チャネルじゃ味気ないですしね。

 

『もしもし、アリサ? どうしたの?』

「しゃ、シャル! あ、あの、時間があればでいいんですけど――


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