Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

22 / 31
申し訳ありません(土下座)、本当に申し訳ありません。結局一年以上お待たせしてしまいました。私生活でいろいろとごたごたがあり、その間に何とか少しずつ書いてはいたのですが筆が進まず投稿できず…とりあえず僅かなストックもでき、私生活の方も落ち着いて来ましたので投稿を再開します。


今回は原作キャラも登場します。そして微妙に原作乖離も…どうぞお楽しみください。


最後に、一年以上投稿が止まっていたにもかかわらず感想で更新を待っていると言ってくださった読者の皆様、心の底からお詫びとお礼を申し上げます。


第二十話 北の戦場

 光州作戦後、ティターンズは各国の求める声に応じて様々な戦場へ派遣されては多大な戦果を挙げていた。実戦を繰り返すごとに連携が良くなる二つの小隊、そして圧倒的な性能を持ってBETAを殲滅する二機のガンダム。其の強さに各国は複雑な感情を抱きながらも、其の力に頼ることで以前とは比べ物にならない程に被害が減り続けていることを実感していた。そして現在、ティターンズの旗艦アークエンジェルは次の戦場に向かうべく太平洋を進んでいた。

 

「次の戦場はソ連か…確か、アンドレイの故郷だったよな?」

 

「あぁ、と言っても子供の頃のことだからおぼろげにしか覚えていないけどね。其れに、BETAの侵攻もあったから一つの場所に長くは暮らせなかった」

 

 アークエンジェルの格納庫に向かう廊下をアンドレイとエドワードが歩く。彼等は既にノーマルスーツに着替えており、現在は機体の中で待機を命じられ其処に向かう途中だった。其の二人の話す話題は次の戦場であるソ連についてだった。

 

「そっか、アンドレイはガキの頃に疎開してきたんだっけか」

 

「父の友人を頼ってね。両親共に軍関係者だから私が一人で疎開してきたんだ」

 

「へぇ~…」

 

 アンドレイの言葉にエドワードが相槌を打つ。真面目なアンドレイと奔放なエドワード、正反対に見える二人だが不思議と気が合っていた。

 

「軍属なら次の戦場にいたりしてな。現地の軍と親睦を深める機会でもあったら会えるんじゃないか?」

 

 現在、いくつかの任務を行ってきたティターンズは機密に触れることがないレベルで現地の軍と親睦を深めるように努めている。此れは各地の戦場を回るティターンズと現地の軍との連携を強化し、二度目以降に共闘する際に問題が起きないようにと言う配慮である。

 

「有り得なくはないな…機会があれば会いたい。だが、私は軍人だ。肉親との再会よりも軍人としての責務を貫く」

 

「はぁ…真面目だねえ、あんまり生真面目だと疲れるぜ?適当にガス抜きはしねえとな」

 

「ふっ…なら問題ないよ、君に連れまわされて私も楽しんでいる」

 

 アンドレイの言葉通り、エドワードは休みなどがあると基本的に独り暮らしであるアンドレイを気遣ってか自宅に招待したり共に遊んだりして過ごしていた。どうやらそれがアンドレイにとってちょうどいいガス抜きになっているらしい。そうして二人で話しているうちに食堂に到着する。アークエンジェル内に併設された食堂は娯楽の少ないクルー達に食事によるストレス解消を狙ってかなり充実したメニューを取り揃えていた。

 

「くそ…まだゼハートに届かないか…」

 

 そんな食堂内にはすでに先客がいた。アンドレイ達と同じくMS隊に所属している三人、ジェリド、マウアー、カクリコンだった。彼等のうち、ジェリドは前の任務における戦闘での自分のスコアを自身が目標とするゼハートのスコアと見比べていた。

 

「まぁ、落ち着けよ。お前だってすぐにゼハートを超えられると思ってるわけじゃないだろう」

 

「そうだがよ…ゼハートの野郎は任務の度にスコアを伸ばしてるんだぜ?いつまでも負けてられるかよ」

 

 ジェリドにとって、ゼハートは士官学校時代の同期生であると同時に必ず超えてみせると決めた目標だった。当時、彼等の在籍していた士官学校ではトップがゼハートであり、次席にジェリドがいた。しかし、ジェリドは一回もゼハートに勝つことはできなかった。故に、ジェリドはゼハートという目標を超える為に同じ部隊であるティターンズに所属することを決めたのである。

 

「………」

 

 そんな三人を見て、アンドレイは溜息を吐きながら食事を受け取ると彼等から離れた席に座る。その隣に「やれやれ」と言わんばかりに苦笑いしたエドワードが座った。

 

「お前、本当にジェリドのこと嫌いだよな?」

 

 三人に聞こえない程度の声量でエドワードが訊ねると、アンドレイは其れを首を横に振って否定した。

 

「別に、嫌っているわけじゃない。スコアに拘る気持ちもわからないわけじゃない」

 

 そう語りながらも、やはりアンドレイはジェリドが苦手だった。アンドレイ自身は戦う中で一般市民や味方を護ることを第一に考えている。一方でジェリドは何よりもBETAを倒したスコアにこそ拘っていた。無論、アンドレイ自身もスコアに拘るのが悪いとは思っていない。自分の成長を知る上で撃墜スコアは成長を実感しやすいものだ。しかし、一方でアンドレイはジェリドはスコアに拘りすぎているとも感じていた。そんな考えに加えて、生真面目なアンドレイと気性の荒いジェリドの性格は相性が悪く互いに苦手意識を持つに至っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪隊長、間もなく作戦領域に入るぞ≫

 

「了解した。MS隊各員、聞こえるな?」

 

 それから数時間後、今回の任務先であるソ連領へと入ったアークエンジェル。既にMS隊の発進準備を整え、衛士達は全員自身の機体で待機していた。

 

「もう一度作戦を説明する。今回の俺達の任務はソ連軍の支援だ。知っての通り、ソ連軍はペトロパブロフスク・カムチャツキー基地…長いからカムチャツキー基地に略すぞ…カムチャツキー基地を拠点に絶対防衛線を敷いている。其処でソ連軍はBETAの大規模侵攻に懸命に耐えているわけだが…今回俺達は予測された次の大規模侵攻でソ連軍を援護、BETAを撃滅する」

 

 涼牙は通信を通して今回の任務の内容を再度隊員達に説明する。

 

「今までも如何にかソ連軍は侵攻を防いでいたわけだが、ソ連軍側もかなりの出血を強いられていた。其処で今回の任務で俺達の手を借りて出来る限りBETAに損害を与え、かつ自軍の損害を減らすことが目的だ。また、損害を減らすことで補充を早めることもソ連側の狙いだろうな。損害が減れば補充する人員・機体も少なくて済むし、其の状態で余分に補充できれば基地の戦力を向上できる。其れにBETA側の損害を増やすことで次の大規模侵攻まで多少なりとも時間を稼げるかもしれないという目論見もあるだろう」

 

 隊長である涼牙の言葉に、それぞれ操縦桿を握る手に力が入る。彼等も次の戦場が近付いていることを肌で感じていた。

 

「…此処までいろいろ説明したが…まぁ、結局やることはいつもと変わらない。俺達はBETAを殲滅し、仲間を助けるだけだ」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 隊員達の返事に涼牙は満足気に微笑む。すると、其のまま涼牙は一機の105ダガーに個別通信を入れる。

 

「少佐?」

 

 其の通信の相手は第二小隊のアンドレイだった。

 

「アンドレイ、今回はお前の祖国での任務になる。気負い過ぎるなよ?」

 

 アンドレイにとってソ連は祖国であり、此の国ではまだ彼の両親が最前線で戦っている。其の情報を知る涼牙はアンドレイが気負い過ぎていないか心配していた。

 

「少佐、御心遣い感謝します。ですが、自分は大丈夫です。自分には頼れる仲間がいますから」

 

 そうして心配する涼牙に、アンドレイは感謝の笑みを浮かべてウルフやゼハート、エドワードの乗る105ダガーを見る。

 

「そうか、なら良い」

 

≪隊長!作戦領域に入る!すでにソ連軍がBETAと交戦を開始した!≫

 

 艦橋のガディから通信が入ると一様に涼牙達の表情が引き締まる。

 

「了解!全機、発進と同時に兵装自由!BETAから仲間を護りに行くぞ!」

 

≪≪≪≪了解!!!≫≫≫≫

 

 其の言葉と共に、デルタカイを先頭にティターンズのMS部隊が戦場へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方其の頃、ソ連の戦場では戦いが始まっていた。上陸しようとするBETAの群れに地上の戦術機及び戦車部隊、さらに洋上の艦隊が一斉砲火を仕掛ける。しかし…

 

「ちっ…(やはり手が足りんか…)」

 

 此の戦場に参加している部隊の一つ、「ジャール大隊」の指揮官であるフィカーツィア・ラトロワ中佐は舌打ちする。其の原因はソ連側の戦力であった。本来、此の絶対防衛線での戦いは最初に海を渡ってくるBETAに対して洋上と地上からの一斉砲火で数を減らすのがいつものやり方であった。しかし、今回は前回の侵攻の傷が癒えない内での侵攻であり前回失った戦車部隊の補給が間に合っていなかったのである。故に、圧倒的に火力が足りず多くのBETAの上陸を許すこととなった。

 

「くそ、こいつら!!」

 

 年若い少年の声が戦場に響く。ソ連側の衛士達は其の多くがユウヤよりも年下の少年少女で構成されていた。と言うのも現在のソ連は支配民族であるロシア人と其れ以外である被支配民族に分かれている。そしてロシア人で構成されたソ連上層部はロシア人を後方へ避難させ、被支配民族を前線に立たせているのだ。其れも、年若い少年少女関係なしにである。此の体制に異を唱え、自ら前線に出て彼等と共に戦おうとするロシア人もいるが其れは圧倒的に少数であった。

 

「くそ、撃ち漏らしが多い…!各員、孤立するな!囲まれたら終わりだぞ!!」

 

 ラトロワは周りに指示を飛ばしながら次々にBETAを撃ち殺していく。彼女――フィカーツィア・ラトロワ中佐もまたロシア人であるが、現在の民族蔑視に異を唱えて前線に来た衛士の一人であった。故に、彼女は同じ部隊の人間達から強く慕われていた。

 

「この…きゃあ!」

 

「トーニャ!!」

 

 そうして奮戦していたジャール大隊の衛士達だが、遂に戦車級に組み付かれるものが出始めた。戦車級に組み付かれた戦術機の衛士――トーニャを救おうともう一機が戦車級を排除しようとする。

 

「ターシャ、後ろだ!!」

 

「っ…!?しまっ…!!」

 

 トーニャを救おうとした少女――ナスターシャ・イヴァノワの機体に背後から戦車級が飛び掛かる。他の味方は遠く、もはや助けは間に合わない。そんな時…

 

 

――――ギュウン!

 

 

「え…」

 

 上空から降る閃光が戦術機を傷付けず、正確に戦車級だけを貫いた。そして次の瞬間、二機の戦術機を護るように巨大な盾を持った白亜のMSが舞い降りた。ユウヤの駆るGXである。

 

「其処の戦術機!動けるか!?」

 

「は、はい!トーニャ、其方は!?」

 

「こ、こっちも動ける!」

 

「よし!」

 

 二機がまだ行動できることを確認すると、GXはすぐさま前方に迫るBETAにビームマシンガンを発射して数を減らす。ハモニカ砲を使えば早いが、射線上にまだ別の戦術機がいるのでまずはビームマシンガンでBETAの数を減らすことを優先した。

 

「此方、国連軍特殊独立戦闘部隊ティターンズ隊長補佐のユウヤ・ブリッジス少尉です。此れより貴官等の援護を開始します」

 

「(ティターンズ!間に合ったのか!?しかし…若いな…)…助かる…ジャール大隊指揮官のフィカーツィア・ラトロワ中佐だ。よろしく頼む」

 

「了解です!」

 

 ユウヤはラトロワと僅かな通信で会話をすると、すぐに戦場のBETAに意識を集中する。的確に友軍機の位置を把握し、やられそうな友軍機は其の正確な射撃で援護を行う。さらに第一小隊の面々も既に参戦しており確実にBETAの数を減らし始めていた。

 

「すげぇ…」

 

「アレが…ガンダム…」

 

 特にソ連軍の衛士達は皆一様にGXの戦いぶりに目を奪われる。上空で光線級の攻撃を回避し、さらには決して味方を巻き込まない凄まじく正確な射撃で敵の撃破だけでなく味方の援護・救助まで行っていた。

 

「何をしている!動きを止めるな!!」

 

「は、はい!!」

 

「すみません中佐!!」

 

 GXに目を奪われる衛士達をラトロワは叱責するも、一方で目を奪われるのも仕方ないと内心で納得してしまう。

 

「(あの動きは機体の性能だけではない…特に射撃の腕前、アレ以上の人間は少なくとも私は見たことがない)」

 

 時折視線をGXに向けながら、ラトロワは口元に笑みを浮かべる。

 

「成程な…ティターンズ。機体だけでなく、衛士も一流と言う事か…!」

 

 もはやラトロワには此の戦闘に対する不安は消えていた。そして、ティターンズばかりに任せられないと部下に檄を飛ばしてBETAを狩るべく機体を奔らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方其の頃、ジャール大隊から僅かに離れた場所でも別の部隊がティターンズの援護を受けていた。

 

「此方、国連軍特殊独立戦闘部隊ティターンズのアンドレイ・スミルノフ少尉です!援護します、傷付いた友軍機の救助を急いでください!」

 

 ウルフとゼハートの105ダガーが大型BETAを殲滅し、エドワードとアンドレイの二人が損傷した友軍機に群がろうとする小型BETAを掃討する。そして損傷した戦術機から衛士達がベイルアウトしていく。

 

「其の声…アンドレイなのか…!?」

 

「…っ!?」

 

 そんな中、アンドレイ達と共に戦うチェルミナートルから通信が入る。アンドレイは其の聞き覚えのある声に一瞬、声を失った。

 

「父…さん…!?」

 

 其の声の主はアンドレイの父にしてソ連の英雄として広く知られる人物――セルゲイ・スミルノフ大佐のものだった。彼もまた、自らの率いるジーズゥニ大隊を率いて此の戦闘に参加していた。

 

「…アンドレイ…ティターンズに入っていたのか…」

 

 冷静に、そして優しい声音でアンドレイに問いかけるセルゲイ。其処には父として、息子を案じる親の感情が込められていた。

 

「……っ!?」

 

 セルゲイの言葉に、アンドレイは必死に口に出しそうになった言葉を飲み込んだ。そして自分に対し――此処は戦場で、今は任務の最中だ――と言い聞かせる。

 

「と…スミルノフ大佐…申し訳ありませんが、今は任務の最中です…お話は、然るべき後に…」

 

 父さん――そう呼びそうになる己を必死に律して、アンドレイは軍人としての返答を返す。其れを聞き、セルゲイは最初こそ驚いたもののすぐに優しい笑みを浮かべた。

 

「…そうだな、貴官の言うとおりだ。すまない、スミルノフ少尉…」

 

 そう言うと、すぐにセルゲイの表情は父親のものから歴戦の軍人のものへと変わる。

 

「ジーズゥニ大隊全機、此れより我等はティターンズを援護する!我が国の市民を護る為の戦い、彼等だけに任せるなよ!」

 

「「「「了解!!!!」」」」

 

 セルゲイの指示に対し、大隊の隊員達からはすぐにやる気に満ちた返答が返される。其れを聞くと彼は最後に一度だけ、アンドレイに通信を入れる。

 

「アンドレイ…立派になったな…」

 

「…!?…ありがとうございます、父さん…!」

 

 僅かに交わされた親子の会話――其の会話を最後に二人は互いの為すべきことを為すために機体を動かす。アンドレイのダガーは空高く飛翔し、セルゲイのチェルミナートルは友軍を率いてティターンズの援護に回る。

 

「良かったのかい、アンドレイ?親父さんだったんだろ?」

 

「…構わない、私も…そして父さんも民を護る軍人だ。此処で為すべきなのは、言葉を交わすことじゃなく戦うことだ」

 

 エドワードの問いかけに笑顔で返すアンドレイ。其の操縦桿を握る手には、いつもよりも力が込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光線級、確認!排除する!」

 

 一方、先陣切って出撃した涼牙のデルタカイは上空を駆け抜け真っ先に光線級の排除に向かっていた。其の姿を確認するとデルタカイをMS形態に変形させてロングメガバスターを撃ちながら急降下する。

 

「戦闘機から戦術機に…あの話は本当だったのか…」

 

 初めて実際に目にする可変MSを前に驚嘆するソ連軍の兵士達。そんな彼らをしり目にデルタカイは時にロングメガバスターで光線級を撃ち抜き、時に味方部隊に突進するBETAに対しハイメガキャノンを発射しながら横に薙ぐことで纏めて薙ぎ払う。

 

「よし…此のまま行けば問題なく行けそうだな…っ!?」

 

 次々に殲滅されていくBETAの群れを見て、涼牙は操縦桿を操作しながら安堵の息を吐く。しかし、不意に彼は違和感を感じとる。BETAとは全く違う、何処からか頭の中を覗かれているような違和感を。

 

「…誰だ、俺の中を覗こうとしているのは…?………そうか、君達か…勝手に人の中を覗くのは感心しないな…クリスカ・ビャーチェノワ、イーニァ・シェスチナ…!」

 

 其の言葉と共に、感じていた違和感が霧散する。

 

「…ソ連のESP能力者…だが、あの感じは強化人間に似ていた…どの世界でも人は同じような事をやるんだな」

 

 そう呟くと、涼牙は操縦桿を操作して残存BETAの殲滅に向かって行った。

 

 

 

 

 一方、涼牙が違和感を感じるより数分前。前線の僅か後方に数機の戦術機が存在していた。中央に存在する一機を護るように他の戦術機が配置されている。

 

≪ビャーチェノワ少尉、シェスチナ少尉、リーディングを開始しろ。どんな事でもいい、あのガンダムの衛士から情報を得るんだ≫

 

「了解。始めよう、イーニァ」

 

「うん」

 

 先頭に立つ戦術機の衛士から通信を受け、複座の戦術機に搭乗する二人の少女…クリスカとイーニァはデルタカイに向かって相手の思考を読み取る能力――リーディングを実行する。彼等の目的は自軍の救援に来たティターンズ、其の隊長である涼牙をリーディングする事により少しでも多くのガンダムを始めとする兵器の情報を得ることだった。その為に態々、此の最前線まで極秘に赴き二人がかりでのリーディングを行う。だが…

 

「………!?」

 

「な…!?」

 

「どうした…!?」

 

 少ししてイーニァの身体がビクリと震え、クリスカは驚愕で固まる。其の様子を通信越しに感じた先頭の戦術機に乗る男性――イェージー・サンダークは僅かに語気を荒げながら二人に訊ねる。

 

「…怒られちゃった…」

 

「……相手衛士の妨害により…リーディングは失敗しました…あのガンダムの衛士は…此方のリーディングに気付いたものと思われます…」

 

 叱られた事に悲しそうな表情を浮かべるイーニァ、対して動揺しながらも上官に報告するクリスカ。そんな彼女達の報告にサンダークは驚愕する。

 

「(リーディングに気付いた…?…馬鹿な…リョウガ・ヒムロもESP能力者だとでもいうのか…!?…だが…同じESP能力者とはいえ、リーディングに気付く等…ヒムロは彼女達よりも上位の能力者だとでもいうのか?)」

 

 僅かな逡巡の後、サンダークは撤退を決意する。もし仮に涼牙がESP能力者だとすれば自分達の思考を読まれることでソ連軍の機密――何より自身の計画が漏れるのを恐れた為だった。撤退する中、サンダークは涼牙への警戒心と同時に強い興味を抱く。そして、クリスカとイーニァの二人は初めて現れた自身の力の通じない未知の相手に対し恐怖を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後――あの戦闘は結果的にソ連側の大勝利で終わった。救援に来たティターンズと其れを効果的に援護して見せたジーズゥニ・ジャールの両大隊の活躍によってソ連軍は今までにない程の最小限の被害をもってBETAの群れを殲滅に成功した。

 

 そして今、戦闘に関わったソ連側の部隊とティターンズは小さな祝勝会を開いていた。祝勝会と言っても、非常に簡素なものでありどちらかと言えば親睦会といった感じではあるが。ちなみに此れはティターンズ側からの申し出でもあった。短時間の親睦会と言うこともあってか全員ノーマルスーツや強化装備を着用したままであった。

 

 そんな僅かな時間の親睦会で、ティターンズの面々は少しずつソ連の軍人達と馴染んでいた。年少の少年少女の兵士が多いジャール大隊が集まっている場所では先程多くの隊員が助けられたということ、またガンダムに乗っているというインパクトもあってかユウヤが少年兵達に懐かれていた。寧ろ、少女の兵士達の何人かが熱っぽい視線を向けているあたり此れから先も苦労しそうである。さらにそんなユウヤに付き合ってゼハートやエドワードもジャールの少年少女達と交流していた。

 

 一方、ジーズゥニ大隊も少年兵はそれなりに多いが其れよりも長年セルゲイに付き従ってきた年配の衛士達も多かった。彼等は彼等でウルフやヤザン等の荒っぽい隊員達と親睦を深めていた。そして、そんな中に再会を果たしたスミルノフ親子の姿もあった。

 

「アンドレイ、大きくなったわね…!」

 

「はい…母さんもよくご無事で…!」

 

 アンドレイの母、ホリー・スミルノフが息子を抱き締めて涙ぐむ。其の横には強化装備のままのセルゲイの姿もあった。

 

「しかし、驚いたぞ…お前がティターンズにいるとは…ハーキュリーから士官学校を早く卒業したとは聞いていたが…」

 

「すみません…」

 

 最近になり、ティターンズの隊員の名前も知られ始めていたがまだアンドレイの名前は其れほど広くは知られていなかった。

 

「構わん…元気でいてくれただけで十分だ」

 

「…はい…!」

 

 笑顔で親子の会話を交わすアンドレイとセルゲイ。しかし、互いに真面目な性分の両者は決してその会話の中で軍に関する話題を出すことは極めて少なかった。せいぜい、ダガーの乗り心地を聞かれた程度である。

 

「ごめんなさい、アンドレイ…貴方を護る為とは言え、寂しい思いをさせてしまったわね」

 

「いえ、僕のことを想ってやってくれたんだと言うのは解ります。其れに、寧ろ感謝しています。アメリカに疎開したおかげで僕はティターンズに入り、こうして父さんと母さんを助けることができたんですから」

 

 アンドレイがアメリカに疎開した理由――其れは一重にスミルノフ夫妻が我が子を護る為だった。無論、BETAから護ると言う意味合いもあるが…同時にソ連の上層部からも護る為だった。ソ連の上層部はロシア人で構成されており、彼等は被支配民族を差別している。其れは被支配民族が優先的に最前線に配置されていることからも明白だった。実際、ジーズゥ二大隊やジャール大隊の少年兵達もそうした被支配民族の出身である。彼等は年端もいかない内から被支配民族と言うだけで此の最前線に送り込まれてきたのだ。

 

 勿論、そんな上層部のやり方に反感を抱くロシア人もいる。其れがスミルノフ夫妻やラトロワであった。彼等は被支配民族の兵士達を護る為に自ら希望して最前線に赴いたのだ。そして、そんな中でスミルノフ夫妻が行ったのがアンドレイを旧知であり怪我で退役していたパング・ハーキュリーに預けてアメリカに疎開させることだった。当時、既にセルゲイの名は軍人で知らぬものがいないほどのソ連の英雄だった。故に、そんな英雄の息子であるアンドレイを上層部に利用されない為の措置であった。高名な英雄の息子ともなればプロパガンダに使うなりなんなり使いようは多いからである。

 

「父さん、母さん…僕は此れからもティターンズで人々を救い続けます。そして、父さんと母さんのような本当の軍人になって見せます」

 

「そうか…アンドレイ…本当に立派になったな」

 

 

 スミルノフ親子が互いに笑顔で会話に花を咲かせているのを、少し離れた場所から涼牙が微笑みながら見ていた。

 

「(良かったな…本当に…此の光景、ピーリスにも見せてやりたかったな)」

 

 かつていた世界で、すれ違いの末に悲劇を生んでしまった親子。其の親子がこうして仲睦まじくしている姿を見るのは涼牙には非常に感慨深いものだった。

 

「邪魔するぞ…」

 

 そうしてアンドレイ達スミルノフ親子を見守っていた涼牙に、不意に声が駆けられる。其の方向を見ると、其処にはジャール大隊のラトロワが立っていた。

 

「ラトロワ中佐、どうなさいました?」

 

「なに、幾つか貴様と話したいことがあってな。先ずは礼が先だな、ティターンズの救援…改めて感謝する。それと、あの親子の事もな」

 

 そう言ってラトロワは談笑するスミルノフ親子に視線を向ける。

 

「中佐はアンドレイ達をご存知で?」

 

「あぁ…昔、まだアンドレイがソ連にいた頃に家族ぐるみでな。だからこそ、スミルノフ大佐達がどれ程子供のことを想っていたか…そしてアンドレイがどれだけ両親を慕っていたかも知っている」

 

 そう語るラトロワの眼は、心の底から懇意にしていた家族の再会を喜ぶ優しい眼だった。

 

「本来、アンドレイがアメリカの士官学校を経て国連軍に入っていたとしても再会できる確率はかなり低かっただろう。だが、ティターンズと言う特殊な部隊にいるおかげでこうして再会できたことには正直に感謝している」

 

「いえ…アンドレイが優秀だったからこそです。でなければ彼を部隊には誘っていませんでした」

 

「…そうか、流石はロシアの荒熊の息子だ。血は争えんと言うやつか」

 

 涼牙の返答にラトロワは苦笑いで返す。

 

「それと、感謝ついでに聞きたいことがある」

 

「なんです?」

 

「何故、大した時間も取れないのに親睦会など開いた?よもや、アンドレイの為だけというわけではあるまい?」

 

 そんなラトロワの質問に今度は涼牙が苦笑いで返した。

 

「…そうですね…勿論、アンドレイの為と言うのもあります。前もって前線に出るであろう部隊の指揮官の名は聞いていましたから。ですが、其れと同時に我々ティターンズと現地の部隊の連携を深めるという理由もあります」

 

「ほう?」

 

「今、ティターンズは良くも悪くも世界から注目されています。特に、各国の上層部には色々と黒いことを考えているものも多いでしょう」

 

「…だろうな」

 

 其の言葉にラトロワ自身も祖国の上層部に思い当たる節があるのか頷いていた。

 

「ですが、現場の兵士である俺達には其れをどうこうすることはできません。俺自身、政治関係(そちら)には疎いですし…何よりハイマン大将なら問題なく対応できます。ならば俺は、少しでもBETAとの戦争を有利に運ぶために現地部隊との連携を強化した方がいいと考えました。今回の親睦会はその一環ですよ」

 

「…ふ、成程な…」

 

 涼牙の答えに納得したのか、ラトロワは穏やかな笑みを浮かべる。

 

「最後の質問だ。貴様等は其れだけの力を持って何を望む?」

 

「BETAの殲滅と人類の生存…そして此の星の再生を」

 

 最後の問いに、涼牙は真っ直ぐな視線で返す。其の瞳に映る覚悟の色にラトロワは満足気に微笑む。

 

「ふふ…成程、本気のようだな」

 

「勿論、こんなこと冗談で言えやしませんよ」

 

 互いに笑い合う両者。そうしてる内に親睦会が終了する時間が近付く。

 

「少佐、私は現場の指揮官に過ぎんから確約はできんが…共に前線で戦う時はティターンズとの連携がしっかりとれるよう尽力しよう。ではな…」

 

 手を振って去っていくラトロワに対し、涼牙は見送る。此れからしばらくしてアークエンジェルは出航。其の姿を今回共闘したソ連軍の衛士達が敬礼をもって見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 




以上でした!原作キャラであるジャール大隊の登場と交流、そしてスミルノフ親子対面の回でした。では次回予告を



次回予告


次の戦場に備えるティターンズ


新たに部隊に加わる衛士達


今、ゼハートに一つの転機が訪れる


次回、任命


彼等は未来の為に、牙を研ぐ




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。