Muv-Luv AlternativeGENERATION 作:吟遊詩人
ではでは、感想お待ちしています。
数十分前、ミラが滞在している部屋。そこでユウヤは思いつめたような顔をしていた。
「…ユウヤ、どうしたの?」
「いや…その…」
ミラが此の部屋に滞在して治療に専念することになってから、ユウヤは以前からの悩みを口にするか迷っていた。
否、ユウヤの中ではすでに悩み自体の答えは出ている。だが、その答えをミラに伝えることに思い悩んでいた。
「ふふ…ホントにユウヤは隠し事ができないわね」
「え…?」
笑みを浮かべたミラに対し、ユウヤは疑問符を浮かべる。そして悟った、母は全て理解していることに。
「リョウガ君と一緒に戦いたいんでしょ?」
「…あ…」
「ユウヤが何を考えてるかぐらいは解るわ。貴方の母親だもの」
柔らかな笑みを浮かべる母にユウヤは泣きそうな表情になる。
「ママ…俺は…」
ユウヤが口を開こうとしたその時、それよりも早くミラが口を開いた。
「行きなさい。もう、決めてるのでしょう?」
「…!?」
ミラの言葉にユウヤは言葉を紡ぐことができなかった。
「昔、ユウヤは立派なアメリカ人だって認められたいって…だから軍に入りたいって言ってたわね。正直、あの時の貴方は凄く危うく見えたわ。周りに多く敵を作ってしまいそうで怖かった」
涼牙が来る以前…ユウヤは父親と同じ日本人を疎み、自身のことを日本人或いは日系人と呼ばれることを嫌いそう呼ぶ者達に喧嘩をふっかけていた。だが、それも涼牙と接することで変わっていた。父親に関する悪感情は消えていないが、少なくとも日本人や日系人と呼ばれて他者にぶつかることは無くなっていた。
「けど、今は違うのでしょう?今の貴方は、リョウガ君を助けたいから軍に入りたいと思ってる。大事な人を護りたい、それは人として一番大切な感情だと私は思うわ」
そう語りながら、ミラはユウヤの頭を優しく撫でる。
「その代り、約束して?リョウガ君は勿論、貴方も無事に帰って来るって」
ミラが浮かべた優しい微笑…その微笑にユウヤは力強く頷いた。
「お前、自分が何言ってるか解っているのか?」
そして現在、涼牙はユウヤの申し出に困惑していた。
「俺達が行くのは戦場だ、最悪死ぬことになるんだぞ!」
戦場の過酷さを知っている涼牙は、ユウヤを戦場に出すのは反対だった。故に、声を荒げる。
「解ってる。でも、アンタと…リョウガと一緒に戦いたいんだ!」
しかし、ユウヤは引き下がらない。彼もまた、散々悩んで出した結論なのだ。
「っ…俺達の相手はBETAだけじゃない。人間とだって戦わなければいけないかもしれない。それは解ってるのか?」
BETAによって蹂躙される此の世界においても、人間は同族同士での争いを止められていない。権力闘争による争いもあるし、難民解放戦線やキリスト恭順派のようなテロリストも存在している。軍に入ると言うことは、そう言った人間とも戦うと言うことだった。
「俺の手はすでに血で真っ赤だ。けど、お前の手はまだ血に染まっていない。だから…」
言葉を続けようとする涼牙の眼をユウヤは真っ直ぐに見据えていた。
「解ってるよ。俺だって、軍人になるってことが過酷なんだってことぐらい。けど、アンタが戦ってるときに平和なとこにいるなんて俺には出来ねえ」
「…このこと…ミラさんには…?」
「もう言った。ママは俺を送り出してくれたよ」
ユウヤの言葉に、涼牙は拳を握りしめる。彼には、ミラが息子がそう望むなら送り出してしまうだろうと言う考えがあった。
「リョウガ、アンタは俺達家族を救ってくれた。俺の日本人に対する偏見を無くしてくれて、ママの命を救ってくれた。その恩を返したいんだ。何より…」
言葉を紡ぐユウヤの瞳には、力強い覚悟の炎が宿っていた。
「もう、アンタは家族みたいなもんで…俺の兄貴みたいなもんなんだ。だから、俺はアンタを助けたいんだ。家族が戦ってるのに、自分だけ何もしないなんて嫌なんだ」
そう聞かされ、涼牙は無言になる。その脳裏には、過去の記憶が浮かんでいた
――――もう、ただ見ているだけなんて嫌なんだ!!
それは、嘗て異世界に飛ばされた少年が…戦うことを決断した時のこと。嘗ての自分自身の言葉が脳裏に響き渡る。
「ふっ…貴公の負けだな、ヒムロ」
その二人の会話に、傍で聞いていたジャミトフが言葉を挟む。
「貴公にも解ろう?ブリッジス少年の瞳に宿る覚悟が。であれば、相応に対応せねば不誠実であろう?」
「…はい、閣下」
ジャミトフの言葉を受けて、涼牙は改めてユウヤに向き直る。
「坊主、部隊の正式な運用開始にはまだ二年ぐらい時間がある。だから一年だ。此れから一年間俺がお前にMSの操縦を叩き込む。それで、俺を納得させられる腕になれなかった場合は潔く諦めろ」
「…!?」
「それと、泣き言を一言でも言ったら同様に叩きだす。良いな?」
振り返り様の涼牙の眼光に身体をビクリと震わせながら、それでもユウヤは力強く頷いた。
「解った、必ず認めさせてやる」
「なら、今日はもう帰れ。特訓は明日からだ」
「解った」
そう言い残すと、ユウヤは踵を返してその場を後にした。
「ふふ、良い眼をした少年だ。貴公は彼がモノになると思うか?」
「さぁ?それは見てみないと何とも…」
ジャミトフの問いに、いつもの調子に戻った涼牙が答える。
「ところで、部隊員の方は集まりそうですか?」
ティターンズの運用開始時は少数精鋭で動くことが決まっている。その数は涼牙を除いて二小隊。ユウヤがモノになるかどうかまだ解らない為、その二小隊の中にユウヤを入れるわけにはいかない。故に、集める人員が肝心になってくる。
「小隊長の二人は実戦経験豊富な者が確定しておる。軍上層部の人間が随分持て余しておるようだったからな」
ジャミトフが言うにはその二人は保守的な上官に反抗的だが、優秀で周りから慕われている人材だと言う。軍上層部も疎んでいた為にジャミトフが引き抜くことに何ら問題なかったらしい。
「士官学校からの人員引き抜きも決定しておる。あとは誰を引き抜くかだ」
「なら、当初の予定通りですね。運用開始までは訓練でMSに慣れさせます」
戦術機とMSは根本的に違う。機体の設計思想もそうであるし、OS自体も遥かに高度な物が使われている。故に、訓練でやることは多かった。
「うむ、その点は貴公に任せる。儂は小隊員以外にも部隊員を集める。機体の方はアズラエル会長が開発を待つ」
部隊の運用開始まで二年――その間にやるべきことは山のように存在していた。
「では、俺はこれで…手のかかる坊主の訓練内容考えなければならんので」
頭を掻きながら、涼牙はその場を後にする。一つ、キャリーベースのシミュレーターだ。それを利用してユウヤに特訓を課さねばならない。
「閣下、大丈夫なのですか?」
其処に、事の次第を聞いていたのかアジスが問いかけてくる。だが、当のジャミトフは笑みを浮かべていた。
「問題はあるまい。あの男は確かに甘い男だが、それ故に訓練に手心など加えまい。ブリッジス少年が生き残る可能性を上げるためにも、厳しい訓練を課すであろうな」
そう話しながら二人は、去って行く涼牙を見送っていた。
背中に二人の視線を受けつつ、涼牙の脳裏には幾つかの考えが浮かんでいた。一つは、明日からのユウヤの訓練内容に関することだが、もう一つはまったく別のことだった。
「(…まったく、坊主を見て昔の自分を思い出すとはな…)」
昔――まだ、異世界に転移したばかりの頃の自分。散々みっともなく泣き喚いて、それでも戦うことを決断したあの時…
「マーク、ラナロウ…昔の俺も、あんな眼をしていたのか?」
虚空に呟いた言葉は、誰に聞かれることもなく消えて行った。