魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
な、何を言ってるんだこいつは……?
呼び出されたのは俺の方だし、壱式を見つけたのはテメェだろうに。
「おっかしいわねぇ。いつの間に陽が落ちたのかしら。さっきまで明るかった気がするんだケド……。きゃっ、なにコレ?」
と。おっかなびっくりといった様子で、浮遊している光の玉をつんつんと指でつついてるシャオメイ。
まるで初めてこの森に入ったと言わんばかりの態度に、俺はますます首を傾げる。
「……おい、お前さんよォ、一体全体どういうつもりなんでェい。そんな小芝居を打ってる暇があったら、あいつを鎮めるのに協力してくれよ」
そう言ってみると、
「はぁ~? ぬわぁんで、このあたしがあんたなんかに協力しなきゃいけないのよ! っていうか、あいつって誰よ。よくわかんないケドさぁ、沈めたければバカてふのお得意の水魔法で沈めたらいいじゃん」
これはこれは……。
どうやら、『しずめる』っつう言葉を勘違いしていらっしゃるようだけれども。
「……いささかに笑えんギャグだな」
「なにそれ。ギャグなんか言ったつもりないわよ。まっ、あたしから言わせれば、あんたと二人っきりっつう、この状況のほうがよっぽど笑えないギャグだけど」
凄まじく失礼なことを言って、大げさに肩をすくめるシャオ。
――なんつーか。どうも芝居を打ってるようには見えないぜ。
まさかとは思うが。滑って転んだときに頭を打って、森の記憶だけすっぽ抜けちまった――なんてオチかねェ。
「どちらにしろ、あいつが現れたのはお前さんが壱式を取ったせいなんだから、おとなしく協力を――」
言いかけ、はたと動きを止める。
んん? よーく見れば、さっきとちょっと違うぞコイツ。
さっきはツインテールじゃなくてストレートだったハズだし、それに目のクマもすっかり消えてやがるぜ。
いや、待った。クマは寺で見かけたときから消えてたような気も……。
「な、なによ。人の格好をジロジロ見て……。そういえばあんた、中身は男だったわよね? うげっ。まさかこの森に呼び出した理由って……」
ささっとマントを着なおすと、中のスカートを押さえつつ一歩下がるシャオメイ。
何を勘違いしているのか知らないが、その不審者を見るような目は頂けないので、
「ばーろぉィ。ただ、お前さんの真っ黒い目のクマが無くなってるのがいささかに不思議でさァ」
「……ああ、そういうコト」
あからさまにホッと胸を撫で下ろしたそいつは、目のクマについて少しだけ語り出した。
とはいえ。ジュゲムなんとやらという単語が出た時点で、ほとんど頭に入って来なかったのだけれども。
ええと、確か……魔力を使いすぎると目のクマが薄くなるみたいなことを言っていたような気がするぜ。
あとは寝不足のとき、だっけか。まぁ、フツーは逆にクマが出ると思うんだけどねェ。
「つーことは、今は寝不足ってことかィ? それとも魔力がすっからかん状態なのかね」
訊くと、そいつはいつもの不敵な笑みを浮かべて、
「クマが全部消えてるんなら、そのどっちもってことよ。ふふン、だからと言ってLevelⅡマイナーのあんた如きに負けるあたしじゃないケド」
いつでもシャドーの指輪にキス出来るように、と。ゆっくりと右手を口元に持ってくるシャオメイ。
「さあ、そろそろ壱式の在り処を教えてもらおうかしら。言っとくケド、ヘンな気は起こさない方が身の為よぉ?」
威嚇のつもりか。黒い尻尾がマントの下から顔を覗かせる。
蛇のようなそいつが鎌首をもたげたとき、
『ダメッ! や、やらせないしっ!』
俺の肩を跳び箱のように飛び越えて、だし子が目の前に立ちはだかった。
手足を広げて、ジッと俺を見つめているダッシュ――って、待て待て。
「なんでコッチを向いてるんでぇい。まさかお前さん、俺様を裏切るつもりかィ?」
『あうっ!? 間違えたし……』
一瞬のうちにハチマキ娘の頬が真っ赤に染まる。
すぐさまそいつがシャオの方へと振り向いたその時、森の奥から甲高い遠吠えが聞こえてきた。
「な、なによこの声……野犬か何かかしら?」
「おっと。やっこさんが俺たちのことを探してらァ。だし子、オートマモードで頼むぜっ」
『おっけ、了解だし!』
俺の言葉に、力強く頷いて背後へと戻るダッシュ。
そしてそいつが目を閉じたと同時に俺の足が金色に光りだした。
やがてフワリと地面から数センチだけ浮き上がる。
「ちょっとちょっと、どこへ行くつもり? まだ話は終わってないわよっ」
「いっひっひ。いやぁ、丁度良いと思ってねェ。お望みとあらば壱式のところまで案内してやるよ、お姫サマ」
そう言って、ギュッとシャオの手を掴んだのだけれども。
「やっ! き、気安く触らないでよっ、エッチ! スケベ!」
パッと手を振りほどかれてしまった。
あんだァ? さっきはテメェのほうから手を握ってきたじゃねーかと抗議の声をあげようとしたのだが――それよりも不思議なことに気がついた。
「んん。冷たくねェぞ?」
霧の中に入る前は凄まじく冷たい手だったのに、今は逆に熱いくらいだった。
ふーむ。どう考えてもおかしな点が多すぎるんだよなァ。
「……やっぱり、所詮はあんたも」
ギリッと俺を睨みつけながら吐き捨てるように呟くシャオメイ。
「俺も、なんでぇい?」
言葉の続きを促してみたのだけれども、そいつはただ唇を震わせるばかりで何も喋ろうとしない。
さっきまでの威勢はどこへやら。
気のせいか、どことなく怯えているようにも――
『おまえさん!』
『パパさんっ!』
突然、右と左からステレオでチビどもが俺を呼んだ。
「い、いきなり大きな声を出すなよなァ……鼓膜が破れるかと思ったぜ」
と。耳の穴に小指を突っ込んだときだ。
それ以上にデカい破裂音と共に、背後の大木が引き裂かれたではないか。
振り返ってみると、銃から刀へと形を変えた壱式が深々と大木に刺さっていた。