魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
「シャオちゃんもボクたちと同じで石を集めてるんだよね」
「あら。なあに、盗み聞きィ? いい性格してるわねぇ」
「……えっ、ち、違うもん」
一歩下がったゆりなを見て、俺はたまらず言い返した。
「盗み聞きって……魔法使い同士はどこにいても声が聞こえるんだろ?」
「そーいえばそうだったっけ」
なんて肩をすくめやがった。
こいつ、わざと意地悪を言ってるな。
にゃろめが……何かガツンと言ってやりたいぜ。
そう拳を震わせていると、
「あ、あのっ……!」
おずおずと、一歩前に踏み出すチビ助。
そいつの手も俺と同じく震えていた。
いや。同じじゃねェな。俺は怒りで震えていたが、ゆりなの場合は――
「シャオちゃんもボクたちと一緒に宝石集めしようよっ」
「……一緒に?」
言った――か。
やはりというべきか、ゆりなのことだからいつかはシャオを誘うだろうなとは思っていたのだけれども。
しかしながら。他のヤツだったらまだしも、こいつはいささかに難しいんじゃないか?
なんて思っていたのだが。
「それって仲間に入って欲しいってこと?」
「う、うんっ」
「あたしを誘ってくれるんだ」
と、にっこり笑顔で振り返ったではないか。
まさかの展開に俺が唖然としていると、
「もちろんだよっ! 三人一緒に力を合わせれば、絶対に全部集められるよ! シャオちゃんが仲間に入ってくれたらもう怖いもの無しだもん」
「あははっ。そうね、みーんな仲良く協力し合えばすぐよね。……よかった。本当言うとね、あたし一人じゃ心細かったのよ」
笑顔のまま手を差し出すシャオ。
それを見たゆりなは、感動のあまりか今にも泣き出しそうな顔で、
「シャ、シャオちゃん……」
ギュッと両手でシャオの手を握った。
鼻水をすすりながら、
「えへへ! 勇気出して言ってみて良かったよぅ。これから三人仲良しさんで頑張ろーね!」
満面の笑みを咲かせてチビ助が言った――次の瞬間。
「……つくづく反吐が出るわね」
小さく呟いたかと思うと、ゆりなの手を捻り上げて、
「仲良しぃ~? 一緒ぉ~? 仲間ぁ~? 虫唾が走る言葉ばっかりよく思いつくわね」
「あうっ。痛いよ、シャオちゃん……」
「きゃはっ、あはは! それとも、あたしをわざと怒らせようとしているのかしらぁ?」
「ち、違うもん。ボクは本当にシャオちゃんと――」
「…………気安いのよ、猫憑き」
「きゃっ!?」
ドンッとゆりなのお腹に蹴りをかましやがったところで、俺の怒りは最頂点まで達した。
もう見てられねぇ……!
「ざけんな、テメェ!」
胸倉を掴んだのだが――
「…………!?」
な、なんだこいつの目は。
黒い瞳が更に暗く淀んでやがる。
輝きという輝き全てを失ったその目に、いささか戸惑っていると、
「なんだなんだ?」
「子ども同士のケンカみたいだけど……」
「あれ、もう一人のほうってシャオ様じゃない?」
「ウソだろ。こんなところに居るハズないって」
ざわざわと。
いつの間にか俺たちの周りに人だかりが出来てしまっていた。
「……目立ちすぎたみたいね。そろそろ手を離しなさいよ、バカてふ」
「ゆ、ゆりなに謝ったら離してやるよ」
「はっ。バッカバカじゃん。だぁれが、謝るかってーのよ」
こいつ……!
もう我慢の限界だった。こういうヤツは殴らなきゃ分からねェんだ!
「このっ!」
俺が拳を振り上げた、その瞬間。
「ダメっ。ダメだよ、しゃっちゃん……」
倒れたゆりなが咳き込みながら、
「ボクがシャオちゃんを怒らせちゃったのがいけないんだもん。殴っちゃダメだよ……」
「……でもよォ」
「けほっ、けほ!」
「お、おい」
慌ててチビ助のもとまで駆け寄り、
「大丈夫か?」
と。肩を貸すと、そいつは土まみれの顔でニコっと笑った。
「にゃはは。めちゃんこ汚れちった。ちょっち早いけど、帰ったら一緒にお風呂入ろーね」
「こんなときにお前さんはよォ……」
酷いことされたばっかりだっつーのに。なんともノホホンとしてやがるぜ。
「ったく」
まあ、いいや。平気そうで安心したぜ。
そう。笑い飛ばしてやろうかと思ったのだけれども。
「……約束だもん」
ギュッと。俺の胸の中で静かに泣きはじめるゆりなに、
「…………」
俺は何も言えなかった。
+ + +
「ごっしごっし、きれいきれい。洗おう、ぴっかぴかの~ぴっかんこ」
ポニーテールを左右に振りながら、ゴシゴシの歌を歌うゆりな。
そいつの後ろで手洗いの順番待ちをしていたのだけれども。
「……なあ、チビ助よォ。お前さんもう大丈夫なのかィ?」
ひょこっと顔を覗き込むように訊ねてみる。
帰り道ずっと俺のスカートを掴んでシクシク泣いていたっつーのに、家に帰ってきた途端これだからさァ。
「うん、もー大丈夫だよ。これからしゃっちゃんとお風呂に入るんだもん。えへへ、楽しみのほうが勝っちゃったみたい」
「なんでぇい。心配して損したぜ」
「にはは。心配かけちゃってごめんねっ。ほい、次しゃっちゃんの番だよ~」
「へいへい。わかりましたんで」
と、交代したときに一瞬だけゆりなの横顔が見えたのだが。
気のせいか、頬に涙が流れていたような――
「…………」
手を洗いながら背後のそいつをチラっとだけ窺ってみる。
グシグシと洋服の袖で涙を拭ってるそいつに、俺は小さくため息をついた。
はあ……。そんなこったろうと思ったぜ。
ったくよォ。何が大丈夫なんだか。ちっとも大丈夫じゃねーじゃん。
とりあえず口早にゴシゴシの歌を歌って、俺は早々に手洗いを切り上げた。
そんでもって、
「おい、チビ助」
未だに涙を拭っているそいつの頭に手をぽむっと乗せる。
「ふえっ!? な、なあに?」
びっくり顔を上げたチビ助に、
「お前さんが俺様の胸でめそめそすっからよォ、一張羅が涙やら鼻水でグショグショだぜ」
自分のキャミソールを引っ張りつつ、ちょいちょいと指差す。
でろろーんとなっちまったそれを見て、
「……ご、ごめんなさい」
申し訳無さそうに俯いたところで、俺はすかさずゆりなの頭をわしゃわしゃとしてやった。
「わっ、わっ! しゃっちゃん、なにするのぉ」
うぅーっと。困り顔で見上げたそいつに、
「だぁらよォ、もう風呂に入っちまおうぜ。はやいところスッキリしたいぜ」
そう言ってみると、困り顔がすぐさま笑顔へ早変わり。
「わーいっ! 入ろっ、入ろっ!」
万歳の格好でくるくるとその場で回るゆりなに、俺は一つ肩をすくめて笑った。
まったくもって。なんとも扱いやすいヤツだぜ。