魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
「ここなんです」
コロナが言って立ち止まった。
「なんですって、言われてもさァ」
改めて周りを見渡すまでもない。
こんな何処にでもありそうな森のど真ん中で立ち止まられてもな。
もう案内は終わりましたとばかりに伸脚運動を始めたそいつに、
「若いうちからそんな運動してたら、膝痛めるだけだぜ。つーか、ここに何があるってんだい。そもそもとして、俺に渡したい大切なモノって何なワケ?」
後ろ毛をイジりながら訊いてみると、
「あ。その質問にはコロナがお答えします」
いや、最初からお前に訊いてるんだけどな。
「えと、やっぱり説明するよりこっちです」
言いながらごそごそとポケットに手を突っ込むコロナ。
やがて薄紫色の小さな手紙を取り出すと、俺にホイッと渡して、
「それ、読んで欲しいのです」
ほう。これはこれは。
キラキラに光るハートのシールで丁寧に閉じられている可愛らしい手紙。
とくりゃあ、一つしかあるめぇ。
「いやはやまさか、これは恋文と呼ばれるモノかね」
そんな、からかい気味の俺の発言に、
「肯定。コロナはパパさんに一目惚れしました。お返事待ってます、そこの伝説の樹の下で。ずっと、貴方を」
と指差す方向には、古びた切り株しか見当たらないワケで。
「コロ美よ。伝説の切り株なら見つけたぞ」
「では、伝説の切り株に座って手紙の内容を口に出して読んでみちゃって下さい」
相変わらず掴めんチビチビ助だ。
とにもかくにもと、腰を下ろした俺は手紙を読んでみることにした。
「ええと。なになに……字が汚くて読みにくいんだが」
「当店ではクレームを一切受け付けておりません。なにぶんまだ幼稚園児の身でして。お手々があまり言うことをきかないのです」
そりゃあ難儀なこって。
しゃあねぇ、なんとか解読していくか。
「て、天よい舞いあいし、ググツの利子よ今ふだだだび我がもとえ蘇れ――って、どういう意味だコレ」
眉間にしわを寄せながら手紙を舐めるように見る俺に、
「否定です。それは、天より舞い降りし傀儡の石よ、今再び我が下へ蘇れ……と読むのです」
「なぁるほど。天より舞い降りし、傀儡の石よ。今再び我が下へ蘇れ、か。
言われてみればそう読めなくもないな。というか、口で説明したほうがよっぽど早かっただろうに」
そう苦笑する俺に、
「おやおや。パパさん。今、それを口に出して言っちゃいましたね」
急に声色の変わったコロナにビクっとして顔を上げる。
「いよいよ、この時が」
コロナの眠そうな目が見開かれていた。
心なしか口元が笑っているようにも見える。
「ああ、でもまだダメなんです。あともう一言が無いと、アレは孵らない」
な、なんだよ、アレって。
「さぁ、パパさん。『霊鳴』と言ってみてください。さんにーいち、はいアクション」
「……れいめい?」
促されるがままに口を突いて出た言葉、霊鳴。
何だソレ。
つーか、さっきの天より舞い降りしって、もしかして呪文とかいう類の――
「ぶいっ、大当たり」
コロナがVサインを出したその時、頭上が青く光り輝いた。
眩しい光に俺はすぐさま手をかざす。が、何だこの強い光は。
目をつぶっているのにも関わらず、光が我さきにと俺の網膜へ飛び込んで来やがる。
「パパさん、そのまま左手を前に出してみて下さい。何か触れるモノがあると思うです」
何かって。ええっと。
ああ、あったぞ。これか?
ほんのりと暖かい石のようなモノを掴む。
すると、たちまち光が消えていった。
やがて目の慣れた俺は、その石をじっくりと観察してみる。
蒼くて透明な手の平サイズの石。輝き方がガラス細工のそれではない。まさか宝石か?
だが、何と言ったらいいのか。物自体は良いのだが状態がボロっちいのだ。
ところどころに亀裂が走っていたり、赤いコケが付着していたり。あと、やけに長細い藻屑が幾つも巻きついている。
「……ずっと、冷たい海の底に沈んでいたのです。かわいそうに」
もしかして俺に渡したい大切なモノって、この霊鳴とかいう石のことか?
コロナは頷きながら、
「肯定。正式な呼び名は試作型霊鳴石『弐式』なんです」
へぇ。ご大層な名前だねェ。試作型という部分が、いささかに気にはなるが。
で、この石っころは何の使い道があるんだ?
「それはただの石っころではないのです。さっきの手紙の続き、読んでみちゃってください」
草むらから手紙を拾い、続きを読んでみる。
そこには、コロナの字とは似ても似つかないかすれた文字でこう書かれていた。
『弐式封印解除の呪文をここに記す――イグリネィション』
「イグリ……ネィション」
呟いたその瞬間、天から青い閃光が降り注ぎ、そして俺の手元を包み込んだ。
「な、な、なんだァァ!?」
凄まじい勢いで全身の力が抜けていく。
まるで俺のエネルギーが石に吸い取られていくかのような……待て待て、こりゃ本気で立っていられねェぞ。
ちょちょちょ、いや、マジで、吸い取り過ぎだって――
「あ、あぅう……」
ペタンとすっかり腰が抜けてしまった俺の手の中に先ほどの石の姿はなく、代わりにヘンテコな蒼い杖が握られていた。
「パパさん、杖の封印解除よくできました。いーこいーこ、なのです」
涙目で見上げた俺の頭をコロナがよしよしと撫でる。
こ、こんにゃろぉお。何がよくできました、だ!
何か文句の言葉でもぶつけてやろうかと思ったその時、
「魔法少女、おめでとー」
と、もう一度Vサインを決めながら更に気の抜けるようなことを言い放ちやがった。
無表情づらのクセに満足げな空気がひしひしと伝わってくる。
上手くしてやったり、ってかぁ?
ちくしょう……。