魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
公園を後にして数十秒そこらのこと。
「めっけ」
前方にて空飛ぶ園児を発見。そいつは飲酒運転のような蛇行した軌跡を描いていた。
しっかし、煌々とまぁ。ホントよく目立つ羽だな。
おかげ様ですぐ追いつくことが出来たぜっと、コロナの後ろ頭をぽんぽん叩いて顔を覗く。
「遅くすいません、お酒の飲酒検問やっとりますんで。ちょっと息を吐いて……っとと、あんれま。コロ美ってば、なぁんで泣いてんの?」
真っ赤に泣きはらした眼。
しかも、涙をグシグシと泥まみれのパジャマの袖で拭ってるもんだから、なんともヒドイ顔になっている。
「……パパさん? な、なんで?」
と、訊かれるのは百も承知の助だ。
「なんでってか。じゃあ逆に訊かせてもらうけれども、コロ美はなんでホバーんところへ――つぅか、ゆりなのもとへ向かってるワケ?」
「それは……」
ぴたりと羽を止めて、俯くコロナ。
ったく。どいつもこいつも大泣き虫だねェ。
ふぅ、と少し息を吐いた俺はチビチビ助の前に座って、そいつの流す涙を指で拭いながら、
「なんでか当ててやろうか? 飯の恩、風呂の恩、寝床の恩を返しに行く……そうだろ? んで、俺もそうすることにした」
「――えっ?」
「借りた恩は十倍にして返してやれってな。これ、親父の口癖なり」
続けて言う。
「だぁら、めんどくせェから、まとめて恩返し済ませちまおうぜ。俺ら二人、一緒によォ。ほら……契約すっぞ、コロ美」
「パパさん!」
泣き顔から一転、花が咲いたようなパァっとした笑顔で飛びついてくるのは結構だけれども。
チビ助が手遅れになっちまう前に、パッパと契約の……呪文? だったかを教えてくれィ。
「肯定なんです! えっと、えっとですね……あった。このメモに書かれてる呪文を唱えて欲しいのです」
オーケイ。
手渡された小さなメモに書かれている呪文をそのまま読んでみる。
「――我は命ずる。我に忠誠を誓い、真の力を全て我に宿せ」
その途端、俺の足元に緑色の魔法陣が出現し、胸の奥が燃え滾るように熱くなっていく。
「――我は誓う。主に我の全てを捧げんことを。その力、『翠の氷水』を与えん」
コロナがそう答えると、今度は魔法陣から冷たい風が流れ出してきた。
トクントクンと耳にまで聞こえてきそうな心臓の鼓動。
自分の中で新しい命が生まれてくるかのような、奇妙というかくすぐったいカンジだな。
「ん……もしかして終わり?」
「肯定。契約終了なんです。これでコロナはパパさん専用になりました。ぶいっ」
俺専用て。
モロにももはから影響受けやがったな。
「簡単とはきいていたけれども、本当にあっけねェものなんだな……」
「ついでなので、このままのノリで霊鳴の起動、変身もぽんぽんやっちゃうんです」
「おっと、起動だったらお茶の子さいさいってなモンで」
胸ポッケから霊鳴を取り出し、こう呪文を叫んでみる。
「……試作型霊鳴石弐式、起動っ! イグリネィション!」
すると、たちまちに青い光が俺の手元を包み込んでいく。
ウゾウゾと手の中で石が杖へと変形していくのが分かる。
すげぇなどういう仕組みなんだこりゃ、と感動する間もなくそれは立派な蒼杖へと変化を遂げた。
ええと、次は……変身だっけか。
昨日のゆりなの変身を思い出してみる。
「んで、アレか。コロ美が宝石にくるりんぱって化けて、それをこの杖でぶち割る、っと」
確かそういう流れだったハズなのだが、そいつは緩やかに首を横に振って、
「否定。それは昔の変身方法なのです。それだと変身自体は早いのですが、あまり強くないんです。
今の正式な変身への方法は――これの二十ページ参照なんです」
変身の仕方に今とか昔とかあるのか……。
指パッチン。
ポンッと出てきた懐かしくもない取扱説明書を二十ページ目へとめくり――
「な、なんじゃこりゃ! これを叫ばなきゃいけねぇのか!?」
驚愕ヅラを向けると、コロナは何を当たり前のコトをとでも言いたそうな顔で、
「何を当たり前のコトを?」
「言いやがった!」
じゃなくて。
「こんな恥ずかしいのなんて絶対イヤだ。恐縮だけれども、他の変身方法を要求する」
「否定。これしかないのです。だいじょぶ、一度言っちゃえば霊鳴の起動みたいにすぐ慣れるんです。
パパさん、ふぁいとっ、ふぁいとっ」
ううむ。
グチグチ言ってる時間なんざ、微塵も無いのは解かってるけどよォ。
……ええい、ままよ。
「わーったよ。もうこうなったら、どこまでもやってやるぜ!」
「肯定! やってやるんです!」
言って、小さな蝶々に戻るコロナ。そしてそのままくるんと一回転。
エメラルド宝石へと姿を変えたチビチビを掴み、
「いくぜっ、コロ美!」
なるべく真上に空高くぶん投げる。
説明書によれば、次に呪文を……唱えなければいけない。
息を吸って目をつぶり、俺はゆっくりと杖を掲げた。
「アイシクルパワー!」
手元に冷たい風が流れ出したところで、
「チェインジ、エメラルド! ビースト――イン!!」
言うと同時に、目の前へと落下した魔宝石をタイミング良く杖で叩き割る。
これで、合っているハズ――ごくりと喉が鳴ったその時だ。
粉砕されたエメラルドの破片が光り輝き、瞬く間に俺を包み込む。
「ひ、ひえぇえ」
一瞬のうちに裸にむかれ、足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
その中心部から、暖かいエメラルドグリーンの水流が噴き出し、薄緑色の下着が着用される。
いや、別にパンツは変える必要ないだろ……と顔を赤くしていると、今度は雪が舞い上がった。
その雪が俺の足先をクルクルと回るたびに、コスチュームが現れていく。
それはあれよあれよという間に髪先にまでへと到達していった。
なんか髪をやたら引っ張られた気がするな。
まさか髪型までいじくられたのか?
と。
確かめようとしたその時、無理矢理に深い前傾姿勢へと体が持っていかれる。
「あいてて!」
涙目で背中を見やると――そこには緑色に光り輝く巨大な蝶の羽が生えていた。
コロ美と同じだ……面白いぞ、もしかしたら。
試しに背中に力を入れて、空中へ浮くようにイメージしてみる。
だがビクとも体が持ち上がらない。
もう一度だ。
「チィイッ……飾りじゃねェんだろ? この羽は!」
踏ん張ったその途端、羽から凄まじい量の光の粒子が溢れ出し、(というよりリン粉か?)
俺は夜空へと飛び上がることに成功した。
「ふ、ふははっ……やったぞ」
その全ての工程を終えた時――
暗闇に染まる町並みを見下ろした時――
俺はようやく、魔法使いになった実感が湧いてきた。
自分の姿を改めて確認してみる。
白を基調としたゆりなに負けず劣らずのド派手なドレス。
緑色に煌くオーラがゆらゆらと俺の周りを流動し、時々水色の雪の結晶が発生しては弾けてを繰り返す。
「こ、これが、俺様の――」
沸々とこみ上げてくる力に、思わず笑ってしまう。
「ククク。実に素晴らしい。この力、よく馴染む」
気分を良くした俺は杖を肩に担いで、
「今行くぜぇええ、待ってろよチビ助!!」
夜空を蹴り飛ばした。