魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
「お、ゆりな。早いねェ、もうあがったのかい」
うんっ、と笑顔で返されるものだとばかり思っていたのだが、しばしの沈黙のあと、
「……あ」
と言って後ずさり、そして、
「う~っ」
目に涙を浮かべてバタンと扉を閉めた。
どしたんだ? と首を傾げている俺に、
「きっと、パパさんとどう顔をあわせていいのかわからなくて困ってるんです」
なるほど。別に、気にしちゃあいねーのに。
――いや。あんなこと言ったんだし、気にしなければいけないのは俺のほう、だよな。
「パパさん。コロナのさっきのお話覚えてるですか?」
「ウニョニョってケガが治るんですって話?」
「否定。ウニョニョじゃないのです。傷ついても、癒してくれる人がいればってくだりなんです」
「ああ、それ」
癒してくれる人って、言われてもねぇ。
少なくとも、今日チビ助と会ったばかりの俺にそんな大役は務まらねーな。
だけど。まぁ、なんだ。モヤモヤすんだよな。
癒す云々は正直ピンとこねェけど、あいつにはちゃんと謝らなきゃいけないな、っていうモヤモヤ感。
ま。ウダウダ考えていても埒があかねェし。
立ち上がり、ぐいーっと伸びをしながら、
「うしっ、あとは自分で乾かせるな?」
コロナの頭をぽんぽんと叩いて、ドライヤーを渡す。
そしてドアの前に立ち、言ってみる。
「おーい、チビ助やーい。お前さんも早く髪乾かさないと風邪ひいちまうぞ」
いなかったりして。だとしたら恥ずかしいコトこの上ないが。
「しゃ、しゃっちゃん。えっと、その、ボクね。あのあの……」
お、いたいた。
ゆりなの声が聞こえやすいように、背中をドアにぴったりとくっ付けて、
「あー。ゆりなさ、さっきはゴメン、な」
「……えっ?」
「なんつーか、イヤなこと言っちまって。悪気は無かったっていうか、ありゃ、これイイワケか。その――とにかくゴメン。もう言わない」
「ううん。違うもん、しゃっちゃんが謝ることなんて全然ないよ。
ボクの方こそ急におかしくなっちゃって、だからしゃっちゃんに謝らなきゃいけないって思って……」
「じゃあ、おあいこ」
「でも、」
「めんどくせーから、おあいこ」
「う、うん。ありがと、しゃっちゃん」
ドア越しに泣き声が聞こえてくる。
ホント、泣き虫なヤツ……。
「あのさァ。髪、乾かしてやるよ。特別サービス、俺けっこう上手いんだぜ。さっきコロ美で実験したし」
聞いた途端、頬を風船のように膨らませたコロナにごめんなポーズをとった後、
「だからまぁ、もう泣くのはやめてさ。笑っとこうぜ。お前さんはそっちのほうが、しっくりくるっつうか――まぁ、なんていうか、」
言いかけたところで、急にドアがバッと開いた。
「しゃっちゃん!」
体を支えていたモンが無くなった俺は一瞬倒れそうになるが、すぐさま支えられた。
というよりも、抱きしめられたつったほうがコレは正しいのか。
「……な、なんだよ、ジャーマンスープレックスでもかます気かィ?」
そんな俺の冗談に、
「にゃはは。違うよーだ。チョークスリーパーだもんっ」
ポヘッと首を絞められた。
全然痛くは無かったのだが、そっちがその気ならと、
「いっひっひ。やったな、こんにゃろー。ジャイアントスイングすっぞ!」
「バリアするし!」
「甘い甘い、俺の世界じゃあ投げ技はバリア貫通なんだぜ!」
「えーっ、そんなのずるい。今はこっちの世界だもんっ」
「秘儀、チョーク抜け!」
ゆりなの腕からするりと抜け出し、
「さーて、覚悟しろってなモンで……」
そう振り返って、俺は目を見開いた。
あれ、コイツ。
「むー。こうなったら霊冥呼んじゃおっかなぁ」
よく見ると結構――
「しゃっちゃん?」
「あ、ああ……。いや。ていうかお前、ずりぃぞ。プロレスごっこで霊鳴呼んだら反則負けだっつうの」
「あ、そっか。反則負けになっちった。にゃはは! やっぱ、しゃっちゃんと一緒にいると楽しいなぁ」
屈託の無い笑顔を向けるゆりな。
俺は少し肩をすくめたあと、
「ん。やっぱそっちの方がチビ助っぽい」
と、ついボソっと言ってしまった。
「え、しゃっちゃん何か言った?」
「なーんも。ほれ、それより髪乾かさねーの?」
「乾かすー! わーい! アイスウォーターちゃんわーい!」
バンザイして、何故かコロナを抱き上げるゆりな。
無表情のままブンブンとなすがままに振り回されるコロ美。
せっかく綺麗にセットしてやった髪がボッサボサになって……トホホとこめかみを押さえる俺、といった構図だ。
やれやれ、しかしまぁ。
ああ言ったはいいが。
ちと、こいつの場合、元気すぎるのも問題かもしれないな。