魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
「お、お前さん、いったい何才のときに子どもを産んだんだァ……?」
そう俺が顔を引きつらせながら訊ねると、シャオは顔を真っ赤にして、
「……バカっ! あたしはまだ九才よっ!!」
すかさず壱式の先っぽで頭を殴られちまった。
いっててて。冗談だっつーのに……本気で殴りやがってよォ。
そう涙目で頭をさすっていると、隣で目を点にしていたゆりなが口を開いた。
「えっ、えっ。シャオちゃんがこの子のママさんなの……? で、でもお姉ちゃんが赤ちゃんは大人にならないと出来ませんよ~って言ってたような……」
まったくもって状況が飲み込めないといった感じでシャオとシロハを交互に見て言うチビ助に、
「だ、だから、あたしの子どもじゃないってばっ!」
「にゃっ!?」
再びポコッと杖で殴るシャオメイ。
振られる度に淡く発光する壱式を指を咥えながら見上げていたシロハだったが、ついに我慢の限界が来たのか、
「わー! 綺麗、綺麗! ママ、そのおもちゃ貸して~っ」
と。ぐいぐいシャオの腕を引っ張り始めた。
「ちょ、なによこいつ……! あたしを誰だと思ってんのよ、あたしはね、ピース様に認められた紗華夢、やこ……きゃあ!」
いくら見た目は小一くらいの子どもでも、さすがは大霊獣様といったワケで。
凄まじい力で揺さぶられ、すってんとその場で転んでしまった。
あっという間にシャオから杖を奪って、楽しそうにぶんぶん振り回すチビ狐。
「……こ、こんちくしょう」
凄まじい形相で起き上がろうとしたが、追撃よろしくシロハがシャオの背中にドカッと跨り、
「きゃっきゃ! お馬さん、お馬さんっ!」
「ふぎゅっ!!」
なんとも情けない声をあげて潰れてしまった。
「……なんだかパワフルな子なんです」
「いっひっひ。こりゃあ愉快愉快」
腕を組みながらガキんちょ相手に苦戦するジュゲムなんとやらさんを見下ろしてクツクツ笑ってやる。
いやあ、大変そうで何よりだぜ。
寝起きのためか尻尾をふりふりさせながら全開パワーではしゃぐシロハを見つつ、
「いやはや。契約したのがチビチビ助で良かったぜ」
俺は傍らで呆気にとられてるコロ美のちっこい頭に手を置いた。
狐というよりもじゃじゃ馬といった感じの霊獣。
とてもじゃねェが、あんなのと契約したら身が持たないだろうな。
チビチビもたまに手に負えないときがあるが、普段はほっといても一人で大人しく遊んでるし。
「な、なんで、このあたしがこんな目に……」
たった数分ですっかり疲弊したようで、目の下のクマがかなり薄くなっていやがる。
さすがに哀れになってきたところで、
「ふあっ。シャオちゃん大変そうだよぅ……。だ、だいじょーぶ?」
俺の隣に立っていたゆりなが心配そうに呟いた。
あんな事をされたっつうのに、こいつはよォ。
……まったく。相も変わらずお人好しが過ぎるぜ。
「だいじょばないわよっ! 猫憑き、同情してる暇があるならこのバカガキを何とかしてっ」
「ほ、ほいっ、了解うけたま――」
シャオを助けようとシロに駆け寄った瞬間、
「……やあっ、来ないでっ!!」
いきなり尻尾と耳が青白く輝いたかと思うと、凄まじくデカい蒼炎がシロハの全身から舞いあがった。
こ、こりゃあ、いささかにまずいぞ……!
慌てて魔法を唱えようと人差し指を掲げたとき、
「危ないんですっ!」
「きゃっ!?」
ゆりなとシロハの間へとすっ飛んで、輝く羽を広げるチビチビ。
身の丈よりも何倍にも膨れ上がった羽でチビ助を包んだと同時に、コロナの体に火炎が直撃した。
「コロ美!」
嫌な焦げる音に、俺が叫ぶと、
「ぶいっ。平気なのです。まだこの子は力の使い方が分かって無いみたいなんです」
クール面でブイサインを繰り出して羽を縮めるコロナ。
確かに少しだけ肩のところが焼けただけで、ダメージはそこまで無いようだ。
なんでぇい……心臓に悪いじゃねェか。
「ふええーん、びっくりしたよぅ。ありがとコロちゃあんっ」
「てやんでぃ。余裕シャクヤクってなもんです」
ドヤ顔で俺の真似をしているコロ美を抱きしめ、トテトテと俺のところまで逃げ帰ってくるチビ助。
そいつを庇いながら、警戒するように俺は改めてシロハへと人差し指を向けた。
ったく、こんなことなら弐式を海に戻さなきゃ良かったぜ。まだちょっとだけ霊薬が残ってたのによォ……。
そう。ギリッとチビ狐を睨んでいると、
「……ひっぐ」
俺の顔を見るなりビクッと身体を震わせたかと思うと、たちまち青い瞳がウルウルと涙ぐんでいく。
「えーんっ! ママぁっ!!」
ついにはびーびー泣いてシャオに抱きついてしまった。
しかしながら、
「きゃあっ!」
立ち上がろうとしたときに突進を喰らったため、またまた盛大にずっこけてしまうシャオメイ。
「なんなのよ、もうーっ! 出てきなさい、シャドー!!」
なんとも無様な格好で黒い指輪にキスをすると、シャオの背後に巨大な暗闇が現れた。
その穴にマントごとシロハをぐいぐい押し込んで、
「……と、とにかく。このガキはあたしが頂いたわ。次までには躾けて、あんた達から石という石を全て奪ってやる……から」
と仰られましてもねェ……。
ゼーハーと肩で息をしてブラックホールの中へと消えていくシャオに、俺は肩をすくめた。
あれじゃあ当分はまともに使えないだろうよ。
「あーあ。せっかくのシロハを逃がしちまった。厄介なことになってもオレは知らねーぞ? にっしっし」
今まで黙っていた頭上の黒猫が面白そうに言う。
「あっ、そっか。あの子大霊獣さんだったんだっけ。もしシャオちゃんと契約しちゃったらどうしよう……」
コロナを抱きつつ心配そうな顔をするチビ助に、呆れのポーズ――手を広げるようなジェスチャーをして、
「来やがれ霊鳴!」
海から飛来した弐式を杖状態にして跨る。
それを見たゆりなも、俺に倣って零式に跨った。
ふわりと浮かび上がったところで、
「ねーねー。しゃっちゃん、いいの?」
「いいのもなにも、今更どうしようも無いだろ。あいつの家を知ってるなら行ってもいいけれどもよォ……。お前さん知ってるのかィ?」
「うっ。知らないかも」
「だったら、あーだーこーだ言っててもしょうがねェ。もうハラペコだからとっとと帰ろうぜ。今日はシチューって話じゃねーか」
お姉さんから借りたマフラーを巻き直しつつ言うと、
「うんっ! ボクもおなかぺっこぺこだよぉ。にゃはは。お姉ちゃん待ってるし、帰ろっか!」
「…………?」
びゅーんと元気良く俺の前を飛んでいくチビ助の背中に、
「ちょっち待った。なんかヘンな感じしないか?」
声をかけると、そいつは後ろを振り向いて、
「ほよ? ヘンな感じってなあに……?」
ポニーテールを揺らして頭に大きなハテナマークを浮かべた。
「何って言われるとアレなんだけれども」
うーん。なんつーか、どうも引っかかるんだよなァ……。
このままいつものようにお姉さんの家に帰っていいものか――
ん? いつものようにって、俺は何を考えてるんだ?
や、やべえ、腹が減り過ぎて頭が全然回らねェぞ……。
「あー。えっと、いま何時くらいか分かるか?」
チビチビを抱きなおして腕時計を見るゆりな。
「うーんと。四時四十分くらいかな?」
「そっか……ちょっくら空の散歩してくるぜ。わりィが、こいつも頼んだぜ」
言って、頭上でノンキに鼻ちょうちんを膨らませて寝ている黒猫をゆりなに渡して、俺は森に戻るべく方向転換する。
「しゃ、しゃっちゃん、ほんとに帰って来てくれるよね……?」
「おうよ。あったりめェーだろォ。シチューは俺様の大好物なんだぜ。好きなモンがもっと美味くなるように運動してくるだけでぇい。五時までには必ず戻ってくるぜ!」
「はーいっ! じゃあ、みんなで待ってるからねっ」
笑顔で手を振るゆりなにひらひらと手を振り返し、俺は杖を握ってスピードを上げた。
なんだか分からないが、さっきからモヤモヤが止まらない。
とりあえずさっきの場所へ戻らねェと……!