艦CORE ~海原を渡る 名も無き鴉~   作:まめ輔

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『それは、出会いであり再会で_。』

「よい…しょっと。これでお荷物は全部でしょうか?」

「えーと…後はこのダンボールかな。確か、俺の読んでた本が入ってるはずなんだけど…。」
おもむろにダンボールを開けると、海の生物図鑑や魚類学の本に混じって、古びた一冊の図鑑が中から出てきた。
「これは…俺が初めて買った艦艇図鑑だな。かなり昔に出版されたやつで、中古で買ったんだったか…。」

「司令官!その図鑑、少し見せて頂いていいですか?」

「あぁ、良いとも。」

「どれどれ…あっ!『私』が出てますよ司令官!」
時が経ち、汚れ、薄い褐色に染まったそのページを彼女が指差す。特型駆逐艦一番艦。『彼女』の姿がそこにあった。『彼女達』がかつて軍艦であったことを改めて認識させられた。
「あぁ…良い形してるよ…ホント。」
私がそう言うと、僅かに吹雪の頬が紅く染まった気がしたが、気のせいだっただろうか?
「…ってこんな事してる場合じゃなかったな。早く鎮守府の中を把握しないと…。とりあえず荷物はこれで全部だ。吹雪が手伝ってくれたお陰で、予定より早く作業を終える事が出来たよ。ありがとう。」

「…はっ!すっかり忘れてましたね!今、工廠へ入る為の許可を取ってくるので、司令官はこの鎮守府の資料でもお読みになってお待ち下さい!」

「そうか、じゃあそうする事にするよ…ん…?」
手渡された資料には『鎮守府 基本資料』と書かれているだけで、◯◯鎮守府のように、何鎮守府なのかは書かれていなかった。
「この鎮守府、まだ名前が付いていないのか…?」

「そうでした…。それも司令官にお伺いしなければならなかった事なんですが…新たに設けられた鎮守府なので、まだ名前が付いていないんです。自由に名前を決めても良いとの事なので、どうされますか?」

「そうだなぁ…」
ふと、窓の外に目を向けると埠頭の係船柱に一羽の『鴉』が羽を休めているのが見えた。
「鴉ノ埠頭…とかどうだ?」

「いいですね!それにしましょう!」

鴉ノ埠頭鎮守府での物語が今、幕を開ける。


CHAPTER_2『It's an encounter and meets again』

『工具と鉄、油の三重奏。 ~工廠~』

 

「お待たせしました司令官!さぁ、工廠へ行きましょう!」

ちょうど資料に目を通し終えたところだった。

「よし!行こうか!…そういえば、ここの工廠に『朧月』が搬入されているはずだって聞いてるんだけど…。」

 

「司令官のACの事ですか?特別にAC専用の工廠を設けてあるので、そちらに搬入されていますよ!」

 

「そうか、良かった…。しばらく会ってないからな。心配でね。」

 

「しばらくと言っても、司令官が適性試験に受かってからの一週間程ですよね?」

 

「そうなんだけど…もう何年も一緒に過ごしてきたから…。自分の分身みたいな感じだからね、ACは。」

 

「それだけ、思い入れがあるんですね…ACに。…見えてきましたよ!あれが工廠です!今は新しい鎮守府の工廠のお手伝いに、『明石さん』が来てくれているんですよ!」

 

「『明石』…あの工作艦か?」

 

「ご存知なんですね!」

 

「人に自慢できる程の知識は持ってないけど、名前と姿は知ってるよ。艦娘になってからの姿は、まだ見た事がないんだけど…。」

工廠の中は、思いの外広かった。巨大なクレーンが何台も設けられ、資材や部品を運んでいる。その前で、資料片手に工廠の指揮を取る、ピンク色の髪をした女性が視界に入った。

 

「明石さん!こちらの方が、新たに着任することになった司令官です!」

こちらに気付いたその女性_『明石』は、こちらに手を振り、早足で向かって来た。

 

「あなたがここに着任することになった提督?私は工作艦『明石』。よろしくね!」

 

「司令官、こちらが工廠の監督をしている『明石』さんです。」

 

「ほ…本日付けで着任となった提督です。よろしくお願いします。」

 

「そんなおカタくなることないって〜。肩の力抜いて抜いて!…若いんだねぇ、提督も、鎮守府も。」

 

「まだ、司令官は鎮守府の中の事をあまり知られていないので、私がしばらくお手伝いをしているといった感じです。」

 

「…そういえば、AC専用工廠はどこにあるのでしょうか?」

 

「ん、提督が乗っているっていうあのロボットの事?この隣だよ。案内しようか?」

 

「お願いします!」

 

工廠の外に出ると、隣に濃緑色の大きな建物があった。中から鉄が擦れ合うような音がする。間違いない、ここに『朧月』がいる。

 

「…開けるよ!」

明石がそう言うと、建物のシャッターがゆっくりと上に開き始めた。…待ちきれず隙間から覗き込むと、奥に見紛う事無き2本の脚が見えた。その周りには無数の小さな…人影?『妖精』だろうか、先ほどの工廠にいたものと酷似していたが、顔に古傷が付いていたり、作業服が汚れていたり、いかにも『戦場の最前線を支える整備士』といった風貌だった。

「あれは…?」

 

「ACに宿らせて生まれた、『AC整備妖精』だよ。頼もしそうな見た目してるよね〜。」

シャッターが上に開ききると…先ほどの工廠と同じ、いや、それ以上の巨大な空間があった。

「おぉ…!」

両側にクレーンが所狭しと並び、AC用の装備を吊り下げている。その空間の中央に、『朧月』はその両脚で力強く立っていた。我慢できずに私は『朧月』の下へ走り出す。

「『朧月』!」

それに気付いた『朧月』は青色のカメラ・アイを光らせ、片膝を付き、私に手を差し伸べて来た。その手に乗ると、『朧月』は私を乗せた手を頭部まですくい上げた。鋼鉄の巨大な手のひら。冷たいけど、奥に通う、血のような熱を感じる。

「システム、通常モードヲ起動。オ久シブリデス、パートナー。アナタノ帰還ヲ、歓迎シマス_!」

 

「ははははっ!久しぶりだなぁ『朧月』!」

私と『朧月』が再会して和気藹々としている光景を、明石と吹雪が見ていた。

 

「吹雪…あの提督って、結構な『メカニカルバカ』だったりする?」

 

「そう…ですね。あはは…私たち軍艦の事も、昔からお好きなようで。仕組みとか、中の工学系の知識はそこまでじゃないそうですけど、あのACにも特に思い入れがあるみたいですよ?」

 

「へぇ…いいじゃない、そういうの。私は気に入ったよ。」

 

「…え?」

 

「あのACとかいうロボットが人と話せるのは別として、あそこまで機械と真摯に向き合ってる人って初めて見たなぁ。…あの提督、なかなか面白そうかも。」

 

その時、鎮守府にサイレンが響き渡った。

「鴉ノ埠頭鎮守府に警告!現在、撃ち漏らしの敵駆逐艦『イ級』一隻が、当鎮守府正面海域に接近中!繰り返します!現在…」

 

「これは…!?」

 

「よくあるんだよね…遠方の海域の戦闘で撃ち漏らした深海棲艦が、鎮守府の近くまで来て、破れかぶれの特攻を仕掛けるの…。よりによって出来たてホヤホヤのこの鎮守府に来るなんて…!マズイよこれ…!」

これは後から分かった事だが、この時、他の鎮守府から出撃し、この鎮守府へ向かっていた艦隊が、途中で敵艦隊と遭遇、交戦していたらしい。その撃ち漏らしだと言う。

…そうか、まだ自分が着任して数時間しか経っていない。艦娘はある程度いても、編成されていない…!水平線の向こうにまだ敵の艦影は確認できないが、今から編成して出撃しても間に合わない…!どうすれば……そうだ!ACだ!ACならこの状況に対応できる!

「俺が行きます!」

 

「提督!?」

「司令官!?」

 

「『妖精』さん!スナイパーキャノンを!一発でもあればいい、急いで!『朧月』は戦闘モードを起動、ジェネレーター出力を、戦闘レベルへ!コクピットハッチも開けて!」

『妖精』がクレーンを操作し、スナイパーキャノンを吊って運んで来た。コクピットに乗って、計器類のチェックを行う。

「久々ノ実戦デスネ…ジェネレーターガ高鳴リマス。全システム、チェック完了。オールグリーンデス…!」

 

「スナイパーキャノン、右腕に接続!ウェポン、コネクト!」

 

「メインシステム、戦闘モードヲ起動シマス。」

 

「AC、出すぞ!吹雪!明石さん!下がって!」

ガレージの外へ、『朧月』が一歩づつ踏み出す。久々の実戦、いきなり訪れた、この鎮守府の危機。心は緊張し、魂は震えているのが分かる。ガレージを出て、埠頭のギリギリのところまで行く。

「…やるぞ『朧月』…!スナイパーキャノンを構えろ!」

 

「スナイパーキャノン、発射準備。機体、発射態勢ヘ移行シマス。」

『朧月』が片膝を付き、右腕に携えたスナイパーキャノンを構える。同時に、膝に装備されたシールドが展開する。水平線の向こうにうっすらと黒い影が見える。

「スコープの倍率を上げてくれ…限界まで!」

 

「スコープノ倍率ヲ上昇…」

次第に水平線の黒い影がはっきりと見えてきた。敵駆逐艦はまるで魚のそれのように、跳ねたり潜ったりを繰り返しているようだ。

「倍率…最大値デス。」

 

「吹雪!明石!…耳塞いでた方がいいぞ…!」

 

「大丈夫だよ提督ー!私たち艦娘だし、そういうの慣れてるから!ドカンと一発やっちゃって!」

 

「そうでしたね…!…見えたっ!撃ちます!」

トリガーを引く。

バンッ!キィィィィィィン!

一直線に放たれたその砲弾は、水平線の向こう、敵駆逐艦の口に相当する部分に命中し、文字通り砲弾を食らわせた。

「…命中確認、撃沈だ…!ふー!緊張した!」

「目標クリア。システム、通常モードニ移行シマス。」

 

「やるじゃないですか提督!」

「やりましたね司令官!」

着任初日、早々のこのハプニングは、何とかACのお陰で回避する事ができたのである。

 

しばらくして_。

「司令官!今日の任務、お疲れ様でした!『お風呂』にでも入って、疲れを取って下さい!」

 

 

『戦闘→銭湯!?ではなく、入渠ドック! ~鉄と油の臭いは、魅惑の甘香に霧散する。~』

 

「風呂…風呂…と、おっ、ここか…」

鎮守府内の地図を見つつ、辿り着いた建物には『入渠ドック』と記されていた。その時はまだ、『軍港みたいなもんだし、粋な計らいで名前を付けた風呂場だな』程度にしか考えていなかった。まさか、ここが『本当の入渠ドック』であろうとは…。

中に入ると、そこには脱衣所があった。服を脱ぎ、風呂に入る支度を済ませたが、別の段の籠に脱がれていた『ある重巡姉妹』の服には、ついに気がつかなかった。

「ふぅー…今日の戦闘、疲れましたわね。」

 

「高雄ちゃん、凄かったじゃない!敵旗艦の重巡撃沈よ?」

 

「そうですけども…駆逐艦を一隻、取り逃がしてしまいましたわ。」

 

「あら〜?でもその駆逐艦、『ここの提督さん』が撃沈したそうですよ?」

 

「提督が!?一体ここの提督は、どんなお方ですの?」

 

ガラッ…

 

………

 

ピシャッ…

 

見ては行けないものを見た気がする…会話の内容からしてあれは高雄型重巡の一番艦『高雄』と同じく二番艦の『愛宕』だろう…。いや待て、ここは『入渠ドック』という名前の入浴施設で…まさか、本物の『入渠ドック』か!?地図には入浴施設はここしかないと書かれていたが…まさかのまさか、こここ、混浴…!?いや、だとしても、見た目は普通の温泉だったが、艦娘用の入浴施設_ドックに、人間の俺が入っても問題無いのだろうか?いやいや、決して男女関係の事じゃなくて_そう、身体の問題で…。

 

「ここの提督さんですか〜?」

 

「そっ、そうですけども…!?」

 

「お顔見せて下さいな〜うふふっ。」

「生憎、入浴できる施設は他になくてよ?」

 

えぇい、入るしかないのは分かっているが…身体が緊張して動かない…!

「…………」

 

「んもぅ、強情ですね…愛宕、抜錨しまーす♪」

湯船から上がってこちらへ向かってくる音が聞こえる…間違いない、愛宕は強行突破でこちらを風呂に引きずり込むつもりだ。

「うぉっ!?ちょ、待っ…!」

 

「高雄ちゃーん♪こちらがこの鎮守府の提督よ〜!」

 

「もう…愛宕、あまりそういうのはよろしくなくてよ?」

 

腕にデカイのが当たってる…胸…いや、これが世にも名高い高雄型の大型艦橋だとでも言うのか…!?どちらにせよ、俺の身体は急速にのぼせて行った。風呂に浸かった熱とは違った熱によって…。意識が遠のいて行く…。

……

………

目を覚ますと、そこは執務室だった。布団に横になっているのだろうか…。

「目が覚めましたか?司令官。」

 

「…吹雪…か。」

 

「大変そうだったじゃないですか。ドックでのぼせて、鼻血まで出して。高雄さん達、心配してましたよ?」

吹雪は、俺が愛宕に無理矢理風呂に入れられ、あんな事やこんな事をされたのは知らないようだった。当事者の高雄達が上手くフォローしてくれたのだろうか。…うぅっ、思い出すだけでも身体が熱く…。

戦場で生きてきた、女付き合い(艦付き合い…!?)に疎い俺には、あの刺激は少し…いや、かなりキツすぎたようだ。

「あの艦橋…いや、ドック、かなりデカかったからな〜。思わず気を失うまで浸かっちゃったよ…。吹雪、上層部への申請書、持ってきてくれないか?」

 

「何を書くんですか?」

 

「提督用の風呂を設けて欲しいんだ。一人用の小さいのでいいんだ。のぼせてしまわない程度の…。」

CHAPTER_2 ~END~




CHAPTER_2、終了です!今回も読んで頂きありがとうございます!

驚くべき速さで建築された提督用のお風呂のお陰で、翌日の提督は、事無きを得たようです。しかし、入渠ドックの『隣』に設けられたこのお風呂、今後も波乱の展開を巻き起こしそうです…!

それにしても、スナイパーキャノンはカッコいいですね!四脚で地面にアンカーを打ち込んで撃つのももちろんですが、二脚で片膝立てて構えて、シールド展開して撃つのもカッコいいですよね!ロマンですよね!

それでは、次回のCHAPTER_3をお楽しみに!

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