艦CORE ~海原を渡る 名も無き鴉~   作:まめ輔

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西暦2010年。人類は、突如として太平洋の深海から出現した『深海棲艦』により、シーレーンを破壊され、特に太平洋に面した島国が深刻な被害を受けていた。
『深海棲艦』は怪物のような姿をしたものから人に似た姿のものまで様々で、彼らが使用する兵器は過去の世界大戦で使われた物に酷似しており、「彼らは過去の世界大戦で沈んだ艦艇の怨念なのではないか」という推測が一般に広まった。
人々は、自らが生み出し、使用した兵器が自分たちを襲ってくるという恐怖に、ただ耐えるしかなかった。
だが、希望の灯は消えていなかった。


CHAPTER_0 『Overture』

『1つの希望、錆び付かぬ「コア」』

 

日本_『深海棲艦』の最初期の襲撃により、壊滅的な被害を受けた国の一つである。護衛艦群が迎撃に向かったが、護衛艦よりも小型で小回りの効く『深海棲艦』に圧倒され、為す術なく、近海まで攻め込まれることとなった。

ここで日本は、『コア構想』を取り入れた人型兵器『アーマード・コア』通称『AC』の開発に着手する。ACは頭部・胴体・腕部・脚部や兵装の組み替えが容易に可能で、パイロットは一人。さらには電磁装甲を持ち、メンテナンスを行わずに数百年稼働可能という画期的なものだった。

陸上では2〜300km程のスピードで機動可能で、海上でも数十kmほどではあるが、ある程度の航行が可能である。陸上での機動が優先されたのは、開発の途上で『深海棲艦』に上陸されてしまったためである。

政府は各都道府県からACのパイロットを募集した。各都道府県の防衛拠点を転々とすることから、ACのパイロット達は傭兵、または『レイヴン』(渡り鴉)と呼ばれた。

そしてここに、新たに『レイヴン』となる男が一人…。

 

『蒼き海への活路』

 

_見知らぬ内地に押しやられて、どれ程の時が経っただろうか。子供の頃は海がすぐそばに見える場所に住んでいたのに、今目の前にあるのは、廃墟と薄汚れた街並みだけ。あまり長い間外にいると、いつ上陸してきた『深海棲艦』に襲われるか分からないから、食料等の補給物資を受け取り、足早に自分達の地下シェルターに戻る。昨日は、となりのシェルターの1人が、『脚の生えた駆逐艦』に喰われて、死んだそうだ。

…こうして、ここで、『深海棲艦』の目的も、何もかも分からないまま俺たちは野たれ死んで行くのだろうか。戻ったシェルターでそう考えていた時だった。シェルターの扉をノックする音が響き、一人の男が入って来たのは。その男は自分は政府の人間だと名乗り、俺たちにこう告げた。

「現在開発中の、『深海棲艦』に対抗できる新兵器のパイロットを募集する_。」

あぁ…ここでこうやって何もせずにいるのであれば、その新兵器とやらのパイロットになって戦ってみるのもいいかもしれない、と俺は思った。人々の為に『深海棲艦』と戦って、また、あの蒼い海を見れるのなら_!

私は両親に別れを告げ、その男と共にパイロット養成施設へと向かった。母は私に「無理はしないで。」と、父は「必ず生きて戻って来い。」と言っていた。時は2010年、14歳での旅立ちだった。

 

『鋼鉄の巨人と共に、海へ。』

 

2012年_16歳

気付いた時には、私はコクピットの中にいた。そうだ、新兵器の名前は『アーマード・コア』。俺は今からそれに乗って出撃するのだ。その為に養成施設で…不思議にも、養成施設での記憶は曖昧だった。1年半ほど訓練していたのだろうか…。ただ、辛かったということだけは確かだ 。

「ヨウコソ、コクピットヘ。」

「喋った!?」

機体のOS(オペレーティングシステム)が突然喋り出す。

「驚カセテシマイ申シ訳ゴザイマセン…。今日カラ私ガ、貴方ノ乗機トナリマス。」

「よ…よろしく…。」

兵器が喋り出すなんて、想定外だった。

「私ノ全システムハ、貴方ニ最適化サレテイマス。コチラコソ、ヨロシクオ願イシマスネ、『パートナー』。」

…これが、俺と『アーマード・コア』の初めての出会いだった。

『アーマード・コア』と搭乗者『レイヴン』の力は凄まじく、徐々に内陸から『深海棲艦』を追いやっていった。自分の機体とも半年以上の長い付き合いになり、愛着を感じ始めていた頃、私はあることに気付く。

「そういえば、まだお前に名前を付けていなかったな。」

「名前…デスカ。」

自分の好みに合わせて、黒と青にペイントし、各所に黄色のストライプをあしらった機体。

「うーん…日本らしい名前がいいよなぁ…。そうだ。」

おもむろにデカールを作成し始める。黄色で月を描き、その月の一部を隠すように雲を描く。そして、大きく漢字で『月』の文字、このデカールを右肩に貼り付ける。

「今からお前の名は『朧月』だ。」

「機体ネーム…『朧月』…承認。インストール…完了。『朧月』…!良イ名前ヲアリガトウゴザイマス、パートナー。」

『朧月』に乗り込み、作戦行動を再開する。その後、また幾つもの戦地を駆け抜け、ついにその時は来た。

「海だ…!」

季節は秋に差し掛かっている頃だった。秋空の下、昔見た時と変わらない大海原が悠然とそこにあった。

しかし…ここから戦況はまた、悪化することとなる。

 

『2つの希望、巡り会う時。』

 

『深海棲艦』との戦いの舞台が再び海上へ戻った。しかし待ち受けていたのは…。

『戦艦』や『航空母艦』といった、今まで見られなかった艦種の『深海棲艦』。『深海棲艦』は進化していたのだ。海上でも通常の艦船と同等の速力を発揮するACでも、徐々に火力差と物量差で苦戦することとなり、ACと『レイヴン』は、その数を急速に減らしていった。

そして、2013年 4月23日…。その日も私は、海で戦っていた。

………

「被弾した!浸水する…!?うわぁっ!!」

「おい!大丈夫か!くそっ…新手の『戦艦』か!」

より強力な『戦艦』タイプの『深海棲艦』…次々と撃破されて行く仲間…この部隊は俺を残して全滅…。

「『朧月』、機体の損害状況は?」

「損傷率、50%ヲ超エテイマス。」

「やれるのか…?だが敵はあの『戦艦』一隻だ!接近すれば…!」

ブーストを吹かして『戦艦』に肉薄する。ライフルを一発、水面に打ち込み水しぶきを立て、目くらましのようにして、『戦艦』の後ろに回り込んだが…。『戦艦』の砲口が、ピタリとこちらを捉えていた。

「気付かれて…うわっ!」

目の前で『戦艦』の砲撃が炸裂し、『朧月』は両腕両足がもげ、数メートル吹き飛ばされ、海面に叩きつけられた。

「シス…テ…ム停…止…」

「ぉぃ…おぃ…!動け…!動いてくれよ!『朧月』!…うっ、ごほっ、おえっ…」

『戦艦』が砲口をこちらに向けながら、水面を滑るように近づいて来る。母と父との約束を果たせず、死を覚悟した、その時だった。突如『戦艦』が巨大な水柱の中に消え、水柱が晴れた時には、『戦艦』は姿を消していた。…援軍?いや、来たとしてもACの装備でこれほどの物はない。考えられるとしたら、艦艇の魚雷…。そういったことをロクに回らない頭で考えつつ、コクピットから這い出て、周囲を見回す。すると、向こうから水面を滑るようにやってくる複数の人影が見えた。『深海棲艦』…?いや、違う。生気を失ったような白い肌ではなく、禍々しい姿形でもなく、手に携えるは連装砲。脚に取り付けられるは魚雷発射管。背中には機関部らしきものを背負い…まるで軍艦「そのもの」のように。しかし、見た目は少女であった。頭の片隅で、日本海軍では軍艦を女性として扱っていたという事を思い出す。まさか…な、と思った。先頭を「航行」していた少女が目の前で止まり、海軍式敬礼をしてこちらに声をかける。

「特型駆逐艦1番艦の『吹雪』です!お怪我はありませんでしたか?」

『吹雪』…知っている。海が好きだから、そこを往く軍艦も昔から好きだった。何度も図鑑や本で見た、当時の駆逐艦を遥かに凌駕する航行性と重装備で世界を驚愕させた特型駆逐艦、その1番艦_!よもやこんな形で、俺の目の前に現れるとは。その後ろには4人の少女達がおり、彼女達はそれぞれ、特型駆逐艦5番艦「叢雲」、特型駆逐艦19番艦又は綾波型9番艦「漣」、特型駆逐艦24番艦又は特Ⅲ型駆逐艦4番艦「電」、白露型6番艦「五月雨」と名乗った。




私はこの時、薄々感づいていた。『彼女達』が俺たちを、世界を救う希望になると。
後に『提督』と呼ばれる一人の『レイヴン』と『彼女達』の物語は、ここから始まる。

残酷な描写タグを付けましたが、残酷な描写はこのCHAPTER_0の「となりのシェルターの1人が『脚の生えた駆逐艦』に喰われたそうだ。」ここだけになりそうです。

主な設定:『深海棲艦』:深海より突如現れた、「艦艇の怨念」。世界中の海洋を支配し、シーレーンを破壊している。日本には上陸するものまで現れた。人の言葉を理解し、喋るものもいる。謎が多い存在である。

『艦娘』:人間の女性の姿をした「艦艇の希望」。艦艇であった頃の自分たちを生み出してくれた人類の危機を打開すべく、人類に協力する。その際、人類とコンタクトを測る為に人の姿を借りて現れた。日本では軍艦は女性扱いされていたため、そのような姿をしていると予測されているが、ドイツからやってきた一部の艦娘を除き、他国のものがどのような姿をしているのかは不明。

『妖精』:『艦娘』と同時期に現れた手のひらサイズの謎の生命体。人類に対しては友好的な反応を見せており、様々な物に『宿る』ことができる。宿った物に対して特化する能力を持つ為、『職人や技術者の魂の具現』ではないかと噂されている。

『提督』:海軍に所属し、鎮守府で『艦娘』の指揮をとる人間の総称。状況判断能力や責任能力が完成され始める18歳以上であれば、適性試験を受け、着任する事が可能。

『鎮守府』:日本の海洋防衛の要となる巨大な施設。全国に複数の『鎮守府』が存在し、『提督』と『艦娘』たちは、基本ここで生活する。戦況の変化に応じて、『艦娘』たちは『鎮守府』を転々とする。

『主人公』:内陸に攻め込んできた『深海棲艦』に対して、人類の反抗作戦が行われた際、人型機動兵器『アーマード・コア』を操る傭兵、『レイヴン』として戦場に身を置いた、若き戦士。三度の飯より海が好き。専門家というには程遠いが、軍艦に関する知識も持ち合わせている。『深海棲艦』に殺されそうになった所を『艦娘』に助けられる。後に『提督』となり、複数の『艦娘』と行動を共にする。1人称は俺、私。

『アーマード・コア』:内陸に攻め込んできた『深海棲艦』に対抗する手段として開発された人型機動兵器。換装が容易で、電磁装甲によりある程度の射撃を跳弾させる。さらに、メンテナンス不要で数百年稼働できる。肩部にはCIWSやミサイルを搭載できる等、護衛艦との互換性もある。

『ACX-1109 朧月』:『主人公』の乗機。中量二脚型であり、漆黒と蒼を基調としたボディに、黄色のラインが映える。人工知能を搭載。脳波接続機構により、人とコミュニケーションをとることができる。至って紳士的な性格で、乗り手の危機を察知すると無人の状態でも駆けつける。

『レイヴン』:人型機動兵器『アーマード・コア』を駆る傭兵の総称。かつては、多くの『レイヴン』が『アーマード・コア』を駆って戦っていたが、戦場が海に移ってからは数が減ってしまった。

『日本』:『深海棲艦』最初期の襲撃によって、大打撃を受けた島国。内陸からの反撃開始に伴い、陸軍が復活。海への戦場移行とともに、海軍も復活。

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