不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第06話 原作「開始」

 

 

 

 

始まった物語

 

刻まれぬ者たち

 

 

皆が笑えるように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夜―――

 

 皆が寝静まった時間、それは届いた。

 

 

≪僕の声が、聞こえますか――?≫

≪僕に少しだけ、力を貸してください。時間が―――!?≫

 

 

「ぬ?」

 

 念話だ。ユーノからの広域念話。

 

「ゆうやぁ………誰かからかは知らないけど、広域念話だよ」

 

 もぞもぞと布団から顔を出して諏訪子が答える。部屋は用意できなかったので同じ部屋内である。精神年齢はともかくお互い見た目は小さいのでこのまま同じ部屋になりそうだ。まぁ別に問題はないが。

 ちなみに諏訪子に関してなんだが、俺の魔力量が問題ないようなのでこのまま人間と同じサイズで過ごすようだ。魔力消費が普通よりも激しいと聞いたが、それは戦闘の話だという。事実、俺にも異常は出ていないことだし、日常面は無問題として片付けた。

 

「そうか。じゃあ寝るか」

「そうかって……助けに行かないの?」

「知らない人からの電話は出ないようにしてるんでな。今日は色々あって疲れたんだよ。あと眠い」

「けっこう、切羽詰まってたよ?」

「そうか」

「…………………」

「…………………」

 

 どうせ霧谷がいることだし、なのはも向かってることだろうし、問題はないと思うぞ。あと眠いし。

 というのに、諏訪子はどうも念話の送信者が気になるようである。

 

「行きたいの?」

「何で行きたくないの?」

「面倒だし。あと眠い」

「じゃあ、ジャンケンで勝った方の言うことを聞くで」

「………エー」

「じゃーんけーん」

「………ネミー」

 

 結果、俺が負けました。

 

 

 

 

 

 

 

「眠いなぁ………」

 

 外に出る格好にして、窓を開けて外に出る。玄関から出ると、母さんや咲夜さんにバレる可能性が高いからだ。特に咲夜さんは危険だ。あの人はいつの間にか俺の背後に立っていたりするから困る。そして光るナイフ。

 

「じゃあ、初めてのユニゾンだね!」

「………もしかして、これがしたいがために?」

「そんなことないよ。さ、行くよ!」

 

 家に帰ってから親………というか、咲夜さんに怒られた後に、俺と諏訪子は契約を結んだ。といっても俺は諏訪子に言われた通りに動いただけで、何がどうなったのかはさっぱり分からない。

 契約の証拠か心の奥底で諏訪子と繋がったような気がして、なんとなく―――ホントになんとなくだが諏訪子の居場所や何を考えているんだろうなーとか、そういったことが分かるようになった。ホントになんとなくだが。

 逆に諏訪子は俺の居場所とかはっきり分かるとのこと。なんでや。

 

「準備はいい?」

「あいあい」

「「ユニゾン・イン」」

 

 実際にどうなっているのかは分からないが、俺の目を眩い光が襲った。いきなりのことで耐えられずに目を瞑る。次に開けた時には、俺は魔導師となっていた。

 シャツもジーンズも全身真っ黒。黒のコートの背中には白の逆十字。肩と腕周りには羽のようなひらひらがついている。まるで、どこかの悪役のようだ。逆に髪はやや茶が強くなったかな?

 

『やっぱり適正が高かったね………』

「お? 諏訪子の声が聞こえる………やっぱりってのは?」

『ん~、ユニゾンした際に格好がデバイス………私に近いと適正が低い。術者、マスターに近いと適正が高いっていうのが一般的な見解らしいよ』

「なるほど。どこからどう見ても諏訪子には近くないよな」

『だねぇ。そんな真っ黒じゃないもん。私』

 

 腹の中は真っ黒そうだがな。

 

「あ、そうだ」

 

 変身魔法が使えないかどうかを聞いてみた。さすがにこのまま「私、魔導師です」という格好で行くのはマズいと思う。霧谷的な意味で。

 なので、出来るならば変身魔法を使ってから行きたい。

 

『出来るか出来ないかで言えば出来るけど、何に変身するの?』

「俺だというのが分からなければいいけど、そうだな………」

 

 茶髪だから、銀に。子供から大人に。バリアジャケットは………そのままでいいや。あとは顔が分からないように、仮面とかを所望する。

 

『一応聞くけど、なんで?』

「あとで答える。今はそれで頼む」

『分かった』

 

 諏訪子からの答えを聞き、すぐに視界が変わる。

 

「どんな感じだ?」

『祐也の中にあったイメージ通りにしたよ』

 

 目の前に鏡を持ち眺める。髪は元通りの黒に戻り、白の仮面の右目のところには黒の雷のマーク。仮面は能面のような不気味なものだ。そして何故か黒の手袋。これはまるで………。

 

「よし、今の俺は【黒の死神】だ。これでいこう」

『その歳で厨二病?』

「なんとでもいえ」

 

 俺の注文通りに変身したのではなく、俺の頭の中にあったイメージをそのまま持ってきたらしい。仮面で黒のイメージが強かったから、出てきちゃったんだな………この人が。この世界にもあるかなぁ………このマンガ、またみたいなぁ。

 

『………………』

「………………」

『で、行かないの?』

「その前に、どうやって飛ぶの?」

『………あーうー』

 

 まずは飛翔魔法だ。てか、忘れてないかね? 私はまだ魔法初心者なのだよ。

 

(諏訪子から魔法を教えてもらってるうちに、終わるんじゃね?)

 

 無情にも時間は過ぎ去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、とある場所。

 無事に諏訪子から飛翔魔法を教えてもらい、なんとか現場へとやってくることができた。

 

 そこに二人の少女と少年がいた。なのはと―――

 

「やはりいたか、霧谷―――」

 

 “転生者”霧谷巧がいた。

 

 

 

『ねぇ、裕也。どうゆう状況かな? これ』

『俺も知りたい。が、概ね理解した』

 

 なのはの近くにいる小さな物体がユーノだろう。ここからでは遠いがいたちのような小さい生物が見える。

 そして、ロリコンな奴らは裸足で逃げ出すような黒い塊―――

 

(ベアードさま、か。これは強そうだ)

 

 別に俺はロリコンではないので、逃げ出すことはないが。若干、後ろ足をひいているが逃げ足ではないしな。何故かは知らないが土下座したくなったが、俺はロリコンではない。もう一度言うが、俺はロリコンではない。

 

「ただ可愛いモノが好きなんだ」

『突然何をカミングアウトしてるのかな?』

 

 おっと、意識がおかしくなっていたようだ。正常に戻さなければ。

 

 

―――グゥゥォォオオオオオオ!!

 

「なのは! 俺が食い止めるから、封印を!」

「―――っ! う、うん!」

 

 

『あそこのちいさな生物が広域念話の送信者だな。魔法生物か何かは知らないが、ただの動物じゃないだろう』

『よく分かるね』

『あぁ、言ってなかったっけ? 俺には魔力の在る無しとか色が視えるんだよ』

『あぁ、だから』

 

 原理は俺も分からないけどな。ちょっと意識を強めて視ようとすれば視えたりする。ただ、ものすごく疲れるからあまり多様はしないがな。

 

『で、なのはが―――あぁ、女の子の方な。が、魔導師として目覚めた。そこに男の奴が乱入してきたってところじゃないか』

『まるで、見てきたかのように詳しいね』

『あくまでも現場から推測したに過ぎんがな。なのはの方はまだ動きがぎこちない………つまり、魔法戦に慣れていない。対して、男の方は手馴れた動作であの黒い塊と戦ってるからな』

『なるほど』

 

「おっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 霧谷は金色に光り輝く剣を創っては、大きく振りかざす。振りかざして生まれたのは破壊の光。一直線に伸びた光はベアードさまではなく、マンションや民家を壊しつくしていく。

 

「ちっ! 上手く避けたか! 次!」

 

 剣は放り投げられると地面に落ちてガラスのように粉々に砕け散った。仮にも伝説の武器だろうに、粗雑な扱い方である。

 

「これは避けれないだろう! 一撃必中の弓! フェイルノートだ!」

 

 今度は黒塗りの大きな弓を創り、ベアードさまに向けて放つ。

 が、

 

「ちっ! 外したか!」

 

『あいつ、今必中って言ったよな?』

『言ってたね』

 

 あらぬ方向に打った矢だが、不可思議な力が働いて軌道を曲げて飛んでいった。これは当たるかと思ったが、これも外れた。必中、どこいった?

 最初に使われた剣といい、先ほどの弓といい、もしかして霧谷は武器の力を正確に使えないのか? それとも霧谷とは別のナニカの力が働いているのか?

 

『ものすごい勢いで周りが壊れていくね』

『そうだな………』

 

 主に霧谷がぶっ壊している。奴の魔法は派手というか豪快というか、一々周りを壊していく。なのはもその有様を青い顔で見ている。

 

『あの男。足止めするとか言ってるけど、出来てるのかな?』

『素人目で客観的に見ても、出来てないな』

 

 霧谷がやっているのは環境破壊、それに尽きる。ベアードさまには俺が来てからは一度も攻撃があたっていない。が、ベアードさまの周りで環境破壊をしているため、結果的にベアードさまは動けないでいる。

 しかし、これを足止めと言っていいのか………?

 

『………あの男が使ってるのも魔法なのか?』

『そうだと思うよ。でも、戦闘経験はないね』

『まぁ、そうだろうねぇ』

『戦闘経験者だったらここまで周りを破壊しないし』

 

 霧谷が使っている武器は、剣だったり弓だったりと多種多様だ。しかも、そのどれもが破壊力が高い代物。

 そんなに武器をどこに持っているのか、といえば、奴は何も無い場所から創っているのだ。

 俺から見たら、それはとても分かりやすい。

 

(確か、Fateのキャラの能力―――投影だったか?)

 

 詳細は忘れたが、魔力でもって武器を作る能力だったはず。ならば、この世界的には“魔力物質化”という形なのだろう。

 諏訪子曰く、魔力で武器を作っているのはわかるけど、あそこまで威力が強いものが創れるのか分からない、という。

 たしかに剣や斧をあんなでたらめに振って衝撃波やビームなどがでるものが普通な訳がない。何かしらの秘密―――宝具と呼ばれる神話の時代の武具を扱っているから、だろう。

 ただ、あんなに次から次へとぽんぽんと造れるものなのだろうか。何かしらのデメリットがあるとは思うが、

 

(何はともあれ―――奴の能力の一つが割れたのは、来た甲斐があったな)

 

 対処が取れるかどうかは分からないが―――いや、そもそも敵対する理由はないのだ。向こう側が積極的に敵対してきそうだから意味が無いかもしれないけど。

 まぁ要警戒ということだな。

 

『知り合いなら助けた方がいいんじゃないの?』

『あれを見て必要と思うか?』

『戦力的には必要ないと思うけど、町がねぇ………』

 

 それは俺も分かるけど、霧谷はウザいからなぁ………。

 

『あ、終わるぞ』

 

「リリカルマジカル! ジュエルシード、封印!」

 

 おぉ、すげぇ。リアルでリリカルでマジカルだ。くるくる回りながらでよく目標を外さないなー。やっべ、可愛いとか思っちゃった。いや、やばくないか。可愛いもんな。なのはは可愛いもんな。

 おっと落ち着け。俺の思考も一瞬リリカルでマジカルったな。恐ろしい。これがリリカルでマジカルか。

 自分でも何を言ってるのか分からないが、結論としてなのはは可愛かった。これでいいや。

 

「やった、のかな?」

 

 レイジングハートから桜色の帯状の光が幾つも飛び、ベアードさまを捕らえて包む。断末魔と思われる雄叫びを上げて、ベアードさまが一つの石になった。

 

(あれが………ジュエルシード…………)

 

『ん? 魔力の篭った石?』

『あれが原因だったっぽいな』

 

 ジュエルシードをレイジングハートが吸い込むと、惨劇の後がみるみる内に元に戻っていった。どうやら、霧谷の奴が結界を張っていたようだ。結界内で壊された物でも、結界を解けば元通り。

 

(便利だなぁ………)

 

『あ、二人とも帰るみたいよ?』

『じゃ、俺たちも帰るか』

『私たち何しに来たんだろうねー』

『融合と魔法のテスト』

 

 原作通りなら、なのはたちのいた通りは戦闘の傷跡が残っていたはずだが、それも霧谷という介入者のおかげでない。今後も奴は関わっていくことになるだろうが、果たして俺はどうするべきか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Story

 

 霧谷と別れた後、なのはが突然頭を抑えて蹲ってしまった。

 

「………っ!」

「どうしたの? なのは?」

 

 こちらの声が聞こえていないのか、なのはから返事は無い。

 

「あたまが………いた、い……」

 

 脂汗を浮かべてなのははそう呟く。痛みを抑えているのか、力強く自分の頭を抑えている。と、すると、

 

「これは…………」

 

 蒼黒い蛇のようなモノがなのはの周りをぐねぐねと蠢いているのが視え始めた。

 

「これは………なんだ? でもなんで、なのはに……いや、今はそんなことはどうでもいい!」

 

 強い魔力の篭もったナニカが視えていた。

 

『Master』

「レイジングハート!?」

『Now, the power near a curse is applied to you(今、呪いのような力がかけられています)』

 

 なのはの首からかけられたレイジングハートが的確になのはの状態を示して伝えた。

 

「なのは! 今なのはは呪われている! その頭痛はなのはが抵抗しているからだ!」

「どう………すれ、ば……」

「僕では呪いを解くことはできない! だから、なのはが自力で打ち破って! 僕も手を貸す!」

「わか………たの……」

「集中して! 結界は張っておくから全力で、自分の中の異物を押し出して!」

「……………っ!」

 

 回復魔法と同時に結界を展開。今回は広域ではなく、なのはとユーノの二人分なので小さくて済む。その分のリソースを回復と少しでも呪いの除去に手助けになるようにとそちら側に行使する。

 

「こ………のっ!!」

「―――つっ!?」

 

―――バキンッ

 

「はぁ………はぁ………はぁ………」

「なのは! 大丈夫!?」

「う、うん………ありが、とう……ユーノ、くん」

「今回復魔法を使ってるから、もう少ししたら動けるようになるよ」

 

 本来ながら正しい手順で解除するものだが、ここには専門の者も誰もいない。この世界の唯一の魔導師であろう霧谷も詳しいという訳ではないようだし、もちろん、ユーノも詳しくない。

 それに推測が正しければ彼が………。

 だから、自力で解除という荒々しい手順だった。一歩間違えれば命を落としかねないことだったことを、ユーノはまず詫びた。

 

「ううん。あのままだったら私も………もしかしたら、死んでたかもしれない。でも、ユーノくんは危険かもしれないけど助かる道を示してくれた。だから、ありがとう、だよ。ユーノくん」

「なのは………」

 

 そして疑問なのだが、あの呪いである。

 強力な呪いだったが、粗雑なモノだったのだ。普通、呪いというのは誰がかけたのか分からないように徹底的に己を隠すものだ。おかげで素人のなのはでも自力で解くことができたのだが………。

 

「あれは、間違いなく……………さっきの魔導師、霧谷がかけたものだった」

「………そぅ」

「なのは?」

「ううん、大丈夫。思い出してきたよ」

 

 呪いが解かれてから、思い出してきた―――霞に消えた日々のこと。

 

 

「やっと、やっと―――会えたよ。裕也くん」

 

 ポツリと零した言葉は本人にも聞こえないような小さい呟きだった。

 

Side Out

 

 

 


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