第05話 「融合」デバイス
もう
なにも
つっこまない……
「ちょっと、そこの君」
「はい?」
ある日のこと。部活は当然入ってなく、サッカーの練習もない日。今日は久しぶりに早く帰れるかなぁと思っていたらのことだった。
「――――へ?」
眼前には黒い空間が広がってた。というか、これはふk―――
『って、何してるのよーーーー!!?』
『いやなに、管理外世界とは言え往来で話すことではないと思ってね。スワコくん。君も隠れていなさい』
『あんたが変な行動とるかつい出てきちゃったじゃない! というか、何でいきなり拉致する必要が!?』
『その方が手っ取り早いからさ。ウーノ、問題はないかね?』
『イエス、ドクター。多少暴れていますが、問題はありません』
いったい何が起こってるのかわからないが、どうやら俺は拉致されるらしい。あと、何の袋か知らないけど、猿轡するならしてから袋で包んで欲しい。
「ンンーーーーーッ!?(なんか変な匂いするんですがーーー!)」
『大人しくしていてください。危害は加えません』
「ンン…………(うぅむ、確かに大人しくしておくか)」
ウーノ、ドクター………これらの単語で思い浮かべるのはStSの敵キャラだが………。本人たちだろうか。何故、このタイミングに地球にいるのだろうか。
そして何故俺を拉致するのだろうか。裕福とは思えない家だが………メイドさんはいるけど。
―第104管理外世界―
「やぁ、気分はどうだい?」
「拉致してきた奴が拉致った奴に言う台詞か?」
「クックック、それもそうだね。さて、時間もあまりないので、さっそく本題に入ろうか」
目の前にいるのは紫の髪に白衣をきた男―――分かりやすく言えば、StSの敵役。もっと言えば、ジェイル・スカリエッティだった。この格好で海鳴を歩いていたのか甚だ疑問である。
「どうぞ」
「あ、どうも」
隣に立ってお茶を淹れてくれたのが、これまた紫のロングヘアーの美人さん―――ウーノさんだった。
そして、俺の知らない………人? か人形か分からないのが一つ、いや一人?
「―――なに?」
「いや、うん………なんだろうかなぁ、と思って」
うん。目の前で浮いている小人さんが、どことなく某巫女さんが出てくるシューティングゲームのボスに似ているんだ。
目玉のついた麦わらにカエルの絵がプリントされた服。金の髪に赤い紐。あなたは祟り神ですか? と聞いてもいいかな? まぁいいか。
「―――で、ここはどこでお宅は誰で俺の人生はどうしてこうなったのか」
「何を考えていたのかは知らないが、今思考放棄をしなかったかい? それと質問ならば疑問形で答えるものだよ」
気のせいだ。
それよりも、質問に答えをプリーズ。
「ふむ。まぁそれもそうだね。影月裕也くん。私の名はジェイル・スカリエッティ。言っても分からないと思うが、次元犯罪者というものだ」
「よく分からないけど、自分で犯罪者とかって言うのはどうなの?」
「クックック、犯罪者を目の前にしてやけに落ち着いているね」
「日々の賜物です」
カオス部屋に入り浸っていれば、多少のことに動揺しなくなるね。これは経験談。知っている顔が目の前に出てきたけど、驚きはおくびにも出さなかったし。さすが俺。毎日咲夜さんに怒られた甲斐があったものだ。
咲夜さん途中で諦めてナイフを取り出した時はホンキで考えたけど、動体視力とか運動神経を鍛えるのにがんばったよ。回避的な意味で。今のところ回避率は0だ。咲夜さんは必中の能力持ちに違いない。
「で、君の横に立っているのがウーノ。私の秘書だ。そしてこちらが―――」
「諏訪子だよ。そこの変態に拉致されて魔改造された元神様」
ん? 今なんか変な単語が入らなかったか?
「いやはや、私は神というものを信じていなかったのだがね。まさか、こうして目にする機会があるとは思ってもいなかったよ」
「私もまさか拉致されたあげく、デバイスとかいう訳の分からないものに改造されるとは思ってもなかったよ。てか、神様なめてない? 分神体とはいえ神だよ? 分神体だけど祟るよ?」
なんか小さい人から黒いモヤっぽいものがちょろっと出ているのが視える。おぞましい感じがするが、少ししか出ていないためかあまり恐怖は感じない。
ウーノさんが怒る小人を宥めつつ、話を聞く。
まず、この小人ことデバイスこと諏訪子と名乗った小人さんは、俺の世界の神様だという。デバイスに改造される前は一柱の神の分け身だったとか。
「ちなみに諏訪子さんって洩矢神様?」
「おー、そうだよ。やっぱり同じ世界の出身者だからかねぇ」
「ふむ、よく分かったね。君。有名なのかね?」
「まー有名と言えば有名かなぁ。でも、私の正体を一発で見極めたのはキミが初めてだよ」
ちなみに、もう神ではないから“様”をつける必要はないよ、って言われたけどねぇ。洩矢神様って祟り神でしょ? あれ? 祟り神の統括神だから祟り神ではないのか? どちらでもいいか。超上の存在であるのは違いないし。変なこと言って祟られても困るしね。さっきも祟るとか何とか呟いていたのを俺は聞いている。
とか考えているのがバレバレだったようで、
「様付けたら祟るよ?」
「おkボス」
祟るのは卑怯だと思う。
「はぁ、今となっては………なんだっけ? 魔導端末? とかって、訳の分からないモノになっちゃったし………もぅ、神を改造とか前代未聞だよー!」
「クックック、私もだよ。中々に良い勉強をさせてもらったよ。礼を言おう」
「そんなんいらなーい! あんたのおかげで本体との繋がりも切れちゃったんだからねー!?」
スカリエッティさんのおかげで諏訪子の分神体は神の本体との繋がりを切られ、元に戻ることはもう不可能なのだとか。目の前の諏訪子は既にデバイスという一個の存在に成り果ててしまった結果だという。
「なるほど。よくわかりました。で、それで何故に俺の拉致に?」
「ふむ。諏訪子くんをデバイスとしたはいいのだが、「よくなーい!」少々特殊な形になってしまったので、適合者がいなかったのだよ」
「特殊な?」
その前に、デバイスとは何なのか。というのを説明してもらった。一応、前世の知識はあるけど管理外世界出身なので、デバイスとかは分からない人なのです。はい。
「それで、諏訪子さんは形としては融合型のデバイスという形になります」
俺が記憶している融合型はどれもこれもが古代ベルカ時代から現存するものである。ミッドチルダ式のは確認されてなかった………はずだ。
StSではやてが闇の書をパワーアップさせていたが、元は闇の書でこれは古代ベルカのデバイスだったはず。
なので、古代ベルカという時代背景がない融合型デバイスはこれが初めての存在ではなかろうか。
「基本的な部分は後で説明します。諏訪子さんの特徴としてですが………」
ウーノさんの分かりやすい説明が続く。
まず、諏訪子は燃費が非常に悪い。他のデバイスと比べると数倍の魔力を必要とするらしい。これは純粋なデバイスでないのが原因らしく、取り除くことはほぼ不可能という。
次に攻撃方法が幾つもあるということだ。融合した状態で指定のカードを宣言することで、そのカードに記された武器や術などを具現化することができるという。
「諏訪子くんを改造中にデータを見つけてね。残りは話を聞きながら創ったものだよ」
元々本体が使っていた武器などのデータは分神体のこっちにも情報という形で残っていたそうで、それをスカリエッティさんが見つけ、攻撃の手段として創ったという。
分神体であるが故に、目の前の諏訪子は使えなかったが、融合デバイスとなった今は限定的にだが使えるようになった。
「元々情報収集用の端末だからねー私は。攻撃手段とかはいらなかったのよ」
「そのおかげであっさりと捕獲できたのは嬉しい誤算だね」
「今はすごく後悔してるけど」
「…………だろうね」
ご愁傷様としか言い様がない。
「話を続けます。整備のことなんですが、普通のデバイスマイスターでは整備ができないことでしょうか」
「神を改造できる人間がそこらにいてたまるもんですか!」
それには概ね同意。
「とまぁ、そんなわけで諏訪子くんは普通のデバイスとは違いがあってね。使用者を限りなく制限するのだよ」
「そこで、俺が?」
「その通りだ! デバイスとして何かを感じ取ったのだろうかね? 君は選ばれたのだよ!」
「ごめんね。なんか、この子とならいけるって言ったら、」
「俺に声かけてこうなった、と」
「うん」「はい」「その通りだ」
頭痛い。
とはいえ、これで念願のデバイスが手に入ったと考えるならプラスか? いや、スカリエッティさんのことはどうなんだろうか。仲間になれとか言われたらどうしようか。
「でもホントに適合するの?」
「あぁ、確かに。それは俺も気になる」
拉致されてからここまで、特に何かを調べられた記憶はないが。
「まぁそれは実際にやってみなければわからないね」
「もし適合できなかったら」
「普通は問題ない。弾かれるか、性能を発揮できないだけで問題はないよ。融合事故とかはたまにあるが」
「うん。問題しかないね」
「まぁ君の心配も分かる。というわけで、やってみようか?」
物は試し。実際に融合をやってみようということになった。
「で、融合ってどうやるの?」
結局、拉致された挙句、今いる場所は地球ではないのだから俺に拒否権はおろか、逃げ道はなかった。
「彼に全力で突っ込んでいけばいい。手を抜いてはいけない。突撃の威力が小さければ事故の可能性が高まるからね」
「―――よし」
「ちょっとまって諏訪子さん。何故に更に離れて勢いをつけようとしてるの? おかしくね? これおかしくね? そしてウーノさん。何故に俺を縛るのか!?」
青紫の光が俺を縛って動けなくする。融合はこんなんではない、はず。はやてとリィンはこんなことをしていなかった、はず!
「死にはしません。恐らくですが」
「や、やめろ! 離せー!」
「いっくよーーーーー!」
――ドンッ!
結果は言わずもがな。諏訪子はただ単に俺を突き飛ばしただけで、融合などできなかった。
「まさか信じるとは思わなかったよ! ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」
あの高笑いがムカツク。そしてウーノさん。忍び笑いをする前に解いてください。
「スカリエッティィィィィィィィイイイイイイ!?」
「ハッハッハッハがふぉっ!?」
そして怒り狂う小人な幼女。俺に突撃したのと同じようにスカリエッティを突き飛ばした。あの小さな体にどこにあれだけの力があるのか不思議である。
「おかしいなぁ………俺、いつの間にカオス部屋に入ったんだろう」
確か、拉致されてきたはずだよな………俺。
「いやいや、久しぶりにあんなに笑わさせてもらったよ」
「体を張ったギャグとかきついんですがね」
諏訪子はウーノといっしょに何かを話している。ちなみに、諏訪子には突撃をもらった後に謝られた。彼女も被害者なのだから、お互い様だ。
「まぁ融合に関しては今ウーノから説明されている頃だろうから、心配しなくてもいい」
「何故にウーノさんから?」
「私はもう信用してくれないらしいのでな」
自業自得だ。
「そんな訳だ。融合に関しては後日、君たちで確認したまえ。その際のレポート報告はよろしく頼むよ」
「はい?」
「おや? 君は諏訪子くんという特殊なデバイスを整備できるのかね? デバイスというのはそこそこの間隔で整備・調整をしておかないとすぐに駄目になるものだよ」
「ぬぅ」
「少々特殊なデバイス故に特に必要だろうがね」
「ぐぬぬ………」
そして渡されたのは銀色の指輪だった。というか、結局融合できるのだろうか。てか、俺が諏訪子を………貰う? でいいのか? こっちとしては嬉しいけど。
「どうしたんだい?」
「いや………ところで、これ何?」
「私が作った通信端末だ。これを付けて手をかざしてみるといい」
言われた通りに左手に指輪をつけて、壁に手をあてるようにかざしてみる。
――ブォンッ
「おぉぉ」
ちょうど顔の位置に何かの画面が浮かび上がる。まるでオンラインゲームのウインドウのような仕様だ。
「録音録画再生に時間、簡易メモなど、一通りの機能は揃っているよ」
言語切り替えも揃っている。日本語と………読めないが、恐らくミッドチルダ語か? 見たこともないような文字で書かれた言語が幾つかあった。
「すげぇ」
「試しに動かしてみるといい」
まるで未来の携帯のようだ。スカリエッティさんの指示通りにコマンドを進めていくと、やがて彼の名が見える場所に辿り着いた。
「そこで相手の名前を選択すると連絡が取れるようになる」
試しにスカリエッティの名を触る。すると、目の前のスカリエッティの眼前に俺と同じように画面が浮かんだ。
「そしてこうなるわけだよ」
「なるほど」
俺の眼前の画面にはスカリエッティの顔。スカリエッティの眼前には俺の顔が映し出されていた。
相手の顔を見ながら話ができるテレビ電話みたいなものか。どうやって顔を映しているのかは甚だ謎だが。
「やっほー」
「ただいま戻りました。それとドクターのお耳にいれてほしいことが」
諏訪子たちが戻ってきた。だが、ウーノさんの顔色はあまりよろしくないようだ。
「ふむ? その反応から察するに、彼らに見つかったのかね?」
「はい。早急に準備を始めなければなりません」
「分かった。ではウーノは準備を」
「畏まりました」
話についていけず、俺と諏訪子は揃ってポカーンとしていた。そうこうしている間にウーノさんはそそくさと部屋を出ては戻ってきたりと、身辺整理に勤しんでいる。
「さて、裕也くん。どうやらこの秘密基地が管理局にバレてしまったようでね。私たちはこれから別の場所に移動しなければならなくなった」
「はぁ………で、俺たちは?」
「もちろん、元の世界に戻すさ。ただ、送り届けることができなくなったということさ」
「なるほど、把握。戻れるなら別にいいや」
「理解が早くて助かるね。ウーノ転移装置の準備も」
「畏まりました」
スカリエッティさんとウーノさんとはそこで一時的に別れた。先も言ったように、諏訪子というデバイスの調整には必要なのだから、嫌でも会うことになる。
どういう形で会うことになるかはその時になってみないと分からないが………。
「おぉー! 地球だー! 海鳴だー!」
場所は高台。太陽が沈んでしまって夜というのは分かるが、時間的に何時頃なのかが分からない。転移する際に、誤差はそこまでないはずというのは聞いていたので、まだ“今日”は終わってないはずだが………。
「それよりマスター? 家に帰らなくても大丈夫なの?」
「おっと、やばい。急いで戻らないと。世界を超えた所為か時計が指す時刻も信用できないしな」
諏訪子とはまだ契約というのは結んでいないので、まだマスターではない。まぁ、最終的には契約して俺のデバイスになってもらうのだが。融合も結局試してないので分からじまいだが、問題はないだろうとの言葉も貰ったし。
「無理してマスターとか呼ばなくてもいいぞ?」
「あーうー、じゃあ裕也って呼ぶね」
「あいあい」
人形だけど、見た目は幼女にマスターとかって呼ばれると、何か不思議な感じがするね。不思議な高揚感が沸き出てくる。
大丈夫。俺はノーマルだ。
「そういや諏訪子は魔法に関してはある程度の知識はあるん?」
「一応ウーノから教わったのはあるけど、あまり威力はないみたい。適合性が低いから、元から使えたものとかそっちの方を使った方がいいかもねって」
「元から?」
「元神の私には人が奇跡とか神秘と呼んだ術式があるのだよ? 人間」
「元神とか言ってて悲しくない?」
「……………………ちょっとだけ」
「今は泣け。うん。泣いてもいいんだよ」
とりあえず、諏訪子の知ってる神の奇跡とかは今は置いておくことにした。何事にもまずは順序があるのだ。使えるかどうかはともかく、それらはいずれ教えてもらうとして、まずは簡単なものからお願いした。
(いやはや。しかしこれで、俺も魔法を使えるようになるな………)
まさか原作開始してから、主人公に次いで俺もデバイスをゲットできるとは思ってもいなかった。
これからは魔法を勉強する時間も作らないとな。
(俺の魔力量はどれくらいなのか。スカリエ………長い。スカさんでいいや)
自分の魔力量など俺では分からない。スカさんに聞いておけばよかった。通信端末はもらったので、連絡は取れるが………。
(どこかで練習できる場所があればいいんだが………)
融合くらいなら家の部屋でもいいが、誰にも見つからず、かつ結界がなくても良いような場所なんてあったっけ? 魔法も使う予定なので、頑丈さも求められる。
そんな場所が………
「あ、カオス部屋か」
あの部屋ならば、誰にも見つからず、かつ結界を張る必要が無い。中で魔法を使ったことはないが、問題はないだろう。たぶん。
――追伸。
家に辿り着いた時間は夜の10時で、咲夜さんに怒られました。まる。母さん? 母さんが怒ったところって俺見たことないよ。
――追々伸。
諏訪子は普通の人間並みの大きさに変身してもらい、家無き子なので拾ってきたということで我が家の家族として受け入れることになった。