不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第03話 お隣の「混沌」さん

 

 

古今東西の神秘

 

 

総じて眠りし墓所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと考えたことがある。

 

 ここ―――第97管理外世界には魔法が無い。しかし、歴史を紐解けば、過去には魔女や魔法使いと言った単語が出ているのが分かる。

 歴史書が必ずしも正しいとは言わないが、ほとんどの者はただの詐欺師と言うだろう。オカルトだ、非現実的だと言うだろう。しかし、こことは違う世界には普通に魔法があり、普及している。

 

 もしかしたら、過去にいた魔法使いたちは、異世界の者と関わり、その技術を教えてもらった人たちなのかもしれない。

 

 この世界には魔法がない―――ならば、ここと次元世界―――魔法がある世界の違いとはなんだろうか。

 人種の違い? 見た目もほぼ違いは見られない。言葉も通じるのは………魔法の力か? 便利だな。魔法の力。

 

(確か、この世界では魔法使いの才能を持つ者は稀少だったはず………)

 

 魔法技術の代わりに科学技術が発達したこの世界では、魔法はもはや過去の産物。古の技術であり、仮想の能力なのだ。

 

(なのに、この世界で在りながら、なのはやはやては魔導師となった)

 

 才能があったから魔導師になれた。では、他の者たちはなかったのだろうか。可能性はないのだろうか。

 

 

―――否。

 

 

 才能の可否はともかく、可能性はあると思われる。それは俺のみが視ることのできるオーラだ。なのはなど体から溢れるほどの魔力のオーラを纏う者は限りなく少ない。今のところ、霧谷を除けばなのはしか俺は知らない。

 だが、量を見なければ皆が皆持っているのだ。注視し、眼を凝らさなければ分からない程に薄く、小さいモノだが………。

 そして、魔法を使うための魔力素もこの世界には満ちているはずなのだ。

 炎や雷などを発生させるだけならば世界に魔力素がなくても可能だろう。現象を起こすことだけに魔力を使えばいいのだから。だが、例えば原作の魔法―――シューターなどの魔力その物を塊にして飛ばす場合はどうだろうか。指向性を持たせるなどはまだ魔力で説明ができるとして、飛んでいる間の形状維持はやはり無理だろう。

 魔力素がない世界とは、つまるところ魔法行使が何もできない世界ということだから。

 

(次元世界から見れば、この世界の魔力素は薄いかもしれないが、魔法が使えないほどのレベルではないはずだ)

 

 それでも、魔法技術が廃れてしまった。御伽話へと消えてしまったのは、過去に世界レベルでの魔法大戦でもあったのだろうか。もしくは、予想以上に科学技術が発展していったのか。

 でなければ、ここまで多くの人が可能性を有しているのに、それを掴みとっていないのが気になることである。

 

 

―――話を戻そう。

 

 詰まるところ、この世界の人間たちは皆、魔導師になれる可能性がある。あくまでも、きっかけだ。

 

「そう、きっかけ―――デバイス、か」

 

 なのはがレイジングハートと出会ったように。はやてがリインフォースと出会ったように。

 魔導師のためのデバイスと出会ったから、彼女たちは可能性を掴みあげることができ、魔法の才能が開花し、魔導師となった。

 

 魔法使いの才能があったからデバイスと出会ったのではなく―――デバイスと出会ったから魔法使いの才能が開花したのだ。

 

 ならば、ユーノの念話はどう説明するか。これはオーラの強さだろう。オーラが濃ければ、多ければ多いほど、才能があり、素質が高いのだろう。

 なのは並………とはいかないまでも、ある程度の魔力のオーラがなければ念話は受け取ることができなかった。

 

(言わば、これが最初の篩いか………)

 

 魔法を知らなくても、存在を知っていれば強化することはできる。俺みたいに。

 当然、魔力放出などやり方も知らないから、マンガや胡散臭い過去の歴史書などで調べて模索しながら、だ。それでも頑張れば、意外となんとかなるものである。もっと方法があるかもしれないが、努力が実を結んでいるので今のところはこの方法を続けている。

 

「あとはデバイスか………」

 

 魔導師になるために必要不可欠な存在―――デバイス。恐らく、それと出会えれば、俺も魔導師として動くことができるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、結局はデバイスかー」

 

 考えをまとめるため、ノートに考察を交えながら色々と書いてみた。あくまでも俺の推測と予想のため、必ずしも当たっているとは限らない。が、良いところをいってるのではないだろうか。

 

「しかし、この世界にデバイスがあるとは思えないしなー」

 

 ジュエルシードが降ってくるまでは、管理局も来ないだろうし………異世界からの侵略者がデバイスを持ってやってこないだろうか。ま、その場合は地球オワタになるが。

 

「あと可能性があるとすれば…………」

 

 俺の隣の部屋である。

 通称『カオス部屋』。自称“冒険者”の親父が世界中のあちこちから変な物をお土産と称して家においていくために出来た部屋である。

 たまに“本物”が混じってたのか、気付けば空間が歪んでしまったのはご愛嬌。おかげでお土産がどんどん吸い込まれていくので我が家としては放置している。

 

「もっかい入ってみるかね………」

 

 念のために水や保存食などを確保。懐中電灯などはいらないかもしれないが、我が家に常備されているサバイバルリュックを背負って、いざカオス部屋へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――カオス部屋。

 

 

「ギャアァッ! ギャアァッ!」

 

 

「ふむ。もはや、天井が見えないこととか、鳥のようなこうもりのような変な生き物にも驚かないレベル」

 

 慣れって恐ろしいものだ。

 見上げた先にあるのは天井ではなく、何故か青空。太陽はない。視線を落とせば、今までの見覚えあるようなお土産が所狭しと乱立している。

 勝手に歩き出す人形や、しゃべりだすお面。不気味な生き物に、空飛ぶ円盤。目玉の見える空間がたまに見えたりするが、全て見慣れたものだ。

 

「ウゴアァァァァァァッ!!」

「あ、わりぃね。今、ちょっと探し物してるんだ」

 

 近くを通ったら棺が跳ね飛び、中からミイラが起きてきたので軽くあいさつをしておく。ミイラは軽く会釈して、どことなく去っていった。

 

「さて、手当たり次第探すか………」

 

 空間が歪んでいる所為か、まっすぐ歩いていても気づけばぐるりと回っていたり、同じ場所を探していたり、いつの間にか壁を歩いていたりするから困る。それでも帰ろうと思えば、すんなり帰れるあたりが不思議である。

 

「とはいえ、俺ってデバイスがどういうものか知らないんだよな………」

 

 レイジングハートは宝石。バルディッシュはペンダントで、闇の書は本であるし、リインフォースは小さい人だ。もしかしたら、そこらの物がデバイスの可能性も無きにしもあらずだが、起動のさせ方も分からない。

 それに、

 

「ここにあるものは普通に危ないものだからな………下手に起動させて死んじゃいました、じゃ洒落にならん」

 

 普通の本かと思ったら、牙を出して噛み付いてきたりするものもあるから困る。

 

「あるといいながある~………さて、探すか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、分かってたけどね」

 

 結局、あれから疲れるまでカオス部屋を歩き回り探してみたが、見つからなかった。

 途中、ミイラがミイラを片付けていたが、なんだったのだろうか。うちに侵入しようとした泥棒がカオス部屋に入ってしまい、出られなくなってミイラになったとかってオチだろうか。

 

「いやまさかね」

 

 そういえば、デバイスではないが黒い大きな棺があった。開けてみたら、羽を生やした少女がすやすやと寝ていたので、そっと戻しておいた。羽があったし、人間ではないだろう。恐らく、吸血鬼かな? いるかどうかは知らないが………。

 

「って、月村の一族って吸血鬼だったっけ?」

 

 しかし、何故この部屋で寝ているのかが分からない。まぁ、今のところ害はなさそうだし、別にいいか。あとは、気のせいかもしれないが、やたらと本が多くなっていた。こんなにお土産に本があったっけ?

 

「あとは階段だね。絶対、下のリビングではなくて、別の異世界に通じてるであろう階段。あそこは降りるべきだろうか」

 

 先は気になるが、今はやめておいた。今度、時間と余裕があるときにでも行こう。そのときには、また更にカオスになっている可能性があるが。

 

「さて、帰るか」

 

 俺がそう思えば、目の前に見慣れたドアがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Story

 

 

「―――ふぅ、行ったのね」

 

―――バサリッ

 

 一冊の本が勝手にめくれ、やがて膨れ上がり、一人の少女の形を取る。

 

「まだ会う訳には、と思ったけど………別に気にしなくても良かったかしらね」

 

 少年が言っていた“カオス部屋”。なるほど得てして納得。ここは、正にカオスがふさわしい空間だ。

 古今東西の魔法具や英雄と呼ばれた者たちが使っていた武具など、どこを探して集めてきたのか知らない不可思議なものまで数ある。強力な個が一箇所に集められたことにより、空間は歪み、本来とは違う広さにまで膨れ上がった。

 これを中から調整・安定化させているのが彼女―――パチュリー・ノーレッジであり、外からは―――

 

「紅茶をお持ちしました。パチュリー様」

 

 咲夜の仕事であった。

 

「あら、ありがとう。ちょうど、欲しかったところなのよ」

「裕也様はお帰りになりましたか?」

「えぇ、先ほどね。何かを探していたみたいだけど、見つからなかったみたいね」

「ここにお探しになるとは、よほど手に入るのが難しいものなのですかね?」

「さぁ、私は見ていただけだから分からないわ。それにしてもたいぶ増えたわね………」

「寛治様から送られてくる物以外にも、世界の壁を超えて集まってきてしまいますから」

 

 裕也の父親が旅帰りにお土産をこの部屋に放り込んでいくが、それ以外にも雑多な物がある日突然出現するのだ。空から降ってくるのも見慣れた光景である。

 

「もう少し拡げる必要があるかもしれないわ」

「畏まりました」

 

 カオス部屋の空間を操り拡大化させているのは咲夜の仕事で、それを調整・安定化させているのが中にいる少女―――パチュリーである。

 

「そちらの生活はどう?」

「中々に楽しいものですよ。特に裕也様は反応が一々可愛くて困りものです」

「ふふ、楽しんでいるようね。上々」

 

 そこにぺたぺたと足音が響く。先ほどの羽の生やした少女が目を擦りながら、二人のところへと歩いてきた。

 

「ふわぁぁぁ………あら、おはよう。咲夜」

「お嬢様。おはようございます。今日はお早いですね? まだ夕方ですよ」

「そうね。一度蓋を開けられたからかしら? なんか眼が覚めちゃったわ」

「あぁ、そういえばあの子。レミィの棺、開けてたわね」

「普通はあぁいったものは避けると思うけど、まさか開けられるとは思わなかったわ」

「もう慣れたのよ。歩くミイラとかに普通にあいさつしていたわよ」

「人間はたくましいなぁ………」

 

 レミィ―――羽の生やした少女がパチュリーの隣に座る。彼女の名は、レミリア・スカーレット。見て分かる通りの吸血鬼である。

 

「お嬢様、紅茶です」

「あら、ありがとう。こちらはもういいわよ。向こうの生活があるのでしょ?」

「はい。では、お先に失礼致します」

 

 綺麗にお辞儀して、咲夜はその場を後にした。裕也同様、帰ろうと思えば入り口が目の前が現れる。これもパチュリーのおかげである。

 

――パタンッ

 

「―――それで、あとどれくらいでここから出られそうなの?」

「まだ分からないわ。広すぎるのと、手が足りないのとで時間が足りないわ」

「そう。焦ることでもないし、ゆっくりでいいわよ。この生活も中々楽しいものだしね」

「そうさせてもらうわ」

 

 お互いに適当なところに腰掛け、咲夜の淹れてくれた紅茶を飲む。もちろん、テーブルも椅子も何もない。適当に棚のような置物に座っている。

 

「しかし、危なかったわ」

「危なかったって?」

「あの子、妹様の部屋に行こうとしてたわよ。直前で止めたけど」

「命知らずね………って言っても分からないか」

「遊び道具が多いおかげで癇癪は起こってないけど、まだ会うには早いわね。殺されるだけよ」

「そうね………あちっ」

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて―――ッ!?」

「どこに行くんですか? 裕也様」

 

 サバイバルリュックを元の場所に戻して、部屋に戻ろうとしたら咲夜さんが目の前にいた。気配とか全然感じなかったけど、いつからいたのだろうか。

 

「サバイバルリュックを持って、もしかしてまたあの部屋に入ったのでしょうか?」

「いやいやまさか。そんなやくそくごとをやぶるわけがないじゃないですか」

「こちらを見て言って下さい。裕也様」

「あーおれしゅくだいしないといけないんだったー」

 

 この場に留まっては危険だと本能が告げるので、俺はそそくさと逃げ出した。

 

「その前に、私とお話をしましょう」

「わぁい」

 

 が、回り込まれてしまった。

 脳内では「知らないのか? 魔王からは逃げられない」と誰かの声がした。

 

 

―――カオス部屋。

 

―――色々と危険なため、俺は出入り禁止にされている部屋。

 

 

「ていうか、いつ帰って来たの? 全然気づかなかったんだけど」

 

(あの部屋では誰かが玄関に入ってきたら、警報がなるはずなんだが………)

 

(パチュリー様に警報は切ってもらいましたから鳴りませんでしたしね。あの部屋に入っていれば気づかないのも無理はないでしょう)

 

「裕也様があの部屋に入られてる間にですよ」

「確信してましたか」

「えぇ」

 

(私もその場にいましたから)

 

 

 


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