不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第02話 刻まれない者との「邂逅」

 

 

 

 

やがて始まる物語

 

それはかつての軌跡とは違く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日のことだった。

 

「おい、てめぇ………ちょっと面貸せ」

「は?」

 

 日本人離れの格好した転生者と思われる日本語ペラペラな銀髪オッドアイな霧谷にいきなりそう言われた。てか、子供が面貸せとか言われても理解できないだろうに。

 

「いいから、こっちこい!」

「へぇへぇ」

 

 そういってついて行った先は幼稚園の裏庭だった。定期的に芝刈りでもされているのか、広くはないが子供たち数人が遊ぶには適度な大きさの平らな場所だった。

 

「…………」

「ん?」

 

――キンッ

 

 衝撃波、とは違う。何か得体の知れないエネルギーのようなものが体を突き抜けていった。ふと、見上げた空はマーブルのような不思議な色をしていた。

 

「結界を張った。これで邪魔者はいねぇな」

「……………」

 

 魔法は秘匿するもの………は、別世界だったか? だがまぁ、あまり大っぴらにしすぎじゃないだろうか。

 一応、俺は一般人だというのに。

 

「なんだこれ? 結界とかって、お前マンガの見すぎじゃね?」

「は、これだからモブは………まぁ一々説明するのは面倒だからしねぇが」

 

 しないのか。

 お前バカだなーとか目で言われても、俺からしたらお前の方が頭可哀想だなぁとしか思えん。絶対、将来注意されるぞ。

 

「まぁいい。おまえ、俺のなのはに近づきすぎだぞ!」

「は?」

「今は何もしない。だが、これ以上近づくというなら………殺すぞ?」

 

 俺の胸倉をつかみ上げ、叩きつけるように言う。しかし、殺気の篭ってない目で言われたところで恐怖など何も無い。むしろ、疑問しかわかないが………。

 

「何で、なのはが“お前の”なんだよ?」

「はっ、俺がオリ主だからに決まってるだろ?」

 

 おりしゅ……オリシュ……あぁ、オリジナル主人公のことか。

 

(あぁ、やはり――――)

 

 こいつも“転生者”だったか。

 とりあえず、今はとぼけておこう。

 

「おりしゅ? なんだそれ?」

「ふんっ、モブ野郎には関係ねぇことだ。いいか、俺のなのはに近づくな!」

 

 ドンッと押されて尻餅をつく。その間に、霧谷はズンズンと歩き出して行ってしまった。

 

「………わざわざ、あれを言うためだけに結界を張ったのか?」

 

 最初は、こちらが転生者というのがバレて結界を張ったのかと思ったが、どうやら違ったようだ。もしくは、先のやり取りで転生者ではないと思ったのか………。

 どちらにしろ、ご苦労なことだ。

 

 

「裕也くん!」

 

 

 どこかに隠れていたのか、慌てたなのはがやってきた。

 

「よぉ」

「大丈夫!? 怪我とかしてない!?」

「大丈夫だ」

 

 奴には単に押されただけだし、斬った張ったの喧嘩をした訳でもない。

 

「それで、どうしたんだ?」

「……えっと、裕也くんが裏に連れてかれて、それで………心配になって………」

 

 項垂れるなのはの頭に犬耳としょんぼりした尾が視えた―――気がした。とはいえ、やはりなのはには魔導師としての才能があるようだ。

 奴の張った結界を素通りしてきたようだし。

 

「ふむ」

「にゃ?」

 

 犬かと思いきや、鳴き声は猫という。これいかに。

 まぁそれはともかく、俺はなのはの頭を撫で続ける。

 

「はぅぅ………」

「わざわざ、ありがとな」

 

 奴に言われたからといって、なのはから離れるとかはしない。ここまで関わっておいて今更離れるとかありえない。このまま原作自体にも関わっていくかどうかはまだ分からないが、今日分かったことがある。

 

(俺にはまだ力が足りない………)

 

 魔力を視ることができるので、鏡で自分を視て見たが、俺にもオーラは見えた。霧谷に似た蒼く、それでいて白いような光が。これが俺の魔力光だろう。

 蒼白。なんか、しょぼそうだ。

 しかし魔力があったところで、行使するための技術もデバイスも無い。

 

(奴が敵に回った時、俺には対抗するだけの力がない)

 

 これは早急になんとかしたいが、現状では何もできないだろう。

 

 

「………やくん!」

 

 

「裕也くん!」

「おぅ!?」

「大丈夫?」

「あぁ、ちょっと考え事してた。そういや、千羽鶴はどうだった?」

「あ、あのね! この前、お父さんが起きたの! 千羽鶴のおかげかもね!」

「ほぅ! やったじゃないか」

 

 数日かけて作った千羽鶴を士郎さんの病室にかざったのがこの前。その翌日には意識が戻ったという。奇跡だとか医者も驚いていた。

 今では話をする程度は問題ないが、退院にはまだもう少し時間がかかるという。

 

「もう少しの辛抱だな」

「………うん。もう少しで、終わっちゃうんだね」

 

 なのはがうちに泊まるのも終わりが見えてきた。

 

(ま、こればっかりはしょうがないか。誰だって、家族と一緒の方がいい)

 

 士郎さんが退院すれば、余裕のなかったなのはの家族たちにも余裕が生まれるだろう。そうすれば、なのはも寂しい思いはしないはずだ。

 

――むに~っ

 

「ひゃ、ひゃいふうお?」

「お前に泣き顔は似合わんぞ。別にもう会えなくなる訳じゃないんだし、な」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから更に時は過ぎ―――

 

 士郎さんは無事に退院。意識が戻ってからは順調に順調で、あっという間の出来事だった。なのはのうちへのお泊りはこれにて終了となった。

 なのはのお母さん―――桃子さんとはこの時会い、“これからもなのはと遊んで欲しい”と頼まれた。まぁ、俺でなくても憂いがなくなったなのはは明るくなったし、壁っぽいものも作らなくなった。友達も増えていくだろう。この時期に作っておけば、小学校で独りになるとかもないだろうし。

 

 そして、俺は少しずつ前と同じポジションへと戻った。

 

 なのははなんだかんだと言いながらも、外で友達と遊ぶのは好きなようだ。精神が成熟していると思いきや、子供らしいところもちゃんとあった。

 だからか、俺はなのはたちとあまり遊ばなくなった。

 精神が成熟し過ぎてしまった弊害―――答えを知ってしまったゲームには面白みを感じなくなってしまっているし、何よりバランスを崩してしまうのが申し訳なかった。かといって子供のフリをしたりするのも疲れる。よくあの名探偵できたよな………。

 もちろん、呼ばれれば行くが………それくらいだ。自分から進んで行くことはしなくなった。俺が行かなくても、なのはには友達が増えたからだ。

 

「………………」

 

 この頃から、曖昧だが、女子と男子は別れて行動するようになってきた。お互いを異性と感じ始めたのか………それにしては早いような気がするが。

 もちろん、完全に別行動ではない。霧谷はもちろん、女子のグループに混ざる男子がいれば、男子に混ざる女子もいる。だが、総合的に見れば、分かれてきているのだろう。

 

「―――まぁ、なのはにも笑顔は増えたし、もう寂しい思いもしないだろう」

 

 幼稚園自体はこれにて終了。次は小学一年生―――

 

 原作開始まで、あと二年である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――歳月は流れ

 

 

 私がまだ小さい頃―――本当に私の手がまだ小さい頃。

 

「――たら、―――に――――んじゃね?」

 

 私に手を差し伸べてくれた男の子がいた………ような気がした。ずっと、私といっしょに居てくれた、優しい人だった。

 姿を見ようにも、霞がかかったように私には見えない。ただ、男の子だというのは分かる。お母さんとは違う、優しい女の人もいたことも知っている。

 

「―――――――――――――」

 

 あぁ、もう、声も聞こえない。

 

(もうすぐ、覚めてしまう………)

 

 夢の中だったらいつも会えるのに、起きてしまったら忘れてしまう。

 

「ごめん………なさい………」

 

 毎朝、私は泣きながら起きる。

 とても悲しくて、苦しくて、何とかしたいけれど、何もできない自分が更に嫌で―――

 

 

 あなたのことを忘れて、ごめんなさい―――

 

 大好きなあなたのことを、忘れて―――

 

 

 どうか、また手を差し伸べてください。

 

 私が、あなたのことを思い出しますように―――

 

 

Side Out

 

 


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