新しい力
新しい出会い
新しい世界
暑くなってきた今日この頃。今日もはやては庭で家庭菜園をしている。順調に育っているナスをどうにかして倒したいのだが、咲夜さんがはやての味方に加わったために中々それもできないでいる。
このままでは我が家の食卓にナスが並んでしまう。
「―――というわけで、どうにかできませんか?」
「諦めなさい」
諏訪子はもちろん、我が家に俺の味方はいなかったのでこうして紅魔館までやってきている。だというのに、目の前のパチュリーさんは冷たい一言を残して本に夢中である。
「むきゅー! むきゅー!」
「ちょっ!?」
―― 少年お仕置き中 ――
「誠に申し訳ない」
「まったく………」
あまりにも周りが冷たかったのでちょっとやけになって、パチュリーさんが読んでた本を奪っただけなのに魔法で折檻されました。こっちは諏訪子がいなければ何もできないからな。それをいいことに、一方的にやられました。
「あなたの所為で図書館が崩れてしまったじゃない」
「やったのはパチュリーさんですよ」
パチュリーさんが放った魔法の影響で本棚が大変なことになっている現在のヴワル大図書館。本はパチュリーさんの魔法によって無事に保護されているが、本棚まではやってなかったようである。
ところどころに氷付けや燃えて焦げた本棚が見える。
「まぁ困るのは“こぁ”なんだけどね」
すぐに思考の外に追いやったようで、パチュリーさんは読書の続きに入った。すごいね、机も吹っ飛んだからって空中に腰掛けてるよ。
「こぁーーーーー!」
俺たちの向こうでは悲鳴をあげる赤茶の髪を持つ女性が見えた。
「あ」
「どうやら、見つけたみたいね」
今までどこにいたのかは知らないが、どうやらこの惨状を見つけてしまったようである。
「ぱ、パチュリー様!!」
会社のOLを思わせるような黒と白の服装。だが、彼女の背と頭からはコウモリのような羽が生えているのが分かる。どうみても、人ではない存在。
彼女は“小悪魔”に分類される悪魔の1人―――ただ比較的弱い悪魔のために契約者であるパチュリーさん以外には名を明かせないらしい。悪魔にとって名を明かすというのはそれだけ危険な行為とのこと。なので、パチュリーさんも含めて彼女のことは“こぁ”と呼んでいる。小悪魔のこぁである。命名は諏訪子だとか。
「ちなみに彼女が命名するまで、こぁのことは<―“放送禁止用語”―>と呼んでいたわ」
何故そのような卑猥な言葉で彼女のことを呼んでいたのかは分からないが、諏訪子に命名された時の彼女はホッとしたような微妙な笑みを浮かべていたそうだ。
―― 閑話休題 ――
「パチュリー様ーーー!」
パタパタと背中の羽で飛びながらパチュリーさんのところへとやってきたこぁさん。その大きな瞳は既に涙でいっぱいである。
「本棚が! 本を仕舞うべき場所の棚が!」
「えぇそうね。よろしくね」
「無理ですよぉ!」
ヴワル大図書館には大量の本があり、それらを押し込めている本棚も大量にある。それらの大部分がぶっ倒れたのだ。更に一部は焦げたり氷ついたりと、色々と大変な状態になっている。こぁさん1人ではさすがに無理だろう。
「1人で無理なら門番を連れてくればいいじゃない」
「美鈴さん………でも、無理じゃないですか?」
門番こと美鈴さん。まだ会ったことはないが、咲夜さんから色々と話を聞いている。でも、さすがにあの人でもこれらは無理ではなかろうか。
「パチュリー様! 本棚を直してくださいよ! でないと、私は魔界に帰りますよ!」
と叫ぶはいいが、実際は契約に縛られているために簡単に魔界とやらに帰ることはできない。それはパチュリーさんもこぁさんも分かっているが、それぐらいの覚悟はある、ということだろう。
「はぁ、仕方が無いわね」
やれやれ、と呟いてパチュリーさんが立ち上がった。ふわふわと浮かんで、倒れた本棚たちを次々と立て直していく。ついでに修復も行っているようで、焦げてたり凍ってたりしていた本棚がまるで新品のようになっていた。
「改めて、魔法ってすげー」
「パチュリー様はやればできるのに、中々やってくれませんから………」
それ故に“動かない大図書館”などと二つ名が付いてしまった。本人は特に気にしていないのか、動かないスタンスは今も変わっていない。
「終わったわ。後はよろしくね」
「うぅ………」
本棚は見たところ、確かに直っている。だが、崩れた際に零れた本たちがあちこちで山を築いていた。ある程度戻す場所が分かっているだけまだマシだと思うが、量が量だけになんとも言えない。
「大変そうだねー」
「でしょうね」
「でしたら! 手伝ってくださいよぉ!」
こぁさんの泣き声が周囲に満ちる。手伝いたいのは山々だが、俺ではどこに何の本を仕舞うかの判別ができない。パチュリーさんは絶対手伝ってはくれないだろうし、こぁさんに助言を求めたところで二度手間。
俺が手伝うよりもこぁさん1人で行った方が早いのは明らかである。
「それはあんたの仕事。あんたは私のどr……従者で、私は契約主」
パチュリーさんパチュリーさん。今、奴隷って言いかけませんでしたか?
「ですけど! まさかここまで多いとは思いませんでしたよ!」
パチュリーさんはこぁさんを魔界から呼び出す際に1つの契約を行った。それが図書館の本の整理をすることである。
ここで契約主であるパチュリーさんは少ない対価で最大の仕事をさせたい。逆に、悪魔であるこぁさんは最高の対価で最小の仕事をしたい。それらをお互いに妥協させていくのだが………。
「確認しないあんたが悪い」
「こぁぁ………」
こぁさんは2~3質問しただけで、契約してしまったらしい。相手も悪かったけど、場所も悪かったんだろうね。
パチュリーさんがこぁさんを呼び出したのは、こことは違う別室である。図書館の本の整理と言って、パチュリーさんが指差したのは別室に
早合点してしまったこぁさんはそれを見て、聞かされた対価と比べてすぐさま契約を結んだ。全てが終わった後に、明かされた真実。その時、彼女はどう思ったんだろうか。
「あれだけの量ならば数時間で終わると思って、おいしい仕事と思ってたのに」
「契約は契約よ。騙される方が悪いのよ」
悪魔さえも騙してみせる魔女“パチュリー”。今日もこぁに本の整理という新たな拷問をさせつつ、彼女は紅茶を片手に読書に勤しんでいた。
この図書館には以前のカオス部屋たる部屋が存在している。当然、そこには未だ整理されていない本たちが大量に残っている。更に、カオス部屋の機能はまだ残っている。つまるところ、ここの本は不定期に
そしてこぁさんは“図書館の本を整理し終わる”までが契約である。未だに大量にある未整理の本。そして増えていく本。彼女が魔界に帰れる日は来るのだろうか………。
(どうみても整理される本よりも未整理の本が増える方が多い………)
「で? 今日は何の用?」
「あぁ。そうだった。なんでも、バインドが出来たって聞いたけど?」
「あぁ、あれね」
俺もこぁさんをスルーしつつ、今日来た目的を話した。いつだったか忘れたが、パチュリーさんにバインドが再現できないかを相談したのだ。バインドでなくてもそれっぽいもので十分であることも踏まえて。
で、それがついに出来たらしいので、こうして訪れてきたのだ。
「まだ完成ではないけどね。実際にあなたが使ってみて試してみなさい」
渡されたのは数枚のカード―――スペカだ。マジックバインド、それがパチュリーさんが制作した俺が使えるバインドだ。実際、俺の魔法にスペカは必要ではないのだが、自己暗示のために毎回使ってたりする。
「で、これは彼女を作った人に渡しなさい」
「こいつは?」
「設計書ってところかしら? あなた、スペカ作れないでしょ?」
スペカは使った分、諏訪子が制作してくれている。俺も作れるかもしれないが、制作方法が分からないので作れない。そして、基本的に諏訪子が作る場合は自身の中にそのスペカのデータがないと作れない。
つまり、マジックバインドは使ったら補充が出来ない、ということになる。
「彼女に渡してもいいけど、一応両者に見せておきなさい」
「りょーかい」
諏訪子に見せて本人が覚えればデータとして残るのだろうか。やはり、一応スカさんにも見せておいた方がいいかもしれないな。諏訪子は嫌がるかもしれないから、こっそりと見せるか。
「じゃあ、今日はもう帰りなさい」
「うぇい?」
「レミィがさっそく異変を起こしたからね。騒がしくなるわよ。これから」
「あぁ………」
先ほどから聞こえないようにしてたけど、このドンパチ音は幻聴ではなかったのか。ということは、今戦っている相手は紅白巫女と白黒魔法使いなのだろう。
「パチュリー様。巫女が2人、こちらに向かってきているようです」
「分かったわ。適当に相手しておくわ」
咲夜さんが突然現れた。毎度のことなのでもう慣れたけど、巫女さんが2人?
「はい、咲夜さん質問です」
「あら、裕也様。ここらへんはもうすぐ戦場になりますから、戻った方がよろしいですよ」
「はい、すぐ戻るけど………来てるのは巫女2人?」
「えぇそうです。黒髪の巫女と緑髪の巫女。ただ、外の世界で見た巫女とは少々違っていたような気はしますが………」
黒髪の巫女………は、間違いなく“霊夢”のことだろう。緑髪の巫女は“早苗”のことかな。うちのカオス部屋に長い間捕らわれていたから、俺の知っている異変の順番とは違うみたいである。
もし、緑髪の巫女が俺の知っている通りならば、諏訪子の本体は既に幻想郷に入ったってことになる。
「ふむ………」
「裕也様。考え事ならば戻られてからにしてください」
「ん。了解。じゃー、パチュリーさんもありがとー」
「えぇ」
図書館の奥の目立たない位置にある扉から出る。すると、あら不思議。そこは図書館ではなく、我が家の廊下であった。
「異変はそう長くは続かないはずだから」
少なくとも今日一杯は向こうに行かないようにすれば、問題はないだろう。
「あぁ、だから今日の夕飯は出前になったのか」
我が家は基本的に咲夜さんが料理を作り、出前というものをしない。それが、今日の夕飯に限って出前となった理由は咲夜さんが向こうにかかりっきりになるからだろう。
「なるほど納得。んじゃ、他の人にも伝えておきますかね」
「あら、おかえりなさい」
「おかえりー」
母さんたちに伝えて自室に戻ってきたら見知らぬ人がいた。いや、見知らぬけど見知ってる人がいた。
ん? なにかおかしいな。
「…………………どちらさまで?」
車椅子に座っているはやて。そして、その前にいるのは椅子に座っている金髪の美女さんだ。紫のワンピースみたいなドレス。長い金髪を結ぶ赤いリボン。そして特徴的な頭の帽子。
まさかと思いますが、幻想郷の生みの親の人ですかね?
「こうして会うのは初めましてになるわね。八雲紫と申します。よろしくね、裕也くん」
「えっと、うん? よろしく?」
やはり彼女は妖怪の賢者と言われた人―――妖怪でした。
「ぬわっ! うそっ! うち負けた!?」
「うふふふ」
とりあえず、そのPFPを置こうか。2人とも。
◆
「それで、今日は一体?」
「あら、前に伝えた通りよ? あなたを幻想郷に迎えに来たの」
ふと思い出す日記帳に挟まっていた手紙。いつ来るかなって思っていたけど、また突然きましたね。
「えっと、それって今から?」
「いいえ。さすがにそれだと裕也くんが無理でしょ? 確か………学校でしたっけ? それがあるものね」
幻想郷にどれくらい滞在しているのかにもよるけど、平日は厳しいだろう。となると、休日くらいだろうか。
ケータイを開いてスケジュール帳を確認して、暇な日を探す。
「次の土曜なら、大丈夫かな?」
「そう。じゃあ、その時にまた迎えに来るわね」
「なぁなぁ、それってうちも行ってええねんか?」
すっかり忘れてたが、ここにははやてもいたんだった。普通に聞かせてたけど、別に問題ないよね?
「えぇ、もちろんですわ。幻想郷は全てを受け入れますわ」
「やった!」
なるべく家にいるようにしていたはやてだが、スカさんの魔力カプセルのおかげか最近は自分から外に出るようにしていた。もちろん、はやてが外出する場合は誰かしらが傍に付き添っているが。
万が一に発作が起こったとしても、それをなんとか出来る手があるだけでも彼女には救いだったのだろう。
「あと、休日だけで良いんだよね?」
さて、幻想郷に行くのは良い。なんだかんだで楽しみなところはあるし。ただ、幻想郷に行って置いてかれたら帰れません………ってはならないか。いざとなったら紅魔館に行けば、そこから先は我が家に繋がっている。
「えぇ。もちろんよ。裕也くんが帰りたくないって言ったら、そのまま残っていてもいいわよ?」
「………長期滞在は夏休みに、なってからかなぁ」
小学校だからサボったところで問題はないと思うが、今からサボり癖を付けるのは将来的にマズい。それに大分この体に馴染んだおかげか、以前ほど精神と肉体がチグハグではない。つまり、友人たちと遊ぶのがすっごい楽しいのだ。
「その時はその時でまた迎えにくるわ」
綺麗な笑顔を浮かべる紫さん。だけど、どこか胡散臭いと見えてしまうのは原作通りだな。口に出した瞬間に叩かれそうなので、絶対に言わないが。
「ところで、何で俺なの?」
前々から思っていた疑問を、ふと思い出したので聞いてみた。
―――何故俺なのか?
誰でも彼でも幻想郷という楽園に行ける訳ではない。その楽園は結界に守られて、外からの侵入者を拒絶している。世界から忘れ去られた存在や、消えかけている存在。または目の前の紫さんに気に入られた存在などが招待されて行けるはず。
だというのに、何故俺が選ばれたのか?
「ふふふ、それは裕也くんが“影月寛治の息子”で“藤原澪の子供”だからですわ」
「え?」
「では、次の土曜日にお会いしましょう」
スッと空中に出現した切れ間の中に潜り、紫さんは何処かへと消えてしまった。今のがスキマ移動なのだろう。あっという間だった。
目の前でずっと見ていたというのに、本当に消えたとしか思えない。
「藤原って………?」
「確か、母さんの旧姓だったな」
親父と母さんの名が出てきたってことは、3人は知り合いか何かなのだろうか。親父は違和感がないけど、そこに母さんも入るのだろうか…………………あ、違和感ないわ。
親父も母さんも何をしててもおかしくはないわ。
「うーん」
「今度にでも聞いてみたらええやん?」
「だな。次はいつ帰ってくるかは分からんが………親父たちならば、納得できてしまうのがなー」
「寛治さん、ハチャメチャやもんなー」
ハチャメチャというかカオスってるというか。1番最初に俺の常識を壊してくれた人だからなー。
「せやけど、紫さんって妖怪なんやなー。世界は広いで」
「まったくだな」
世界は広しと言えど、我が家ほどカオスな家はないだろうな。これだけは絶対言える。
翌日。
母さんとドラマを見てた諏訪子をらt―――捕まえて、マジックバインドのことを伝え、一緒にスカさんのところに行くことになった。
「いやだー! いやだー!」
本人も納得してくれたようで何よりである。
「やだー! 私は帰るー! 澪とドラマ見てるー!」
少々うるさいから、さっさとスカさんの家に行くことにしよう。ご近所さんの目もなんか少しずつと鋭くなってきたし。
大丈夫です。僕たちは仲の良い兄妹ですので。何も心配はいりません。
◆
「というわけで、これ」
「フー! フー!」
諏訪子はチンクによってバインドで拘束されている状態だ。あまりにもうるさかったので、猿轡もさせて口を塞いでいる。何も知らない人がこれを見たら、幼女を拉致監禁していると思われても仕方がないだろう。
「ふむ。なるほどな………」
スカさんにパチュリーさんから渡されたマジックバインドの設計書たる物を渡した。それをパラパラと見ながら、スカさんは1人納得して頷いている。
「素晴らしいな。我々の扱うバインドとは似たようなモノであるが、やはり違う」
「あ、やっぱり違う?」
「うむ」
スカさんたちが言うミッドチルダやベルカ式のバインドは3次元の空間に固定して、相手の動きを封じるタイプのもの。それに対して、パチュリーさん考案のマジックバインドは、空間ではなく相手に直接設置して固定するものである。
「マジックバインドの場合、設置されたとしても多少ならば動くことも可能となる。かなり動きは制限されるとはいえ、完全に封じることは難しいだろうね」
従来のバインドには負けるかもしれないが、これにはこれの利点がある。まずは、破られ難いということだ。従来のバインドならば力や魔力任せに引き千切ることが可能だが、これはそうもいかない。後は未完成という点だ。つまるところ、これからもパワーアップや機能の追加が望めるということだ。
そもそもバインド自体が使えなかった俺自身としては、使えるようになることはとてもありがたいことだ。
「ここまで細かに設計されているのならば、そこまで難しいものではないよ。さっそく組み込むとしようか」
「ムー! ムー!」
拘束されてる諏訪子が何かを言っている。もちろん、諏訪子と俺は一心同体の相棒という仲である。言葉がなくとも諏訪子の言いたいことは既に分かっている。
「あぁ。分かってるよ。終わるまで待ってろってことだろ? 頑張ってこいよ!」
「ム~~~!」
首を横にぶんぶん振っているが、俺には何も見えない。
「ムーーーーーー!!!」
新たにウーノさんに拘束され直された諏訪子とスカさんがどこかへと消えていった。まぁ無事には戻ってくるだろう。
「………良かったのか? あれ」
「大丈夫だろう。たぶん」
ついでに定期メンテもするとか言っていたから、時間はかかるかもしれないな。
「よし、PFPやろうぜ! チンク」
「望むところだ」
PFPの電源を入れ、ゲームをスタートする。七龍伝説の続編が出たのだ。新職業なども追加されて、細かい動作などの改良され、色々な面でパワーアップしたのだ。
「どうする? ストーリーを進めるか?」
「んー、人数も少ないし………ん?」
ふと見れば、俺の名前のセーブデータの下に“八雲紫”という名のセーブデータが作られていた。何してるんですか、賢者様。
――――――――――――――――――――――――――――
【YOUちゃん】かもーーーん!!
【ラブリーチンク】来たぞ、って!?
――――――――――――――――――――――――――――
「って、何だこれはーーー!?」
「おぉ、なかなか、良い、名前ですな………」
「笑いながら言われても説得力はないぞ!」
どうやら昨日までは普通に【チンク】という名前だったらしい。それが、今日プレイしてみれば名前が【ラブリーチンク】に変わっていた不思議。
「ん? そういえば、ドクターに貸して欲しいって言われて貸したな」
「それが原因じゃね?」
「ぐぬぬ………裕也。名前を変えるにはどうすればいいんだ?」
「いやいや。このゲームは、名前を付けられるのは最初だけだぞ?」
「くっ!」
相変わらず謎なことをしているな。スカさんは。
「幸いデータは変わってないからな………後で、直すよう言っておこう」
「んじゃま、再開だなー」
「そういえば、裕也の名前も………」
「うるせぃ。前作のデータ引き継いだら名前も引き継いでしまったんだよ」
前作を遊びぬいただけに、このデータ引継ぎをしないという選択肢はなかった。
さぁ、伝説を始めようか!
おまけ。
「くぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ゆぅぅやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「おー、すわぐぶほっ!?」
「あんたは! あんたはぁぁぁぁっ!!」
「落ち着け諏訪子。裕也の首が取れるぞ」
強烈な飛び蹴りの後に続いて激しく首を揺さぶられる。がくんがくんがくん。
「少し落ち着きなさい」
「ウーノ姉様」
諏訪子と一緒に戻ってきたのはウーノさんだけだった。あれ? スカさんの姿がないぞ?
「ドクターは?」
「ドクターならば向こうで死んでます」
「ふしゅぅぅぅぅぅぅ!!」
まぁ原因は俺の目の前にいるこいつだろうな。
「それで、マジックバインドの方は問題ないのか?」
「ん? あー、まぁそっちは」
視線を横にずらして歯切れ悪く言う。
「ん? なんかあったのか?」
「あー………」
「実はドクターが………」
―― 主婦説明中 ――
「えぇー」
「なんだ、それは………」
「私に言われても困ります」
スカさんが調子に乗ったのかテンションが高まり過ぎてしまったのか、諏訪子に追加されたオプションは2つあった。
1つが先ほどのマジックバインドであり、もう1つが―――
「魔法無効化フィールドねぇ」
といっても、きちんど無効化される訳ではない。効果範囲を絞り、出力を上げればきちんと無効化されるが、まだそこまでの力はないとか。
「まだ実験的なモノであり、実践投入には早いと思ったんですが………」
「スカさんがやっちゃったと」
「はい」
原作でも似たようなモノがあったと思う。アンチなんたらかんたらって名前で。それの劣化版と考えればいいのかな?
「まぁ、あるかないかで言えば………嬉しいような気もするけど」
「これ。かなり魔力喰うよ?」
「嬉しくねぇや」
ただでさえ魔力が少なくてひぃひぃ言っているというのに、これ以上魔力を喰うのは必要ないぞ。しかもこれ、フィールドってことは展開し続けないといけないよね?
「そうなります」
「尚更いらねぇぇぇぇぇ!!」
魔力が多いって言ったらなのはとかフェイトだろう。あいつらにでも渡せば………。
『これで………あなたは防御シールドを張ることはできないよね?』
『その状態で私たちの砲撃、耐えられるかな?』
敵対する相手のところに魔法無効化フィールドを張り、遠方から砲撃の準備をするなのはとフェイト。シールドも何も張れず、ただただ殲滅されるのを待つだけ―――
それは、何と言う名の地獄だろうか。最早、逃げることは―――
『そうか。逃げればいいんだ』
魔法無効化なので、バインドも作れない。故に、このフィールドから出てしまえばそれで解決だ。
『そう? じゃあ逃げてもいいよ』
『え?』
『逃げられるなら、ね』
ふと見れば、広大なフィールドがそこにあった。バカな、これだけ広く展開するなど人間に出来るはず―――
『じゃあ、行くよ。私の―――私たちの全力全壊の一撃を!』
「アッーーーーーーーーー!!!」
「うわっ!? どうしたの? いきなり」
「危険だ! もしこれがなのはたちの手に渡ったりしたら、危険だ! 危険が危なくなるぞ!」
無抵抗の相手に遠距離から砲撃を撃ちこむことが可能となってしまう。
「ん? でも魔法無効化なんでしょ? なのはの砲撃も無効化されるんじゃないの?」
「あ」
そうか。魔法無効化フィールドだ。なのはやフェイトたちの魔法攻撃は無効化されるんだな。
「ふぅ、危なかった………」
無事に危険を回避できたようで何よりである。
「……………」
「どうしました? ウーノ姉様」
「いえ………」
「ん?」
「なのは様の砲撃の場合ですと、フィールドの減衰効果と砲撃の威力と速度を比べますと………やはり、砲撃が消える前に相手にぶつかる可能性が高いです」
……。
………。
……………。
「え゛?」
「つまり、裕也の言ってたことが可能だと?」
「そうなりますね」
「い、いやだーーーーーー!」