不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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間章
第31話 彼女は「再び」やってきた


 

 

 

 

カオス は しんか して

 

 

げんそう と なった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 買い物をして帰ってきた。今日から咲夜さんはいないのだ。完全で瀟洒な俺たちの台所の味方である咲夜さんはいないのだ。彼女は本来の主と共に幻想郷へと行ってしまったのだ。

 だから、俺は精神的に疲れた学校からの帰りに買い物してきたのだ。重い荷物を持って帰ってきたのだ。

 

「で、さぁ夕飯でも作るかという時だったんだけどさー」

「そーかーたいへんだったねー」

 

 俺の言葉を右から左へ聞き流すように目の前でダメカエルは言葉を適当に紡ぐ。ダメだ。このカエルはマンガを読むのに夢中でこっちの話を聞いていない。

 誰でもいいから早く俺に状況を説明してください。

 

「助けてー! はやてー!」

「うちはこっちやでー」

 

 庭から声がした。家庭菜園に精を出しているようだ。はやてのおかげで憎い紫のあいつはすくすくと育っている。これでは近いうちに食卓に並んでしまうではないか。

 

「助けてはやて! 一体何がどうなってこうなって俺はどうしたらいいの!?」

「とりあえず、落ち着けばいいやん?」

 

 そうだな。こういう時は深呼吸だな。ひっひっふーひっひっふー。

 あ、唐突に思い出した。秘封倶楽部の2人はいるのだろうか。あの2人は………京都だっけ?

 

「って、そんなんはどうでもいいんだよ!? 今は!」

「なんや、今日はいつもよりも荒れてんなー」

「というかなんでさ! なんでさ! どうしたさ!?」

「なんや?」

 

 

「なんで、咲夜さんがいるんだ!?」

 

 

 そう。俺が壊れている原因ともいうべき人―――瀟洒なメイドさんが我が家の台所にいるのだ。

 見間違えるはずはないだろう。我が家に相応しくない、だけど見慣れた銀髪のメイドさんの姿を。

 

「なんや、裕やん。知らなかったん?」

「知らないよ!」

「あら、裕ちゃん。おかえり~。どうしたの? そんなに慌てて」

 

 2階から降りてきた母さんがのほほんとやってきた。そうだ。母さんも咲夜さんことを知っていたのだろうか。

 

「母さん! 母さんは知ってたの!?」

「それは、咲ちゃんのこと?」

「そう!」

「えぇそうよ」

「何で黙ってたの!?」

 

 はやてもあんまり動じてないし、母さんは知ってたと言うし! 俺だけ仲間外れかよ!

 

「だって、私もついさっき知ったんだもの」

 

 って、違うし!

 

「それは知ってたと言わないよ!?」

 

 それは知らなかったって言うんだよ! 俺と同じじゃん!

 

「もー、裕也はうるさいなぁ」

「いや、うるさくして悪かったけどさ。でもさ、うるさくもなるじゃん!? 何が起きてこうなったの!?」

「裕也は咲夜のこと嬉しくないの?」

「すごく嬉しい!」

 

 家事って大変だよね。あと母さんの料理を食べる機会が減るのがすごく嬉しい。掃除やら洗濯とかって大変だよね。自分が小学生ってのを忘れそうになるよ。あと母さんの料理を(ry

 

「ちゃうで。ちゃうで。エビフライは飛び跳ねないんや。ビーフシチューはしゃべらないんや」

 

 なんかはやてのトラウマスイッチでも押してしまったのだろうか。土で汚れてるにも関わらず、両手で頭を抱えてぶつぶつと呟き出してしまった。

 

「とりあえず、カオス部屋に入ると分かるよー」

「カオス部屋か………」

 

 咲夜さんに別れを言った昨日から、咲夜さんが我が家に来る原因となったカオス部屋の扉は触れてもいない。開けるのが恐かったというより、いつもいた人がいなくなったという現実を知らされるのが恐かったのかもしれない。

 

「開けてみ?」

 

 そのカオス部屋の扉の前に今、立っている。

 

「………おし」

 

 汗ばむ手で握り、カオス部屋の扉を開けた。

 

 

 

 

 

―――ギィィィィ

 

 

 

 

 

 聞きなれた重苦しい音が響き、いつも見慣れた異空間が―――

 

「―――――どこ?」

 

 いつもの異空間ではなく、どこかの図書館のような場所だった。都内の図書館よりも大きな図書館が目の前には広がっていた。

 

「ヴワル図書館だよ」

「わっつ?」

「正確には“ヴワル大図書館”よ」

 

 開けた場所でパチュリーさんが優雅に紅茶を飲みながら本を読んでいた。

 

「お、パチュリーさん」

「久しぶりね、裕也」

「で、これはどういった状況で?」

「簡単よ………」

 

 本を読みながらパチュリーさんが説明してくれた。それは簡単そうに見えて実に難しく、破天荒な方法だった。

 まず、パチュリーさんたちを閉じ込めてた謎の結界。あれの解除に成功した。これでいつでも自由に出入りが出来るようになった。次に、カオス部屋の中に紅魔館があるという感じだったのを逆にした。

 分かりやすく説明するならば、2つの箱を思い浮かべて欲しい。カオス部屋という箱と、紅魔館という箱。最初は、カオス部屋の箱の中に紅魔館の箱が入っていた。これをパチュリーさんたちは逆にして、紅魔館の箱の中にカオス部屋の箱を入れるようにしたのだ。

 言葉にすれば簡単そうだが、簡単にはできないことのはず。それを成し遂げた彼女たちはすごい。本当にすごい。

 で、その紅魔館が無事に幻想入りを果たした、と。

 

「でも、何でそんなことを?」

 

 謎の結界が解除できたならば、紅魔館だけで幻想入りを果たせばよかったはず。なんで、わざわざ空間の入れ替えなどという面倒なことをしたのだろうか。

 

「まぁ、事故みたいなものね」

 

 どうやら例の結界はカオス部屋の異空間を安定化させる機能も備わっていたようで、解除した途端に世界が崩れ始めたそうだ。それで、このままだとカオス部屋の空間もろとも紅魔館も崩れて、どことも知れない空間を永遠に漂うことになってしまう。それを防ぐために応急処置として空間の入れ替え―――先ほどの2つの箱の入れ替えを行ったのだ。

 紅魔館の箱の中にカオス部屋の箱を収めることで、なんとか世界の安定化は保たれた。だが、そのおかげでカオス部屋の扉を開けたら紅魔館の一室に繋がる、という因果が結ばれてしまったという。

 

「なるほど。じゃあ、既にここは………」

「えぇ、ここは既に幻想郷。ようこそ、この素晴らしき楽園へ」

 

 ティーカップを持ち上げながらそんなことをのたまった。

 だから咲夜さんは変わらずうちでメイドさんをしていた訳か。いや、助かった。主に食事面で。そういえば、カオス部屋にあった物はどうなったんだろうか。

 

「ん? それらも当然私たちといっしょにこっちに来てるわ」

 

 今は別な場所に保管もとい放置している。そのうち必要なものと不必要なものとに分ける作業を行うらしい。今は本とそれ以外とで分けて、本は棚に収納されていっている。それ以外の物の中で不思議生物系は吸血鬼の妹である“フランドール・スカーレット”の遊び相手として放り込まれているそうだ。彼女の部屋に。

 

「ちゃんと許可は貰ったから問題はないわよ」

「誰に?」

「あなたの母親よ」

「母さんぇ………」

 

 まぁ俺たちに必要かどうかと言われれば、必要がないような気がするので問題ないか? むしろ、聞くのは親父に聞いた方が良いと思うが………捕まらないしな。今はどこにいるのやら。

 

「今後も増えてくかもしれないって言われたから、その時はその時で何とかするわ」

「うん、たぶん、増えていきます」

「もし何か売る場合は咲夜に頼んで、外の世界で売ってもらうことになってるわ。基本5:5で分けるわ」

「へー」

 

 盗掘品とかは親父のことだからないと思うけど、売れる物あったかな?

 

 まぁいいや。話を戻そう。

 

 とりあえず、我が家は幻想郷と繋がってしまった。結界もなくなったようで、妖怪も俺たちの家に来ることが出来るようになった。けど、元々妖怪たちは俺たちの世界に居辛いからってことで、幻想郷に向かったはず。ならば、好き好んで俺たちの家には来ない………だろう。

 まぁ幻想郷と言っても、紅魔館の中にある図書館と繋がっただけなので、そうそう変な奴は来ないと踏んでいる。

 

「そんなところよ」

 

 なるほどなー。特に問題ないなら、いいのか?

 

「裕也ーそろそろ戻らないとー」

「ん? あぁそうだな」

「暇な時は遊びにでもいらっしゃい」

「おー、了解ー」

 

 パチュリーさんと別れ、自分の家へと帰る。もはや、ここはカオス部屋とは呼べないな。幻想部屋と改めようかね。

 

「しかし、ヴワルって………」

「それの命名は私だ! ヴワルは何かのマンガに載ってたのを採用した!」

「やはり、おまえか」

 

 向こうからこっちに来る時があったならば、そのときは御持て成しをしよう。きっとうちの母親がしてくれる。

 

「諏訪ちゃーん、そろそろ始まるわよー」

「ほーい」

 

 母さんの声に諏訪子が飛んでいく。見たいドラマでも始まるのだろうか。

 

「はぁ、それにしても………」

 

 良かった。本当に良かった。我が家の食卓は安泰である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日。

 特にこれといったことはなく、既に5月ももうすぐ終了というところ。

 

 今日、はやてに魔法のことを話すことになった。

 

 というのも、色々と調べていくうちに魔法のことを秘密にしつつ治療していくのは難しいというのは分かったからだ。ならば、いっそのこと全てを曝してしまった上で治療していこう、となったのだ。

 言葉だけでは信じられないだろうと思って俺も待機していたのだが、思いのほかはやては簡単に信じてくれた。そこで止めておけばよかったものの、俺が魔法を見せたのだが………。

 

「なんや、あんまそれっぽくないんやな」

 

 ちょっと、涙が出た。

 俺の魔法は基本的にスペカである。だが、病院内でスペカを発動したら大変なことになってしまう。精々が鉄の輪を出すか、宙に浮かぶか、である。そこで先ほどの言葉。

 悔しいからなのはたちを呼び出して、はやてに見せてもらった。

 

「どうよ! 魔法だよ!」

「すごいなー! 裕やん以外」

 

 泣いてなんか、ないんだからね!

 

 

 

 

「―――で、君の足の不自由、突然の発作などは全て魔法が関係しているのだよ」

「なるほどなぁ」

「それで、原因と思われる魔導具などには心当たりはないかい?」

「うーん、ないですなぁ。なんか、こういった形とかありませんか?」

「ふむ。それこそ様々だからねぇ。例えば、これ」

 

 スカさんが取り出したのはどこかで見たような青い宝石。ジュエルシードみたいな宝石だった………というか、ジュエルシードじゃね?

 

「ちょっと、スカさん?」

「あぁ安心したまえ。これはレプリカだよ」

「あぁ、レプリカか………」

 

 すごく本物っぽいんだが………ホントにレプリカかなぁ。

 

「これはジュエルシードというモノ。形は宝石だね? 次は諏訪子くん。彼女はデバイスだが、人と同じような感じだね」

「せやな。ホンマに様々なんやなぁ」

 

 デバイス1つに限定したところで、本当に形は様々ある。なので、自分では取り留めない普通な物かと思っていた物が、実は魔法世界の魔導具だったなんてこともあるかもしれない。

 

(さて、どうやって切り出したものか………)

 

 闇の書が原因じゃね? とか言うことはできない。なんでそんなことを知ってるんだって言われたら理由を説明できないしな。

 どうにかして、はやてに闇の書の存在に気付いてもらわないと………。

 

「ならば、今度探しに行こうかい?」

「え? いいんですか?」

「構わんよ。今は彼の家にいるのだったかな?」

「あぁ」

 

 確かにはやては俺の家にいるが、そこまで大した荷物はなかったような気がする。はやてを俺たちの家に引っ張って来た時に、思っていたよりも荷物が少なくて驚いた記憶がある。

 

「んー、確かに。多少の着替えと車椅子と本くらいやなー」

 

 ふむ。本も持って来てたのか。しかし、俺たちの部屋に本棚はない。いったい、どこに置いているんだ?

 

「諏訪子ちゃんに聞いたら、良い場所があるって言うてたんよ」

 

 あれ? 何だか嫌な予感がしますわよ?

 

「む、むぅ。後で聞いてみるか………」

 

 もしカオス部屋に置かれていたら、今頃はヴワル大図書館にあることになる。このままはやてが誕生日を迎えたら、向こうの紅魔館はてんやわんやしそうだ。

 

(あれ? そういえばはやての誕生日っていつだったっけ?)

 

 9月? 10月? 12月ではなかったと思うが………後で聞いておくか。

 

「ならば、次に探す時ははやてくんの家を探せばいい」

「えろぅすいませんなー」

「なに、私にも利があるからね。気にしなくていい」

 

 本日の診察は終了とばかりにスカさんははやてに薬の束を渡した。

 

「これは?」

「それは魔力が篭もったカプセルだ。発作が起きた時は魔力が吸われた時。それをすぐに飲みなさい」

「分かりました」

 

 俺にも渡された魔力カプセルである。

 

「あれ? 俺は定期的に飲めって言われたけど?」

「君の場合は定期的に吸われているからね。いい加減、どうにかしないといけないね」

 

 今はジュエルシードから抜き出した莫大な魔力がある。だが、それも無限ではない。莫大とはいえ、有限である。いつかは限界が来てしまう。

 それまでに俺は魔力消費と生産の均衡を取らなければ、最悪死ぬことになる。

 

「なんや、裕やんも病気持ちなんやん?」

「病気っつーより、怪我っつーかなんつーか」

 

 何て言ったらいいんだろうね。俺の場合。病気でもないし、怪我でもないし………生まれつきって訳でもないしなー。

 

「何か変化があったらすぐに彼に言うか私に連絡しなさい」

「分かりました」

 

 礼を言ってはやては退出する。次は俺の診察の番である。

 

 

 

 

 

 

「………ふむ。この前以来、魔力量の低下は起きていないようだね」

 

 どうやら魔力量が下がり続けるというモノではないらしい。一安心である。

 

「魔力量は増減するものだが、ここまで急激に変化することは珍しいがね」

 

 魔力量は基本的には生まれつきで決まっている。だが、生涯という長い目つきで見れば、少しずつ増えていっている傾向が見られる。中には一気に増える人もいるらしいが、稀である。これは成長と共に増えているのではないか、と考えられている。

 減る場合はどうか。それは、未だに不明らしい。リンカーコアなどに障害がある。魔法的な攻撃を受けた場合などと、症例は過去にもあるらしいが、依然として分かっていない。

 と、言われて俺はどうだろうか。過去を思い浮かべてみる。

 

「………けっこう、あるなぁ」

 

 まず思いつくのが祟り神化によるブースト。次にミシャグチ様の招喚行為。左目とかもそうだが、その他にも何回か死にかけたことも多数。

 

「そうそう起こらないとは思うが、次に起こったら危険かもしれないね」

 

 そもそも何故魔力の生産量が下がったのかが分からないのだ。最有力候補はミシャグチ様の招喚行為だが、確固たる理由がない。理由が分からなければ対処ができない。

 

「ま、まだ焦ることではないが………」

「うぃうぃ。分かってますよ」

 

 現状維持では危険ということくらい分かっている。ならば、事件が終わって暇な今にやればいいのではないか、と思うがそれは違う。

 

(次の事件が起こるからな………やるならば、それからだろう)

 

 まだ5月。もう5月。時間はあるようで、ないのだ。

 

「まぁいい。彼女たちが待っているのだろ?」

「あぁ。んじゃ、ありがと」

 

 スカさんの言う通り、わざわざこっちが呼んだというのに彼女たちは待っていてくれた。

 

「あ、診察終わったの?」

「おぅ。問題なしー」

「これからどうする?」

「あ、うち。なのはちゃんのうち行ってみたいわ」

「じゃあ行こうか!」

「うん!」

 

 そうか。なのはたちは翠屋に行くのか。じゃあ、俺は帰ろうかなぁ。

 

「―――と、思ったんですがね?」

「ほら、いくで。裕やん」

 

 はやてとなのはに両腕を抑えられて、ずるずると引きずられる俺。フェイト? フェイトははやての車椅子を押しているよ。

 

「分かったから、手を離してくれ。自分で歩く」

 

 捕らえられた宇宙人みたいに引きずらないでくれ。

 

「じゃあ、行こうか」

「せやなー」

 

 春も終わり、もうすぐ目の前に夏が迫っている。冬まで時間があるとはいえ、あっという間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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