不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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無印前
第01話 メイドと「魔王」さま


 

 

 

生まれた先は地球の海鳴

 

のはず

 

 

ちょっと分からなくなってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に自意識というのが芽生え始めてからしばらく、ようやく落ち着いて物事が考えられるようになった。

 そこで初めて俺は周りを見渡して気づくことがあった。

 

「あらあら、どうしたの? 裕也」

 

 裕也こと俺―――影月裕也を抱えるマイマザー“影月澪”。黒に近い茶の髪を下ろしている美人さん。なんかふわふわとした性格で、とても危なっかしい。抱きかかえてもらっているが、いつ落とされるか気が気でない。

 子供ながら、親が心配です。

 

 そして一番重要なことが、

 

(これが転生って奴か?)

 

 前世と思われる“俺”の生きた思い出を俺は覚えている。それと“転生してきた”こと、“この世界”のことなどを覚えている。ところどころに霞がかかったかのようなあやふやな部分はあるが、まだ大部分は覚えている。

 

(―――まぁいいか)

 

 持って来てしまったものはしょうがない。いずれ忘れるだろうし、今は気にしないことにしよう。

 

 

「今帰ったぞぉい!」

 

 

(あ、親父が帰って来た)

 

 俺の父親である“影月寛治”が仕事から帰って来たようだ。何の仕事をしているのかは分からないが、夢を追う仕事だとか。ホントによく分からない。

 

「あら、あなた。今度は何を手に入れてきたの?」

「うむ! 家内安全の仮面を貰ってきた」

 

 1~2日空けたと思ったら変なモノを貰って帰ってくるのが親父の習性だ。今日も家内安全の仮面とか言っているが、どう見ても呪いの仮面にしか見えない仮面を嬉しそうに掲げてくる。

 

「あら、それは素敵ね」

「さて、さっそく入れてくるか」

 

 置物から壁掛けから、よく分からないオーパーツまでをどこから手に入れてくるのか分からないけど、それらを一箇所に集めている部屋がある。

 周辺に置いておくこともできず、一部屋にまとめて置いておけばいいかという考えの下に実行された。結果、その部屋が大変なことになってしまったのはご愛嬌。

 

「そいや!」

 

 通称カオス部屋と呼ばれるようになったその部屋に親父はお土産と呼んでいた呪いの仮面を放り投げた。

 仮にも家内安全の仮面なのに、壁にかけるとかそういったことはせずに、部屋の中に放り投げる。こんなんでホントに家内安全の効果はあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな生活がさらにしばらく。

 

 俺もついに幼稚園へと進む時期がきたようだ。ついこないだまで気にすることを忘れていた(主に家族のことで)が、ついに分かった。

 

 俺がいる時間軸について。

 

 幼少期だからといって少しぼけっとし過ごしていたかもしれない。場合によっては、俺はガキで、相手は大人という場合や、逆に俺が大人になってから主人公組みが産まれるという可能性もあった。

 幸いというかなんというか、ここらの危惧も解決したのだが……。

 

「なのは~いっしょに遊ぼうぜ~」

 

 未来の魔王こと、原作主人公の“高町なのは”がいました。ついでにおまけも。

 

(転生者、だよな?)

 

 銀髪に翠と赤のオッドアイ。まだ子供だというのに、明らかに分かるイケメン。それと女子が奴の笑顔だけで惚れるという状況。実際に惚れているかどうかは分からないが、顔を赤らめてもじもじしていたら、なぁ?

 

(これが噂のニコポ、か?)

 

 付け加えて、魔力………だろうか。奴から溢れでる蒼黒い光のようなものが視える(・・・)。感じるのではなく、視えるのだ。

 ちょっと意識して視ようとすれば、オーラのような光が家族に視えた。気になったので、あれから練習を繰り返していたが、恐らくこれが魔力と視て間違いないと思う。

 高町と、銀髪の転生者―――“霧谷巧”の両者から視える。高町からはちょろっとした感じだが、圧力というか威圧というか、なんか凄いってのはよく分かる。色は明るい桃―――桜色。確か魔力には色があって、それは個人で違っていたはず。

 変わって、霧谷からはばんばん溢れ出てるんだが………高町ほど威圧感がある訳でもない。例えるなら、壊れた蛇口から水が溢れでてる感じ、だろうか。

 

(まぁ転生者ってことを考えれば、魔導師で魔力はオーバーSとかやってそうだな)

 

 ただ一つ分かることは―――奴は、“原作介入”をするつもりだ。でなければ、あんなに積極的に向かわないだろう。

 

「「霧谷くん! いっしょにあそぼ!」」

「っと、おいおい俺はなのh」

 

 高町と接触しようとしたが、それを遮るように女子たちが霧谷に群がった。どうも、奴が高町に近づこうとすると決まって邪魔が入ったりする。さっきみたいに他の女子が群がってきたり、先生たちに呼び止められたり。

 なんか、見てて視えない力に邪魔をされているかのような徹底振り。そして、そんなのにめげない霧谷もまた凄いと思う。

 

「私、あっち行くね」

 

 賑やかなのは苦手なのか、高町は静かに別の場所に移動すると、霧谷は諦めて集まってきた女子たちと遊ぶことにしたようだ。

 

(しかし、あっさり諦めたな………)

 

 ほぼ確定しているが、霧谷が転生者とするならば、奴は高町と接触したかったはずだ。主人公と今のうちから仲良くなっていれば、原作に関わることが必然的になってくるから、だろう。

 

(まだ焦るほどではないと考えたか、何か策があるのか………)

 

 明らかに子供が浮かべる目ではないのは、観察していた俺から見て分かった。見る者が見れば、嫌悪感を抱くには十分なほどの目だった。それでも女子に人気だったのは恋は盲目という奴なのだろうか。

 

「………まぁいいか」

 

 奴にこちらが転生者だとバレていないのは、今後何かしらのアドバンテージになるかもしれない。それに、今のところ俺は積極的に原作に関わることは考えていない。

 今後の流れ次第では、関わるかもしれないが………今のところは傍観に徹するだけだ。俺以外の転生者がいたのだ。もしかしたら、まだいるかもしれないし、中には殺すことを躊躇しない奴もいないとは限らない。よくSSとかでは書かれてたしな。

 

「さて、高町は部屋の中か………俺は、寝るかな」

 

 中身が大人なせいか、どうも輪の中に入り込めない。その所為か、自然と村八分的な感じにはなっている。別に嫌われている訳ではないし、こちらから輪に入ろうとすれば受け入れてくれる。しかし、こちらから行かなければ誘われることはない。遠からず近からず、不思議な場所にいることは知っている。

 こんなはずではなかったのになー、とは思うところがある訳でもない。かといって、幼稚園児に混ざって泥遊びとかはさすがに無理だ。

 

「寝るか」

 

 他の子供たちが元気に遊んでいる中、俺は部屋の中で寝ることにした。見た目は子供だし、寝る子は育つと言うし。幼稚園なので、基本は放置でありがたい。先生たちも外で遊ぶやんちゃな子たちに囚われてるみたいだし。

 

 さて、寝るかー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――カチャカチャ

 

「………ん?」

 

 物音に気づき、ふと目を移すと―――

 

「………高町、か? 何してるんだ?」

「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」

「うんにゃ、構わんが………カメラ?」

 

 高町が子供に似合わない工具箱を用いて、カメラと思われる物を弄りまわしている。

 何をしているのかと問えば、

 

「この子を直しているの」

「へぇ」

 

 子供が持つスキルではないと思うが、その手先に迷いはなく、工具を持ち替えては部品を付けたり外したりしている。時折、何かを確かめるように持ち上げたりして、カメラを弄っている。まるで熟練の職人のようである。しかし、誰が見ても子供がするようなことではないと思う。

 それを繰り返しているうちに直ったようである。

 

「直ったの!」

「うおっ! まぶしっ!?」

 

 パシャッとフラッシュがたかれる。しかし、フィルムは入ってないようで写真は取られなかったが。聞けば、壊れたカメラがゴミ捨て場においてあったので、許可を貰って直していたそうだ。

 元々の形は知らないが、かなり壊れていたそうだ。それをここまで直すのは素直にすごいと思う。

 

「ほ~、すげぇな」

「………おかしいって思わないの?」

「ん~、すげぇ技術じゃないか。将来はこういったものを修理するのになるのか?」

「まだ分からないかな~」

 

 ですよねー。

 まだ幼稚園児だしね。今から将来を考えていたら、すごいどころか怖いよな。

 親からはもっと子供っぽいことをしてほしいとか言われているそうだが、運動は苦手らしく外で遊ぶのはちょっと………。かといって、お人形さんでおままごとってのも興味がないのだとか。

 つくづく子供っぽくはないな。俺もそうだが。

 

「あ、そういや名前言ってねぇな。俺、影月裕也」

「私は高町なのは。よろしくね」

「よろしくな、高町」

「………な・の・は」

「は?」

「なのはって呼んで。私も裕也くんって呼ぶから」

「あぁ、分かった。よろしくな、高町」

 

 ぷくーと頬を膨らませて、再度自分の名を連呼する高町こと、なのは。

 からかい甲斐があるなぁ。

 

「くくく、よろしくな、なのは」

「うん!」

 

 霧谷には悪いが、出会いは上々だったと思う。

 その後も、なのはとは遊ぶ機会が多かった。お互いに精神年齢が幼稚園児から離れている所為か、いっしょにいて不快になることはなかった。

 たまに壊れた機器を見つけてくると、喜々として修理に向かう姿が見える。どうやらAV機器が好きなようである。

 専門用語と思われる単語を詳細に教えてくれるのはありがたいが、将来使うかどうかは微妙だ。CV-2000がうんたらかんたら。スキャンレコーダーがどうしたこうした。よーわからん。

 

 

 

 

 

 

 

 なのはとの出会いから家に帰ると、もう一つの出会いがあった。

 

「あら、裕ちゃん。おかえり。こちら、メイドの咲ちゃんよ」

「初めまして、裕也様。私、今日からこの家でのメイドを務めさせてもらいます“十六夜咲夜”と申します。以後、お見知りおきを」

「……………どうもです」

 

 銀髪蒼眼のメイドさんが家にいた。名前からして分かるように、某瀟洒なメイドさんだ。

 なんでここにいるのとかそっくりさんなのかなとか色々と疑問はあるけど、とりあえず咲夜さんは今日からこの家に住むらしい。彼女の部屋ももうあるそうだ。

 というか何でいきなりメイドさんが来ている事態なのかが分からない。

 母さんに事情を説明してもらおうと思ったけど、母さんだしなぁ。

 

「ん? どうしたの?」

 

 ちゃんとした答えが返ってくるとは思えない。どうせ聞いても、俺の理解できない答えが返ってくることだろう。

 まだ出会っていないが、アリサやすずかといった豪邸にはメイドさんが普通にいる訳だし、いても問題はない、か?

 

(いいや。深く考えるのは止めよう。母さんだし、これでいいや。理由は)

 

「ん? 咲夜さんって料理出来る人?」

「はい。一通りの家事スキルはあります」

「やった! これで母さんの料理地獄から解放される!!」

「はい?」

 

 母さんはぽわぽわしてるように見えて、意外と家事は得意な方だ。料理以外は、と付くが。

 何をしたら紫色の味噌汁とか蠢くコロッケが出来るのだろうか。それを普通に食べる親父とかいう存在もいたが、厳しいものがある。

 とはいえ、食べない訳にもいかないし。当たり外れはあるが、味が問題ないものもある。まさかコロッケに「俺を食え」と言われて食べたらおいしかった時は困った。口の中で悲鳴をあげながら「芋の味を噛み締めろぉぉぉ!」とか叫ばれるんだもん。

 軽くトラウマになるレベル。

 

(幼稚園は弁当制じゃなくて給食制だったのは嬉しかった)

 

 人生の中で初めてまともに食べた食事が幼稚園の給食とはこれいかに。

 しかし、それも今日でおさらば。

 

「咲夜さん! 絶対に母さんに料理はさせないで!」

「は、はぁ………」

 

 そっくりさんでも何でもいいよ。母さんの料理を食べなくてもいいならば、咲夜さんが何者でも構わない。

 

「咲ちゃんの料理おいしいもんね~、でもたまには母さんも作ってあげるから安心してね」

 

 安心できる余地がないよ、母さん。

 

「あぁ、それとね。裕ちゃんのお迎えを咲ちゃんにしt」

「それは大丈夫だから! だから本来の仕事を優先させて!」

 

 主に料理とか料理とか。

 

「でも、裕ちゃんはしっかりしてるけど、やっぱりお迎えはひt」

「大丈夫だから! 今まで大丈夫だったしこれからも大丈夫だから!」

 

 中身はアレだけど、外見は幼稚園児。普通は親御さんが迎えに来て一緒に帰るってのが一般的だが、うちの母親は極度の方向音痴なのだ。一度だけ頼んだことはあるけど、警察の人と夜遅くまで捜索したのは良い思い出。

 あれ以来頼むことはもうしないと心に決めた。

 

「だから料理は! 料理だけは!」

「う、承りました………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく―――

 

 なのはとはほぼいっしょに行動するようになった。時々、霧谷が邪魔をしにくるが、大抵はいしょだ。距離が近くなったからか、なのはは極端に良い子を演じようとしてる節が見られた。

 既に何が良くて何が悪いか、相手が何を求めて何をしたら喜ぶか、それらを悟っているようで、相手の顔色を見ながら自分を演じているというのに気づいた。

 

 まぁ、一喝してやりましたがね。

 

 子供は我がままを言うのは当たり前。知らないのだから失敗するのは当たり前。親に迷惑をかけるのは当たり前。

 そんな当たり前を変に頭が冴えているから出来ないでいたなのは。

 

「悪い子になれとは言わないが、お前は良い子過ぎる。もうちょっと我がままを言っとけ」

 

 それではダメだ、と。私は良い子でいなければならない、と。頑固に主張するなのは。もちろん、家の事情は聞いた。なのはの父親である士郎さんも入院していて大変な時期だ。子供らしからぬ冴えているなのははすぐに理解しただろう。

 

 だが俺も頑固としてなのはの主張を否定した。

 

 どんなに頭が冴えていようが、俺たちは子供なのだ。子供には子供のやるべきことがある。ただなのはの心を折るにはある程度の妥協が必要と判断したので、

 

「俺に甘えろ。俺にわがままを言え。俺が支えてやる」

 

 俺が代わりになると申し出た。いつの日か、なのはの家族が元通りになる時まで。すると、今度は俺に迷惑がとかなんとか言い始めて、そこでもうひとバトルあったが割合とする。

 正直苦労したが、ここではこれが正解だろう。終わった後でやっちまったって思ったけど、後悔はしていない。しばらく傍観するぜって決めながら、さっそく破ったけど。

 

(あれだ。エロい人は言った。約束とは、破るものである、と)

 

「いいの、かな………ぐすっ………わたしも……………我がまま、いっても」

「当たり前だろ?」

 

 なのはの顔が歪み、瞳からは涙が溢れる。俺の胸に顔を押し付けて、声を殺して泣いていた。俺は何をするでもなく、なのはの頭を撫でていた。

 昔、母親にされていたように―――

 

(何故か知らないけど、頭を撫でられると落ち着くんだよな………)

 

 背中を優しく叩きながら、泣き止むまで好きなようにさせておいた。

 思いっきり泣いたなのはは、次には笑っていた。初めて、心からの笑顔を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

「ごめんね………」

「気にするな。すっきりしたか?」

 

 泣いていたのは少しだけ。服が濡れたが、まぁ気にしない。なのはが笑うようになったならば良い代償だ。

 

「うん………」

 

 改めてなのはの実家の実情を聞いたが、喫茶店『翠屋』は開店したばかりなのだ。母親は当然ながら兄弟も皆忙しく走り回っているとのこと。そんな中、一家の大黒柱でもある父親が仕事の事故で入院中で未だに意識不明、と。

 もし、開店の前に事故が起こっていれば、もし店を開こうと考えなければ、もし―――全てはifの話だ。

 なのに、

 

「私は小さすぎて、何もできない―――」

 

 “私は、いらない子かな”って思うときがあるという。

 

 どうやら“何もできない”→“いてもいなくても構わない”→“必要ない”と思考が流れているようである。というか、兄弟や親とは生きてきた時間が違うのだから、これは仕方が無いことだろう。

 生まれて誰しもが完璧に出来る訳ではない。誰もが未熟な赤ん坊から始まったのだ。

 

(ふむ。なんというか、精神がホントに子供じゃないな………これで、素か?)

 

 独りになる時間が多かった所為か、物事を考える時間が多かった。それが、精神が発達した原因なのかもしれない。

 それはともかく、

 

(この年代の時に独りか………食事時も独りというのは何とかしないとあかんかもなー)

 

 さて、今更なんだが………これをなんとかしてしまって良いのだろうか。

 この時期にどう過ごしたかとかまわりの環境で人の精神構造が作られたはず。つまるところ、ここでなのはの環境を変えてしまえば、それは俺の知っているなのはとは違ってくるかもしれない、ということだ。

 簡単に言ってしまえば、原作ブレイク、だな。原作介入前にブレイクである。

 

(というか、既に俺や霧谷がいる時点で……もう変わってるのか)

 

 なら………深く考えなくても、いいか?

 

「まぁ要するに、寂しいということだな」

「うん」

 

 大分素直になった。と思わなくも無い。以前までなら、そんなことないよーとかって笑って否定しそうだが。

 

(これからのことはともかく、少なくとも今は魔法使いではないのだしなー)

 

 怪我をあっという間に治すなどはできない。士郎さんの入院がどれくらいだったかは知らないが、少し時間がかかるだろう。その間、耐えろとか言う訳にもいかず、ほっとくなら最初から関わってない。

 気が紛れるように、千羽鶴のことを教えてあげた。確か病気が治るような祈願だったと思うが、病気が治るのも怪我が治るのも同じだろう、ということで。さすがに一人で千羽は辛いものがあるので、手伝ってあげることにしたが。

 折鶴を作る時に「どうして人間の手って小さいのかな」とか齢数年にして人生を悟ったかのような質問には正直何て答えればいいのか困ったが、俺なりの答えを伝えておいた。正直、恥ずかしいので割合。

 最後に家で独りということだが、これについては考えがある。

 

 なのはの話を聞き、俺ができることと言えば“共に在る”ことだけ―――そう言ったのだから。

 

 それだけなのだから。

 

「じゃあ、しばらく家にくればいいんじゃね?」

 

 問題は俺が今思いついたことで、なのはの家族と俺の家族に何も言っていないことかな。まぁたぶん了承されると思うが。

 

「でも………」

「まぁうちに来るのが無理でも、遊びに来ればいいんじゃね? 夜になったら送ってくし」

 

 母さんが………いや、だめだ。逆に危険だ。一緒に迷子になる未来しか見えない。俺が行く………は、許してくれなさそうだから、咲夜さんかなぁ。

 ほんとに咲夜さんが来てくれて大助かりだ。

 

「な?」

「………うん」

「ふむ。やっぱり、なのはは笑ってる方が可愛いぞ」

「ふぇ?」

 

 とりあえず、今日はこのままうちに来ることにした。なのはの家族への連絡は母さんに頼めばいいだろう。

 

 

 

 

 

 

「――――というわけなんだ」

「こ、こんにちは………」

「あらあら~、裕ちゃんも男の子ねぇ」

 

 今は家。母さんを前に、なのはを連れてきたことを説明した。しかし、何故か母さんの機嫌が良いが………そういや、そろそろ父さんが家に帰ってくるような時期か。

 時々存在を忘れることがあるが、我が家の父親は冒険者として世界中を飛び回っている(らしい)。本当かどうかはともかく、世界を渡り歩いているのは事実である。

 たまに帰ってきては、訳の分からない土産を置いていくのも困りものだが、既に諦めている。カオス部屋はカオスと化したからな。

 

「私は構わないけど、なのちゃんのお母さんには伝えないとね? 向こうの了承が得られてからにしましょうか」

 

 というわけで行ってくるわ、と母さんは出かけてしまった。場所は「翠屋」と言ったら、“あぁあそこね”と呟いてさっさと行ってしまった。

 言葉を信じるなら母さんは翠屋に行ったことがあるみたいだが、俺は翠屋の菓子を食べたことないぞ? 市販の菓子しか出てこないし………1人で食べてた? いやまさかな………。

 

(ん? というか、1人で出かけた?)

 

「ちょっと、母さん!? って、いないし!! なんで!?」

「ど、どうしたの? 裕也くん」

 

 慌てて玄関から外に飛びだしたが、既に母さんの姿は見えない。何故いない。早すぎる。まだ1分も経ってないと思うぞ。

 

「うちの母さん………極度の方向音痴なんだ。まず、1人じゃ目的地に辿り着けない」

「えっと、それは………うん」

「というか何故出て行った? 電話でいいじゃん。文明の利器で」

「あ、あはは………」

 

 さて、どうしよう。追いかけるのは無理だな。母さんの行動概念が分からないから、二重迷子になる可能性が高い。極度に方向音痴だが極限に運が良いから無事だとは思うが………。

 過去に父さんと紛争地帯に行って当然の如く迷子になって、その後辿り着いた銃弾飛び交う戦場を日傘差して歩いて怪談になったくらいに運が良い。ちなみに無傷だ。

 そもそもの話、何故紛争地帯にいたのかは謎である。ちなみに、たまにドキュンメタリーで当時のことが写真付きで放映されたりするから笑えない。

 

「………………」

「………………」

「とりあえず、鶴作るか?」

「………あの、いいの?」

「大丈夫だ。母さんは運が良いから」

 

 運が良くても目的地に辿り着けないけど。

 

――ガチャッ

 

「ただいま戻りました」

「おかえり、咲夜さん」

「おや、裕也様。お友達ですか?」

「友達のなのはだよ」

「た、高町なのはです。よろしくお願いします」

「どうも初めまして。影月家でメイドをさせてもらっています――“十六夜咲夜”と申します。以後、お見知りおきを」

 

 子供相手だというのに、実に見事なあいさつだ。スカートをくいっと優雅に持ち上げて綺麗にお辞儀する。瀟洒だ。ただのそっくりさんだと思うけど、瀟洒だ。

 ただ、ちらっと見えたナイフホルダーは恐怖の対象なので、お隠し下さい。

 銃刀法違反? この人たち相手に細かいことは気にしないのが長生きのコツって俺は学んだよ。

 

「そういえば、澪様は?」

「あぁそうだ。母さんが1人で出かけちゃったんで―――」

 

 

――トゥルルルルル

 

 

「お―――」

「私が出ます―――はい、影月です。澪様? どうしましたか?」

 

 あぁ―――どうやら迷子になったようだ。

 

「―――分かりました。すぐに向かいます」

 

 電話を下ろすと、咲夜さんは買い物してきた荷物をささっと仕舞うとすぐに出かけるらしく、玄関へと再び現れた。

 

「いつもすいません。よろしくお願いします」

「えぇ了解しています。今は海鳴公園にいますので、迎えに行って来ます。では」

「いってらっしゃい」

 

 よし。咲夜さんが行ったことだし、問題はないか。

 

「ほわぁ………メイドさん、初めてみた」

 

 なのはは驚いている。だが、俺は咲夜さんを初めて見た時はもっと別のことで驚いた。今はもう慣れたけど。というか、よくメイドなんて単語知ってたね。

 

「ちょっと前にお兄ちゃんの本に出てたの」

「そうなのか」

「皆何故か裸だったけどね」

「ソウナノカ」

 

 それは俗に言うエr………いや、何も言うまい。お兄さんも男なのだしな。うん。俺も将来、お世話になると思うしね。

 

「んじゃ、やるかね」

 

 Let’s 折鶴。

 まぁ一日で子供二人ががんばっても、千羽には届かない。更にいえば、家にそこまで折り紙がなかったのも問題ではあった。

 さすがに広告とかで作るとありがたみがなぁ………。

 

「折り紙たくさん買わないとね」

「そうだな………」

 

 2人で財布の中身を広げて、お金を数える。

 

「千枚、買えるかなぁ」

「うーん」

 

 幼稚園児の貰える小遣いなんて、こんなもんだよなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜のこと。

 

 なのはがうちに泊まり始めて一日目。結局、なのははしばらくうちで預かることになったようだ。

 そして。お風呂の時間である。

 

「さて、入りましょうか。裕也様。なのは様」

「さすがに三人は狭いのではないかと私は申し上げるのですが、そこのところはどうでしょうか?」

「却下です」

 

 まだこの身は子供。故に、大人と入るのは分かる。が、何故その相手が咲夜さんなのだろうか。なのははまだ咲夜さんでもいいけど、俺は色々と困る。せめて、男とにして欲しい。

 

(親父いないしな………)

 

 かと言って母さんと入ったら、危険なことになるのは目に見えている。俺が溺死するか、俺が溺死するか。母さん? 超幸運体質なんだから、死ぬのは俺一人だよ。

 

「どうしたの? 裕也くん」

「あぁ………」

 

 既になのは服を脱いで臨戦態勢だ。まぁ子供の体に欲情などせぬが。

 

「裕也様はお風呂があまり好きではないようでして。入れるのも一苦労ですよ」

「だめだよ。裕也くん。ちゃんとお風呂には入って、体を綺麗にしないと」

「そうね」

 

 風呂が嫌いな訳ではない。中身が大人な身としては、咲夜さんと入るのがアレなのである。子供相手だからか、咲夜さん隠さないしな………。

 

「………ぅん?」

 

 さすがになのはのマッパには何も思わないが、咲夜さんは問題だろう。幸いなのは、まだ俺の体は反応を示さないことだろうか。将来のために、今のうちに心に刻んでおけという天の声が聞こえたような気がしたが、お断りです。

 

「さ、入りますよ」

 

 おぅ、のぅ。

 

 


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