歴史の流れか
影の暗躍か
世界の修正か
Side Story
ただ1人の足音だけが響く。窓から見える景色は黒とも紫とも言えるような何とも言えない色をしていた。時折走る紫電が、ここは通常の世界とは異なることを告げている。
ここは次元空間を漂う要塞―――分かりやすく言うならば、宇宙船のようなものだ。ただ、外見は岩石を掘って作ったような歪な形となっているが、必要な機能はきちんと備わっていた。
「やぁ、霧谷くん。調子はどうだい?」
扉を開けて最深部へと辿りつく。そこにあったのはたった1つの玉座。彼のためだけに用意され、最初で最後の孤独な王をやることになった彼の玉座。
「……………」
玉座に座りながら佇んでいるのは今回の首謀者となった男―――霧谷巧が虚ろな目をしてそこにいた。
「ははは! そのままじゃあ、返事も何もできないか」
黒い本をどこからともなく出し、勝手にページがめくれていく。やがて本は光を帯び始め、
「さて、霧谷巧。君がこれからすることは分かってるかい?」
「………あぁ。俺は、これから、アルハザードに、向かう」
「その通りだ。これから君を止めようとする者が来るが分かるかい?」
「………あぁ。邪魔を、する者は、皆殺し」
「そうだ。特に彼―――クロは必ず殺すようにね」
「………あぁ。分かって、いる」
「そうそう。君の大好きな彼女たちも来るよ。彼女たちに好かれたいよね?」
「………あぁ。なのはも、フェイトも、アリシアも、全員、俺のモノだ」
「そうだね。ならば、かっこ良いところを見せないとね」
「………あぁ。全員、俺のモノだ」
「ただ、アリシアだけはダメなんだ。彼女は本来は死人だからね」
「………あぁ。アリシアは、ダメだ」
黒い本を閉じる。全てが整ったとばかりに、男はにやりと小さく笑った。
「霧谷くん。君は一体何をやった?」
「………ジュエルシードを盗んだ」
「そうだね。他にもあるだろ?」
「………人間とジュエルシードによる暴走思念体の作成を行った」
「ふむ。ま、こんなところか」
確認も終えたところで、けたたましいアラートが鳴り響く。どうやら、管理局員が乗り込んできたようである。
「さて、僕はこれで出て行くとしようか。残りは次会った時に貰うとするよ、霧谷くん」
Side Out
「で、現状はどうなってるんだ?」
霧谷から訳の分からない念話が入った。そのすぐ後に詳しく調べてみて、発信場所は次元空間を漂う要塞からというが分かった。また、厳重に保管していたはずのジュエルシードの全てが奪われていたことも分かった。警備をしていた者たちもいたのに、彼らに気付かれることなく奪われていた。
ジュエルシードは先ほど封印した物が5つと俺が秘密裏に持っているのが3つで、残りの全てが霧谷のところにあるということになる。
「これから僕たちは彼の要塞に乗り込んで捕まえに行く。彼がどうしてこんなことをしでかしたのかを聞かなければならないからね」
クロノが行くのは当然というか当たり前。彼は管理局の執務官なのだから。なのはたちは付いていく必要はないのだが、本人たちが行くと行ったので一緒に乗り込むそうだ。
で、俺はどうするか、である。
祟り神化も行い、ミシャグチ様招喚などもやった。正直、体はボロボロである。対霊夢戦でのダメージがデカい。勝敗的にも負けであるし。
もちろん諏訪子のこともあるので、ここで俺は無理をしないのが自分的にも良いし、他の皆的にも足手纏いにならないはずだ。待ってる方が得策なんだが………。
(なのはたちが行くのに、俺だけ待機?)
自分がなのはたちと一緒だとは思っていない。俺は彼女たち程魔法に愛されているとは考えていないし、才能があるとも思っていない。
それは分かっているんだが、感情が中々納得してくれない。損な性格をしているな。
「俺も行こう。ただ、先の戦闘での消耗が激しい………足手纏いになる可能性が高い」
「―――それでも付いてくるのかい?」
「奴が―――霧谷が何を考えてこんなことをしでかしたのか。俺はそれが知りたい」
何故こんなことをしたのか。あいつの行動は本当に出鱈目で一貫性がない。同じ転生者として、あいつのことが気になるのも理由の1つだ。
もう1つはあいつが持っていたデバイス。うちの諏訪子と同じくデバイスらしからぬ霧谷のデバイスが気になるというのもある。
「分かった。なるべく、後ろの方にいてくれ」
「邪魔になるようだったら切り離してくれて構わない。自分の身くらい自分で守る」
「元よりそのつもりだ」
なるほど。外見とは反して大人な判断をしている。この年齢で渋さとかっこ良さを併せ持つとはな、中々やるな。俺には真似できん。
『んあ………』
『お? 気付いたか? 諏訪子』
内から聞こえた声に無事を確認した。嬉しさがこみ上げて、自然と口が笑ってしまった。
『んあー、裕也? あー、私どうしてた?』
『俺が気付いてからは呼びかけても返事がないからかなり焦った。一応聞くけど、無事だよな?』
『うん』
話を聞けば、俺の無理が原因のようである。俺が気絶する最後の瞬間に行ったミシャグチ様招喚―――これを行うに必要なことは全て行ったが、ただ1つ魔力が足りないという事態に陥った。だというのにキャンセルされない招喚。しかし足りない魔力。
ならばどうなったか?
足りないならば奪えば良いとばかりに、ミシャグチ様が俺の命ともいうべきモノを奪い始めたそうだ。それに慌てた諏訪子が、自らの存在に必要な魔力までをも捻出して肩代わりをしてくれた、という。だが、それだけでは足りなかったようで、一時的に繋いだ魔力パスを使ってフェイトにも魔力を分けてもらうように要請した。
そのおかげで、諏訪子は気絶程度で消えることはなかったが………。
『俺が言うのもアレだけど、そんな危険なことはするなよ!』
『ホントにね! 裕也が言うな! ってセリフだよ!』
ホントにマジですいませんでした。
『で、今は大丈夫なんだよな?』
『こうして話す分にはねー、ただ戦うことはできないね』
俺、足手纏いが決定しました。
『あー、大地に触れてれば多少は回復が早くなると思うけど………』
まだ残ってる“神”としての部分の力を使えば、大地―――正確には龍脈と呼ばれる場所から力を吸い出すことが出来るそうだ。仮に龍脈がなくとも、大地から生まれた物に触れているだけでも多少回復はできるとのこと。
『んー………』
ちょっと回復してくるから降ろしてくださいって言ったところで聞いてもらえるかどうか。それに、ちょっと間が悪い。
たった今、これから乗り込むぞ! ってところに応! って答えてしまったところだ。今更キャンセルするのは………。
『これから赴く場所に期待しよう』
『だねー。あとさ』
『ん?』
『フェイトにはお礼を言っておこうね。今回は本当に』
『うん。終わったら言っとく』
フェイトには謝ることとかお礼を言うこととか、たくさん出来てしまった。もうフェイトの方に足を向けては寝られないな。
『あと、心配してくれてありがと』
『こっちこそ。いつも心配かけて悪いな』
『ホントだよ』
これが終わったら諏訪子にも何かお礼をしようか。いつも助けてもらっていることだし。
「よし、では行こうか!」
準備が整ったのか、クロノの号令が響いた。俺たちの周りにいるのはなのはを筆頭に魔法少女たちである。既に、ユーノ・アルフ・リニスの3名は先発として要塞に向かっていた。彼らの目的は道中の安全確保である。
既に報告では敵の人形と思われる“傀儡兵”の存在が確認されているのだ。様々な種類があるようで、予想以上に強いそうだ。おまけに、先発隊からは“完全撤去には時間がかかる”との報告まで。とはいえ、待ってるだけというのは出来ない。なので、俺たち後発組も最悪、傀儡兵との戦闘が行われる可能性が高いという。
ユーノたちが頑張ってくれれば、何も起こらずに真っ直ぐ霧谷のところまで行けるのだが………まぁこのメンバーならば仮に戦闘が起こっても問題はないだろうな。
「各自、連戦で消耗していると思うが、無理はしないように!」
幸い、まだ何も起こってはいない。だからといって安心はしない。向こうにはジュエルシードがあるのだ。何を行うつもりかは分からないが、急いで霧谷を取り押える必要がある。今回は、何よりも速度が重要視されている。
―― 少年たち転移中 ――
次元空間を漂う要塞に転移してきた。原作で言うところの時の庭園だろうか。窓の外に見える次元空間は暗く、時折紫電が走って見える。
「アレらが傀儡兵か?」
転移してきた先にすぐ見えたのはロボットのような形をした人形たち。報告では入り口近くのは撤去したはずだったが………。
「恐らく、どこか別の場所にいたのが戻ってきたのではないか?」
「そんな面倒な」
文句を言ったところで消えはしない。もしくはどこからともなく湧いてきたのかもしれない、と冗談のように言うが、冗談には聞こえなかった。台所の黒い生物ではないのだから………とは言えないか。傀儡兵は魔力で動くらしいから、魔力さえあれば修復や増産などたやすいのだろう、と推測する。
とはいえ、無視する訳にもいかない。傀儡兵が守っているのは奥へと続く扉。近づかなければ攻撃されないみたいだが、近づかなければ進めない。
「なら、私が!」
「いや、いい」
レイジングハートを構えたなのはをクロノが手で制す。
「これくらいの相手に無駄弾は必要ない。僕がやる」
将来苦労しそうなかっこいいクロノが、デバイスを構えて一歩前に出る。こちらの攻撃の意思を感じ取ったのか、傀儡兵たちものそりと動き出した。
だが、
「遅い」
クロノのデバイスから蒼い光が輪となって飛び、傀儡兵を切り裂いていく。輪はそこから宙へと浮かび、炸裂弾として降り注いだ。
『おぉー、1撃で一掃したよ』
『さすがは執務官だな』
爆発の霧が晴れてくれば、奥の方にいた1体だけが無事だった。ボス個体的な奴だろうか。しかし、それも予想していたのか既にクロノは移動しており、気付いた時には敵個体の上に。
『Break Impulse』
どうやら零距離で手痛い1撃をプレゼントしたようだ。
『………』
『どうした?』
『………うん。やっぱりそうだ。裕也、これ土の塊だ』
『ん?』
諏訪子が言うに、俺たちが今いる要塞は大きな岩盤をくり貫いた感じで作られており、元々はどこかの土の中にあったものと思われる。
『つまり?』
『私、回復。裕也、バトれる』
とはいえ、全快する程ではないし、回復するにしても一気に回復する訳ではない。岩を穿つ水滴のように、ほんの少しずつと回復していくのだ。
『なるべく地面とかそれっぽい場所には触れるようにしておいて』
『不自然じゃないようにやっておく』
いきなり大の字に寝転がったりしたらマズいよね? しゃがんだりした時とか壁とかはなるべく触れるようにしよう。触れる面積が多ければ多いほど、回復のスピードは速まるらしい。
『体で転がりながら移動とかどう?』
『ただの変人じゃん!』
地面に触れる面積は多いが、そんなことをしたら社会的に俺が死ぬ。いや、変装してるから裕也ってのがバレてないからいいじゃんとかってのはナシだよ? バレた時にどうするのさ。
「ぼーっとしない!」
「だってよ」
クロノが先陣を切り、その後にアリシアが続く。
「うん!」
「分かった」
「あぁ」
そこになのはとフェイトが続いて、最後に足手纏いが付く。
―――ズガァァァンッ!
「なっ!?」
「「きゃっ!?」」
近くで雷が起こって地震でも起きたかのような音が響いた。一応、周囲を確認するが目に見える範囲で変化はない。
「何が起こった?」
「ちょっと待ってくれ。アースラから連絡が来てる」
クロノが何かを操作して空中にウインドウを展開させる。だが、何かの妨害が働いているのか画像は乱れに乱れ、音もところどころ聞こえない。一応、誰かの姿が向こうに見えるが、画像が乱れすぎである。
そんな中、俺にも連絡が届いた。
『おや、スカさんか?』
俺が持ってる通信機はスカさんと俺くらいしか持っていないはず。クロノは操作に夢中になってこっちに気付いていないので、背を向けて通信を開始する。ウインドウもこれで見えないはずだ。
『あら、こっちは問題ないようね』
「プレシアさん………って、まぁ、そうか。スカさんの知り合いならこれを知ってても問題ないか」
『えぇ、そうよ』
にしても、通常の連絡が困難な中、こうして普通に通信できるこれはすごいな。さすがはスカさん。自称であるが天才と言うだけはある。
『悪いけど、執務官たちにも聞こえるようにしてくれる?』
「あいあい」
クロノたちを呼び、展開できるウインドウサイズを最大にする。個人用だったのであまり大きめにはできないが、まぁ大丈夫だろう。
『私の声が聞こえるかしら?』
「母さん」
「プレシア・テスタロッサ、でしたよね?」
『その通りよ、執務官。時間がないから手短に話すわ』
先ほどの轟音はプレシアさんたちが待機しているアースラまで聞こえたようである。とはいうが、先ほどのはあくまでも音が聞こえたような気がするだけで、実際に音は鳴っていないらしい。ややっこしい。
「ジュエルシードの暴走?」
『えぇ。何を考えているのか、ジュエルシードを暴走させて局地的な次元震を作ろうとしているみたいよ』
それは原作での貴女の行動です。とは言えないので口にチャックをしておく。
(ん? というかあいつ、もしかして原作のプレシアさんの代わりに事件起こしてるのか?)
何でそんなことを? と思って“世界の修正力”という言葉が思いついた。
過去・現在・未来。歴史の歩むべき姿は決められている。それが、何かしらの要因によって世界の本来在るべき姿が変えられた場合、多くの矛盾点を解消しようとして世界自体が働かさせる力がある。
しかし、そんなことが起こりうるのか。そんな力が本当に存在するのだろうか。
『それともう1つ。アルハザード。これが相手から一方的に送られてきた言葉よ。通信もこんな状態だから繋がらないしね』
「アルハザードって、あの………」
『えぇ。恐らく執務官が考えてるので正しいと思うわよ』
「なるほど、分かりました。急いで向かいます」
『お願いするわ』
通信を終了する。次元震の影響からか、断続的に地震のような震動が響いてくる。立っていられない程ではないが、気を抜けば倒れてしまいそうである。
「うわっ、うわっ」
「なのは!」
とか思っていたら、なのはが倒れそうになった。すかさずフェイトが支えに回り、抱きしめたが。
「あなたの持つ通信機も気になるところだが、今は先を急ごう」
「………」
気持ちは分かるが、俺からは何も言うつもりはない。気になるのならば、スカさんかプレシアさんを尋ねて欲しい。
◆
「ね、ねぇ! さっき言ってたアルハザードって何?」
この中では唯一(俺は変装中でフリーの魔導師になってるので除外)の地球出身の魔導師であるなのはがクロノに尋ねた。
つい最近まで魔法など知らなかったのだから、アルハザードを知らないのも当たり前である。
「アルハザード。伝説の土地。失われし秘術の眠る場所」
それに答えたのは隣を走るフェイトだった。心なしか、しょんぼりしているように見えるのは気のせいだろうか。そして何故かクロノを睨んでいるように見えるのか錯覚だろうか。
フェイトもなのはやアリシアみたいに、どす黒いオーラのようなモノを纏い始めた気がするが、きっとそれは俺の幻覚である。彼女までもが
「曰く、その世界は今よりも遥かに発展した技術を持っていた。曰く、その世界は次元世界の狭間に消えた。曰く、その世界では死という概念すら覆した。など、御伽噺で語られるような場所のことだ」
それに付け加えるようにクロノがこちらを振り向かないで呟いた。フェイトの視線が強くなったような気がする。フェイトを覆うように漆黒のオーラが一段と濃くなったような気がした。
「アルハザード………伝説の………」
「クロノ」
「あぁ。恐らくだが、アルハザードを目指しているんじゃないかな。彼は」
「でも何のために?」
伝説の土地と言われるアルハザード。一説によれば、それは虚数空間と呼ばれる場所に存在すると言われている。だが、もちろんのこと、誰もがそこにあるということを証明できていない。クロノも言っていたように、御伽話のような話なのである。
「ジュエルシードを使って次元断層を作る。断層の狭間には虚数空間と呼ばれる場所が生まれる」
「そのために、ジュエルシードを………」
ここまでは良い。ここまでは俺たちも分かる。だが、理由が分からない。何故? 何のために?
「………あいつには父親がいない」
俺が思い当たったのは、霧谷に父親がいないという情報だ。
「それは事実か?」
「確かめた訳ではない。話を又聞きしただけだ」
いつ頃だったかは忘れたが、霧谷が女子と話している時にそんなことを話しているのを聞いたことがあった。
「アルハザードには死者を蘇らせる秘術もあると言うが、それが目的か!」
「……………」
「………そう、なのかな?」
なのはたちも疑問を感じているように、俺も疑問に思う。
あの霧谷が父親を生き返らせるためにこんなことをするだろうか。ならば、何故笑い話として父親の死を語っていたのだろうか。
そもそもアルハザードは実在していない。二次創作で語られることはあっても、原作にも出てきていない。そもそもの話、原作ではここで失敗していた。
(あいつは、何か確証を持ってやってるのか?)
「どちらにしろ、もうすぐ霧谷とは会うことになる。直接聞けばいい!」
「そうだな」
傀儡兵が溢れているのを聞いたが、先発に出発した者たちが頑張ってくれたのだろう。侵入した際に入り口にいた傀儡兵たちと戦ってから戦闘がない。
「きゃっ!?」
「なのは!」
突然、なのはの足場の半分がなくなった。危うく、眼下の何とも言えない空間に転びそうなところをフェイトが引っ張りあげてくれた。
「なのは。気をつけて」
「う、うん」
「ここらへんはもう空間がダメになってる。いつ足場が崩れるかも分からない。急ごう!」
ボロボロの床の下に広がるのが先ほど言っていた虚数空間と呼ばれる場所。全ての魔法を拒絶する世界であり、御伽話でアルハザードがあると言われている場所。1度、落下したら2度と這い上がることが出来ないと言われている。
「この世界にアルハザードがあるかもしれないんだな………」
「あなたは伝説を信じているのかい?」
虚数空間という存在自体が俺にはよく分からないが、この中でも“世界”は保てられるのだろうか。
そして、ふと思ったことがある。
「魔法は使えないが、科学技術で作られた物も拒絶されるのか?」
「む………」
全ての魔法を拒絶する。だからこの中では飛行魔法が使えない。ならば、科学技術で空を飛べばいいのではないだろうか。
地球にでも飛行機やヘリコプターなどの飛行技術はある。何なら気球とかでも問題はないだろう。大気圧や虚数空間内でも炎が燃えるのか、など考えるべきことは多数あるが。
「そういうのは考えたことがなかったな。管理世界の基本は魔法技術だしな」
「科学技術はないのか?」
「全くない、という訳ではないが………やはり、主流は魔法だな」
管理世界の科学技術では虚数空間内で使えなくなる可能性が高い。かといって管理外世界から持ってくるのはご法度。調べれば俺と同じことを考えた奴もいるかもしれないが、自分から好んで虚数空間に飛び込む奴はいない、とのことだ。
「ま、あるかも分からない伝説の土地を探しに行くにはリスクが大きいか」
「そういうことだ」
◆
「なのは!」
「フェイト!」
「おや、追いつかれてしまいましたか」
順調に突き進んできたが、どうやらそれもここまでのようである。先発チームである3人と大量の傀儡兵と合流してしまった。
「ユーノくん!」
「アルフ、リニス!」
「これはまた………」
「数が多いな」
空を飛ぶ傀儡兵に、斧を持っている巨体の傀儡兵。その他にも大剣や槍などを持っている個体もいる。大きさも様々あり、少々厄介な連中だ。
「ここまで来れば、霧谷がいるであろう奥部屋もすぐそこだろう。2つに分けて行動したい」
「どう分ける? 4:4で分けた場合は厳しくないか?」
今この場に集まっているのは8人。均等に分けた場合は、4人でこれらの傀儡兵を相手にしなければならない。残る人にもよるが、少々厳しいのではないだろうか。
「3:5で分けるべきだな。僕とクロさんと誰か1人付いてきて欲しい」
「わt「なのはは残ってくれ」………なんで?」
射撃能力と砲撃という力が活かされるのは狭い場所よりも傀儡兵溢れる今の広い場所の方である。なのはは近接も問題なくこなすが、この場には他にも近接戦闘を得意する者がいるのだ。
「だから、なのはにはここで傀儡兵を倒してくれ」
「むぅ、終わったら先に進んでもいいんだよね?」
「ん? あぁ。だが、僕たちのことはk「分かった! じゃあいいよ!」………退くということはしないのだろうか」
虚数空間が出現するほどに空間がボロボロになっているのだ。クロノとしては管理局員ではないなのはたちにはさっさと退いて欲しいのだろう。しかし、そこは猪突猛進娘。恐らく、退かないと思われる。
「では、執務官たちには私が付いていきましょうか」
名乗り出たのはリニスだった。正直、これはありがたい申し出だ。なのはもアリシアも黒いオーラを纏ってるし、フェイトもフェイトでなのはたちのようなオーラが見え隠れしている。
落ち着きなさい、君たち。ほら、ユーノとアルフが震えてるから、な?
「リニス………さん」
「リニスで結構ですよ」
「了解した。では、僕たちは先行する。ここは任せたよ」
「すぐに向かうから、残しておいてね!」
何を残すのだ? なのはよ。
「リニス。危ないと思ったら執務官を止めるのよ。私たちが行くまで待ってなさい」
「アリシア………」
微妙な顔してリニスさんが頷いたが、何故執務官を止める必要があるのか。そして、フェイト。そろそろこちらの世界に戻ってきなさい。アルフが泣きそうだから。彼女の声に気付いてあげて。