昔の日記が出てきた
ページは余ってるし、書いてみるか
○月×日。
題名:えびふらいとびーふしちゅー
今日はスカさんたちから夕飯の誘いがあったので、はやてと諏訪子と共に向かった。母さんは何故か家にいなく、咲夜さんもどこに向かったかは知らない模様。咲夜さんも誘ったけど、母さんを待ってるってことで、俺らだけ追い出されたのだ。
夕飯の時間になっても帰ってこないとは珍しいなぁと思っていたが、まさかこれがフラグだったとは思わなかった。
◆
「裕也様! そちらに行きました!」
「なんのぉぉぉ!!」
俺たちは今、スカさん宅で元気に飛び跳ねるエビフライと格闘中。そう、エビフライとだ。
「もうちょっとで夕御飯できるからね~♪」
普通はエビフライは飛び跳ねないが、スカさんの家の台所に立っていたのは既存の食材から摩訶不思議な物体を作り出す現在の錬金術師―――我が母がいたのだ。
「ちょっと! 誰か母さん止めてぇ!!」
「止めたいけど、ビーフシチューが邪魔してる!!」
窓も扉も全部を閉めた密室空間の中を飛び跳ねる紫の物体こと“エビフライ”が俺たちの邪魔をして、鍋から零れ出た緑色の物体こと“ビーフシチュー”が母さんを守るように立ちはだかっている。
試しにスカさんを放り投げてみたのだが、見事に吸収されてしまった。どうやら触れるのは厳禁なようだ。
「このっ! 見切った!!」
「でかした! チンク!」
逃げ回っていた1匹を捕らえることに成功。フォークで串刺しにして、木版に刺しつける。刺しただけでは、こいつらは普通に飛び回るからだ。
「あとは!?」
「あと2匹です!」
「よし――「裕やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!?」――どした!?」
部屋中を駆け回ってるので、はやてには悪いが端の方に避難してもらっていたが、そのはやてからSOSの悲鳴である。
「えび、えび、えびがぁぁぁ!?」
「あん?」
見れば、服の下でもぞもぞと動くナニカがいた。
「エビフライが入ったぁぁぁぁぁぁっ!! 取ってぇぇぇぇぇっ!?」
「うぇぇぇい!?」
自分で取ればいいものの、恐くて取れない様子。仕方がないので服の中に手をつっこむことに。
ぬっ、素早いな。
「ふぁん!? ちょっと裕やん、ふぁ! ひゃあ!?」
「えぇい、うるさい! こいつか!?」
もぞもぞと狭い中をよく動いていたが、つかみ出すことに成功。そのまま串刺しにしてやる。
「もう! なんなんや!? なんなんや!?」
「エビフライだ」
「そんなエビフライがあってたまるかぁぁぁいっ!?」
ごもっとも。
―――びちゃっ
「―――ん?」
ふと、生暖かい液体が上から降ってきた。手にとって見れば、茶色。もぞもぞと蠢き出して、
「オレハアマインダゾォォォォォォォォォォッ!」
と、のたまうナニカ。色的にはビーフシチューだが、母さんが作ったビーフシチューは緑色をしていたはず。
そして、上を見れば天井にはりつく茶色の物体と目があった。
「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺は慣れたようで悲鳴をあげることはなかったが、はやては大絶叫である。
「母さん、これ何!?」
恐らく………というか、絶対元凶である母さんに天井から床へと落下してきた物体を指差して問う。
「あら、それはチョコレートフォンデュよ。デザートに作ったんだけど、逃げちゃったのよ」
何でデザートにチョコレートフォンデュというか、そもそもデザートは逃げないというか、どこから突っ込めばいいんだ!?
「………どうするんだ? 裕也。この状況」
「どうしようかねぇ」
「前門のビーフシチュー、後門のチョコレートフォンデュ、ですか」
「ウーノさん、落ち着いてますね」
「言ってることはおかしいけどね」
ビーフシチューとチョコレートフォンデュに囲まれるという世にも珍妙な事件の真っ只中にいる俺ら。そんな中、母さんはせっせと夕飯を創作中で、スカさんはシチューまみれなう。ピクリッとも動いてないが、たぶん生きている、はず。
「相手が液体系だからねー、対応策がないね」
後ははやての存在だ。はやてがいなければ、この場に残ってるのは魔法関係者のみになる。そうすれば、魔法を使ってぱぱっと解決できただろうに。
母さん? 大丈夫。適当に手品とか言っておけば納得するって。
「ウーノさん、何か液体が入っても大丈夫なモノってあります?」
「タッパーと鍋くらいですか」
元はテーブルの上に置かれていたであろう鍋たちが、エビフライの所為で床に無造作に転がっていた。あれらなら使えるな。
「なら、タッパーでフォンデュを、鍋でシチューを捕まえよう」
「組み分けは?」
「俺と諏訪子でフォンデュ。チンクとウーノさんでシチューを」
「うちは?」
「無事に終わることを祈ってて」
俺はチョコレートフォンデュを飛び越えて、転がってたタッパーを掴んで諏訪子に投げる。んで、
「うおぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぬめってきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「我慢して!」
俺が素手で押し込んでタッパーにチョコレートフォンデュを押し込む。
「うへぇ………」
チョコレートフォンデュの一部がくっついて蠢いているのがまた気持ち悪い。
「で、裕也。蓋は?」
「え?」
諏訪子が持つタッパーの中に収まったチョコレートフォンデュ。だが、タッパーの蓋がない。
「うぉぉぉっ!? 蓋!? 蓋!? 蓋はどこだ!?」
「ちょっ! 出る! 溢れ出る!?」
「えぇい! こいつでいいや!」
適当にそこらにあった本を掴んで蓋とする。
そして、向こうも終わったようで、鍋の中にビーフシチューを見事押し込んでいた。
「う、うぅ」
「分かる。分かるぞ、チンク。お前の気持ちがすごく分かる!」
俺と同じく両手を汚したチンクを見て俺は頷いた。俺とチンクの気持ちは今、1つになっている。
ところでこの両手の汚れは水で洗い流して良いのだろうか。いつぞやみたいに新種の生物が下水道で見つかりましたとかってならないよね?
―― 時間経過 ――
「ふむ………途中から記憶がないのだが」
「まぁ、そんなときもあるさ」
無事にスカさんも救出できて、さぁ夕飯の時間だ。1つのテーブルを囲んで、俺たちは揃って“いただきます”とした。が、誰も箸に手をつけない。
「―――時に母さん。なして、スカさんの家で料理(?)なんかしてたの?」
「ん? 今日ね、商店街で買い物中にウーちゃんとあったのよ」
ふんふん。
「それで、今日の夕飯は任せなさいってことになったのよ~」
う、ううん?
「母さん、頭と最後は分かったけど、途中が分からない」
「あら?」
まぁ大体予想通りなので、選手交代。母さんの言葉を100%理解できるのは親父くらいなものだ。
で、ウーノさんが補足するに、買い物中に出会った2人が意気投合して話し合っていたら、俺という共通単語を見つけたと。なら一緒に夕飯作りませんか、とウーノさんが誘ったらしい。俺たちも呼んで、たまには大勢で、と。
「話を聞くに、かなり腕に自信があったようでしたので………」
「えへ♪ お母さん、見栄張っちゃった」
「可愛らしく言っても許されないよ」
「くすん」
まぁ母さんの腕は分かってくれたようなので、もうこんなことは起こらないだろう。母さんに料理をさせるのは我が家では禁止事項なのです。
「そんで、これらはどうするんや?」
「食うしかなかろう」
「え゛?」
例え色がおかしかろうが蠢いていようが、こいつらは食べ物なのである。我が家の家訓で“食べ物を粗末にしてはいけない”というのがあるので、食べる以外に選択肢はないのだ。
「では―――」
誰も箸を付けないので、俺が率先して箸を持つ。
「「「「「―――っ」」」」」
周りの息を飲む音が聞こえたような気がした。
まず、ビーフシチューをスプーンですくい、口の前まで持ってくる。すると、スプーンの上の物体と目があった………ような気がしたが、きっと気のせいである。
そして口の中へ―――
「アジヲカミシメロォォォォォォォォォォォォォォ!!」
俺の口の中から俺の声じゃない声が響き渡る。きっと幻聴だ。だから、皆が驚いているのも気のせいなのだ。
「モット、アジヲカミシメロォォォォォォォォォォォォォォ!!」
これで美味いのだから納得がいかない。
「だ、大丈夫なん?」
「だいじょ「アジヲカミシメロォォォォォォォォォォォォォォ!!」れで「モット、アジヲカミシメロォォォォォォォォォォォォォォ!!」だよ」
「ごめん、聞こえない」
色とか云々の前におかしくないところを挙げることが無理な料理。いや、そもそも料理って言っていいのだろうか。まぁそれを問うのは今更なのでもう突っ込まない。
俺が食べたからか、チンクやはやてたちもこいつらを口にし始めた。
「ほんまや………ほんま、美味しいで」
「む、うぅ「アジヲカミシメロォォォォォォォォォォォォォォ!!」」
「味は確かにエビだ。エビフライだな、不思議なことに」
「こっちもビー「アジヲカミシメロォォォォォォォォォォォォォォ!!」牛の味で「アジヲカミシメロォォォォォォォォォォォォォォ!!」味です」
最初だけとはいえ、隣で一緒に作っていたウーノさんは分かってると思うが、使われてる食材は一般的な物である。
牛肉、たまねぎ、じゃがいも、人参、エビ………。調味料だってこの家にあった物を使ったのだろう。
「いったい、どうやったらあれらからコレが作られるのだろうか………」
「スカさん。もう止めた方がいい」
「そうですね。ドクター。この事はもう考えない方が………」
「う、うむ」
はやてやチンクが少しだけ大人になったということで、今日はお開きになった。なんていうか、咲夜さんの料理が食べたくなったなぁ………。
「あ、咲夜さんに連絡するの忘れてた」
母さんを発見したものの、既に場はカオスとなっていて咲夜さんへの連絡を忘れていた。けど、きちんと状況を報告したら許してくれた。
あぁ、そういえば咲夜さんも経験してたよね。ありがとう。そしてごめんなさい。
追記。
「そういえばさ、セインだか誰かがもう1人いたよね?」
「あぁ、その通りだ。セインが来て
いた? 過去形?
「先日の騒ぎでミッドチルダに戻ってしまったんです」
「………何してるん?」
「若さ故の過ち、かな?」
知らんがな。
+月÷日。
題名:不思議な店
休日の日、俺は1人でぶらぶらと歩いていた時のことだ。何かに引っ張られるように、右へ左へと適当に進んでいった。その先にあったのは看板のない店。
「開店ってことは店なんだよな?」
開店の札以外に看板っぽい物はなく、店の形も普通の民家と同じだ。開店の札がなければ多分気付く者はいないのではなかろうか。
「………入ってみるか」
がらりっと中に入るが、反応はなし。2度目の声には気付いたのか奥から女性の声が聞こえた。
「いらっしゃーい」
奥から姿を現したのは水のような髪を持つ背の小さい少女だった。合羽のような水色の服はまるで作業着のようで、服のあちこちに物を入れるスペースであろうポケットが存在していた。手には工具。何かの作業をしていたのだろうか。
「ここは何の店ですか?」
「ん?」
見たところ古道具屋だろうか。雑貨屋とも言えそうだが、それにしては扱ってる物が古すぎる。
「古道具屋、かな? たぶん」
「はぁ………」
◆
「ん~………」
ざっと見渡したところ、色々な物が所狭しと置かれている。値札はもちろんなく、まるで見つけてきた順に置きました的なノリなので、どこに何があるのかなんて分からない。
「値札とかないですけど、これ全部商品ですか?」
「全部じゃないけど、商品だよ」
商品と商品じゃない奴の区別が分からない。しかし、買ってく人とかいるのだろうか。この冷蔵庫とか一体何年前のものだ?
「趣味で始めた店みたいだからねー、あまり物とかを売るのに興味がないんだよー」
「へー………って、みたい? 店主じゃないんですか?」
「ん? うち? 違うよ」
店主かと思ってた少女は店主じゃなかった。まぁ言われて納得はしている。だって、俺とあんまり大差ないものな。背。
背で実際の年齢が計れる訳ではないが、俺とそこまで離れていないのではないだろうか、と予測している。
「うちは………そうね。
「そうなんですか」
その業者さんがいったいこの店で何をやっているのかは激しく気になるところだ。奥で作業をしていたみたいだが、俺が店に入ったからか見える場所で作業の続きを行っているので、ちょっと聞いてみる。
「何をしてるんですか?」
「こいつの修理」
見せてくれたのは人の手のようなモノがくっついた金属の筒だ。まるでロボットの腕のようである。
「なんですか? これ? ロボットの腕?」
「ふふふ。よくぞ聞いてくれた! これこそ私が作り出した第3の腕。その名も“のびーるアーム”なのだ!」
少女の手元のボタンを操作すると、ロボットの腕は若干伸びて先っちょにくっついている人の手の形を色々と変えている。更に筒から飛び出して倍くらいにまで伸びだした。伸縮も可能なようである。
「でも、第3の腕とか言っても操作してるのは自分の腕ですよね?」
第2の腕を使って第3の腕を操作してたら意味なくない?
「今は、ね。これはまだ製作途中で、最終的にはそうなるの」
付け加えれば、第4の腕も制作中とのこと。しかし、腕を介さないでこいつを操作するのはどうやるのだろうか………と考えて、その思考を放棄した。世の中には魔法という力があるのだ。魔法ではなくとも似たような力があっても不思議ではない。
魔法という言葉。それだけで納得してしまいそうである。便利だな。
「―――んん?」
不意に少女がこちらを訝しむように目を細めてみる。
「あんた、
「いえ、俺はこの
「………どっから入ってきたの?」
「どこって、入り口からですけど………」
この少女は何を言っているのだろうか。
「………………うーん」
少女はそれを最後にぶつぶつと小さく呟き始めた。どうやら何かを考えているようだが………ここには入ってきてはいけなかったのだろうか。
(けど“商品”はあるって言ってたし)
商品と非商品は相変わらず分からないが、商品がある以上店ではあるはず。なので、不法侵入ではないし、そもそも不法侵入ならば気付いた時点で追い返しているはずだ。
「色々惜しいけど、今はマズいかな。悪いんだけど、もう出て行ってくれない?」
「ここからですか?」
「そ。時間がないんだ。代わりに、私の名前と居場所を教えてあげるよ」
「はぁ、分かりました」
「私の名前は“河城にとり”。妖怪の山に住んでるよ。滝壺の近くにいるからね! あ、その際に
「了解。機会がありましたら」
その後、俺は少女―――にとりに急かされるように背中を押されて店を出た。
◆
「………河城にとり?」
店を出てすぐに聞かされた単語にピンッときた。慌てて振り返り、ドアを開けようとするけど何故か開かない。思いっきり力を込めて開けると、むわんっと埃の匂いが襲ってきた。
「げほっげほっ!」
俺の視界に入ってきたのはにとりの後ろ姿ではなく、かなり高く積まれた埃の山。所狭しと並べられた商品などなく、床一面埃だらけだった。人がいるような気配など、当然皆無である。
誰がどう見ても廃屋であった。
「白昼夢?」
夢にしては大分リアルであった。知っているとはいえ、会ったこともない人物をあんなにリアルに思い浮かべることが出来るのだろうか。
「………帰るか」
扉を閉めて、振り返る。店に入る前にあった開店の文字もなく、家全体に人の気配はない。それも長年人がいなかったのか、蔦などが多く取り巻いているのが見えた。
「ん? こいつは………」
俺が手に持っていたのは見覚えのないカード。にとりから店を出る際に貰った物だ。
――“河童印の通行証”
そう書かれたカードを持っていた。
「夢じゃ、なかったのか」
落ち着いて思い返せば、奇妙なことを聞かれたのを憶えている。里の人間ではないのか、とか。妖怪の山、とか。
普通に考えて“里の人間か?”なんて問われて疑問に思わない方がおかしい。妖怪の山とかもそうだ。しかし、何故か俺はその時は疑問に思わなかった。何を当たり前のことを聞いてくるんだ? 程度のことしか思えなかった。
「―――ということは、俺がさっきまでいたのは“香霖堂”だったのかな?」
店の店主ではないといった少女“にとり”。古道具屋の店。幻想郷の古道具屋と言えば、2ヶ所程思い浮かぶので確証はない。が、そう思うことにした。
親父ならばこの場合はこう言うだろう―――“そう思った方が楽しい。だから、自分はそう思うのだ”、と。
ならば、俺もそう思っておこう。
「約束もしてしまったことだしなー」
さて、次に会えるのはいつになることやら。
$月@日。
題名:フェイトが受ける母の愛の重さについて
俺は今スカさん宅にいる。最近スカさん宅にお邪魔する機会がかなり多いような気がするが、それはともかく。学校の授業が全て終わった放課後、フェイトにメールで呼び出されてきた。何故スカさん宅なのかは分からないが、向かえばテスタロッサ一家も揃っていた。
右からフェイト、アリシア、プレシアさんにリニスさん、アルフと並び、スカさんたちはテーブルを挟んで向かい側の俺の横に続いている。
一体、これから何が始まるのだろうか。
「ほら、フェイト。あなたが言うんでしょ?」
「う、うん」
俺の方に向き直って正面からフェイトを見る。やや頬を赤く染めているフェイトがすぐそこにいて、口を開いたり閉じたりと繰り返している。
しかし、声は俺まで届かない。
「………?」
「あふぅ」
そして何故かプレシアさんが歓喜の顔でテーブルに突っ伏した。その横でリニスさんが呆れた顔でプレシアさんを介抱している。その間もフェイトの口パクは続く。
まぁとりあえずはフェイトを落ち着かせて、先に進ませないとならない。さっさと家に帰りたい訳ではないが、フェイトを待ってたら夜が来てしまうと思ったからだ。
「はい、深呼吸開始。吸って~」
「ぇ、あ、うん」
「吐いて~」
「は~」
「吸って~」
「す~」
「吐いて~」
「は~」
「吐いて~」
「は~………」
「もっと吐いて~」
「………けほっ!」
咽りながらフェイトがこちらを見上げる。非難めいた目をしているが、肩の力は抜けたようである。これならば話を聞けるだろうか。そしてプレシアさんのところが騒がしいが、リニスさんに任せておけば問題ないだろう。
俺はそっと視界から外しておいた。
「で、話ってなんぞ?」
「―――うん。ちょっと待って」
今度は自分で深呼吸を1度して、俺の方を見た。その目はやけに真剣であり、紅潮した顔ではなかった。どうやら、かなり真剣な話のようだ。
俺も緩んだ顔を引き締めて、フェイトの話に耳を傾ける。
「私―――」
―― 少女説明中 ――
「―――なるほど」
「……………」
「それで?」
「え?」
「ん? それだけのことならば、別に気にしなくてもいいんじゃね?」
フェイトの話を以下である。
最初、プレシアさんは双子の子供を産んだ。しかし、産まれて間もなく双子の片方が死んでしまい、1人だけが生き残った―――これがアリシアだ。当初は悲しんだプレシアさんだが、生き残ってくれたアリシアのことを思い、すぐに立ち直った。
しかし、ある程度アリシアが成長し始めたら妙なことを言い始めたという。
「もう1人の私はどこ?」
と、母であるプレシアさんに問い詰めたそうだ。双子として生まれたので、お互いに何か繋がりでもあったのだろうか。事あるごとにプレシアさんに聞いた。
とはいえ、プレシアさんに答えることはできなかった。更に加えれば、この事を聞かれる度に死なせてしまった双子のもう片方のことを思い出してしまい、夜な夜な泣いていたそうだ。
そしてある時。心が限界を迎えてしまったらしく、お酒の力も背を押して、ついに答えてしまった。
「―――もうすぐ会えるわよ」
それを聞いて喜ぶアリシアに同じように喜ぶプレシアさん。だが、既にプレシアさんは夫とは別離しており、お腹に新たな子供がいる訳でもない。とはいえ、アリシアが求めていたのは死んでしまった双子の片割れであり、妹でも弟でもないのだ。
答えてしまったからには嘘をつきたくないプレシアさんは、どうするかを考え―――出会ってはいけない2人が出会ってしまった。
「私に良い考えがある。手を貸そうではないか」
ご存知の通りのスカさんだ。そこから先は語るまでもなく、2人の天才によりフェイトはこうして爆誕したのである。
アリシアのクローンではないが、生まれてくるはずだった双子の片割れの蘇生―――でもない。しかし、確実にプレシアさんの子供である。
「別にいじめられてるとかではないだろう?」
「うん。それは「当たり前よ! フェイトも私の子よ!」」
フェイトの言葉に被せてテーブルに突っ伏していたプレシアさんが叫びながら立ち上がる。
「じゃあ、別に気にしなくてもいいんじゃね? 生まれが違うだけだろ?」
母の胎内から生まれてこなかったからと言っても、愛されていない訳でもない。人外に生まれて訳でもなく、きちんと他となんら変わりない人である。
だというのに、何を気にする必要があるのだろうか。
「う………あ………」
「あ、あれ!? 俺なんか間違えた!?」
気付けば目の前のフェイトさんの目から滝のように涙が溢れていた。ヤバい、選択肢を間違えたか!? プレシアさんに殺されるデッドエンドか!?
「ちが………ごめ………」
泣き始めたフェイトの後ろにアリシアが立ち、優しく抱きしめていた。アルフはアルフでもらい泣きしてるし。なんかこの場にはいてはいけないような気がしたので、スカさんたちを見たら黙って付いて来いとジェスチャーを送られた。
「―――という訳なのだよ」
「え? 何が!? というかいいの!? 放っておいて!」
「君はあの中に突入する気かい?」
「う………」
別室に連れてこられてどうしようと混乱しているが、あの輪の中に突入して謝るのも何か違うと思う。というか、そもそも俺は何をしてフェイトを泣かしたのだろうか。
「何、もうすぐ落ち着くと思うだろうから、それまで待っていればいいさ」
スカさんが大人の余裕で言葉を零している姿に違和感を覚えて仕方がない。いや、実際大人だけどさ。
「スカさんがスカさんじゃないみたいだ」
「それはどういう意味だい?」
◆
しばらくして。
「お待たせ~」
泣きはらした顔のフェイトを押してアリシアがやってきた。
「ご、ごめんね。急に泣いちゃって………」
「うん? あぁ、気にしてないぞ」
ニヤニヤしてるスカさんが目に入ったが、すぐにウーノさんに頭を叩かれてる姿が見えた。心がすっと軽くなった。
「あのね………こんな私だけど、友達でいてくれる、かな?」
「おぅよ」
というか、今までの俺はフェイトから見たら友達ではなかったのだろうか。そこのところを聞きたい。
「―――ふぅ」
今日の分の日記を書いて、閉じる。やっぱ俺には日記は向かないね。止めよう。エキセントリックな毎日を送るマンガの主人公とは違い、俺は一般人だ。そうそう面白い話が転がってる訳ではない。昨日の日記などかなり前の事を書いてたりする。
「前回と足して5日分が書かれたんだ。日記帳も満足だよな?」
後半に大量に残った白いページは見なかったことにする。日記なぞ、夏休みの宿題だけで十分だ。
「ん? 手紙?」
日記帳を片付けようとしたら、紙切れが1枚ひらひらと床に舞い降りた。拾い上げて見れば、俺の名前が書かれていた。昔に自分が書いた物かとも思ったが、字は女性の物のようである。
―――影月裕也様
―――近く、貴方をお迎えに参ります。
―――八雲紫
「……………………………んん?」
裏から透かして見る。引っくり返したりして見るが、どこからも読めない。やはり、正面からで正しかったようだ。
再び上から見直して確認。素直に考えるならば、八雲紫という人から俺宛ての手紙である。穿った考え方をすれば暗号文とかだろうか………いや、ないな。
「八雲紫ってあの八雲紫? 迎えにってことは幻想入りですか?」
どこで俺の名前を知ったとか、どうして俺なのかとか、色々と知りたいことがある。だが、何よりも、
「この世界に戻ってこれなかったら、嫌だなぁ………」
幻想郷に行けるのはそれはそれで嬉しいことだが、今いるこっちの世界にも未練がある。何より、家族と離れ離れはやはり嫌だ。
「お、裏にもあった」
―――追伸
―――きちんとこちらの世界に戻しますのでご安心を
―――それと、お友達を誘っても宜しくてよ
「―――いや、待て。待てよ、俺」
裏に文字が書いてあった? さっき裏から透かして見たよな?
「………いつ、裏に文字が書かれたんだ?」
そう、口にしたのが悪かったのか。
―――追々伸
―――先ほどですわ
―――深く気になさらずに
表に書かれていた文字が、気付けば変化していた。
「……………………そうだな。気にするのは止めよう」
ゴミ箱に捨てようと思ったけど、何か恐かったので日記帳に挟んでしまっておいた。それ以来、日記帳を開けるのは恐くて開けていない。