不器用な彼の物語   作:ふぁっと

32 / 42
第24話 春過ぎの「転校生」

 

 

 

 

時期外れの転校生

 

訪れるのは平穏か波乱か

 

 

………波乱ですか、そうですか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 ざわざわと教室内がうっとおしい。特に男子が。どこから漏れたのか、今日転校生が来るというのが生徒にバレたようである。

 

 曰く、外人が来る。

 曰く、双子が来る。

 

 などなど。

 もはや、誰かなんてわざわざ言わなくても分かる。あいつらだ。

 

「あ~………」

「おい、裕也。ダレてる場合じゃねぇぞ」

 

 昨日、諏訪子とはやてたちと夜更かししてゲームしてたから超眠い。だというのに、こっちのことなど気にせずにバカどもが群がってくる。

 

「ビックニュースだ」

「転校生だろ?」

「なんだ知ってたのか?」

 

 知ってたも何も、こうあっちこっちで騒いでりゃバカでも分かる。

 

「で、それがどうしたん? この時期ってのは珍しいかもしれんが………ふわぁ」

「いやいやいや、甘いぞ。サッカリンよりも甘いぞ」

 

 サッカリンときたか。サッカリンとは砂糖の数百倍甘いといわれる合成甘味だ。

 

「俺な、朝ちらっと職員室見てきたんだが、転校生と思われる3人と姫様が話してたんだよ」

 

 ふむ。

 

「つまり、転校生はこのクラスに来る可能性が高いってことだよ!」

「「いえー!!」」

 

 なるほどな。野次馬根性の男子どもが職員室で転校生と思われる3人を見た、と。そして総じてレベルの高い美少女だったと。

 そりゃ、男子は息巻いてテンションあがるわなー。

 

「なんか、お前はテンション低いな」

「だって、裕也には高町がいるじゃん」

 

 うん。なんでそこでなのはの名が挙がるのかが分からない。

 

「アホ。単に眠いだけだ」

 

 

 

「しょくーーーん! 戻ってきたぞー!!」

 

 

 

 そこにカメラを持ったクラスメイトが入ってきた。走ってきたのか息切れしている様子だが、そんなのお構いなしとばかりに言葉の弾丸を放り投げる。。

 

「見たまえ! 撮ってきたぞ! この私が! 撮ってきた! 美少女だ! とびっきりの美少女だ! 見たまえ! 私だ!」

「「「落ち着けよ」」」

 

 今時珍しいポラロイドカメラで写真を撮ってきたようだ。机に叩きつけるように写真を置き、その場の全員で眺めると―――

 

「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 

 やっぱりそこには3人が写っていた。驚いたようなフェイト、不思議そうなアリシア、怪訝な顔のチンク―――そして完全にこちらをロックオンしてる目の姫様だ。

 これは………こいつ、死んだな。

 

「諸君! 彼女たちがどのクラスに入ろうとも、3人を聖祥三女神に加えようと私は思う!」

「「「異議なし!」」」

 

 聖祥三女神―――男子が勝手に女子を評価して付けた称号だ。名前から分かるように、これを取得しているのは3人の女子生徒だ。獲得者はなのはとアリサとすずかである。

 

「よくやるよ………」

 

 聖祥六大女神の誕生だー! とか何とか騒いでる一部の男子連中。それを白い目で見ている女子たち。

 ホント、よくやるよ。

 いつもならアリサがうるさいとか言って止めるところだが、今日はなのはたちも揃って珍しく皆いない。よくこちらのクラスに来ていた霧谷はまだ入院中らしいので、当然いない。珍しく、静か………。

 

「「「ヒャッハーーーーー!! 俺たちの時代だーーーーー!!」」」

 

 全然静かじゃないや。けど、まぁいい。今の俺に必要なのは睡眠時間だ。

 

「ん~………ねむい。ねるか」

 

 周りの喧騒をシャットアウトして、腕を枕にして寝る体勢にシフトチェンジ。視界が黒に染まる。HRの時間までもうすぐだが、担任がくる気配がない。こちらも珍しいことだ。時間にうるさい姫様が遅れるなど。まぁ転校生の手続きだとか色々あるのだろう。

 よし、良い感じに眠気が………。

 

「………………zZ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゆさゆさっ

 

――ゆさゆさっ

 

 

「――――っ」

「――――――」

「―――」

 

 

――ゆさゆさ

 

――ゆさゆさ

 

 

 しばらくして、体が左右に揺らされるような感覚に陥る。なんだろうと考えつつも、眠気が頭から逃げないのでしばらく浸ることに。

 

 

 

――ズガンッ!

 

 

 

「ガッ!?」

 

 ぬるぽでもないのにガッと言ってしまった。というか痛い。何だ? と机には粉々になった白い塊―――チョークが散らばっていた。

 何故粉々のチョークが? と。視線を感じて見上げれば、

 

「Oh、姫様………」

「おはよう、影月。目は覚めたか? 何なら、もう1本いっとくか?」

 

 チョークを手で弄びながら、そんなことをのたまう担任。横には呆れたような困ったような顔のフェイトたち………その隣には死体が3つ。うち1つは写真を撮ってた奴だ。

 

「はい、姫様。質問です」

「却下だ」

「ぐはっ!」

 

 おまけにもう一本のチョークレーザーをもらい、HRは終わった。追加はいりませんのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジで3人ともうちにきたんだ………」

「びっくりだよねー」

 

 姫様が応対してたってのを聞いて1人は来るだろうなーと思ってたけど、まさか全員来るとは。裏で何かが動いたのか?

 

「そしてあの人垣である」

 

 1時間目は授業を潰して、自由時間にしてくれた。転校生が3人も来たので、質問やら何やらの時間としてくれたのだ。ただ単に姫様が読書したいから、とは思っていない。えぇ、思ってません。

 だから、姫様。少しはこっちの世界にも関わりましょうよ。教室の端で固有結界なんか築いてないで。

 

「にゃははは。フェイトちゃんたち、大丈夫かなぁ」

 

 フェイトたちは今も周囲をクラスメイトに囲まれて質問攻めに合っている。

 なのははフェイトのところにではなく―――というか周囲の壁が厚くてフェイトのところに行けなかったから俺のところに来てきた。

 あの人垣の中心であわあわしているであろうフェイトたちを遠くから眺めている状態だ。まぁ見えはしないが、フェイトとチンクは確実になっていることだろう。アリシアは余裕で捌いていそうだ。

 

「―――なぁ、昨日からだと思うが、フェイトは何かあったのか?」

「ふぇ?」

「んー、なんか心ここにあらずというか、何か暗いというか」

「あー………」

 

 思い当たる節があるようで、なのはは少し困惑した顔で俺とフェイト(のところ)を交互に見た。

 

「たぶん、知ってると思うけど………」

 

 なのはは言葉を濁した。つまり、理由は知っているが、それはあまり他人が公言するものではないものだということか。

 

「いや、いいや。解決はできそうなのか?」

「こればっかりは私じゃ………でも、なんとかなると思うよ。私はフェイトちゃんを信じてるもの」

「そっか。じゃあ、任せた」

「うん! って、私じゃないけど………。ふふ、それにしても、裕也くんって優しいね」

 

 笑いながらなのはが言う。

 

「でも、よく分かったよね。それだけ付き合いが長いのかな?」

 

 その笑顔は変わらず、ただ周囲の温度が下がっていく気がした。心なしか寒い。体が震えてきたが、どうした俺よ。

 

「ねぇ、裕也くん。ちょっと“お話”しない?」

「だが断る」

 

 最近のなのはの笑顔はただ可愛いだけじゃなくなってきたと思う。こう目の奥が笑っていない感じとか、ホラーのようだ。

 

「―――ぅん?」

 

 念話でも受け取ったのか、突然なのはがフェイトたちがいるであろう人の山に振り向いた。ちょっと目を離した隙にまた山が進化したようである。

 

「裕也くん。そろそろフェイトちゃんたちを助けてあげないと………」

「ふむ。ならば、最終兵器彼女バーニングを投入するか。ヘイ、アリサ」

 

 こうゆう時はアリサである。困った時のアリサちゃんというくらいにこうゆう場合は役に立つ。

 皆の頼れるお姉さんアリサが人垣を切り分け―――るのは面倒だったようで、突撃かました。中心であるフェイトたちのところに辿り着くと、一旦休憩ということでクラスメイトたちをバラけさせた。

 普通は担任である姫様の役目だと思うけどね。これ。

 

「おぉ、さすがアリサだ」

「さすがアリサちゃんだね」

「アリサちゃん、かっこいい♪」

「あんたらね………」

 

 解放されたフェイトたちが疲れた足でこちらにやってきた。

 

「うぅ、疲れた………」

「何なんだ! これは!」

「はぁ」

 

 フェイトもチンクも疲労困憊だ。唯一、アリシアは疲れた顔は見せてないが………それはともかく。アリシアよ。

 

「なに?」

「なに、じゃねぇ。何してるのよ?」

「裕也の上に座ってるの。疲れてるのよ」

「どきなさい」

「やー」

 

 俺の膝の上に座り、頭をごりごりと俺に押し付けながら拒否と言う。顔に髪がかかってうざい。でも良い匂いである。なんで女性ってこうも良い匂いがするのだろうか。同じシャンプーとか使っても男では絶対出せない匂いだよな。

 

「むー」

 

 隣から猫の唸り声が聞こえた。俺の本能が死ぬと告げている。原因は隣の猫か、それともクラスから向けられる嫉妬の瞳か。

 

「ひゃあっ! ちょ、ちょっとすずか!?」

「いいから♪ いいから♪」

 

 そして目の前からはツンデレの鳴き声が聞こえた。

 何をしているのかと思えば、すずかがアリサと2人でイチャラブをしていた。やはり、すずかはアリサの嫁だったんだな。良きかな良きかな。

 

「ほら、お前の妹がこっちを見てるぞ」

「ふぇ!? あっと、その、ごめんなさい………」

「裕也はヒドい男ねー」

「え? 俺が悪いの? おかしくね?」

「ほら、早くフェイトに謝って」

「裕也くん………」

「おい! なんだよこれ!? アリシアもなのはも何故俺をそんな目で見る!?」

 

 俺に味方はいなかった。

 というか、いい加減どいてくれない? アリシアさん。そろそろなのはさんが堕ちてはいけないところに堕ちそうなので。

 俺が危険です。危険が危ないのです!

 

 

 

 

 

 

 1時限目も半分過ぎたところで、姫様がこちらの世界に戻ってきた。持ってきた本が読み終わったから、次のを取りにいくそうだ。なんて教師だ。

 1時限目はそのまま自由時間扱いでいいから騒がずにいろ、とのお達し。そこでアリサ発案の質問タイムが急遽設けられた。転校生3人を教室前に集めて、集中して質問するというものだ。司会はもちろんアリサ。補佐に何故か俺。

 

「寝てたからよ」

 

 他にも寝てる奴とかいたのに。そいつらでいいじゃん。

 

「じゃあ、質問ある人、挙手!」

 

 無視ですかー。そーですかー。そーなのかー。

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

「多いよ」

 

 まぁ補佐くらいならいいか、という訳で。

 適当に指して立たせる。質問ある奴はその場で立ってフェイトたちに伝えるという形式だ。でないと、また人垣が形成されてしまう恐れがある。

 

「どこの国から来たんですか?」

 

 ふむ。それも当然の質問だろう。どう見ても日本人離れした髪色だしな。

 

「あ、えっと………」

「イタリアからよ」

 

 へーとかすごーいとか日本語うまーいとかクラスメイトが呟く。ミッドチルダとか異世界から来ましたとか言う訳にはいかないから、何て言うのかと思ったが、

 

(事前に考えてたのか?)

 

 それにしてはすんなりと出てきたな。アリシアは。フェイトは詰まってたけど。

 

「チンクさんは?」

「私も同じだ」

 

 イタリア便利すぎね?

 

「はーい、次!」

「はい、そこの」

「お姉ちゃんやお兄ちゃんはいますか?」

 

 兄弟か。一人っ子だから、純粋になのはとかフェイトは羨ましいものがあるな。諏訪子? あー、アレは違います。

 

「あ、っと………」

「私たちは“双子”で、それ以外に姉妹はいないわ」

 

 うん? なんか双子のところを強調したような………。

 しかし、フェイトがしゃべれていない。

 

「私には一応姉と妹がいるな」

 

 チンクの回答に三姉妹と勘違いされてるようだが、実際には12人だっけか? まだ全員と会ってないから実在するかは分からないが、そこそこの数はいたはず。

 

「どんどん行くわよー!」

「はい、そこ」

「生まれる前から好きでしたー!」

 

 質問じゃねぇ。

 

「あ、え? 私?」

 

 クラスメイトが手を向けてるのは、フェイトのようである。ようやく先ほどの言葉が自分に向けられたと理解して、

 

「ごめんなさい」

「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

 迷わず断った。

 

「はーい、バカは放っておいて次いくわよ!」

 

 討ち崩れるバカは放っておいて、次の質問者を指す。まだ、多いな。

 

「あなたのことが好きd「断るわ」す、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 次のバカは言い終わる前にアリシアに断られた。早いな、せめて最後まで言わせてあげても良かったんじゃないか?

 

「次―」

「チンクたぁぁぁぁぁぁんっ!」

「なっ!?」

 

 立ち上がる勢いを利用してチンクに飛び掛るバカその3。慌てることなく落ち着いてチンクは対処した。拳という名の対処を。

 

「くるなっ!」

「へぶあっ!?」

 

 そのまま転がって動かなくなるクラスメイト。やってしまった、みたいなちょっと慌てた顔をチンクはしているが、問題はない。

 

「羨ましいぞぉぉぉ!!」

「1人だけ抜け駆けしやがってぇぇ!!」

「は………え?」

 

 ほらな。うちのクラスはこれくらいは日常茶飯事だ。

 

「なんなのよ! あんたらは! 次!」

「アリサァァァァァアアア! 結k「死ね!」げぶらっ!?」

 

 何故かアリサに告白、か? しようとしたクラスメイトが飛び膝蹴りをもらって上に飛んだ。そこを何故かアリシアが横に蹴り飛ばした。なんという連携。

 

「あたしに質問してどうするのよ! 次!」

 

 質問だったか? さっきの。

 にしても、現状は放置でいいのか姫様。担任的な意味で。だが、止める気は欠片もないようで、教室の端で己の世界を築いている。

 あの固有結界は俺では崩せそうにない。

 

「チンクさーん!」

「アリシアさーん!」

「「「殴ってくれぇぇぇ!!」」」

「うわ………」

 

 指す前に立ち上がった男子数人がチンクとアリシアに特攻する。それらに引き攣った顔で後ずさりする2人。でも、きちんと応対はしている。拳という名の、な。

 フェイトは巻き込まれないようにとアリサが後ろに引っ張ってった。

 

 

 

 

 

―― 少女暴走中 ――

 

 

 

 

 

「うぅ………」

 

 殴った手をハンカチで丁寧に拭いている。そんな汚物のような扱いまではしなくてもいいのではないかなぁ。気持ちは分かるけどさ。

 

「次!」

「お、女子がきたか」

 

 男子が減ったせいか、女子の質問者が見えた。ので、さっそく指名。

 

「好きな人のタイプはどんな感じ?」

 

 おぉ、まともだな。これが質問だよ。

 

「そうね………物静かでここぞという時には頼りになるような人かな?」

 

 何故か視線があったがスルーしておく。俺の本能がスルーしなければ大変なことになると告げていたからだ。

 

「えっと、そうゆうのは、よく分からないけど、………気になる人は、います」

 

 フェイトは恥ずかしがりながらも、そう答えた。湧き上がるクラス。その言葉を聞いて何人かが頷いた姿が見えた。お前ら、何故頷いた?

 まぁ当然ながら、気になる人って誰ー? という声があがったが、フェイトは小さく「秘密です」と応えた。姉と違って保護欲をかきたてられるな。

 

「……………」

「チンク、あんたの番よ」

「え゛、私も言うのか!?」

「当たり前よ」

 

 無意識に注目を浴びたチンク。焦った後の回答は、そうゆうのはよく分からない、とのこと。

 

「裕也とかどう? 優良物件よ?」

「おいアリサてめぇ」

 

 ここでガタッと音がしたが、振り返った教室に立ち上がった者はいない。誰だ? 誰が今ガタッをした? 素直に早く名乗りあげなさい。

 

「そこまでだ」

 

 ここで固有結界を展開していた我らが教師のご登場だ。何かあったかと思えば、

 

「終わりだ」

 

 同時に授業終了のチャイムが鳴り、質問タイムは終了した。途中から色々とおかしかったが、まぁ概ね好評だったのはよきことかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 魔導師組みは用事があるとか言ってどこかに消えていった。恐らく、ジュエルシード関係だろう。アリサとすずかは今日も今日とて塾やら稽古やらの時間なので早々に帰宅。チンクはチンクでスカさん関係で用事が残っているらしい。俺も残ってる理由はないので、真っ直ぐ帰宅した。

 

「おか~」

「………お前はデバイスなのにデバイスっぽくないなー」

「ま~ね~」

 

 迎えてくれたのはお菓子を片手にドラマを見る諏訪子だった。母さんと咲夜さんは出かけてるようで、家にはいないみたい。

 

「そういや管理局がどうとか、あれどうなったの?」

 

 お菓子片手に振り向く諏訪子。せめて口周りは拭けよ。

 

「さぁな。まぁ俺たちは魔導師じゃないってことになって……る………そういやフェイトにバレてたな」

 

 口止めはしたし、問題はないかな。

 

「………なるようになる、か」

「あの変態とかもどうするんだろうね」

「スカさんか………どうすんだろ」

 

 ちょっと整理しよう。

 

 ・誰にも俺=クロということはバレていない。

 ・なのはには魔導師ということはバレてない(言ってない)。

 ・フェイトとアリシアには魔導師とは伝えてある。が、口止め済み。

 ・スカさんチームとプレシアさんには両方ともバレている。

 ・ジュエルシードはあと8個が見つかってない。うち、2個は俺(スカさん)が隠し持っている。

 

(で、管理局が接触するなら、なのはやフェイトたちだろう)

 

 もしかしたら、そこから魔導師ということがバレるかもしれない。が、フェイトも約束を破るような奴ではないし、大丈夫だろう。更に言えば、現状戦力は有り余っている状態だから、協力を要請されることもないだろう。

 と思う。

 ただ、鬼門はアリシアだな。狡賢いというか何を考えているか分からないというか………それを考えたら、プレシアさんとスカさんも危ないな。面白そうだからって巻き込まれたら………。

 

(あれ? 既に巻き込まれてね?)

 

 なんだろ。考えたらダメなような気がしてきた。

 

「集めたジュエルシードはどうするの? あれ持ってたら目を付けられるんじゃない?」

「どうしようかねー。今も探してるなのはたちのことを考えたら渡した方がいいのだが」

 

 俺はなのはやフェイトたちとは違って魔法の才能がない。資質はあったみたいで、こうして魔導師になれたが―――それだけだ。

 ジュエルシードはなのはたちとの差をなくすのに一役をかってくれる存在だ。手放したくはない………。

 

「まぁもう使った後だけどねー」

「スカさん曰く大丈夫だそうだ」

 

 ジュエルシードには願いを叶える機能と、それを動かすための莫大な魔力がある。願いを叶える機能が永き年月でバグを起こし、歪な形に叶えるようになってしまった―――と言われているが、スカさんの研究結果から、違うということが分かった。

 どうやらジュエルシードというのは7つ纏めて使うことで、初めて正常に起動するように作られているという。単純に7個ではなく、番号Ⅰ~Ⅶ、Ⅷ~ⅩⅣ、ⅩⅤ~ⅩⅩⅠと揃えなければならない。

 

「じゃあ、今までの暴走は?」

「単純に使い方を間違えただけ」

 

 まぁそれでも誰でも使えてしまう辺りは危険なロストロギアの認識で間違いはないだろう。

 

「スカさん曰く、1個でも十分な量みたいで、もう1個余ってるのが現状」

「どうするの?」

「パワーアップ用に取って置きたいけど、どうしようか? スカさんに2個使ってくれって頼むか?」

「あんまり信用しない方がいいよ? 人間辞めることになるかもよ」

 

 さすが神様を辞めさせられた本人が言うと説得力があるな。注意しておこう。

 

「んー、パチュリーさんに頼んで何かしてもらうか?」

「あの魔女に?」

 

 とはいえ、これまでにお世話になったしなー。スペカ的な意味で。

 

「いつまでも持ってる訳にもいかないし、かといって誰に預けるべきか………」

「いっそ自分で願いを叶えてみるとか」

「そしてなのはとフェイトが飛んでくる事態になるんですね。分かります」

 

 1個だけだったら、暴走する言うたやん。このダメカエルめ!

 

「あや? おかえり~裕やん」

「ただい~………庭で何してるん?」

 

 庭から顔を出したのははやてだ。姿が見えないと思ったら外にいたのか。

 

「家庭菜園や。トマトとか色々植えたんやで」

「ヘー」

 

 庭に出て見れば、一部の土が盛りかえっていた。植えたのはスイカにトマト、ナスらしい。

 

「ナス?」

「ナスやで」

「ナスかー………」

「どしたん?」

「あー、裕也ね。ナスが嫌いなのよ」

「ナスはダメ。ナスはあかん。ナスは絶対にノゥ!」

 

 ナスだけは絶対に許さない。ちょっと掘り返してくる。

 

「それはさすがにあかんよ」

「もっと他にもあるだろ? キュウリとか南瓜とか」

「また咲夜に食べさせてもらえば?」

「え? 何それ。ちょっと詳しく聞かせてな」

「えっとね………」

「すたーーーーーっぷ!!」

 

 話をすり替えるな。今はナスをどうやって………おい、ちょっと待て! そこの狸とカエル!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに数日。

 

 こっそりとジュエルシードを俺が1つ見つけたくらいで、他には特になかった日々。見つけたからには放っておくわけにもいかず。そこでなのはたちに連絡すればいいのに、持ち帰ってしまう当たりが、俺のダメなところ。

 俺が持ってる3個の分もなのはたちが探してると思うと、そろそろなんとかしないと可愛そうに思えてきた。

 が、どうやって渡すべきかが思い浮かばない。

 

 当初の予定では、フェイトにプレシアさんに会わせてもらう際の交渉材料&俺のパワーアップ用として集めていたが、原作と違って家族仲は良いテスタロッサ家のおかげで………というか既に接触してしまったので使う機会がなくなってしまったのだ。

 とりあえず、ジュエルシード1個分の魔力を使って、新しくジャケットを作ってもらっている。これは防御用ではなく、封印用のだ。

 例の強化モード―――祟り神化と名付けたブーストをした際に、周囲に祟りを漏らさないようにとお願いした。

 一応、俺が持ってる分は全部スカさんに渡してあるけど、どうしようかねぇ。

 

 そしてもう一件。

 

 ついに管理局が接触してきた。これまたなのはたちからメールで教えてもらったのだが、こういうことは伝えて良いのだろうか。最近、自分の立ち位置が分からなくなってきたが、無関係ではあるはず。

 3人はこれからは管理局の下でジュエルシード探しを行うそうだ。学校はどうするのかと聞けば、時々休むかもしれないが基本は通うようである。休むまではいかなくても、遅刻や早退などは多くなりそうである。

 んで、フェイトたちに関しては全員が魔法関係者だからいいが、なのはの場合はそうはいかない。いきなり娘が親に内緒で早退とか遅刻とかしてたら、あの父兄が黙ってないと思う。絶対に。

 ということを考えてたら、プレシアさんと管理局のお偉いさんがなのはの家族に説明をしに赴き、説得と納得をしてもらったそうだ。お偉いさんが誰かは分からないが、なのはの言葉を信じるなら間違いなくリンディさんだろう。

 

 そして最後に1つの懸念。

 

(霧谷か………)

 

 なんと霧谷が管理局にいたという。どうやらなのはたちと接触する前に自分から接触し、自分を仲間にしろと言ってきたとか。

 オーバーSSという規格外の魔力量とレアスキルを持つために管理局は2つ返事で誘い入れた旨が書いてあった。

 AランクとBランク。SSランクとSランク。たった1つの小さな差だが、実際には大きな幅なのだ。それほどまでにランク差はでかい。故に、SSランクの霧谷は多少は問題児であろうとも、管理局からすれば喉から手が出るほど欲しい存在だったのだろう。

 対してこちらはC+といったところ。あれからそこそこ成長したとは思うので、もしかしたら増えてるかもしれないし、祟り神化すればきっとランクもあがってるはず。Bか良くてAか………もしかしたらAAとかになってるかもしれない。あくまでも俺の希望であって、実際の数値はどんなものかは分からない。今度暇があったら計測してみるのもいいかもしれない。

 

(霧谷ともし戦うとしたら………)

 

 こうして文面で見ると手の届かない高みにいる霧谷だが、実際に戦ってる場面を何回か見たおかげか何故かあまり遠い存在だとは思っていない。真正面からならたぶん負けると思うけど、奇策や不意打ちなどを思いっきり使えば、倒せるかもしれない。

 まぁ、戦うという場面が起こらなければそれでいいのだが。

 

「―――というわけで、俺は今後どうしたらいいかなぁ、と」

『私に言われても困ります』

「ですよねー」

 

 考えてたら頭が痛くなったのでスカさんに連絡した。そしたら、何故かウーノさんが出た。

 スカさんは今セインだったかな? 新たに来た仲間のメンテで手が離せないそうだ。

 

「なるほど。後ろの悲鳴はそれですかな?」

『はい。ドクターはセインを小学校に入れたいようですが、セインはもう小学生とは呼べない程に成長していますので』

「魔改造か………」

『小学生の体に戻そうとしていますが、それにセインが抵抗しているところです』

「なるほど。何してるん、あの人」

 

 小学校に入れるために小学生の体に戻すとか………最早なんでもありだな。

 でもなんで小学校? 学校に行かせたいなら中学でも高校でもいいじゃん。

 

『ドクターのバカーーーーー!』

『げふらっ!?』

『ドクターーーー!!?』

「あ、スカさんが飛んだ」

『あらまぁ』

 

 白衣を着た紫の物体がウーノさんの背後を横一直線に飛んだ。俺の周りでは人を飛ばす人がたくさんいるからあまり驚かなくなったな。

 筆頭なのは吉野さんだな。よく自分の夫も振り回して飛ばしている。だけど、夫婦仲は大変よろしいようで。ちなみに吉野さんは今年で80歳の御婆さんだ。元気だよな。

 

『では、すいませんが』

「あい、また何かあったら連絡しやす」

『はい、では』

 

 ブツンッと切れる。

 

「はて。俺は何でスカさんに連絡したんだっけか?」

 

 なんか重要なことを忘れてるような気がするが、まぁいいか。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。