不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第23話 お隣の「雷神」さん

 

 

 

 

金色2人

 

 

輪に加わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、裕也様。これの説明をお願いします」

 

 学校から帰ってくると、部屋の中に咲夜さんがいた。目の前には俺が隠していた血塗れの衣服が置いてある。懇切丁寧に隠しておいたのだが、どうしてバレたし。

 

「今朝方、はやて様に教えてもらいました」

 

 ちっ、あの子狸め! 知っていたってことは、あの時起きてたのか?

 

「ま、まぁ2日くらい同じの着ても………」

「これ。血ですよね?」

 

 服が広げられて、変色した血の部分が顕になった。

 

「うぐぅ」

 

 逃げ道が今のところ見つからない。どうやってこの窮地を逃れるか………も、気になるが、

 

「―――っと、部屋の端で転がってる諏訪子の死体はいったい?」

「裕也様が帰ってこられる前に少々“お話”を致しました」

 

 部屋の端ではピクリッとも動かない諏訪子が寝転がっていた。顔はこっちを向いてないので分からないが、気絶しているのだろう。いったい、どんな“お話”をしたのだろうか。

 

「―――それで、裕也様」

「うぐぅ」

 

 俯いていると、咲夜さんがスカートを少しずつとあげていくのが見えた。エロ展開で俺をしゃべらせるというのだろうか? 望むとk―――ゲフンゲフン。

 さすがに子供相手にそれはないな。ならば一体――――

 

「まずは1本でしょうか」

 

 スッとナイフホルダーから1本のナイフが抜き放たれた。

 

「ごめんなさい」

「では、ご説明をお願いします」

 

 ですよねー!

 でも、まず1本ってのは何だろう? 刺していくのかな? 俺はどこぞの中国では―――そういえば、美鈴を見てないな。彼女もいるのだろうか。

 

「そろそろ指が疲れてきました。刺してしまいそうです」

「すいませんでした。ご説明させて頂きます」

 

 

 

―― 少年説明中 ――

 

 

 

「はぁ―――なるほど」

 

 一から十まで、ではないが。ジュエルシードの存在や、それを探していることを伝えた。なのはやフェイトたちのことも伝えるかを悩んだが、咲夜さんからポロッと零れてなのはから“お話”されても困るので、その部分は伏せておいた。

 とりあえず、ジュエルシードを見せ………たいけど、手元にないからジェスチャーで教えて、危険だよってことを伝えておく。

 

「俄かには信じがたいことですが、分かりました。それで、傷の方は大丈夫なのですか?」

「あぁ、うん。そっちはよく分からないけど、塞がってた」

 

 実際俺も不思議に思っていた。治療も途中で抜け出したのに、跡形もなく完治してるとはこれいかに。自己治癒能力にしてもその日のうちに完治は早すぎる。

 まぁ問題はないようだから、気にしていないけど。

 

「時々、夜中に抜け出すのはこれが原因でしたのね」

「あ、バレてました?」

「えぇ、わざわざ玄関から靴を2階に持っていく辺りで」

 

 最初の頃は靴をわざわざ持って来て、2階で履いてから外に出るという手間をしていた。しかし、最近は空中戦が多いから履かなくてもいいんじゃね? という感じで履いてない。

 ということは、けっこう初期の頃からバレていたようである。

 

「危険ではないんですか?」

「んー、たぶん大丈夫かと」

「―――血に濡れてますが。このパジャマは」

「それは油断したとか不意をつかれたというかたまたまといいますか」

 

 血濡れの服が目の前にあった状態で、危険はないよとか言っても信憑性は皆無だよね。でも、そんな毎日戦っている訳でもないので、危険はないと思います。はい。

 なので、そろそろナイフを仕舞ってもらえませんでしょうか? チクチクと俺の首筋に当たってるんですけど!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日。

 

 ジュエルシードも特に暴れず、適度に捜索しながら魔法の練習をするという日々をなのはたちは繰り返していた。時々、思い出したように広範囲の儀式魔法を使ってジュエルシードを炙り出すということをしているみたいだが、見つからないようだ。

 俺も何もない日は自身の鍛錬やら魔法の練習やらと日々を費やしていた。もちろん、サッカーの練習がある場合はそちらにも顔を出している。近々、試合があるので皆張り切っている模様。

 

「ぶっ殺せー!」

「「「ぶっ殺せー!!」」」

「張っ倒せー!」

「「「張っ倒せー!!」」」

 

「なぁ、掛け声別のにしないか?」

「別のね………」

 

「皆殺しー!」

「「「皆殺しー!!」」」

「もう、いいや」

 

 平和な日々である。

 俺の周りでは特に変化はなく、いつもの日常だったのだが―――強いてあげれば1つだけ変わったことがあった。

 そのことは学校でクラスメイトたちから話を聞いた。

 

「は? 霧谷が入院? その霧谷って隣のクラスの?」

「あぁ。かなりの重傷らしいぞ」

 

 あの霧谷が落雷の事故で入院した、という話だ。霧谷の後を追っかけてた女子連中が騒いでいたから、間違いないかと思われる。

 

「天罰が下ったんだな。きっと」

 

 まぁあの性格なので、男子連中からはお察しの通りである。女子連中とは逆方向で騒いでいるのが見える。

 

(しかし、あの霧谷が事故なんかするだろうか? いざとなったら自分の力で防ぎそうだが………)

 

 さすがのチートも自然現象には勝てなかったのか、と不思議に思ってたけどスカさん宅に向かったら解決した。

 

 

 

「やれやれ、君も引越し早々災難だったね」

「まったくだわ」

 

 俺とスカさんと一緒の席で翠屋のケーキを食べている妙齢の美女さん。彼女こそが、霧谷の落雷事故に関わった人であり、真実を伝えてくれた人だ。

 

「………俺、テラ場違い」

「おや、どうしたんだい?」

「いや………俺、なんでここにいるんだろうかなぁと」

「おかしな子ねぇ」

 

 妙齢の美女さんことテスタロッサ一家の主“プレシア・テスタロッサ”は、俺のことを不思議そうな目で見ているが、俺も同じような目をしているのだろう。確か忙しくてミッドチルダから離れられないとか言ってたはずだが、いつ来たのだろうか。

 ちなみにプレシアさんは俺=クロというのはバレている。というか、スカさんがバラした。その件で娘が世話になったとお礼を言われた。でも、クロというのは秘密でお願いしますね。まだバレてませんから………おいコラ、スカさん。どこに電話かけるつもりだよ。

 

「そうそう、スカリエッティ。また面白いデバイスを作ったんですってね?」

「あぁ、諏訪子くんのことかい?」

「データの上では見たけど、実物はいないのかしら?」

「それだったらもうすぐ―――」

 

 2人の天才が何かの話をしている。いや、単語を拾うに諏訪子のこととは分かるんだが、専門用語が多すぎて俺には全く理解できない。

 仕方がないので、プレシアさんが話してくれた過去でも回想していようか。

 

 

 

 

 

 

 プレシアさんが海鳴に引っ越してきたその日の夜。フェイトたちと久しぶりに家族揃って夕飯でも食べようと外で待ち合わせをしていた時に起こった。

 

「こんなところで会うなんて奇遇だな、フェイト」

 

 プレシアさんを待っていたフェイトたちに霧谷が接触してきたのだ。こちらの話を聞かず、いきなり俺の物になる覚悟は決まったか? とか言ってきたらしい。適当に返事しつつ何処かに行けと伝えたところ、何を勘違いしたのか喜々としてフェイトたちを無理矢理連れて行こうとしたとか。

 嫌がるフェイト。罵倒するアリシア。今にも飛びかかろうとしているアルフ。話を聞かない霧谷と揃ってるところに、遅れてきたプレシアさんが登場。

 

 

「うちの娘に何してるーーーーーー!!」

 

 

 周囲のことなど気にせずに魔法を行使。これにより拘束から離れたフェイトたちが慌てて結界を展開。その後は一方的に霧谷が雷に貫かれたそうだ。当然ながら、初撃の雷は管理局も観測した。後ほど、このことについて一言注意があったらしい。

 ちなみにプレシアさんの初撃の雷は現地のニュースにも載りました。“雲もないのに謎の落雷”、“海鳴市の少年が落雷事故”などと放送されていた。

 

 

 周りにいた人々に、何故プレシアさんを止めないで即座に結界展開したのか、と聞いてみた。

 

「プレシアを止めるとか無理です」

 

 と、リニスさん。

 

「母さんを止めるとか無理だから」

「怒った時の母さんは何しても止まらないから」

 

 と、双子。

 

「無駄だからね」

 

 と、アルフ。

 

 

「ちっ! 防いだようね!」

「ちょっと待て! なんであんたがここにいる!?」

「問答無用! 塵も残さず消し去ってあげるわ!」

 

 飛んでくる剣? 雷で穿つ。

 爆発する槍? 雷で穿つ。

 予測不能な矢? 雷で穿つ。

 厚い防壁? 雷で穿つ。

 気絶した霧谷? 雷で穿つ。

 

 病気も患っている訳でもなく、絶好調なプレシアさん。聞くだけで原作以上の強さを持っていることが分かる。

 アリシアやフェイトが苦労した霧谷をあっさりと倒し、本当に塵も残さないで消し去ろうとしたのでさすがに止めたとか。そこからリニスさんがスカさんに連絡して、色々と裏に手を回してもらったそうだ。

 

 そんで、あの事故になった。

 当の本人は“嘘ではないだろ?”とのたまっていた。人為的な落雷事故だったけどね。

 

 後はチンクが救急車を呼び、たまたま通りかかった通行人Aを装って霧谷を送り出した。その間にスカさんとウーノさんで情報操作兼証拠隠滅もろもろを行ったとか。

 

「色々と突っ込みどころはあるけど………まぁ、いいか」

 

 未だに謎の言語で会話をしている2人を横に眺めて、ケーキを食べる。うまい。

 

「………俺、このままでいいのかなぁ」

 

 ふと、思った。この2人とこのまま関わり続けて、将来全うな道が歩けるのだろうか。スカさんみたいに自称犯罪者とかになってたらどうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

「ただいま帰った」

「「「「おじゃましまーす」」」」

 

 玄関が開く音と同時に元気な声が複数聞こえてきた。どうやら出かけてた人らがおまけを連れて戻ってきたようだ。

 

「おかえり、2人とも」

 

 まず入ってきたのはウーノさんとチンクだ。もう1人来るはずの人はまだ来ていないようで、姿は見てない。

 

「あら、いらっしゃいませ」

「お邪魔してるわ」

「どもス」

 

 ウーノさんは買い物してきたようで、買い物袋をテーブルに置いて中身を片付け始めた。その動き、その姿。最早、間違えることはない。完全に主婦だ。チンクはウーノさんを手伝っている子供ポジションで違和感がない。2人並んでいたら、親子か姉妹にしか見えないだろうな。

 

「ちゃんと買えた?」

「うん。なのはたちに選んでもらったの」

 

 続いて入ってきたのは、金髪の2人娘。フェイトとアリシアだ。どうやら、ケータイを新しく買い換えてきたようだ。2人が持っていたのは買ったばかりの新しい物とはいえ、二世代ほど前のものだったしな。

 

「あ、裕也」

「はろ~」

「なんでここにいるの?」

「暇だったから」

「あれ? 二人とも裕也くん知ってるの?」

 

 2人に少し遅れて入ってきたのはなのはとはやてと諏訪子だ。家で姿を見なかったのは、フェイトたちに付き添っていたからか。

 

「あ、うん。前にたまたま会って………」

「その時にあいさつしたってくらいよ」

「ふーん」

「―――あんたがそんな顔するなんて珍しいわね」

「ふふ」

 

 なのはの後ろにはいつもの2人。アリサとすずかがいた。いきなり大所帯になったな。ここ。

 

「おす」

「なのはも物好きというか何と言うか………」

「ぅん?」

「なのはちゃん。苦労しそうだね」

「………うん。でも、負けないの。フェイトちゃんにも負けないの」

「ふぇ!?」

 

 何が何だか知らないが、なのはは息巻いてフェイトに宣戦布告みたいなことをした。驚いたフェイトだったが、ちらちらと俺を見た後になのはに「負けないよ」と返していた。

 なんだろ? 1対1のバトルでも約束してるのだろうか?

 

「でも、1番の敵ははやてちゃんかな」

「………そうかもね」

「なんや?」

 

 男らしく拳を合わせて友情(?)を確認しあったなのはとフェイトの2人。直後にははやての方を振り返って、何かを呟いていた。当の本人は分かってないようだが………。

 

 とりあえず、そのにやにやを止めないか?

 アリサにアリシア。

 

「えー? どうしようかしらね?」

「すずか。お前の嫁だろ? なんとかしろよ」

「そこがアリサちゃんの可愛いところなんだよ」

「フェイト。お前の姉だろ? なんとかしろよ」

「え、えっと………そこが、姉さんの可愛い、ところ?」

「疑問系で言われても………」

「ていうか、フェイトは私のこと可愛くないって思ってるの?」

「ち、違うよぉ!」

 

 姿格好はほんとに似ているのに、中身は全然似ていない姉妹である。俺も兄弟欲しいなぁ………と、ふと諏訪子が思い浮かんだ。が、却下でお願いします。

 奴が妹とか、なんか嫌だ。

 

「………そういや、それって?」

 

 ケータイの箱以外に大きな荷物を持っている2人。フェイトとアリシアだ。

 

「あぁ、これ?」

 

 アリシアが袋から取り出したのは、

 

「じゃーん」

「えへへ」

 

 聖祥大学付属小学校の制服だった。アリシアは堂々と、フェイトは恥ずかしそうに。

 

「母さんがせっかくだから学校に行ってきなさいって」

 

 ほー、だがちょっと待ってくれ。フェイトもアリシアも戸籍はなかったはずだ。今の時代、戸籍が無ければ学校編入も無理だと思うが………。

 

「………どうやって入れたんすか?」

「そこは私の手腕によって」

 

 こっそりとスカさんに聞いたら、そんな答えが返って来た。

 

「あぁ、うん。分かった」

「そうゆうことだよ」

「いいのか? これ」

「いいのだよ」

「いいのかー」

 

 だいたい理解したが、怖いから口にはしないでおく。

 

「だが2人だけではない。もう1人いる」

「ん?」

 

 スカさんの視線がチンクに刺さり、チンクは顔を赤くして隠れてしまった。

 

「ほら、チンクも編入することにしたのよ」

「ウーノ姉様!?」

 

 ウーノがチンクの代わりに聖祥小学校の制服を掲げて見せた。顔を真っ赤にして隠すチンク。だが遅いぞ。

 

「またどうして?」

「いやなに、ちょうど良いと思ってね。この世界のことを学んでおくことはマイナスにはならんしね」

 

 前半は皆に、後半は俺にのみ聞こえるようにこっそりと話してくれた。

 

「嫌だ嫌だと駄々をこねて………試験を受けさせるのに一苦労しましたわ」

「うぅ~………」

 

 顔を赤くして唸られても大して恐くないけど、俺を睨むのは筋違いじゃね?

 まぁチンクの体型ならば、小学生でも問題はないよな。だって、並んでて違和感ないもん。

 

「なんか変なこと考えてないか!?」

「とんでもない」

 

 余談だが、きちんと3人とも編入試験を受けて無事に合格している。戸籍云々はあれだが、学力に関しては正規の手続きで入ったという。

 そういえば最近フェイトたちを良く見るなーと思ってたら、勉強会とかを開いていたらしい。ちなみにフェイトたちが勉強会の間は、スカさんとウーノさんがチンクを説き伏せていたようだ。

 

「皆、同じクラスになれるといいね!」

「いやいや、なのは。さすがにそれは無理じゃないかなぁ」

 

 3人の転校生が3人とも同じクラスには入らな………いやでも、姉妹だからありえる、か? その場合はチンクだけ別クラスになりそうだけど。

 

「む~、分かってるけど、やっぱり一緒がいいの」

「なのははお子ちゃまねぇ」

「ふふ、そうゆうアリサちゃんもなのはちゃんと同じことを思ってるくせに」

「うぐっ」

「アリサはお子ちゃまねぇ」

「うっさいわよ! 諏訪子!」

 

 口ではこんなことを言うが、心の中ではなのは並みに甘いことを考えていたりするのがアリサだったりする。嫁のすずかにはバレバレのようだな。

 

「お子ちゃまアリサ♪」

「な……ぐ………あ、あんたらーーー!」

「きゃーー♪ アリサちゃんが怒ったー♪」

「きゃー♪」

 

 人の家の中だというのに、走り回るアリサたち。

 

「やれやれ。お子ちゃまだな」

「君は子供らしくない子供だねぇ」

「ほんとに」

 

 大人からそんな言葉をもらった。中身がアレですからね。

 

「裕也くん助けてー♪」

「は?」

「ゆ、裕也!」

「はぁ?」

「裕也くん♪」

 

 なのはとフェイトとすずかが俺のところに駆けてきて、背中に隠れる。アリシアと諏訪子も逃げていたはずだがいつの間にかアリサの眼から逃れていた。離れた場所でチンクとはやてに混じって菓子を食ってやがる。

 そして目の前にはバーニングと化したアリサがいた。おい待てこの展開はアレか?

 

「裕也ぁ! すべてはあんたの所為よぉ!!」

「なんでじゃああああああ!!」

 

 俺に飛び膝蹴りを行い、その瞬間に背中に隠れてた羊たちは咄嗟に逃げた。狼という名のアリサは満足したのか大人しくなり、戻っていった。

 

「なんで、俺が、蹴られなきゃならんのだ………」

「ま、それが男という生き物だよ」

 

 やだなぁ、それ。そして悟ってる風に言ってくるスカさんも嫌だわぁ。説得力ありすぎるよ。

 

「はぁ、慌ててるフェイト………可愛いわぁ」

 

 もう1人の大人は完全に親バカが極まっていた。この人、こんなキャラだっけ?

 

 

 

 

 

 

「はやてちゃんはまだ学校には来れないの?」

「まだ無理やなー」

「そう………さっさと治しちゃいなさいよ」

「分かってるでー」

 

 唯一子供メンバーで学校に行ってないのがはやてのみとなり、はやてが患ってることが皆に紹介された。足が動かないことはそこまで大きな問題ではないが、突然襲う発作が問題だった。そのため、はやては常に誰かの傍にいるようにしている。

 別段学校に行っても問題ないとは思うが、度々発作を起こして授業を中断させるのが嫌なようである。

 

(原因は分かってるんだけどなー)

 

 はやてを苦しめている原因が闇の書というのは分かっている。だが、それをどうやって取り除けばいいのかが全く分からない。闇の書を捨てたところで、意味はないだろうし。そもそも、デバイスと術者はどういった形で繋がってるんだろうか。それだけでも分かればなんとかなりそうだが………。

 

「ん?」

「ん?」

 

 ふと気がつけば、目の前にスカさん(医者)がいた。

 

「スカさんスカさん」

「なんだい?」

「ちょっとはやてのこと、診てくれない?」

「はやてくんをかい? 病院には通ってるんだろう?」

「あー、ちょいと原因不明でしてね」

「ふむ………」

 

 その後、おしゃべりという名の騒がしい時間があっという間に過ぎ去り、アリサとすずかは恒例の塾があるとかでリムジンで帰っていった。それにつられて、テスタロッサ一家もまだ引越しの片づけが済んでいないようで、同じく帰っていった。

 余談だが、新・テスタロッサ家はスカさん宅に負けない豪邸らしい。当初の予定ではフェイトたちがこの世界に来た時の場所に住む予定だったのだが、この世界にスカさんがいるならば近い方がいいだろうってことで、わざわざ新しくスカさん宅近くの土地を買い取ったとのことで。

 異世界の人に常識はないのだろうか………。

 

「海鳴では常識に捕らわれてはいけないのだよ」

 

 さよか。とりあえず、スカさんは早くはやてを診てください。

 

「なんや? うち?」

「あぁ、ここにいるスカさんは一応医者なんでね」

「うむ。改めてよろしくするよ。私はジェイル・スカリエッティだ。これでもそれなりに名は通ってるから安心したまえ(悪名だが)」

「(一応、多分)優秀な(方に分類される)人だから。診てもらうだけ診てもらえばいいんじゃね?」

「う、うん? 大丈夫なんか? なんか聞こえない部分なかったん?」

「「大丈夫。大丈夫」」

 

 別に改造される訳じゃないから、問題ないよ。

 

「はやてー、念のためにウーノと一緒に行ってもらいなー」

「では、行きましょうか」

「やれやれ。もう少し私のことを信用してくれてもいいのではないかね?」

 

 スカさんが先行して、ウーノさんがはやてを伴って奥へと向かった。

 

「はやてー、改造されそうだったら悲鳴あげるんだよー」

「なぁ!? なぁ!? ほんまに大丈夫なんよね!?」

「「大丈夫。大丈夫」」

 

 諏訪子もはやての不安を仰がないの。マジで震えてたぞ。

 

「いや。私という前例があるからね」

 

 大丈夫。スカさんは興味がある物でないならば、そこまではっちゃけないと思う。たぶん。

 

「ジェイルさんって医者だったんだ………」

「なのはは知らなかったのか? まぁ病院に勤めてるって訳じゃないから知らなくても当然か」

「うん」

 

 ま、いきなり手術とかそういったことは始めないだろう。さすがのスカさんも。とりあえず、俺たちは診察が終わるまで待っていましょうか。

 

 

 

「さて、どうしようか………」

 

 今この場にいるのは俺となのはと諏訪子とチンクの4人だ。

 

「チンク。4人で遊べるような物はないか?」

「んー、うちはそこまで娯楽品がないからな………これとか、か」

「Oh、スーファミ………なつかしい」

 

 出てきたのはスーパーファミリーゲームことSFGと呼ばれる旧世代のゲーム機である。

 

「PF3とかViiとかじゃなくて、スーファミが出てきたことに驚きを隠せないの」

「うちでゲームをするのは私くらいだからな。あ、PFPなら持ってるぞ」

 

 そのうち購入予定らしいが、当分先になるとか。まぁPFP持ってるなら学校でも話の輪から外れることはないだろう。

 

「まぁ、でもいいんじゃないか? PF3とかのゲーム機揃ってるのは俺となのはくらいだし」

「そうだね」

「そうか。しかし、時々テレビでCMを見てるとな………」

「「あー………」」

 

 でもな、CMとかネットとかで見ると面白そうだけど、実際やってみるとすごいつまらないハズレ品ってのは結構あったりするからな。

 

「とりあえず、スーファミやろうよ」

「だな。4人で出来るといったら………」

 

 CD-ROM形式ではなく、昔懐かしいカセット形式のソフトを漁る。

 

「あ、爆弾男があったの。これなら4人で出来るんじゃない?」

「コントローラ、拡張できるか?」

「これのことか?」

「なんで、コントローラが5つもあるの?」

「本体買った時に一緒に付いてきたんだ」

 

 なるほど。だがまぁ、おかげで4人で遊べるから結果オーライだ。

 

「おっと、そうだ。チンクよ。1つ、伝えなければならないことがある」

「ん? なんだ? ルールなら知ってるぞ」

 

 まぁ持ち主だから知ってるだろうね。

 一言で説明すれば、爆弾男ではプレイヤーはロボットとなり、爆弾を使って壁や他のプレイヤーを破壊していく簡単な友情破壊ゲームである。

 

「いや、そっちじゃなくてだな」

「私たちのゲームには賭け事が発生するの」

「賭け?」

「時と場合によって変わってくるけどな。今回はどうしようかね」

「あ、チンク。コントローラ持ったら降りれないからね」

 

 そっとコントローラを置こうとしたチンクに諏訪子が牽制して止めた。

 

「し、しかし、賭け事って何をするんだ? 私はお金はあまり持ってないぞ!」

「あー、金は賭けない………とも言えないか。よく奢ったり奢ったり奢ったりしてるしな」

 

 なのはとかアリサとかにジュースとか菓子とか………あれ? 目から汗が出てきたぞ?

 

「裕也。壁に向かって静かに泣かなくても………」

「な、泣いてない! これは汗だ!」

 

 過去を振り返るのは止めよう。うん。俺の精神によろしくない。

 

「ん~と、今回は負けた方が勝った方の言うことをなんでも1つ聞くってのはどう?」

「負けってのはビリ1人? それとも勝者以外の全員?」

「ビリ1人」

「おいコラ諏訪子。何故俺を見た」

 

 敗者はビリ1人って聞いたら、安心した顔で俺を見たのがムカツクでござる。いつまでも俺が賭け事に弱いと思うんじゃねぇぞ!

 

「じゃあ、裕也くんもやる気になったことだし、さっそく始めようか」

「裕也がすごい震えてるけど、いいのか? あれ」

「「大丈夫。いつものことだから」」

 

 大丈夫だ。今日は大丈夫だ。俺はやればできる子だ。しっかりするんだ俺よ。現実を見………あれ? 俺の視界がセルフエコノミー状態なんだけど。

 

「はっ! 奇跡を見せてやんよ! 俺が勝つって奇跡をよ!」

「奇跡が起きないと裕也は勝てないのか?」

 

 おぅふ。チンクの言葉が俺の胸にダイレクトアタックをしかけてきた。

 

「まぁいい! とっととプレイ開始だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 俺のロボットが画面内で右往左往している。まだ死んではいないが、それも時間の問題だろう。卑劣な作戦によって俺の操作するロボットは窮地に陥っていた。

 

「同盟なんて作りやがって!」

「にゃははは。利害が一致しただけだよ」

「さっさと死んでくれる?」

「くそっ! チンク! 俺たちも同盟組んでヤツラに対抗するぞ!」

 

 なのは諏訪子同盟からの攻撃に逃げてた矢先に、爆弾に挟まれた俺のロボット。爆弾に挟まれたので、身動き取れない。左右は壁。上下は爆弾。これが、詰みである。

 

「………………………」

「すまんな」

「チンクぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」

「ふはははは! チンクとは既に裏条約を結んでいたのだよ!」

「くそっ! 卑怯なり! というか、早く爆弾爆発させて殺せよ! もう殺せよ! さっさと殺してよ!?」

 

 時限爆弾で挟まれてるので、設置したプレイヤーが爆発させない限り爆発で死ぬことはない。

 

「裕也くん。助かりたい?」

「もういっそ素直に殺してくれ」

「私たち全員に翠屋のケーキ1個で命が助かるよ?」

「たった一度の敗北がどうした!? 我は退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!」

「じゃあ、グッバイ」

 

 無慈悲に殺された俺のロボット。ごめんよ、次は勝つから今は我慢してくれ………。

 

「さて、裕也が死んだことで同盟は破棄だね」

「私が勝たせてもらうよ!」

「ふん。お前たちはPF3とかで遊んでる間も、私はこれをプレイしていたのだ。私が勝つ!」

 

 今のうちに作戦を考えておこう。もう、俺は誰も信用せん。

 

 

 

 

 

 結果として、俺は15回負けました。しかも勝負1回につきお願い1回なので、15回も言うことを聞くはめに。

 どうしてこうなった。

 

「あははははははははっげほっげほっ!?」

「諏訪子ちゃん、笑いすぎだよ」

 

 あ、ちなみになのはに15回です。んで、諏訪子には2回。チンクに3回となりました。

 

「裕也。弱いな」

「くそーーーーーー!!」

 

 勝負事に弱いのではない。賭け事に弱いのだ。普段のゲームでの勝率は俺となのはは並んでいる。むしろ、俺の方が少しは上かもしれない。だが、賭け事になった瞬間、俺の勝率が低下する不思議。

 

「げほっげほっ!?」

「にゃははは」

「ふふふ」

 

 ちくしょう。

 殴りたい、その笑顔。

 

「なんや? なんか楽しそうな声が聞こえとるな。しかも、うちがいない間に」

「お、終わったのか? 随分と時間がかかったな」

「まぁそれだけ色々と分かったってことだよ」

 

 もうちょっと早く戻ってきてくれれば、俺の敗北回数は少なかったかもしれないのに………とはやてを見るも、何を勘違いしたのか赤くなってそっぽを向くはやて。

 

「―――裕也くん?」

 

 背中に氷を入れられたかのような寒気が襲う。何故だか分からないが、なのはのことを正面から見れない。

 

「よ、よし! 時間も時間だし、そろそろ家に帰ろうか!」

「せやな」

「―――もぅ」

 

 よし、寒気が消えた! よく分からないけど、命のありがたみを俺は知った!

 

「ジェイルさん。ほんに、ありがとな」

「何、気にすることはない。私も色々と勉強できた。こちらこそ礼を言おう」

 

 ま、何があったかは後で聞くとして。今は撤退しますか。

 

「んじゃ。お邪魔しましたー」

「お邪魔しましたー」

「おっと、諏訪子くん。そろそろメンテの時間が近いから来るように」

「あー、うー」

 

 諏訪子を呼び止めてこっそりと何か言ってたが、諏訪子の顔から察するに恐らくはメンテのことだろう。まぁこればかりは仕方がない。諦めてもらおう。

 

 

 

 

 

 

「それで、どうだったの? 診察の方は」

 

 なのはがはやての車椅子を押しながら尋ねる

 

「そやなー」

 

 時間がかかったこともそうだが、診察が終わってからのはやての顔は活き活きとしていたのが気になっていた。

 

「今まで分からなかった原因不明の発作なんやけどな。もう少し時間をかければ分かるかもしれんやのって」

「へー! 良かったね! はやてちゃん!」

「ありがとなー。あとな、ジェイルさんがうちの担当医師をしてくれるみたいなんよ」

「へ? スカさんが?」

「そや」

 

 偶然(・・)にもはやてがかかりつけの病院―――海鳴大学病院に非常勤で勤めているそうで、はやてのために担当医師もしてくれるとのこと。

 

偶然(・・)、じゃないよな………きっと、これから自分を入れ込むつもりだよなぁ)

 

 ちょっと軽い気持ちでスカさんとはやてを引き合わせたけど、もしかして早まったかな?

 

「はやて」

「なんや? 諏訪子ちゃん」

「人間じゃなくなっても、悲観しないことg「おーっと! あんなところに空飛ぶおじいさんが!」」

 

 諏訪子の言葉を遮って適当に空を指差して叫ぶ。

 

 

 

 

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

 

 

 

 

 ホントにおじいさんが空飛んでてびっくりしました。

 

「あー、あれ。吉野さんとこの旦那さんやないか?」

「あー、確かにそうかも」

 

 俺も驚いたが、確かに吉野さんなら旦那を空に飛ばすことくらい朝飯前だろうな。なんだ、日常じゃないか。

 

「モゴモゴ」

「おっと、すまん。というか、諏訪子。はやてに変なことを言うなよな」

「いやいや。結構マジで言ってるよ? 今後に関わることだし」

「まぁ大丈夫だと思うぞ」

 

 たぶん。

 

「あ、私こっちだから」

「ん。じゃあ、交代だね」

 

 諏訪子がなのはと交代してはやての車椅子を押す。俺にははやての背後に立つことを許されないので、押すことができないのだ。

 何故許されないのかってのは、親父が原因である。親父がはやてを連れてくる際に車椅子を独楽みたいに回したり、制限速度以上で走ったりとしたらしい。

 親父に出来るならば俺も出来るだろう、と言ってはやてを騙して連れまわした記憶は新しい。本人からは

 

「次やったら死ぬまで殴る!」

 

 と言われた。それ以来、俺と親父ははやての車椅子に触ることを禁じられたのだ。仕方がないね。だって、男の子だもの。

 

「じゃーなー」

「またねー」

「またなー」

 

 カラカラと車椅子が転がっていく。ペタペタと足跡が続いていく。今後のことはまだ分からないし、問題が解決した訳ではない。けれど、はやてに笑みが増えたことを今は喜んでもいいよな?

 

「今日の夕飯はなんやろなー」

「この前料理本買ってたから、新しいのが並ぶかもね」

「ほぅ、それは楽しみだ」

 

 うむ。本日も平和なり。

 

 

 

 




ちょいとスランプ気味ー

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